金型・部品加工業専門コンサルティング

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協和工業株式会社のコンサルティング事例(2018年9月号掲載)

 

本号で紹介するプレスメーカーは、協和工業株式会社(静岡県湖西市 TEL053-579-0931)である。同社はシート部品・ステアリングコラム部品などの自動車用部品を製造する量産プレスメーカーでありながら、自社でも高精度な金型を内製しているという特徴がある。

図1 同社の金型の一例

 

また、プレス能力800トン級までの厚板・高強度、複雑・精密形状のプレス品であるシート機構部品等を生産できる技術と設備能力を持っている。

図2 同社で生産されている製品の一例

 

同社の金型製造の特徴・強み

同社の金型製造における特徴と強みは次のような点である。

 

  1. 金型製造の全工程を3次元CADデータで扱う一貫体制を構築している。
  2. 安田工業(株)製の3軸・5軸マシニングなど、高度な工作機械を多数保有している。
  3. 量産部門で培った高い管理ノウハウを金型製造プロセスにも応用しており、社内・外販向けともに高品質の金型及び金型部品を製造している。

 

今回は、同社に対し筆者のコンサルティングで行った、3次元設計の有効活用法の一つであるコンカレントエンジニアリング導入の取り組みについて紹介していきたいと思う。

 

3次元設計のあるべき3つの活用法

プレス金型設計においては、まだ2次元の設計で行うメーカーも多いが、3次元による設計もすでに多くのメーカーで使われている。

 

しかしながら、想像線などによる図の省略が自由に効く2次元の作図と比べ、3次元設計は基本的にそこに存在するもの全てをモデリングしなければならないため、2次元設計よりも多く工数がかかる傾向にある。

 

そこで、設計工数そのものよりも、むしろ後工程での省力化により、3次元設計のメリットを発揮するという考え方が必要になる。

 

そのための有効活用法として3次元設計では次の3つに取り組むと良いとされている。

 

  • 解析技術(シミュレーション)
  • フィーチャー設計
  • コンカレントエンジニアリング

 

(ア)の解析技術は、3次元モデルを利用して強度計算や塑性加工シミュレーションなどを行うものである。

(イ)のフィーチャー設計は、例えばキャップボルトやノックピンを3次元モデルのプレート上に配置すると、プレートのモデルにタップやリーマ穴、ザグリ穴など加工属性が付与されるといった機能のことで、後工程のCAMオペレーターの作業が省力・自動化される技術である。

 

(ウ)のコンカレントエンジニアリングとは、例えば、①金型構造設計→②部品図作成→③CAMデータ作成→④機械加工→⑤仕上げ→⑥組付け→⑦トライといった工程において、各工程でそれぞれ一定程度作業が終わったところで、まとめて次工程に引き渡すといった順次方式ではなく、各工程を同時並行に進行させることで全体のリードタイム短縮を図る手法である。

 

従来の2次元設計では、金型の構造設計が完了してCAMデータ作成工程に引き渡す前に、まだ個々の部品図作成を行わなければいけない。さらに3次元CAM加工のある部品については、部品図を元に3次元モデリングも行わなければならない。

 

ところが3次元設計であれば、部品の設計も構造設計と同時に完了するため、速やかにCAMデータ作成工程に引き渡すことができる。そのため、3次元設計はコンカレントエンジニアリングに向いていると言われている。

特に短納期にこだわるメーカーでは、金型構造部の詳細設計の前に、パンチ・ダイなど意匠面部品などの3次元CADモデルを先に後工程に引き渡すといった同時並行作業をとる事例もある。

 

このコンカレントエンジニアリングの採用により同社は工作機械の稼働率を引き上げ、①金型全体の製造リードタイムの短縮により金型受注面数を増やす、②外販向け金型部品の受注売上を増やす、といった取り組みにより課題であった部門目標売上の達成を目指すこととなった。

 

同社が取り組んだコンカレントエンジニアリングの内容

前述した、①金型構造設計→②部品図作成→③CAMデータ作成→④機械加工→⑤仕上げ→⑥組付け→⑦トライといった工程において、筆者が同社の金型製造プロセスを診断したところ、③CAMデータ作成→④機械加工の工程間のリードタイムにまだ伸び代があると感じた。

 

これまで同社ではCAMオペレーターが一定数の部品のデータ作成を行った後、次工程に引き渡す「作り溜め方式」で行っていたため、設計後、機械加工がスタートするまでに一定の日数が経過していた。

 

そこで今回の改善では、設計後から機械加工開始までの期間を限界まで縮めるため、CAMオペレーターは早ければ、設計担当からモデルデータを受け取ったその日もしくはその翌日の夜間から、加工を開始できるようデータの作成、準備を行うこととした。

 

データ作成が一定量進んできた段階で、日中にも機械加工を入れていくが、まずは夜間と週末のスケジュールについて、1週間から2週間先まで優先して着手計画を埋める。

筆者はこれを新幹線のような「座席予約方式」と呼んでおり、計画的に夜間・週末の時間を有効に使い切るため必須の措置だと考えている。

 

同社のコンカレントエンジニアリング導入のポイント

今回のポイントになった点は、次の3つである。

 

  1. 緻密な着手計画を立てるため、個々の部品の加工工数を精度よく見積もること。
  2. 同社の金型は保全性を高めるための入れ子構造が多く、比較的小さな金型部品(以下「小パーツ」)が多い。小さな部品は加工時間が短いため、本来長時間の無人加工には向かないが、その対策を図ること。
  3. 機械オペレーターは、前工程への多能工化としてCAMデータ作成にも参画し機械稼働率を高める。さらに後工程への多能工化として、加工後部品の仕上げ・組み付けにも参画し、工程全体のリードタイム短縮にも貢献する。

 

着手計画の見積もりについては、量産プレスの管理で培った緻密な実績管理を行うことで見積もり精度を高め、CAMデータ担当者の協力も得ながら、着手計画の仕組みを作ることができた。

 

また小パーツの無人加工については、同社はパレットチェンジ仕様の横形・立形のマシニングなど、複数部品の無人加工に適した機械を設備しており、これを若手の機械オペレーターがプログラム改善などを行い、多数個の小パーツを長時間無人加工できる仕組みを作ることができた。

 

多能工化については、3次元CADデータを全工程で一貫して扱う同社においては、例えばプレートの穴あけのような平面的加工であっても、CAMは3次元仕様のソフトを使うことになり、一般的な2次元CAMよりも習得のハードルは高くなるが、同社の機械オペレーターは、高いチャレンジ意欲でこれを習得し多能工化を図っている。

 

コンサルティングの効果と今後の同社の取り組み

こうして同社では、コンカレントエンジニアリングの取り組みにより、機械加工工程は従来よりも早いスタートを切ることができるようになり、これまで稼働率が高くなかった設備についても目標稼働率を実現できるようになった。

 

同社は今、外販向けの金型及びパーツ品の受注拡大に取り組んでおり、設計・機械加工などの技術をさらに多くの顧客に向け提供していくことを考えている。

 

3次元CAD、パレチェン仕様のマシニング設備など高度な設備を、あるべき形でフル活用し、競争力を磨きあげていく同社に筆者は大きな期待をしている。

 

 

三幸プロダクツ株式会社のコンサルティング事例(2018年8月号掲載)

 

本号で紹介するプレス金型メーカーは、三幸プロダクツ株式会社(大阪府東大阪市本庄西3丁目1番21 TEL 06-6541-9331)である。

 

同社は、ブリキなどの薄板コイル材を扱う鋼板商社である三幸商事株式会社が、プレスメーカーの大西工業を買収したことで、平成29年度より三幸商事(株)のグループ会社として、新たにスタートすることになった企業である。

図1 同社で製作された金型

図2 同社の金型で製造された製品

 

同社への支援は、技術承継などの課題を持つ同社への技術面の支援として、プレス金型にまつわる様々な知識について、筆者が8か月間の講義を行ったものである。

 

筆者が支援する他のメーカーにおいても、営業・調達・経理・量産プレス・金型製造・金型保全など各部門において、持ちうる技術知識に格差があることで、様々な支障をきたしている。

 

今回の各部門が一堂に集まり受講する部門横断的な技術講義の取り組みは、前述した課題に対する有効的な対策であり、ぜひ他メーカーでも取り組んでいただきたく、本号ではその要所などを紹介したい。

 

同社の強みとコンサルティング前の課題

同社の強みは何といっても、旧大西工業の代表であった同社顧問が持つ技術ノウハウにある。

 

現在も、プレス工法やポンチ図の作成において、同社が得意とする0.2ミリや0.3ミリの薄板絞り加工の順送金型などを製作する生産技術の中心的役割を担っている。

 

しかしながら、この点が同社の強みでもある反面、同社のウィークポイントとなっている。今後の5年、10年先を見据えると、早急な技術承継が必要不可欠であった。

 

そこで、これまで属人的であった同社のコア技術を標準化し、チームによる製造力を強化していくため、各部門の主要メンバーが一堂に集まり、筆者の指導の元、金型製造にまつわる全般知識を、まずは習得していこうということになった。

 

コンサルティングの内容

実際の講義は、次のような7つのテーマで行った。

 

  1. プレス工程設計の基礎知識
  2. 金型構造と金型設計に必要な知識
  3. 金型で使われる金属材料の基礎と使いかた
  4. 金型製作で用いられる機械加工全般と使い分け
  5. 切削加工概論
  6. 2 次元・3 次元 CAD/CAM 研修
  7. 金型製作における工程管理と原価計算

 

以下、講義で扱った内容と共に、各部門が横断的に知識を持つことのメリットについても見ていきたい。

 

  1. プレス工程設計の基礎知識

この講義では、金型製造の全工程から、最初の工程であるプレス工程設計についての基礎講義を行った。また、抜き・曲げなどのプレス工程を設計するためには、種々のプレス工法や各種プレス機の特徴や使い分けなども知っておく必要があるため、それら周辺知識なども扱った。

同社製品に多い円筒絞り加工については、絞り率の計算なども受講者全員で実践を行った。

これらの研修により、各部門の全員がプレス工程とコスト・品質の関係を知ることができ、今後は最適な金型製作と量産プレスを行うための検討をチームとして行うことができる。

 

  1. 金型構造と金型設計に必要な知識

金型設計の3段階(工程設計・構造設計・部品設計)における構造設計・部品設計を取り扱った。

 

プレス加工は大きな力を要する加工であり、金型はそれに耐える充分な強度を持つ必要がある。また、金型は長く使うツールであり、製作直後のトライ時には出てこなかった問題も、長く使ううちに出てくるトラブルもある。

 

本講義では金型構造の基礎から、不十分な設計により発生するトラブルや故障などを扱っており、これらの知識を製造側と保全側、両面が持つことで、最適な金型製作を行っていくことができる。

 

また、過剰強度の部品材料や構造は、即コストアップにつながり、企業収益を圧迫する。こうした側面を営業・調達部門も知ることで、最適コストの金型調達を行っていくことができる。

 

  1. 金型で使われる金属材料の基礎と使いかた

同社で使われるパンチ・ダイは、SKD11といった冷間ダイス鋼が主に使われており、極めて薄い板の抜き加工を行う同社の金型では、必要強度のためハイス鋼や超硬合金が使われることもある。

 

近年は各鋼材メーカーより、様々な改良ダイス鋼が販売されており、こうした各鋼材は、その使い方によって長所短所がみられることがあり、その特徴がどのような成分根拠から現れるのかも知っておくことが望ましい。

 

今回の講義では、金型パーツごとに、強度不足により発生するトラブルと合わせて、鋼材に関する知識を学習した。

 

こうした知識は金型製作担当だけでなく、保全部門においても、発生した金型故障やトラブルが、強度不足によるものなのか、機構による問題なのか原因究明に役立つ知識となる。

 

また、営業・購買部門においても、金型強度とコストの関係を知ることができ、最適な金型の見積もりや調達を行うことにつながる。

 

  1. 金型製作で用いられる機械加工全般と使い分け

プレス金型製作で用いられる機械加工については主に、マシニング加工、ワイヤー放電加工、平面研磨加工、汎用加工(ラジアルボール盤、旋盤加工など)があり、これらを精度・コストに応じて正しく使い分ける必要がある。

 

金型製造部門はもちろんのこと、営業部門においては最適な金型の見積もり、また購買部門においても最適な金型外注仕入れコストなどを算定する根拠ともなり、全部門で知っておくべき知識と言える。

 

  1. 切削加工概論

主にエンドミル加工に焦点を当てた技術知識である。同社においては、ワイヤー放電加工が主力であるが、本講義により、同業他社の技術レベルを知る機会ともなり、内製する金型と外注から仕入れる金型、それぞれの標準単価を推し量るための基礎知識になる。

 

  1. 2 次元・3 次元 CAD/CAM 研修

同社の設計は2次元であるが、プレス金型業界全体では設計の3次元化が進んでいる。

 

今後、製品の企画提案から試作・金型製作・量産プレスといった一括受注を強化していこうとする同社においては、製品の見える化ができる3次元設計はまさに今後強みになる可能性がある。

 

今回の講義においては、3次元設計の3大メリット(解析・フィーチャー設計・コンカレントエンジニアリング)など、3次元CADの基礎や活用方法などを学習した。

 

  1. 金型製作における工程管理と原価計算

今回の講義では、金型原価積算と費目ごとのコストダウン指針について取り扱っている。

 

この内容については、まさに全部門の関係者が知っておくべきであり、永続的に企業が収益を上げていくための、技術面と並んで必要となる知識である。

 

コンサルティングの成果と今後の同社の戦略に向けた取り組み

今回の研修により、各部門が横断的に同じ水準の技術知識を習得する機会を得た。

 

親会社の三幸商事(株)については、鋼板商社ということで有利に材料を調達できる強みに加え、三幸プロダクツ(株)による金型内製機能と保全機能の強化というさらなる強みを武器として今後、企画提案型の需要を拡大していこうとしている。

 

技術者の底上げによる技術承継によって、新たな需要拡大を図る同社に筆者は大きな期待をしている。

 

株式会社 千石のコンサルティング事例(2018年7月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、株式会社千石(兵庫県加西市 TEL 0790-44-1021)の本社に所属する製造部 工作課である。

 

同社は、国内及びアジア地域をはじめとした幅広い生産拠点により、暖房機器・調理機器などの設計製造販売から、大手メーカーのOEM生産などの幅広い事業を行っている。

 

同社製品の加工で使われる板金用のプレス金型は、近年海外調達することが多くなっているが、同社は金型を内製できる体制を持っており、同社製品の設計開発と生産ツールである金型の設計製作を、同じ社内の一貫体制で製作できる点が同社の強みである。

 

製品設計と金型設計を同一社内で行えることのメリットとして、量産時の生産状況に配慮した製品設計が行える点がある。例えば、同社が販売する製品のデザインの一部において、プレス加工時に曲げる部位にトラブルが発生しやすい形状もあれば、そうでない形状もある。

 

製品設計と金型設計が別メーカーで分かれていれば、そういった生産現場の声が届かず、量産時に問題が発生したり、過度な全数検査によりオーバーコスト要因になったりもする。

 

その点、同社は一貫した開発体制を持つことにより、品質・コスト・リードタイム面で、バランスの良い製品を開発できる仕組みを構築している。

 

コンサルティング前の課題

こうした強みを持つ同社であるが、海外拠点の拡大に対しその技術拠点となる国内技術スタッフ強化は、必須の取り組みだと考えていた。

 

同社のプレス金型製造部門である工作課は、長きに渡り金型の設計製造を行ってきたが、従来からの製造方法にマンネリ化を感じており、また設計の3次元化など新たに取り組みたいこともいくつか考えていた。

 

そこで、コスト競争力強化のため同社をサポートしていた株式会社ジェムコ日本経営(本社 東京都中央区 TEL03-5565-4101)の技術コンサルティング部門であるニュービジネス開発事業部(大阪市北区梅田 TEL06-6344-8801)からの依頼で、筆者が同課のコンサルティングを行うこと になった。

 

本号では、これまで2年間のコンサルティングで行った、技術力強化・設計改善・金型標準化などに加え、特に新たな取り組みであった見積もり業務の改善について触れてみたい。

 

多くのプレス金型メーカーの抱える悩み

同課は、自社製品用の金型だけでなく、顧客メーカーに外販する金型製作を請け負う事業も行っている。

 

近年、同社に限らず金型の受発注においては事前見積もりが当たり前になっており、かかった費用を後から請求する後見積もりはほとんど見られなくなっている。

 

そこで金型を受注する前、プレス製品図を元に金型費を見積もりし、場合によっては同業他社との競合により受注を勝ち取ったうえでようやく金型を製作するという流れになる。

 

このため、多くの金型メーカーが煩雑な金型見積もりに悩まされている。取り扱う金型ボリュームによっても異なるが、週に何十件も見積もりをしなくてはいけない担当者もいる。

 

見積もり金額においては一定の精度が必要であり、企業収益のためには赤字受注にならない金額を見積もらなければならない。また過度に高い見積もりでは、競合他社とのコスト競争に負けてしまうといった事情もある。

 

また、過去の類似金型との金額に乖離があってもいけない。そうした乖離は継続的な顧客との信頼関係にも影響が出る。そこで計算した見積もり金額と過去の実績との入念な比較検査なども必要になる。

 

そもそも「金型の見積もり」とは、プレス製品からその生産ツールである金型になった状態を予測し、その金額を積算することを指す。

 

したがって、最も精度の良い「金型の見積もり」とは、完全に金型になった状態から、材料費・外注費・購入部品費・工賃などを合計した金額であり、逆に最も迅速な見積もりとは、プレス製品図だけの情報から金型状態を予測し、見積もり金額を出すことである。

図2 見積もり精度と要する時間の関係

 

コンサルティングの取り組み内容

同課の収益性を高める取り組みとして、金型受注額を増やせる体制を作るというテーマがあった。

そのための現状の課題として、機械稼働率にはまだ余力があったが、それを動かす「人」の稼働時間がオーバーワークにより不足しているという問題があった。

 

そこで、自社の量産工場から来る故障金型のメンテナンス頻度を減らす取り組みなども行ったが、この見積もり業務の改善もテーマとして取り組んだ一つである。

 

まず同課に対して金型の見積もりで用いられる手法を指導した。これは次に挙げる3つがある。

 

  1. 積算方式:材料費・外注費・購入部品費・工賃などを合計した金額。最も精度が高いが、金型のマンガ絵(ポンチ図とも言われる)などが必要になる。
  2. 類似比較方式:過去に製作した金型の中で類似したものに、違いの分を加算または減算して計算する方式。最も多く使われている。
  3. 統計計算方式:重回帰分析という統計手法による計算方法。プレス製品から読み取れる情報を変数として計算式を作る。最も迅速な見積もり手法になるが、精度を高めるには多くの金型サンプル数が必要になる。

 

同課の見積もり業務は、金型製造の中心的役割を担う作業者が担当しており、これが金型製造リードタイムにも影響していた。

 

そこで最も迅速な見積もり手法である統計計算方式の採用は必須であると考え、また同課のこれまで製作してきた金型事例は貴重な財産として、統計で用いるサンプルとなった。

 

重回帰分析による計算の変数には、例えば抜き型であれば、プレス製品の板厚・材質、ピアス穴径・数量、製品輪郭の周長などを使った。

 

これによる計算結果を、過去に製作した金型の製造コスト・受注金額と比較検証してみたところ、問題のない金額まで近い計算式を作れたものの、実務で使うには裏付けとなる根拠も欲しいところである。

 

そこで前述した1.と2.の積算方式と類似比較方式も合わせて盛り込んだ同課オリジナルのシステムを作成した。これには、EXCELの自動化に詳しい担当者の尽力があった。

 

製作したEXCELシステムにより、抜き型・曲げ型・順送型、それぞれにおいて、プレス製品図(順送型においてはストリップレイアウト図)からの情報を変数に入力することで、瞬時に金型見積もり金額が計算できるようになった。

 

また、その算出金額の裏付けとして、同じEXCELシステム内で並行して、過去の類似金型を検索し、類似率上位3型が表示され、その金額を参照することで、従来実績と乖離した見積もりを提出することがないような仕組みになっている。

 

さらに材料費においては、製品輪郭寸法や順送型であればストリップレイアウト図から金型寸法を計算し、金型で使用される鋼材サイズからの材料金額が表示される。これにより根拠のある積算式の材料費の見積もりを提示することができる。

 

今後の工作課の取り組み

今回、同課が構築した新たな見積もりシステムは、海外展開を進める企業全体で調達する金型コストの標準化にも貢献できる。

 

また同課の技術面にしても、より複雑な金型を低コストで製作するため、昨年から3次元設計を導入しすでに運用をはじめている。

 

従来のアナログ技術から、グローバルに共有化できるデジタル技術への転換を進めている同課に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

株式会社 スズキプレス金型のコンサルティング事例(2018年6月号掲載)

 

本号で紹介するプレス金型メーカーは、以前にも登場したことのあるスズキプレス金型である(愛知県愛西市 TEL0567-25-6900)。同社は、自動車のシート部品などの絞り型などを手掛けるプレス金型メーカーであり、創業から64年に渡る長い歴史がある。

 

同社が今取り組んでいること

同社は、昨年から金型構造設計の3次元化に取り組んでいる。それに伴い、以前から外注で対応していた解析業務の内製化にも取り組んでいる。

 

今回同社は、自社で使用する3次元CADとしてシマトロンを導入している。2名のオペレーターに導入教育を受けさせ、6ヶ月間の実習期間を経て、今年から徐々に設計実務での活用をはじめている。

図1 シマトロンを用いた金型設計の様子

 

同社が選定したシマトロンは、パラメトリックという機能に特徴を持つ3次元CADであり、その他プレス金型設計の省力化をサポートする様々な機能が搭載されている。

 

本号では同社の設計3次元化の導入事例をとりあげ、プレス金型メーカーが自社の金型製作に応じた3次元CADの選定について、どのような視点で選ぶべきかを見ていきたいと思う。

 

プレス金型設計で使われている3次元CADの種類

金型の構造設計に用いる3次元CADは大別して2つの種類がある。①ヒストリー型と②ノンヒストリー型と呼ばれる方式である。

 

ヒストリー型のCADは、パラメトリック方式とも呼ばれ、設計していく過程が履歴として記録される。

 

これにより、はじめは大雑把に設計し、徐々に履歴の中にある細部の寸法や位置を微調整していくという設計手法をとる。

 

これによるメリットは、まずはイメージから形にしていくといった迅速な設計ができ、モデルを作り終わった後でも自由に編集ができ、パーツや構造を微調整し、のちに使いまわすといったリピート設計にも寄与する点である。

 

プレス金型設計で使われている代表的なヒストリー型3次元CADとしては、CATIAやNX、SolidWorks、シマトロンなどがある。

一方、ノンヒストリー型は、ヒストリー型の逆のような機能を持ち、設計操作の履歴を持たない。そのため、部品のサイズや位置を後から寸法要素で動かす操作はせず、ダイレクトに寸法を直接指定しながら部品要素をモデリングする。

 

これにより、部品を構成する要素間の依存関係を意識することなく、自由な操作でサクサクとモデリングを進めることができる。

 

したがって、同じような形状を繰り返しリピート設計する金型よりも、新しい構造や形状の金型を新たに設計する際には、軽快に作業を進めることができる。

 

プレス金型メーカーによく用いられている代表的なノンヒストリー型3次元CADとして、VisiやSpeedyMILLnextなどがある。

 

同社は今回導入したシマトロンに先駆け、以前からVisiを使っていたが、主に現場で用いるCAMデータ作成用として使っていた。

 

プレス金型における3次元CADの選び方

3次元設計をはじめる際のハードルとして、細かく表現する必要のない箇所まで詳細にモデリングする必要があり、そのため作業負担が重たくなるということがよく指摘される。

 

例えば、構造部に配置される市販部品などが例に挙げられる。そこでまずは、市販部品などの標準部品を簡単に呼び出して配置ができるかが最低限求められる機能となる。

 

また最近では、部品配置を行うと共に、ザグリ穴やタップ、リーマ穴などの機械加工定義まで合わせて付与するフィーチャー設計を行うことも一般的な作業手順になっている。

 

前述した各3次元CADについては、ヒストリー型、ノンヒストリー型問わず、フィーチャー設計が出来るシステムがある。

 

ではどのような視点で、3次元CADを選ぶべきか、それは自社が製作する金型が、ヒストリー型、ノンヒストリー型、どちらの長所が活かせるかで判断すべきである。

 

例えば、金型を用いて量産する製品が大抵決まっており、寸法は微妙に変わるが形状は大きく変わらないといった場合、製作する金型の構造やレイアウトは大きく変わらないとする。

 

その場合、部品サイズや配置、数量などを編集していく作業がメインになる。こうした場合は、リピート設計に強いヒストリー型の3次元CADが強い。

 

逆に、全く新しい形状の製品の金型を設計する場合、例えば、以前は5工程で成形していたものが、3工程になったり7工程に増えたりといったように工程設計から変更がかかり、個々の金型構造も全く新しい構造になることがある。

 

こうした構造設計を行う場合、以前作った部品ユニットを流用したり、部品同士の位置関係の計算式を流用することはかえって手間がかかり、設計工数が増加してしまうことも考えられる。

 

そのため、自社で製作する金型について、新しいパターンの構造をイチから設計していくことが多いといった金型メーカーは、ノンヒストリー型の3次元CADの方が適していると考えられる。

 

同社は、自動車のシート部品の金型を主に製作しているが、強みである絞り加工技術を活かした類似形状の金型を製作していることが多い。

図2 同社の金型で作られた製品

 

これであれば、以前導入したノンヒストリー型のVisiよりも、ヒストリー型のシマトロンの方が同社には適しており、今回はスムースに設計での活用が進んでいると思われる。

 

同社のコンサルティング前の課題

このように設計の3次元化を進めている同社であるが、会社組織としてはかつての同社の主力であったベテラン技術者の高齢化が進み、企業の新陳代謝促進が急務となっている。

 

そもそも金型製造は、設計や機械加工、組み立て、トライといったいくつもの専門職から成り立っているが、それぞれの工程において一人前の技術を得るには通常何年もかかる。

 

とりわけ設計職においては、製造現場のノウハウも知らなければ、適正品質・コストでの金型設計ができないため、一般的には一通り現場の仕事を経験してから入ることが多い。

 

同社ではこれまで、このようなジョブローテーションの仕組みがなく、主に社員の入退社をきっかけとした不定期なタイミングでの業務異動が多かった。

 

コンサルティングの内容

そこで同社では、個々の技術者が長期な視点でキャリア計画を持てるようにするため、入社から10年後までに一通り経験する仕事、またその後、自ら希望する業務について申請できるなど、中長期のキャリアプラン制度ともいうべき仕組みを、筆者と共に考案した。

 

これにより、金型技術者として自分の長所を活かしたり、出来る限り希望する業務を担当することについて、今後は会社の制度・仕組みとしてフォローしていくことができる。

 

今後の同社の狙い

今年の春、同社では新たに高校生の新卒社員を採用し、さっそく新たなジョブローテーションの制度を活用して本人のポテンシャルを引き出すと共に、長期的な視点で現代的な金型技術者を目指してもらうスタートをきっている。

 

同社では今回のコンサルティングに加え、技術面などの評価制度も整備しており、ますます難易度が上がっている自動車部品に対応できる技術者の育成・底上げを図ると共に、企業の新陳代謝を図っている。

 

金型製造の3次元化により、これまでのベテラン技術(アナログ)とデジタル技術の融合を急速に進める同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

株式会社 新美利一鉄工所のコンサルティング事例(2018年5月号掲載)

 

本号で紹介する加工メーカーは、以前登場した溶接製缶メーカーの(株)新美利一鉄工所(愛知県岡崎市 TEL0564-46-2955)である。

 

同社は、図面で書き表せないような抽象的な形状の製品であっても柔軟な対応ができ、また同業他社が受注を断るような短納期の依頼であっても対応ができるといった技術力に強みを持つ。

 

そのような同社がここ最近力を入れているのが、フライス加工を中心とする機械加工である。同社の扱う製品は、CO2アーク溶接で組み立てた後、他部品と組み合わせるなどの用途のため、フライス加工やキリ穴、ねじ穴などを追加工する。

 

これまで同社の機械加工は、そのほとんどが外注対応であったが、従来を超える短納期対応や品質確保を目指すため、2年ほど前からその内製化を強化している。

 

そのためのフライス加工設備の充実を進めているが、その導入設備が溶接製缶業界では非常にユニークであるため、本号ではそのあたりの戦略などについて紹介をしていきたいと思う。

 

同社の機械加工の強み

他の機械加工メーカーと比較した同社の強みとして、前工程から一貫して社内対応できる点がある。

 

溶接製缶メーカーから見ると、フライス加工は全く異なるノウハウであるため、簡単な追加工程度であれば自社で行うが、大きな製品やある程度の精度を要する製品のフライス加工まで自社対応しているメーカーは少ない。

 

また、機械加工メーカーから見ると、溶接作業そのものは技能資格もありOFF-JTなどで習得することも可能であるが、仮付けによる組み立てから、熱変形・収縮まで考慮した本溶接までといった作業は、経験に裏付けされた実績がなければ一朝一夕にできる作業ではない。

 

こうした事情から多くの中小メーカーでは、両方を高いレベルで行っている企業は少ない。

 

同社は、2年前のマシニング加工技術に長けた小坂 伊佐三氏の入社をきっかけに、急速にフライス加工の生産体制を整備、拡大している。

 

また、溶接製缶業での同社の強みである、5台のレーザー加工設備をフライスの前工程に活かし、特に、溶断後にフライス加工を行うような製品については、同業他社には真似できない短納期化と低コストを実現している。

 

同社ならではの特殊機械の導入

そもそも溶接製缶品のフライス加工には、次のような難しさがある。

  • 段取り:6面フライスした鋼材のように、溶接製缶品にはバイスでしっかり挟める製品が少ない。溶接製缶品は10ミリ前後の板を箱状に組み合わせた筐体であるため、油圧バイスなどの段取りが不可能であり、しかも、いびつな形状の製品が多いため、加工そのものよりも段取りや冶具製作の方が難しい。
  • 加工ビビリ:板を張り合わせた製品が多いためワーク剛性が弱く、加工ビビリが起こりやすい。また前述したように、いびつな形状が多いため、しっかりとクランプできない場合にはやはり加工ビビリが起こりやすい。
  • 突き出しの長い工具:いびつな製品のフライス加工は、ワーク上面から深く入りくんだ場所への加工を余儀なくされることが多く、細く突き出しの長い工具で加工することも多い。突き出しの長い工具のフライス削りは、工具たわみや振れなどが起こりやすく、加工精度や面粗さを確保することが難しい。

 

こうした難しさがある溶接製缶品のフライス加工であるが、被削材の硬さとしては、そもそも炭素の多い鋼材は溶接自体が厳しくなるため、業界として硬い高炭素鋼はほとんど使われてこなかった。

しかし昨今は、硬い高マンガン鋼も使われることもあり、切削抵抗の高さという点においても、従来よりも難しさは増している。

 

溶接製缶品のフライス加工の難しさに対応した機械選び

こうした加工上の背景から同社は、溶接製缶を扱う同業他社では持っていない、ユニークな機械を導入している。

 

元々、NCフライス盤は持っていた同社であるが、自動機としてまず、一般的な立形マシニングセンターを導入した。そして次に導入したのが、横幅6,050ミリの極めて横長なテーブルを持つイワシタ社製の長尺NC加工機である。

図1 同社が導入した長尺NC加工機

この設備は、同社が得意としている長い角パイプ材の溶接品への対応に強く、またニッチなテーブルサイズを持つため、ピンポイントでこの機械でしか加工できない加工需要も多くあるはずである。

 

また今年新たに導入したのが、ヤマザキマザック社の5軸マシニングである。 同社が扱う製品に多いいびつな加工品に対応しやすく、フレキシブルなクランプのやりやすさ、多方面からの切削・穴加工など、溶接製缶品の加工でこの機械を使えるメリットは非常に大きい。

図2 同社が今年導入した5軸マシニングセンター

 

同社は、こうした同業他社や協力メーカーにはない設備を導入することで、短納期、難加工品への対応で差別化を図り、競争力アップを図っている。

 

同社のコンサルティング前の課題

こうした取り組みを行う同社であるが、経営上の課題として、こうした新事業の採算性や、人事面での評価・育成をどのように進めるべきかよくわからないといった悩みがあった。

 

同社はこれまで溶接製缶一本で事業を行ってきており、溶接技術であれば、事業性や従業員の技能も評価ができるが、これまで自社で経験がない機械加工については、業界相場の利益率や、技術者の基準となる技術とそれに伴う給与相場などがわからなかったため、事業拡大当初はこのまま進めていって良いものか不安をぬぐえなかった。

 

同社のコンサルティング内容

そこで同社のコンサルティングを行っている筆者は、①事業の採算性評価、②従業員の評価・育成、③新事業のPR戦略について、アドバイスを行った。

 

  • 事業の採算性評価:部門別で損益を評価する案をアドバイスした。機械加工で発生する主な変動費は、材料費や治具費、消耗工具などがあり、固定費は人件費や電力費、ツールホルダーなどの工具費がある。これらを月次で管理し、事業単体での採算性を評価する。
  • 従業員の評価・育成:要素技術ごとに分解した項目を使ってスキルマップ表を作るアドバイスをした。また、1年後、3年後、5年後などを想定した中期スキルマップ表を合わせて作ることで、教育計画を作ることができる。
  • 新事業のPR戦略:同社のユニークな機械設備を外部に発信する方法として、動画によるわかりやすいPRを行うアドバイスをした。なお、同社のホームページは筆者の事務所がサポートさせていただいている。

 

今後の同社の取り組み

同社の経営上の課題として、溶接技術者の新陳代謝の促進がある。同社の強みである、柔軟性の高い溶接技術は、個人技能への依存が大きく、一人前の技術者に習熟するまでに時間がかかる。

 

そうした事情からこれまで経験者を中途採用することが多かった同社であるが、本年度から初めて工業高校を卒業した新卒者(中根 聖氏)を採用する。

 

代表取締役である新美 剛一氏から高い期待をかけられている中根 聖氏であるが、素質があるとはいえ一人前になるには、長い年月をかけ積み重ねた実績が必要になるのも、溶接技術の大変なところであり、面白いところでもある。

 

大正15年からはじまった同社の歴史に、新たな流れを作ろうと取り組む同社に、筆者は大きな期待をしている。

株式会社タアフのコンサルティング事例(2018年4月号掲載)

 

本号で紹介する機械加工メーカーは、富山県にある株式会社タアフ(富山県富山市 TEL076-429-6225)である。

同社は、総従業員数1200名を超え、国内7社・海外4社からなる立山科学グループの機械加工部門としてその一翼を担い、グループが行う電子部品・精密機器、FAシステム、その他多くの製造販売事業の一端を支えている。

 

同社は、5軸、門型マシニングセンターや、5面加工機など、多くの工作機械を駆使し、鉄系材料やアルミ合金などの切削加工を主力事業としている。

 

同社は当初、グループ企業で製造される、FAシステム、電子部品実装装置等の部品加工に特化し事業を行ってきたが、現代表取締役である高村 元二氏の方針は、今後ますます厳しくなる外部環境に打ち勝っていける技術力を持つためには、グループ内に供給する部品加工だけでなく、グループ外メーカーからの需要を取り込み、その競争の中で他社を凌駕する技術を得ていく必要があるという考えであった。

 

その同社が今注力しているターゲット市場が、航空機部品の加工事業である。

2014年5月に航空機メーカーと取引を開始、2015年5月にJISQ9100を取得し、これまで同社が培ってきた軽金属をはじめとした精密部品の加工技術と、高度な品質管理といった同社の強みが発揮できる分野でもある。

同社は今、この事業を収益の柱とするべく、さまざまな取り組みを行っているところである。

 

その取り組みの中、同社はさらなる競争力を得るために、より精度の高い原価管理の仕組みが必要だと考えていた。そこで、同社の多品種生産に特化した原価管理の仕組み構築について、筆者がサポートすることになった。

 

今回は、この同社へのサポートを取り上げ、多品種生産特有の原価管理について解説していきたい。

 

同社の強み

同社の強みとして、立形・横形・5軸加工機など、多彩なマシニングセンターの最新機を豊富に設備している点がある。これらの設備を2直体制でまわしており、高い生産性を実現している。

タアフ 図1-1

タアフ 図1-2

 

また、製造現場は高い改善意欲を持っており、2011年より開始した改善提案制度では、現在700件を超えた提案があがっている。そうした提案の中で生まれ、徹底した外段取りの一つに、工具長までセッティングしたマシニング用ツールと加工素材をセットにしたワゴンを、機械横に配膳する仕組みがある。

タアフ 図2-1

タアフ 図2-2

 

同社のオペレーターの役割分担として、機械オペレーターと冶具設計・CAMオペレーターは切り分けて担当している。

 

同社には24パレットの横形マシニングがあるが、こうした設備を高い稼働率でまわすためには、信頼性の高いCAMデータが欠かせない。同社ではこうした特殊設備の稼働を専任のオペレーターが支えている。

 

コンサルティング前の課題

こうした強みを発揮し、航空機事業を進めている同社であるが、盛んに行われている現場改善の効果と、企業の収益性との関連がはっきりと見えてこないという課題があった。

 

これは多品種生産でありながら、大量生産向きの原価管理だったことが原因の一つであった。大量生産式の原価集計は、製品ごとにかかる人件費を計算する際、出来高に対し一定割合でかかった工数を案分することが多い。

例えば、200時間かかる機械工数の製品であれば、一律に20%や30%などの人件費を見込んで計算するというものである。

 

しかし、この方法は実際の「作業者」の実績や、取り組んだ改善効果が見えてこない弊害がある。また、新規受注する際にも、製造現場の余力がどれだけあるのか、わからなくなってしまう。

 

機械加工業においては、どれだけ機械が空いていたとしても、機械を仕掛けるのは人間であり、原価の大半は機械加工が占めていても、仕掛ける作業者の余力もなければ稼働率を高めることはできない。

この作業者の工数を適正に把握できていない点が、同社の課題であった。

 

コンサルティングの内容

筆者と共に、同社が見える化したい指標を洗い出した結果、次のものが挙がった。

  • 製品ごとの収益性
  • 機械ごとの生産性
  • 作業者ごとの生産性
  • 部門ごとの収益性
  • リアルタイムな企業損益

 

これらを見える化するためのデータを横断的に集計していく方法として「追番管理方式」がある。追番管理方式とは、仮に同じ製品であっても、生産ロットごとに連番を振り分け、都度別々に管理していく方法である。

 

この方式のうえで、作業者の工数を負担にならない方法で集計していくこととした。これにより、ロット数や加工状況に応じたリアルな工数を集計することができるようになる。

 

また、同社の課題であった、企業損益と改善効果をどう関連付けるかという問題であるが、これは機械加工における利益構造の複雑さが根本原因である。

 

そもそも機械加工における製品ごとの原価には、材料費・工賃・購入品費・外注費などがあるが、この中で「工賃」の扱いが難しい。

 

工賃とは、人の作業や、機械加工でかかったコストであり、例えば年間にかかる総人件費を、どう製品ごとに案分するかという問題がある。

 

これについては、通常、マンレートやマシンレートと呼ばれる一時間や一分あたりの人件費や機械償却費を、製品ごとにかかった工数を乗じて計算する。

 

ところが、日々の改善効果によって、製品ごとの作業や機械加工の時間を削減できても、企業損益における費用の大半を占める人件費や機械償却費、リース費用などは固定費であって、これが減るわけではない。

これが、企業損益と改善効果がうまくリンクしない原因である。

 

製造原価における材料費・工賃・購入品費・外注費などのうち、工賃以外のコスト削減は、決算数値に直接現れる。例えば、高額な工具を、同等の性能を持つ安価な工具に置き換える改善などは直接、工具購入品費の削減として利益の増加に寄与する。

 

ところが「工賃」の削減についてだけは、直接損益に直結しない。例えば、ある製品の作業工数を半分にしたからといって人件費、つまり給与を減らせるということにはならないためだ。

 

そこで、生産余力の管理というのが重要になる。

 

作業工数・機械加工工数の削減によって生まれるのは生産余力であり、その余力に(A)新たな受注を取り込むか、(B)外注に出ている仕事を社内に取り込むしか、利益アップさせる方法はない。

 

今回筆者は、原価集計の具体的方法と、改善を利益に反映させる方策をアドバイスした。そして今後は筆者と共に、前述した①~⑤の見える化と、生産余力を適正に管理できる仕組みを構築していく。

 

同社の今後の取り組み

今後同社は、とりまとめた原価管理の仕組みをITシステムとして構築する。同社の属する立山科学グループは、システムソフトの外販も手掛けているため、同社の管理システムについても、すでに高度なソフトで運用している。

 

これから取り組むことは、意欲の高い技術者の改善効果を適正に見える化できるITシステムの高度化である。

また今年度は、高度な自動システムを取り入れた新工場を立ち上げる計画もある。

 

技術者のノウハウや先端設備の性能、そして高度なITシステムといった様々な方面からの強みを磨きあげている同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

株式会社瑞木製作所のコンサルティング事例(2018年2月号掲載)

 

本号で紹介する機械加工メーカーは、以前にも登場していただいた株式会社瑞木製作所である(愛知県尾張旭市 TEL 052-771-8410)。

 

同社は、航空宇宙産業分野で高い実績があり、この分野の製品に多い、薄肉でありながら高い寸法精度を要するといった加工品を扱っており、加工技術については工具・加工法・材料・温度管理・品管技術など、様々な方面からの知見を持っている。

 

また、研究開発への意欲も高く、これまで経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)の認定も経験している。

 

昨年に引き続き、筆者は同社の技術者研修を担当させていただいた。前回は、HSMWorksを使った5名による3次元加工の研修であったが、今回はHSMWorksを使った5軸加工の若手技術者研修を行った。

 

同社の5軸加工

同社は、5軸加工が可能な工作機械として、DMG森精機のDMU50や、MAZAKのINTEGREX300-Ⅳといったマシンを設備しており、航空機部品の加工には欠かせない存在となっている。

 

同社が行っている5軸加工は、いわゆる「割り出し位置決め5軸加工(以下、割り出し5軸加工)」と呼ばれるものである。

 

一般的に5軸加工には、「割り出し5軸加工」と「同時5軸加工」と呼ばれるものがあり、どちらもX・Y・Zの3軸に加え、A・B・Cのうちいずれか2つの軸を加え、真上からしか加工できない3軸加工から、自由な角度で側面方向に傾斜・回転させて加工するようなものを言う。

 

その5軸加工の中で、「同時5軸加工」は、XYZの3軸だけでなく4軸目、5軸目まで動かしながら加工するものを指す。これにより、よく5軸加工でとりあげられるインペラの羽根部の加工など、工具中心軸の角度を可変しながら加工しなければならないような形状においても対応が可能になる。

 

ただし、マシニングセンターなど工作機械を動かすNCプログラムについては、工具軌跡があまりにも複雑になるため、5軸加工が可能なCAD/CAMに軌跡を計算させることになる。人間が直接手入力でプログラムを組むことはほとんどない。

 

逆に、「割り出し5軸加工」は、工作機械の4軸目、5軸目、例えば、立形トラニオンタイプであれば、旋回テーブル(C軸)とチルトテーブル(A軸)といった組み合わせがあるが、C軸とA軸の動きは止めたうえで、XYZの3軸を動かす3次元加工を行ったり、穴あけやポケット加工などの2次元加工を行ったりする。

 

この使い分けとして、「同時5軸加工」は非常に複雑な形状の加工ができる反面、最大5つの軸を同時に動かすため、それぞれの軸の同期・タイミングが非常にシビアに要求され、工具軸が自由に動きながらその工具先端は位置精度を再現しなくてはならないため、どうしても加工精度の面では不利になる。

 

反面、「割り出し5軸加工」は、4軸目、5軸目を固定したまま、3軸加工を行うため、「同時5軸加工」に比べると、加工の自由度は減り、ホルダーの衝突を回避させながら最も工具突き出し長さが短くできる加工軌跡を探してくれるという利便性は出せなくなるが、加工精度を出すという点では、圧倒的に有利になる。

 

筆者も、自動車部品のプラスチック金型において、大型の傾斜コアやスライドコアの加工で、「割り出し5軸加工」を使った経験があるが、旋回テーブルとチルトテーブルを回転させ、多方向からの切削加工を行う際、球状の測定ゲージを使い、それぞれの方向での加工原点を測定し直すことで、10~20ミクロン単位の加工精度に対応できた経験がある。

 

まさしく同社の製品は、10ミクロン、製品によってはそれ以下の精度が要求される部品もあり、5軸加工については「割り出し5軸加工」が最適だと思われる。

 

使用しているCAM、HSMWorksについては、加工プロセスを定義(ジョブの定義)していく中で、常に途中でのワークの状態を認識させながら、加工パスを作成していけるため、色々な方面から5軸加工を行っても、加工パスを重複させずにデータ作成を行うことができる。まさしく同社の加工には適している。

 

5軸加工研修での課題

このように「割り出し5軸加工」は、真上(Z方向)からだけでなく、多方面からの工具軸の加工を高精度に行える反面、「同時5軸加工」とは違い、どの方向から加工を入れるかCAMオペレーターである人間が自分で考えなくてはならない。

 

また、同社が扱う薄肉形状の加工品は、途中プロセスにおいて、どこを残し、どこを先に削っていくかの判断が難しく、単に削れればよいということではなく、ワーク剛性が弱くなってくることでのビビリ発生などを考慮し、削り残り量のバランスをとりながら進めなくてはならない。

 

今回の研修課題は、CAMの操作よりもむしろ、加工順序を工夫しなければならないといった加工形状を採用している。

 

また、今回の5軸加工研修では、同社のDMU50を使った実加工までの実践を課題としているが、これはCAMデータを作成するだけでは、最も難しいテーマの一つである、期限内に要求品質を満たしつつ加工を終わらせるといった技術が身につかないためである。

 

加工時間を短くするためには、工具の送り速度を上げ、仕上げの送りピッチを粗くすればいい。荒取りについても、大きな工具を使い、送り速度を上げれば時間を短くすることは可能だ。

 

しかし今回の研修でも起こったが、送り速度を上げると加工ビビリが発生するし、送りピッチを粗くすれば仕上がり面も汚くなる。

5軸加工はそもそも高い剛性のワーククランプができない場合が多く、大きな荒取り工具を使用すると加工ビビリが発生したり、ひどければクランプが外れてしまう。

 

また、工具の突き出し長さをできるだけ短くするため、細かく多方面から加工を入れるようCAMデータを定義したが、やり過ぎるとCAMデータ作成時間がどんどん伸びる。確認しなければならない項目も増え、ミスのリスクも高くなる。

 

今回受講した入社2年目の小木曽 圭氏は、限られたCAMデータの作成時間と、DMU50を使った加工時間の制約に悩み苦しみながら課題を進めていった。

図1 CAM操作実習を行っている様子

図2 5軸加工機の操作実習を行っている様子

 

今回、小木曽氏の5軸加工の研修日数は、のべ5日である(日あたり7時間)。

 

彼はその日数の中で、課題形状の3DモデリングからCAMデータの作成、そのデータを使った5軸加工機の実加工まで期限内で見事課題をクリアすることができた。

 

まとめ

今回、若手社員の5軸研修と並行してベテラン社員の研修も行ったが、カリキュラムの一部として、HSMWorksと同じCAMエンジンを持つFUSION360を使ったモデリングとCAMデータ作成演習を行った。

 

クラウド型の3次元CAD/CAMであるFUSION360は、同社が扱うSOLIDWORKSと同じパラメトリック式のCADモデリングができ、割り出し5軸加工のデータ作成も可能であり、各種工作機械に対応したポスト処理もできる。

 

年間使用料4万円以下で使用できるCADとして注目されているが、同社においては慣れ親しんできたHSMWorksを扱う5軸エンジニアを増やすことに寄与すると思われる。

 

筆者はこれまで2年、同社をサポートさせていただいたが、高度なエンジニアを増やすことへの教育投資を惜しまない同社に筆者は大きな期待をしている。

 

坂本精工株式会社のコンサルティング事例(2018年1月号掲載)

 

本号で紹介する企業は、穴あけ工具の製造販売を主な事業とする坂本精工株式会社(大阪府八尾市 TEL072-924-4872)である。筆者は、同社の販路開拓と営業社員教育をサポートさせていただいた。今回はこの取り組みを紹介すると共に、同社が扱うオーダーメイド工具という専門商材を扱う営業の難しさに触れていきたい。

 

同社は、超硬合金製の穴あけ工具、特に総型工具と呼ばれる、加工目的形状と同じ刃先の形を持つ切削工具のオーダーメイド製作を行っている。

図1 同社が製作する総型工具

 

筆者が知る限り、一品生産の多い金型部品加工で総型工具を使うことは少ないと思われるが、例えばキャップボルトのザグリ穴のような段付き穴加工において、複数のドリルやエンドミルを使って加工する場合、総型工具を使用することで、一本の工具で加工を済ますことができる。

 

同社は、顧客の細かな要望に応える技術対応力と、それを最短納期で仕上げる納期対応力を強みとし、これまで関西地区を拠点として事業を行ってきた。

 

新たな販路開拓構想と同社の課題

同社は昨年から、さらに商圏を広げ、筆者も拠点としている中部地区に支店を作り、得意としている穴あけ総型工具の受注活動を進めている。

 

同社が扱う工具には、総型工具の他にバニシングドリルやリーマがあるが、自動車部品加工メーカーから需要があり、徐々に注文を受けてきているが、想定していたよりも販路開拓が進まないという課題があった。

図2 同社が製作する刃先がφ1.0mm以下のバニシングドリル・ リーマ

 

中部地区に多い自動車部品メーカーは、縦横のつながりが強く、他の地区からの参入業者から見ると、マーケットとしては大きいものの新規参入が難しいとよく言われる。

 

また、同社は中部地区に支店を作るにあたり、新たに営業社員を採用したが、これまで営業活動を一手に引き受けていた代表取締役の坂本泰昭氏との営業スキルに違いがあるという問題もあった。

 

そこで今回、同社の販路開拓と営業社員教育、それぞれについて、筆者がコンサルティングを行うことになった。

 

販路開拓の課題

同社が中部地区で販路を開拓するうえの課題として、まず同業他社の存在があった。

 

同社が強みとしている、きめ細やかな対応力、短納期対応については、まさしく同業他社も同じように磨きをかけ、常にしのぎを削っている。

 

また、工具を使用する加工メーカーも、常に品質・コストの問題があるため、これまで使用し条件を出してきた工具をそう簡単に切り替えることはしないと思われる。現場の立場からするとなおさらである。

 

同社はこうした同業他社がいる中で、受注を新たに奪っていかなければならない。そのためには、顧客メーカーのスイッチングコスト(切り替えのために要する費用、物的コストだけでなく時間的、心的費用もある)を上回るメリットを提案していく必要がある。

 

営業社員教育の課題

同社は今回の販路開拓にあたり、前述したように同業他社を上回るメリットを提案していく必要があるが、切削工具という商材は提案自体にその難しさがあった。

 

その難しさとは、顧客である多くのユーザーは「加工のプロ」であり、「工具のプロ」ではない。加工でどうしたいこうしたいはあるものの、それがどういった刃先形状や工具材質で実現可能になるのか、そこまで知り尽くしているユーザーはそう多くはないという点である。

 

つまり、工具を使用するユーザーは、やりたい加工、解決したい課題を伝える際、それを工具の姿形として表現することが難しいのである。

 

したがって、加工で用いる切削工具を販売する営業社員には、顧客の要望を引き出すための、プラスアルファの知識が必要になる。

 

同社の営業社員に必要な知識とは、具体的に次のようなものである。

  • 自社商品・製造能力に関する知識
  • 「工具のプロ」として、切削工具に関する知識
  • 「加工」についての専門知識

 

これが例えば、一般家庭商材を扱う営業マンであれば、それは日々の生活の中で顧客が抱える課題の情報を得ることができるが、同社が扱うような工具という専門商材、しかもオーダーメイドの切削工具ともなれば、加工のプロである顧客ユーザーと渡り合い、工具を扱う加工の知識もある程度なければ、顧客が抱える課題を引き出していくことが難しい。

 

上記(ウ)の専門知識は、まさにこの「顧客が抱える課題」を引き出すためのものであり、今回のコンサルティングにおいて最も注力し指導させていただいた点である。

 

今回のコンサルティングで取り組んだこと

今回の営業社員教育では、穴加工で起こりうる加工の諸問題を取り上げながら、顧客の課題を引き出すロールプレイング形式の対面営業トレーニングを行った。

 

具体的には、同社の主力商品であるリーマ加工で起こる問題、例えば、

  • リーマの穴ピッチがずれる、ばらつく。
  • 穴の中の加工面が荒れる。
  • 穴の真円度が悪い。
  • 加工工数を削減したい。

 

こういった問題が考えられ、訪問営業の中でこういった声を引き出さなくてはいけない。

 

こうした問題を相談してもらえるようになるには、まず加工について信頼できる相談相手にならなくてはならない(課題A)。

 

その課題を引き出すことができれば、今度は「工具のプロ」として、どういった刃先・工具形状をもってその問題を解決するか、自社商品を用いた解決案を提案する(課題B)。

 

コンサルティングの成果

今回のコンサルティングにより、次のようなPR資料を作成した。

  • 訪問先で、深い加工の知識を持ち、信頼のおける相談相手だと認識してもらうため、穴加工に関する自作のトラブルシューティング集を作成した。
  • 同社がこれまでの販売で解決してきた加工事例集。

 

①は、採用した営業社員が自らの知識を整理すると共に、前述した課題Aに対応する営業ツールである。また②は課題Bに対応する、顧客へ提案する際に用いる営業ツールである。

 

今回作成した営業ツールは、大阪府にある本社の従業員教育にも使えるものであり、今後は加工知識まで併せ持った「工具のプロ」になるために、ぜひ社内で共有して使っていただきたい。

 

今後同社が目指すべきこと

今回教育指導させていただいた営業社員が専門知識を持ちはじめたこともあってか、徐々に注文が取れているようである。

 

コスト要求が厳しい多くの製造現場においては、消耗品である切削工具はコスト削減対象になりやすく、やはり何らかインパクトのあるメリットが得られなければ、新しい工具への切り替えや積極的な購入に踏み切ってもらえないと思われる。

 

そうした中、同社に必要になる考えとして、単なる製造販売から「サービスを売る」という発想への転換がある。モノを作って売るのではなく、「顧客の課題解決」を売るという発想である。

 

そのためには、顧客が抱えている真の課題を引き出さなくてはいけない。また、信頼のおける相手でなくては、忙しい時間を割いてまで課題は話さないものである。

 

まさにオーダーメイド工具の販売に必要になる「サービス化」という転換を武器に、新たな販路の開拓を進める同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

株式会社エスケイモールドのコンサルティング事例(2017年10月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、株式会社エスケイモールド(愛知県豊橋市 TEL0532-35-2007)である。同社は、PPやナイロン系の樹脂材料を成形素材とするモールド金型を製造するメーカーである。

 

筆者が同社をサポートすることになったきっかけは、金融機関から専門家派遣制度を活用した支援依頼があったためである。

 

同社の強み

支援内容としては、同社が自社を紹介するホームページを製作するにあたり、そのコンテンツとなるPRの内容について、自社だけでは相対的な特徴を洗い出すことが難しく、そのサポートをお願いしたいとのことであった。

 

金融機関の支援担当者と共に訪問し、代表取締役である鈴木 秀男氏からヒアリングを行ったところ、筆者は同社の事業について、次のような特徴を挙げた。

図1 構造設計・3Dモデリングを行っている様子

図2 同社の機械加工現場の様子

 

  1. 構造部・意匠面のモデリング、全てを社内設計できる体制が整っている。
  2. 新規の金型製作から納入後の修理・メンテナンスまで、全て一括で対応している。
  3. ワイヤー放電・型彫り放電、マシニング加工など、機械加工を全て内製化している。

 

これらの特徴から見出すことのできる同社の強みは、①短納期対応と②小回りの良さであろう。

 

これらを、同社の強みとして挙げたのは、モールド金型メーカーを筆者が経営診断させていただく際、本来モールド金型メーカーがコア技術とするべき業務を、ここ最近アウトソースしている傾向にあると感じたためである。

 

例えば、次のような傾向である。

  • 金型構造設計及び、キャビとコアの製品意匠面モデリング(パーティング面・勾配面のモデリングなど)を外注で対応し、CAMデータの作成から機械加工を社内で行う。
  • 機械加工の終わったキャビとコアの磨き作業を外注に依頼する。
  • 金型の組み付けは社内で行うが、トライ作業は客先にお任せする。

 

これらの傾向については、やはり年々短納期化する金型納期と、引き下げられる金型費への対応のためであると考えられる。

 

また、若手技術者の強みを活かせる分野として、CAMや機械加工といったマニュアル化・標準化しやすい作業を、今後もより内製化していく傾向になるものと思われる。

 

しかしながら、筆者のような中小企業診断士やいわゆる経営コンサルタント等は、SWOT分析などから、「強みを市場機会にぶつけ競争力の高い事業を行う」などと提案することが多いが、前述したように本来コア技術となるべき業務をアウトソースする金型メーカーについては、筆者も「強み」を洗い出すことに思わず悩んでしまうことも多い。

 

しかしながら、筆者が拠点とするここ中部地方では、まだまだ仕事量は飽和しており、どの金型メーカーも忙しく、受注についてはキャパオーバーとなっている。

 

そうしたなか、海外生産に主力を移しつつある金型メーカーも多くなってきており、今後の国内の技術・コストの競争力については、楽観視できないところもあると思われる。

 

同社の競争戦略

こうした業界事情の中、同社は同業他社との差別性を意識した戦略をとっている。

 

いかなる事業においても、企業が競争力を維持してために最も重要なこととして、「参入障壁」をいかに高くできるかだと考えている。

 

全くライバルが存在しない新しい事業というものは、このご時世なかなか無い。仮に、全く新たなプロダクト(商品)を開発できたとしても、インターネットなどによって情報が一瞬で行き渡るこの時代では、すぐに模倣品が現れ、コモディティ化してしまう。

 

ところが、金型製造という事業は、職人技術を要するために、各社これまで一定の事業領域を保ってビジネスを行ってくることが出来た。

 

それが皮肉にも、CAD/CAMや工作機械の進化により、一部の職人技術が機械システムに置き換わることで、限られた人にしか扱えない技術から、ソフトや機械を操作することで、誰にでも扱える技術に裾野が広がってきたという背景がある。

 

例えば、昨今の鏡面磨き加工がある。筆者も以前、高度ポリテクセンターにて鏡面磨きの研修を受講したことがあるが、受講生10名強の中で、最終課題である#8000の磨きの完了まで到達できた者はわずか4名ほどであった。

 

このように金型の鏡面磨きは、必要な体の動作を、一定のトレーニングにより時間をかけ段階的に習得していくものであり、やり方・方法を知識的に知ったところで、とたんに作業できるというものではない。

 

ところが、これを工作機械の加工で置き換えるとした場合、もちろんソフトや機械の操作、工具の特性・使い方など、覚えなくてはならないことは多岐に渡るが、人間がトレーニングをするといったものとは異なる技術の扱いになる。

 

一概には、どちらが覚えやすいか、覚えにくいかを明確に分けることは難しいが、前述した「参入障壁」という視点でみれば、習得に時間の掛かり、個人差が生まれやすいものほど、障壁は高いと言える。

 

また経営学で使われる用語に「経路依存性」というものがあり、これは過去に多くのさまざまな経験によって積み重ねられた技術や経験値は、他社から見ると複雑で、簡単には真似ができないといった強みを指す。これを模倣困難性と言う。

 

つまり金型業界で言えば、現時点の技術ではまだ機械に置き換えることができない人の技能や、多くの失敗・経験によって構築された金型ノウハウについては、同業他社に追従される可能性を低くできるということになる。

 

同社が内製化にこだわる、金型設計、金型の溶接補修などは、そうした経路依存性の高い技術だと言える。

 

また、他社が製作した金型についても、補修・メンテナンスを依頼されることが多く、こうした積み重ねが同社の設計において、さらなるノウハウの積み重ねとすることができる。

 

これにより、壊れない・トラブルを起こさない金型製作をより強化していくことができ、これが同社の模倣困難性をさらに高めていく。

 

今回、筆者は同社のホームページ製作をサポートするにあたり、金型を専門とするコンサルタントの目線から、中長期的な視点でこのような同社の競争力を見出すことができた。

 

同社の今後の取り組み

同社は、これまである程度決まった取引先から受注を請けてきたが、今後は事業の拡大と安定化のため、金融機関と協力した販路開拓にも取り組んでいく。

 

現在、中小企業に関わる支援策は、金融機関や公的機関を窓口に、多岐に渡って展開されているため、信用金庫など身近な金融機関などに適宜、課題を相談しながら、うまく活用することが経営の効率化にもつながる。

 

同社は事業拡大に伴い、設計対応力の強化を図るため、新たな技術者の採用に合わせてCADの拡充を検討しており、その際にはSolidWorksなどを活用した設計のオール3次元化も視野に入れている。

 

同社の強みである、長期間に渡り使用できる丈夫な金型を製作する設計ノウハウを、若手技術者に継承していくための仕組みづくりも今後必要になってくる。

 

人の持つ技術を最大限に活かした自社の競争力を高め、さらなる事業拡大を目指す同社に筆者は大きな期待をしている。

 

株式会社 大起鉄工所のコンサルティング事例(2017年5月号掲載)

 

本号で紹介する加工メーカーは、NC旋盤加工を主力事業にしている株式会社 大起鉄工所(愛知県豊川市 TEL0533-86-0374)である。同社は、鍛造や板成形加工されたプレス品の2次加工を主に行っており、それ以外にも様々な素材種類や用途の加工品を扱っている。

写真1 同社の扱うNC旋盤の一例

写真2 同社が扱っている加工品

 

同社の強み

同社の強みは、プレス加工された素材など、NC旋盤加工を行うにあたり、チャッキングや加工精度を出すことが難しく、多くの同業他社が受注を避けるような製品を多く扱っている点にある。

 

扱いが難しい理由として、次のような点がある。

  • 素材形状が歪(いびつ)であったり、薄肉であるため、チャッキングが難しい。
  • 要求品質として、加工歪みが極めて少ない状態で加工しなければいけない製品がある。
  • 上記①②の難易度でありながら、ロット生産であるため、不良を流出させない品質管理が必要であること。

 

同社はこのような、取り扱っている製品の特性による諸問題を、豊富な旋盤加工全般の知識と、川出社長の独自の発想によって解決し、それを自社の強み(競争力)としてきた。

 

筆者のコンサルティングを受ける前の課題

同社は先日公募のあった、平成28年度第2次補正予算「革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金」を申請するにあたり、どうすれば採択確率の高い申請を行うことができるかで悩んでいた。

前回の公募の際も、金融機関の手厚いサポートを受けながらも不採択になった経緯があるためだ。

 

そこで金融機関からの紹介により、後述する同社の事業拡大へのアドバイスの中で、同社の技術開発についても、筆者がサポートすることになった。

 

課題をどのような方策で改善したか

採択確率の高い申請書をつくるポイントは、次のような視点を盛り込むことである。

 

  1. 導入する機械設備は、生産性を上げるためではなく、生産性が上がる技術を開発するために使うというストーリーにすること。
  2. 開発する技術は、自社だけの課題を解決するためではなく、業界全体が抱える技術課題を解決する大きな使命を持っていること。

 

これらを、仮に技術がわからない方が読んだとしても、理解ができる文章にして申請書に書き込む必要がある。どうしてもこの作業が大きな負担と感じるため、ここ最近、その代筆をビジネスとしている事業者が増えているという実態もある。

 

川出社長は、外部の代筆事業者を頼ることなく、自社で申請書を書き上げることを決意したため、筆者は前述した申請上の重要ポイントをまとめていくサポートを行った。

 

具体的には、補助金を活用して導入する新型NC旋盤でしか出来ない、新たな加工技術の開発について、その個別課題と解決の方法を、川出社長と一緒に取りまとめていった。

 

今回、取り組もうとしているテーマは、自動車部品におけるハイテン材を使ったプレス部品の2次加工について、現在同社には、従来を超える強度のハイテン材を使用した部品の2次加工の引き合いが来ており、それに対応できる技術のための開発事業である。

 

対象となっている部品は、エンドユーザーから高い平面度が要求されているため、同社での旋盤加工の後、他メーカーで研削加工を行っている。

 

しかしながら、今後の生産工程では、従来を超える強度のハイテン材を使用しながら、旋盤加工後の研削工程を無くし、リードタイム短縮とコスト削減を図りたいというエンドユーザーの思惑がある。

そこで、高い旋盤加工の量産技術を持つ同社に、生産工程改善の相談が来ているのだが、現状の保有設備、加工技術では対応が不可能であった。

 

そこで同社が行っている、いくつかの独自の加工方法について、そのメカニズムを理論的な視点で掘り下げ、従来を超える高ハイテン材に活用できる、新たな加工技術に高度化させることを考えた。

 

例えば、筆者が加工現場を視察したり、川出社長からヒアリングを行ったところ、市販工具を特殊な方法に応用して切削加工を行っていたり、リーマ加工におけるバニシング効果を高める前加工に類似した、仕上げ切削プロセスなどを行っていた。

 

こうした技術は、これまで川出社長の創意工夫により構築されてきたものであったが、今回、専門書などに記載されている理論的な視点により、技術的な裏づけを明確にしたうえで、さらにそれを新型NC旋盤の機能を使って新たな技術として高度化させる。この開発の取り組みを、申請書に書き込んでいくことにした。

 

コンサルティングの効果

これまで筆者は、ものづくり補助金事業において20社を超える企業のサポートを行っており、全ての企業が採択されている。

 

その秘訣として、公募要領の審査項目にある「新製品・新技術・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘)の革新的な開発となっているか」や「課題の解決方法が明確かつ妥当であり優位性が見込まれるか」などといった要件に対し、革新的で優位性のある開発を、業界全体の視野で俯瞰しながら企業と一緒になって考えている。

 

あとは、その開発が困難な理由や、どのように実現させるのか等を、わかりやすく記載していくことである。

 

逆に、不採択になった申請書を拝見させていただくと、新たに購入する機械設備の良さ・高機能性、またその機械を使って得られる生産性などを一生懸命説明する文章が多いが、機械設備を購入するだけで生産性が向上する内容の場合、同じ機械を購入する他の企業も同じメリットが得られてしまうため、これは機械そのものが革新的であっても、同業他社に対し優位性のある取り組みテーマとは言えない。

 

ところが高額な費用を支払って、代筆事業者を使っても、そういった記載内容も見受けられるため注意したいところである。

 

同社は今回のサポートにより、今後同社に必要になる技術について、新型機械を活かした高度で新規性のある開発テーマを考えることができた。

 

今後の同社の取り組み

川出社長の今後の取り組みとして、これまで培ってきた旋盤技術を、若手人材に継承していきたいと考えている。

同社に限らず、これまでの職人技術のように属人的な技術・技能は模倣が困難であり、それが参入障壁となり、競争力となる反面、事業拡大や技術承継の際には足かせになってしまう。

 

そこを打破し、効果的な若手人材の育成を行っていくためには、単なる作業手順書だけではなく、川出社長の頭の中にある思考プロセスを、知識と技能に分け、紐解きながら従業員に伝えていける仕組みが必要となる。

 

その仕組みを構築できれば、多品種小ロット生産や一品生産を行う加工現場に最も必要となる「応用力」を養っていくことができる。

 

今後、川出社長は採用計画と共に、技術者育成の仕組みを整え、エンドユーザーを支えるサプライヤー企業として何十年と続けていける「組織体制」を作り上げていく構想がある。

 

筆者は、そうした川出社長の取り組みに大きな期待をすると共に、同社のような実力ある地元企業の経営面・技術面のサポートを、金融機関等とも連携しながら行っていこうと思う。