金型・部品加工業専門コンサルティング

金型・部品加工業専門コンサルティング(加工コンサル)は、金型メーカーや、マシニングなどの機械加工業を専門とする経営コンサルタント事務所です。

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タチバナ金型製作所のコンサルティング事例(4月号掲載)

タチバナ金型製作所のコンサルティング事例(4月号掲載)

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本号で取り上げる金型メーカーは、愛知県にあるタチバナ金型製作所(愛知郡東郷町春木下鏡田161-6)である。同社は主に自動車部品や遊戯具部品などの射出成形金型を製造しており、従業員3名の少数精鋭である。

同社を取り上げたのは、経産省の産業支援策である「ものづくり補助金」の申請を筆者がサポートし無事に採択され、そのまま技術開発もお手伝いさせていただいたため、その取り組みについて紹介させていただこうと思ったからである。

同社は、自社の弱みを改善するテーマに挑戦し、本業と並行しながらじっくりと腰を据えた実験に取り組んだ。筆者が一番に伝えたいのは、開発テーマが採択要件にあっていれば小規模メーカーも十分採択される点である。

会社の最も強みとしているポイント

同社の強みは、顧客から見て要求価格で受注してくれる点である。これを可能にしているのは、もちろん低コストで金型を製作できているためだ。

橘木社長は創業社長であるため、設計から機械加工、組立・調整まで全工程に対応できる。社長以外の製造スタッフについては、各工程を必要最小限ムダのない人工で担当しており、伝達など間接コストを無くし高い稼働率でものづくりを行っている。

コンサルティング以前に粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

ところがこうした効率的なものづくりを行っていても、特に射出成形金型は、価格競争による型単価の低下は著しく、多くの中小金型メーカーの大きな課題となっている。筆者自身も23年の金型メーカー勤務の中で驚くほどの価格変化を見てきた。

こうした背景から起因する同社の課題は企業の成長性だとみている。連載第1回に書いた、財務面のチェック項目「設備投資のための資金計画」が同社の課題である。

これまで同社は1台保有しているマシニングを2台に増やしたいという想いがあった。2台体制であればキャビティとコアを同時に加工できリードタイムは1/2にできる。リードタイムが半分になると受注できる型数を増やすことができ売上は増加する。労務費や外注費を比例して増やすことなく売上増加ができる。

これにより効果的に粗利益を増やすことができる。同社はそういった投資のチャンスを逃していた。これは機会損失と呼ばれ、実は増やせるべき利益を逃している損失だと考えるべきである。

設備投資の原資は多くの中小企業の場合、借入で調達することが多い(図1)。

図1 設備投資の原資の内訳

利息支払い額や銀行借入の返済額、またはリース費用が充てられる。

粗利益とは、売上-製造原価(材料費、労務費、外注費)であるが、設備投資の原資を確保できる粗利益を稼ぐことができていたか、これらの構成要素を細かく見ていく。

① 売上:生産能力により毎月受注できる型数に制約がある。
② 材料費:売上に比例するが為替動向などによっても変動する。基本的に自社ではコントロールできない。
③ 労務費:効率性の高い生産が会社方針であり過度な残業は少ない。
④ 外注費:無理な受注による負荷オーバーのための外注策は少ない。

したがって、①~④によると同社の粗利益減少要因は「売上」が主原因であるとわかる。
次はこの売上についての構成要素を見ていく。売上とは単価×数量であるため、それぞれを同社に当てはめ分析する。

① 単価:とにかく顧客要求に応える方針であり、これまで価格交渉はほとんど行っていない。
② 数量:毎月ほとんど固定的な型数を受注している。

したがって、①②によると同社の粗利益減少要因は「受注単価」にあるとわかる。
受注単価については、やはり何といってもリーマンショックにより業界全体で仕事量が激減し、価格相場が大きく引き下がったことも影響している。同社は粗利益について中長期的な視点で検証ができていなかった。

課題となっていた部分をどのような方策で改善したか、成功した改善策

そこで同社は、経営のカンフル剤とも言える、補助金を活用した設備投資を考えた。

新型マシニングの導入により粗利益に直結する生産改善を行った。具体的には、金型意匠面の切削加工面の品質向上による磨き工数削減と、既存設備よりも早い主軸回転で送り速度を上げ、加工工数の削減を図った。それに伴い、ボールエンドミルの加工条件と加工パス軌跡の見直しも行った(写真1)。

写真1 補助金事業で使用した設備や実験ワークなど

そもそも手仕上げ磨きはコスト増加要因が多い。労働集約型業務であるうえ一定レベルの技術が必要で、型ダレやキズなどにより修正・手直しロスの発生要因にもなるため、人件費の安いパート社員に任せる、というわけにもいかないところがある。

同社は、補助金事業によって製造コスト(労務費、外注費、減価償却費)を増やすことなく売上増加を図り、しかも単価ではなく数量要因の増加で実現できた。顧客への価格メリットはそのままに自社の粗利益がアップできたことになる。

補助金による改善後は、労働生産性による儲けから設備生産性による儲けへと粗利益の稼ぎ方が変化した。機械設備によって稼働率を高め製造コストを引き下げる考え方である(図2)。

図2 労働と機械の製造コストに対する考え方の違い

従来は、型数をこなすには人が頑張る考え方であったが、改善後は機械に仕事をさせ、人の時間を有効に使う管理を重視するようになった。人がフレキシブルに動けるための時間管理である。
人の時間を有効に使う管理を実施した結果、外注化していた設計が内製化できるようになった。これによる粗利益アップの効果は高い。

もちろん補助金の活用にあたって苦労した点もある。これについては次回で詳しく解説する。なお、補助金は開発計画が全て終わってからの後払いになるため、初期投資となる資金調達は必要である。

今後の成長に向けて

同社は、今後の事業拡大のため射出成形とプレス、両方の金型を扱い始めた。しかし、それぞれの金型技術には明確な違いがあるため容易ではない。

例えば、型合わせの考え方から異なる。プレス型は直角面が多いが射出成形はコッター面と呼ばれる傾斜面が多い。プレス曲げの場合、板が曲がり終わる下死点までが金型の仕事であり、板を曲げる最中に上下型それぞれの面を摺動させ型ズレを防ぐ。一方、射出成形は型が閉じた下死点で原料を射出し成形する。それぞれ型を閉じる前か後、どちらで仕事をするのか異なる。このため、柔軟に対応できる技術・ノウハウが必要になる。

同社は、人がフレキシブルに動ける時間管理により、こうした新たな仕事に取り組む時間が作れるようになった。現在、生産能力を強化するため一緒に金型づくりを続けていけるスタッフを募集している。ヒトモノカネの面で生産性の高い経営を目指す今後の同社の成長に期待している。

 

 

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