金型・部品加工業専門コンサルティング

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3次元設計

協和工業株式会社のコンサルティング事例(2018年10月号掲載)

 

本号で紹介するプレスメーカーは、協和工業株式会社(静岡県湖西市 TEL053-579-0931)である。同社はシート部品・ステアリングコラム部品などの自動車用部品を製造する量産プレスメーカーでありながら、自社でも高精度な金型を内製しているという特徴がある。

図1 同社の金型の一例

 

また、プレス能力800トン級までの厚板・高強度、複雑・精密形状のプレス品であるシート機構部品等を生産できる技術と設備能力を持っている。

図2 同社で生産されている製品の一例

 

同社の金型製造の特徴・強み

同社の金型製造における特徴と強みは次のような点である。

 

  1. 金型製造の全工程を3次元CADデータで扱う一貫体制を構築している。
  2. 安田工業(株)製の3軸・5軸マシニングなど、高度な工作機械を多数保有している。
  3. 量産部門で培った高い管理ノウハウを金型製造プロセスにも応用しており、社内・外販向けともに高品質の金型及び金型部品を製造している。

 

今回は、同社に対し筆者のコンサルティングで行った、3次元設計の有効活用法の一つであるコンカレントエンジニアリング導入の取り組みについて紹介していきたいと思う。

 

3次元設計のあるべき3つの活用法

プレス金型設計においては、まだ2次元の設計で行うメーカーも多いが、3次元による設計もすでに多くのメーカーで使われている。

 

しかしながら、想像線などによる図の省略が自由に効く2次元の作図と比べ、3次元設計は基本的にそこに存在するもの全てをモデリングしなければならないため、2次元設計よりも多く工数がかかる傾向にある。

 

そこで、設計工数そのものよりも、むしろ後工程での省力化により、3次元設計のメリットを発揮するという考え方が必要になる。

 

そのための有効活用法として3次元設計では次の3つに取り組むと良いとされている。

 

  • 解析技術(シミュレーション)
  • フィーチャー設計
  • コンカレントエンジニアリング

 

(ア)の解析技術は、3次元モデルを利用して強度計算や塑性加工シミュレーションなどを行うものである。

(イ)のフィーチャー設計は、例えばキャップボルトやノックピンを3次元モデルのプレート上に配置すると、プレートのモデルにタップやリーマ穴、ザグリ穴など加工属性が付与されるといった機能のことで、後工程のCAMオペレーターの作業が省力・自動化される技術である。

 

(ウ)のコンカレントエンジニアリングとは、例えば、①金型構造設計→②部品図作成→③CAMデータ作成→④機械加工→⑤仕上げ→⑥組付け→⑦トライといった工程において、各工程でそれぞれ一定程度作業が終わったところで、まとめて次工程に引き渡すといった順次方式ではなく、各工程を同時並行に進行させることで全体のリードタイム短縮を図る手法である。

 

従来の2次元設計では、金型の構造設計が完了してCAMデータ作成工程に引き渡す前に、まだ個々の部品図作成を行わなければいけない。さらに3次元CAM加工のある部品については、部品図を元に3次元モデリングも行わなければならない。

 

ところが3次元設計であれば、部品の設計も構造設計と同時に完了するため、速やかにCAMデータ作成工程に引き渡すことができる。そのため、3次元設計はコンカレントエンジニアリングに向いていると言われている。

特に短納期にこだわるメーカーでは、金型構造部の詳細設計の前に、パンチ・ダイなど意匠面部品などの3次元CADモデルを先に後工程に引き渡すといった同時並行作業をとる事例もある。

 

このコンカレントエンジニアリングの採用により同社は工作機械の稼働率を引き上げ、①金型全体の製造リードタイムの短縮により金型受注面数を増やす、②外販向け金型部品の受注売上を増やす、といった取り組みにより課題であった部門目標売上の達成を目指すこととなった。

 

同社が取り組んだコンカレントエンジニアリングの内容

前述した、①金型構造設計→②部品図作成→③CAMデータ作成→④機械加工→⑤仕上げ→⑥組付け→⑦トライといった工程において、筆者が同社の金型製造プロセスを診断したところ、③CAMデータ作成→④機械加工の工程間のリードタイムにまだ伸び代があると感じた。

 

これまで同社ではCAMオペレーターが一定数の部品のデータ作成を行った後、次工程に引き渡す「作り溜め方式」で行っていたため、設計後、機械加工がスタートするまでに一定の日数が経過していた。

 

そこで今回の改善では、設計後から機械加工開始までの期間を限界まで縮めるため、CAMオペレーターは早ければ、設計担当からモデルデータを受け取ったその日もしくはその翌日の夜間から、加工を開始できるようデータの作成、準備を行うこととした。

 

データ作成が一定量進んできた段階で、日中にも機械加工を入れていくが、まずは夜間と週末のスケジュールについて、1週間から2週間先まで優先して着手計画を埋める。

筆者はこれを新幹線のような「座席予約方式」と呼んでおり、計画的に夜間・週末の時間を有効に使い切るため必須の措置だと考えている。

 

同社のコンカレントエンジニアリング導入のポイント

今回のポイントになった点は、次の3つである。

 

  1. 緻密な着手計画を立てるため、個々の部品の加工工数を精度よく見積もること。
  2. 同社の金型は保全性を高めるための入れ子構造が多く、比較的小さな金型部品(以下「小パーツ」)が多い。小さな部品は加工時間が短いため、本来長時間の無人加工には向かないが、その対策を図ること。
  3. 機械オペレーターは、前工程への多能工化としてCAMデータ作成にも参画し機械稼働率を高める。さらに後工程への多能工化として、加工後部品の仕上げ・組み付けにも参画し、工程全体のリードタイム短縮にも貢献する。

 

着手計画の見積もりについては、量産プレスの管理で培った緻密な実績管理を行うことで見積もり精度を高め、CAMデータ担当者の協力も得ながら、着手計画の仕組みを作ることができた。

 

また小パーツの無人加工については、同社はパレットチェンジ仕様の横形・立形のマシニングなど、複数部品の無人加工に適した機械を設備しており、これを若手の機械オペレーターがプログラム改善などを行い、多数個の小パーツを長時間無人加工できる仕組みを作ることができた。

 

多能工化については、3次元CADデータを全工程で一貫して扱う同社においては、例えばプレートの穴あけのような平面的加工であっても、CAMは3次元仕様のソフトを使うことになり、一般的な2次元CAMよりも習得のハードルは高くなるが、同社の機械オペレーターは、高いチャレンジ意欲でこれを習得し多能工化を図っている。

 

コンサルティングの効果と今後の同社の取り組み

こうして同社では、コンカレントエンジニアリングの取り組みにより、機械加工工程は従来よりも早いスタートを切ることができるようになり、これまで稼働率が高くなかった設備についても目標稼働率を実現できるようになった。

 

同社は今、外販向けの金型及びパーツ品の受注拡大に取り組んでおり、設計・機械加工などの技術をさらに多くの顧客に向け提供していくことを考えている。

 

3次元CAD、パレチェン仕様のマシニング設備など高度な設備を、あるべき形でフル活用し、競争力を磨きあげていく同社に筆者は大きな期待をしている。

 

 

三幸プロダクツ株式会社のコンサルティング事例(2018年9月号掲載)

 

本号で紹介するプレス金型メーカーは、三幸プロダクツ株式会社(大阪府東大阪市本庄西3丁目1番21 TEL 06-6541-9331)である。

 

同社は、ブリキなどの薄板コイル材を扱う鋼板商社である三幸商事株式会社が、プレスメーカーの大西工業を買収したことで、平成29年度より三幸商事(株)のグループ会社として、新たにスタートすることになった企業である。

図1 同社で製作された金型

図2 同社の金型で製造された製品

 

同社への支援は、技術承継などの課題を持つ同社への技術面の支援として、プレス金型にまつわる様々な知識について、筆者が8か月間の講義を行ったものである。

 

筆者が支援する他のメーカーにおいても、営業・調達・経理・量産プレス・金型製造・金型保全など各部門において、持ちうる技術知識に格差があることで、様々な支障をきたしている。

 

今回の各部門が一堂に集まり受講する部門横断的な技術講義の取り組みは、前述した課題に対する有効的な対策であり、ぜひ他メーカーでも取り組んでいただきたく、本号ではその要所などを紹介したい。

 

同社の強みとコンサルティング前の課題

同社の強みは何といっても、旧大西工業の代表であった同社顧問が持つ技術ノウハウにある。

 

現在も、プレス工法やポンチ図の作成において、同社が得意とする0.2ミリや0.3ミリの薄板絞り加工の順送金型などを製作する生産技術の中心的役割を担っている。

 

しかしながら、この点が同社の強みでもある反面、同社のウィークポイントとなっている。今後の5年、10年先を見据えると、早急な技術承継が必要不可欠であった。

 

そこで、これまで属人的であった同社のコア技術を標準化し、チームによる製造力を強化していくため、各部門の主要メンバーが一堂に集まり、筆者の指導の元、金型製造にまつわる全般知識を、まずは習得していこうということになった。

 

コンサルティングの内容

実際の講義は、次のような7つのテーマで行った。

 

  1. プレス工程設計の基礎知識
  2. 金型構造と金型設計に必要な知識
  3. 金型で使われる金属材料の基礎と使いかた
  4. 金型製作で用いられる機械加工全般と使い分け
  5. 切削加工概論
  6. 2 次元・3 次元 CAD/CAM 研修
  7. 金型製作における工程管理と原価計算

 

以下、講義で扱った内容と共に、各部門が横断的に知識を持つことのメリットについても見ていきたい。

 

  1. プレス工程設計の基礎知識

この講義では、金型製造の全工程から、最初の工程であるプレス工程設計についての基礎講義を行った。また、抜き・曲げなどのプレス工程を設計するためには、種々のプレス工法や各種プレス機の特徴や使い分けなども知っておく必要があるため、それら周辺知識なども扱った。

同社製品に多い円筒絞り加工については、絞り率の計算なども受講者全員で実践を行った。

これらの研修により、各部門の全員がプレス工程とコスト・品質の関係を知ることができ、今後は最適な金型製作と量産プレスを行うための検討をチームとして行うことができる。

 

  1. 金型構造と金型設計に必要な知識

金型設計の3段階(工程設計・構造設計・部品設計)における構造設計・部品設計を取り扱った。

 

プレス加工は大きな力を要する加工であり、金型はそれに耐える充分な強度を持つ必要がある。また、金型は長く使うツールであり、製作直後のトライ時には出てこなかった問題も、長く使ううちに出てくるトラブルもある。

 

本講義では金型構造の基礎から、不十分な設計により発生するトラブルや故障などを扱っており、これらの知識を製造側と保全側、両面が持つことで、最適な金型製作を行っていくことができる。

 

また、過剰強度の部品材料や構造は、即コストアップにつながり、企業収益を圧迫する。こうした側面を営業・調達部門も知ることで、最適コストの金型調達を行っていくことができる。

 

  1. 金型で使われる金属材料の基礎と使いかた

同社で使われるパンチ・ダイは、SKD11といった冷間ダイス鋼が主に使われており、極めて薄い板の抜き加工を行う同社の金型では、必要強度のためハイス鋼や超硬合金が使われることもある。

 

近年は各鋼材メーカーより、様々な改良ダイス鋼が販売されており、こうした各鋼材は、その使い方によって長所短所がみられることがあり、その特徴がどのような成分根拠から現れるのかも知っておくことが望ましい。

 

今回の講義では、金型パーツごとに、強度不足により発生するトラブルと合わせて、鋼材に関する知識を学習した。

 

こうした知識は金型製作担当だけでなく、保全部門においても、発生した金型故障やトラブルが、強度不足によるものなのか、機構による問題なのか原因究明に役立つ知識となる。

 

また、営業・購買部門においても、金型強度とコストの関係を知ることができ、最適な金型の見積もりや調達を行うことにつながる。

 

  1. 金型製作で用いられる機械加工全般と使い分け

プレス金型製作で用いられる機械加工については主に、マシニング加工、ワイヤー放電加工、平面研磨加工、汎用加工(ラジアルボール盤、旋盤加工など)があり、これらを精度・コストに応じて正しく使い分ける必要がある。

 

金型製造部門はもちろんのこと、営業部門においては最適な金型の見積もり、また購買部門においても最適な金型外注仕入れコストなどを算定する根拠ともなり、全部門で知っておくべき知識と言える。

 

  1. 切削加工概論

主にエンドミル加工に焦点を当てた技術知識である。同社においては、ワイヤー放電加工が主力であるが、本講義により、同業他社の技術レベルを知る機会ともなり、内製する金型と外注から仕入れる金型、それぞれの標準単価を推し量るための基礎知識になる。

 

  1. 2 次元・3 次元 CAD/CAM 研修

同社の設計は2次元であるが、プレス金型業界全体では設計の3次元化が進んでいる。

 

今後、製品の企画提案から試作・金型製作・量産プレスといった一括受注を強化していこうとする同社においては、製品の見える化ができる3次元設計はまさに今後強みになる可能性がある。

 

今回の講義においては、3次元設計の3大メリット(解析・フィーチャー設計・コンカレントエンジニアリング)など、3次元CADの基礎や活用方法などを学習した。

 

  1. 金型製作における工程管理と原価計算

今回の講義では、金型原価積算と費目ごとのコストダウン指針について取り扱っている。

 

この内容については、まさに全部門の関係者が知っておくべきであり、永続的に企業が収益を上げていくための、技術面と並んで必要となる知識である。

 

コンサルティングの成果と今後の同社の戦略に向けた取り組み

今回の研修により、各部門が横断的に同じ水準の技術知識を習得する機会を得た。

 

親会社の三幸商事(株)については、鋼板商社ということで有利に材料を調達できる強みに加え、三幸プロダクツ(株)による金型内製機能と保全機能の強化というさらなる強みを武器として今後、企画提案型の需要を拡大していこうとしている。

 

技術者の底上げによる技術承継によって、新たな需要拡大を図る同社に筆者は大きな期待をしている。

 

株式会社 千石のコンサルティング事例(2018年8月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、株式会社千石(兵庫県加西市 TEL 0790-44-1021)の本社に所属する製造部 工作課である。

 

同社は、国内及びアジア地域をはじめとした幅広い生産拠点により、暖房機器・調理機器などの設計製造販売から、大手メーカーのOEM生産などの幅広い事業を行っている。

 

同社製品の加工で使われる板金用のプレス金型は、近年海外調達することが多くなっているが、同社は金型を内製できる体制を持っており、同社製品の設計開発と生産ツールである金型の設計製作を、同じ社内の一貫体制で製作できる点が同社の強みである。

 

製品設計と金型設計を同一社内で行えることのメリットとして、量産時の生産状況に配慮した製品設計が行える点がある。例えば、同社が販売する製品のデザインの一部において、プレス加工時に曲げる部位にトラブルが発生しやすい形状もあれば、そうでない形状もある。

 

製品設計と金型設計が別メーカーで分かれていれば、そういった生産現場の声が届かず、量産時に問題が発生したり、過度な全数検査によりオーバーコスト要因になったりもする。

 

その点、同社は一貫した開発体制を持つことにより、品質・コスト・リードタイム面で、バランスの良い製品を開発できる仕組みを構築している。

 

コンサルティング前の課題

こうした強みを持つ同社であるが、海外拠点の拡大に対しその技術拠点となる国内技術スタッフ強化は、必須の取り組みだと考えていた。

 

同社のプレス金型製造部門である工作課は、長きに渡り金型の設計製造を行ってきたが、従来からの製造方法にマンネリ化を感じており、また設計の3次元化など新たに取り組みたいこともいくつか考えていた。

 

そこで、コスト競争力強化のため同社をサポートしていた株式会社ジェムコ日本経営(本社 東京都中央区 TEL03-5565-4101)の技術コンサルティング部門であるニュービジネス開発事業部(大阪市北区梅田 TEL06-6344-8801)からの依頼で、筆者が同課のコンサルティングを行うこと になった。

 

本号では、これまで2年間のコンサルティングで行った、技術力強化・設計改善・金型標準化などに加え、特に新たな取り組みであった見積もり業務の改善について触れてみたい。

 

多くのプレス金型メーカーの抱える悩み

同課は、自社製品用の金型だけでなく、顧客メーカーに外販する金型製作を請け負う事業も行っている。

 

近年、同社に限らず金型の受発注においては事前見積もりが当たり前になっており、かかった費用を後から請求する後見積もりはほとんど見られなくなっている。

 

そこで金型を受注する前、プレス製品図を元に金型費を見積もりし、場合によっては同業他社との競合により受注を勝ち取ったうえでようやく金型を製作するという流れになる。

 

このため、多くの金型メーカーが煩雑な金型見積もりに悩まされている。取り扱う金型ボリュームによっても異なるが、週に何十件も見積もりをしなくてはいけない担当者もいる。

 

見積もり金額においては一定の精度が必要であり、企業収益のためには赤字受注にならない金額を見積もらなければならない。また過度に高い見積もりでは、競合他社とのコスト競争に負けてしまうといった事情もある。

 

また、過去の類似金型との金額に乖離があってもいけない。そうした乖離は継続的な顧客との信頼関係にも影響が出る。そこで計算した見積もり金額と過去の実績との入念な比較検査なども必要になる。

 

そもそも「金型の見積もり」とは、プレス製品からその生産ツールである金型になった状態を予測し、その金額を積算することを指す。

 

したがって、最も精度の良い「金型の見積もり」とは、完全に金型になった状態から、材料費・外注費・購入部品費・工賃などを合計した金額であり、逆に最も迅速な見積もりとは、プレス製品図だけの情報から金型状態を予測し、見積もり金額を出すことである。

図2 見積もり精度と要する時間の関係

 

コンサルティングの取り組み内容

同課の収益性を高める取り組みとして、金型受注額を増やせる体制を作るというテーマがあった。

そのための現状の課題として、機械稼働率にはまだ余力があったが、それを動かす「人」の稼働時間がオーバーワークにより不足しているという問題があった。

 

そこで、自社の量産工場から来る故障金型のメンテナンス頻度を減らす取り組みなども行ったが、この見積もり業務の改善もテーマとして取り組んだ一つである。

 

まず同課に対して金型の見積もりで用いられる手法を指導した。これは次に挙げる3つがある。

 

  1. 積算方式:材料費・外注費・購入部品費・工賃などを合計した金額。最も精度が高いが、金型のマンガ絵(ポンチ図とも言われる)などが必要になる。
  2. 類似比較方式:過去に製作した金型の中で類似したものに、違いの分を加算または減算して計算する方式。最も多く使われている。
  3. 統計計算方式:重回帰分析という統計手法による計算方法。プレス製品から読み取れる情報を変数として計算式を作る。最も迅速な見積もり手法になるが、精度を高めるには多くの金型サンプル数が必要になる。

 

同課の見積もり業務は、金型製造の中心的役割を担う作業者が担当しており、これが金型製造リードタイムにも影響していた。

 

そこで最も迅速な見積もり手法である統計計算方式の採用は必須であると考え、また同課のこれまで製作してきた金型事例は貴重な財産として、統計で用いるサンプルとなった。

 

重回帰分析による計算の変数には、例えば抜き型であれば、プレス製品の板厚・材質、ピアス穴径・数量、製品輪郭の周長などを使った。

 

これによる計算結果を、過去に製作した金型の製造コスト・受注金額と比較検証してみたところ、問題のない金額まで近い計算式を作れたものの、実務で使うには裏付けとなる根拠も欲しいところである。

 

そこで前述した1.と2.の積算方式と類似比較方式も合わせて盛り込んだ同課オリジナルのシステムを作成した。これには、EXCELの自動化に詳しい担当者の尽力があった。

 

製作したEXCELシステムにより、抜き型・曲げ型・順送型、それぞれにおいて、プレス製品図(順送型においてはストリップレイアウト図)からの情報を変数に入力することで、瞬時に金型見積もり金額が計算できるようになった。

 

また、その算出金額の裏付けとして、同じEXCELシステム内で並行して、過去の類似金型を検索し、類似率上位3型が表示され、その金額を参照することで、従来実績と乖離した見積もりを提出することがないような仕組みになっている。

 

さらに材料費においては、製品輪郭寸法や順送型であればストリップレイアウト図から金型寸法を計算し、金型で使用される鋼材サイズからの材料金額が表示される。これにより根拠のある積算式の材料費の見積もりを提示することができる。

 

今後の工作課の取り組み

今回、同課が構築した新たな見積もりシステムは、海外展開を進める企業全体で調達する金型コストの標準化にも貢献できる。

 

また同課の技術面にしても、より複雑な金型を低コストで製作するため、昨年から3次元設計を導入しすでに運用をはじめている。

 

従来のアナログ技術から、グローバルに共有化できるデジタル技術への転換を進めている同課に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

株式会社 スズキプレス金型のコンサルティング事例(2018年6月号掲載)

 

本号で紹介するプレス金型メーカーは、以前にも登場したことのあるスズキプレス金型である(愛知県愛西市 TEL0567-25-6900)。同社は、自動車のシート部品などの絞り型などを手掛けるプレス金型メーカーであり、創業から64年に渡る長い歴史がある。

 

同社が今取り組んでいること

同社は、昨年から金型構造設計の3次元化に取り組んでいる。それに伴い、以前から外注で対応していた解析業務の内製化にも取り組んでいる。

 

今回同社は、自社で使用する3次元CADとしてシマトロンを導入している。2名のオペレーターに導入教育を受けさせ、6ヶ月間の実習期間を経て、今年から徐々に設計実務での活用をはじめている。

図1 シマトロンを用いた金型設計の様子

 

同社が選定したシマトロンは、パラメトリックという機能に特徴を持つ3次元CADであり、その他プレス金型設計の省力化をサポートする様々な機能が搭載されている。

 

本号では同社の設計3次元化の導入事例をとりあげ、プレス金型メーカーが自社の金型製作に応じた3次元CADの選定について、どのような視点で選ぶべきかを見ていきたいと思う。

 

プレス金型設計で使われている3次元CADの種類

金型の構造設計に用いる3次元CADは大別して2つの種類がある。①ヒストリー型と②ノンヒストリー型と呼ばれる方式である。

 

ヒストリー型のCADは、パラメトリック方式とも呼ばれ、設計していく過程が履歴として記録される。

 

これにより、はじめは大雑把に設計し、徐々に履歴の中にある細部の寸法や位置を微調整していくという設計手法をとる。

 

これによるメリットは、まずはイメージから形にしていくといった迅速な設計ができ、モデルを作り終わった後でも自由に編集ができ、パーツや構造を微調整し、のちに使いまわすといったリピート設計にも寄与する点である。

 

プレス金型設計で使われている代表的なヒストリー型3次元CADとしては、CATIAやNX、SolidWorks、シマトロンなどがある。

一方、ノンヒストリー型は、ヒストリー型の逆のような機能を持ち、設計操作の履歴を持たない。そのため、部品のサイズや位置を後から寸法要素で動かす操作はせず、ダイレクトに寸法を直接指定しながら部品要素をモデリングする。

 

これにより、部品を構成する要素間の依存関係を意識することなく、自由な操作でサクサクとモデリングを進めることができる。

 

したがって、同じような形状を繰り返しリピート設計する金型よりも、新しい構造や形状の金型を新たに設計する際には、軽快に作業を進めることができる。

 

プレス金型メーカーによく用いられている代表的なノンヒストリー型3次元CADとして、VisiやSpeedyMILLnextなどがある。

 

同社は今回導入したシマトロンに先駆け、以前からVisiを使っていたが、主に現場で用いるCAMデータ作成用として使っていた。

 

プレス金型における3次元CADの選び方

3次元設計をはじめる際のハードルとして、細かく表現する必要のない箇所まで詳細にモデリングする必要があり、そのため作業負担が重たくなるということがよく指摘される。

 

例えば、構造部に配置される市販部品などが例に挙げられる。そこでまずは、市販部品などの標準部品を簡単に呼び出して配置ができるかが最低限求められる機能となる。

 

また最近では、部品配置を行うと共に、ザグリ穴やタップ、リーマ穴などの機械加工定義まで合わせて付与するフィーチャー設計を行うことも一般的な作業手順になっている。

 

前述した各3次元CADについては、ヒストリー型、ノンヒストリー型問わず、フィーチャー設計が出来るシステムがある。

 

ではどのような視点で、3次元CADを選ぶべきか、それは自社が製作する金型が、ヒストリー型、ノンヒストリー型、どちらの長所が活かせるかで判断すべきである。

 

例えば、金型を用いて量産する製品が大抵決まっており、寸法は微妙に変わるが形状は大きく変わらないといった場合、製作する金型の構造やレイアウトは大きく変わらないとする。

 

その場合、部品サイズや配置、数量などを編集していく作業がメインになる。こうした場合は、リピート設計に強いヒストリー型の3次元CADが強い。

 

逆に、全く新しい形状の製品の金型を設計する場合、例えば、以前は5工程で成形していたものが、3工程になったり7工程に増えたりといったように工程設計から変更がかかり、個々の金型構造も全く新しい構造になることがある。

 

こうした構造設計を行う場合、以前作った部品ユニットを流用したり、部品同士の位置関係の計算式を流用することはかえって手間がかかり、設計工数が増加してしまうことも考えられる。

 

そのため、自社で製作する金型について、新しいパターンの構造をイチから設計していくことが多いといった金型メーカーは、ノンヒストリー型の3次元CADの方が適していると考えられる。

 

同社は、自動車のシート部品の金型を主に製作しているが、強みである絞り加工技術を活かした類似形状の金型を製作していることが多い。

図2 同社の金型で作られた製品

 

これであれば、以前導入したノンヒストリー型のVisiよりも、ヒストリー型のシマトロンの方が同社には適しており、今回はスムースに設計での活用が進んでいると思われる。

 

同社のコンサルティング前の課題

このように設計の3次元化を進めている同社であるが、会社組織としてはかつての同社の主力であったベテラン技術者の高齢化が進み、企業の新陳代謝促進が急務となっている。

 

そもそも金型製造は、設計や機械加工、組み立て、トライといったいくつもの専門職から成り立っているが、それぞれの工程において一人前の技術を得るには通常何年もかかる。

 

とりわけ設計職においては、製造現場のノウハウも知らなければ、適正品質・コストでの金型設計ができないため、一般的には一通り現場の仕事を経験してから入ることが多い。

 

同社ではこれまで、このようなジョブローテーションの仕組みがなく、主に社員の入退社をきっかけとした不定期なタイミングでの業務異動が多かった。

 

コンサルティングの内容

そこで同社では、個々の技術者が長期な視点でキャリア計画を持てるようにするため、入社から10年後までに一通り経験する仕事、またその後、自ら希望する業務について申請できるなど、中長期のキャリアプラン制度ともいうべき仕組みを、筆者と共に考案した。

 

これにより、金型技術者として自分の長所を活かしたり、出来る限り希望する業務を担当することについて、今後は会社の制度・仕組みとしてフォローしていくことができる。

 

今後の同社の狙い

今年の春、同社では新たに高校生の新卒社員を採用し、さっそく新たなジョブローテーションの制度を活用して本人のポテンシャルを引き出すと共に、長期的な視点で現代的な金型技術者を目指してもらうスタートをきっている。

 

同社では今回のコンサルティングに加え、技術面などの評価制度も整備しており、ますます難易度が上がっている自動車部品に対応できる技術者の育成・底上げを図ると共に、企業の新陳代謝を図っている。

 

金型製造の3次元化により、これまでのベテラン技術(アナログ)とデジタル技術の融合を急速に進める同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

株式会社 建和【後編】のコンサルティング事例(2017年9月号掲載)

 

先月号に引き続き、プレスメーカーである株式会社 建和(愛知県安城市 TEL 0566-92-6295)が2年前から行っている金型製作内製化の取り組みについて紹介する。

 

同社の金型製作の特徴

金型製作を取り巻くツールは日々目覚ましい進化を続けており、同社はそうした最新設備や技術をどん欲に取り込み進めている点に特徴がある。具体的には、設計から機械加工、トライ業務といった全工程において、完全な3次元CAD/CAMの運用を実現しており、そのメリットを充分に活かしている。

 

3次元CAD/CAMを利用するメリットとして、①成形シュミレーションができる、②型構造設計時に機械加工情報を付与するフィーチャー設計ができる、③金型構造の強度計算が簡単にできる、などが挙げられる。

 

このうち同社は、自社設備であるサーボプレスと、最大20トンのダイクッションを利用した独自のプレス加工を確立するため、①の成形シュミレーション技術をうまく利用している。

 

同社の成形シュミレーション技術の特徴

同社が目指す、プレス工程最小化において、ダイクッションと成形シュミレーション技術はとても相性が良い。曲げや絞り加工の板押さえではコイルスプリングがよく使われるが、ダイクッションを利用することで、1トン単位で調整しながら、成形の挙動を色々と試すことができる。

 

中型や小型の製品を扱うことが多い同社のプレス製品において、できる限り絞り要素を減らし、曲げ加工に近い状態で成形することにこだわりがある。その結果、同社が設計する単発型は、「中パッド」と呼ばれる、成形品の外側ではなく、内側を高いクッション圧で押さえながら成形するといった構造が多い。

図1 中パッド構造の設計事例

 

その中で、スプリングバックをコントロールするため、市販書にも記載されている、①凹R部や凸R部を大きくしたり小さくするといった調整、②金型クリアランスを狭めてしごきを加える、などの金型形状による調整を行っている。

 

こうした金型形状やダイクッション圧の設定を何パターンも用意し、それを成形シュミレーションにかけ、その中から最良の結果が得られる設定を採用するという方法で行っている。特に同社のプレス製品は、440Mpaや590Mpaといったハイテン材が多いため、こうした金型設定の違いは、ブランク展開形状やスプリングバック量の違いとなって顕著に表れる。

 

同社で成形シュミレーション作業を行う代表取締役の山本道典氏は、こうした解析を多いものでは1製品で何十回と行うものもある。こうして繰り返すことで、成形中の板材の挙動を金型設定ごとに知ることができ、これは同社のノウハウとして蓄積していくことができる。

 

このように、さまざまな設定をいくつも試すことができるのが、成形シュミレーションの最も大きなメリットの一つである。これだけ多くの設定を、従来のように実際に金型を作って試すことは時間的にもコスト的にも不可能である。

 

同社の目指す方向性

こうした成形シュミレーション技術を最大限に使い、同社が今後目指していく方向性は、従来を超えるプレス工程の最小化である。これを山本社長は「1発金型」と呼び、サーボプレスと20トンのダイクッション機構を使った新たな金型構造を模索している。

 

これは、プレスメーカーにとって、金型内製化で得られる最も大きなメリットである。言い換えると、年々引き下げられる金型費に対する必要不可欠な取り組みとも言える。

 

ただし、完全な3次元システムの運用などは一朝一夕で実現するものではなく、例えば金型製作にかかわるスタッフのほとんどが3次元システムを扱えるスキルを持つ必要があり、覚悟と準備期間が必要になる。それをこの短期間で、初めて行う金型製作から実現しているあたりに、その強い覚悟がうかがえる。

 

コンサルティング前の課題

このように、自社独自のプレス工法の完成を目指し、成形シュミレーション技術をフル活用している同社であるが、それを実際の金型として設計していくには、機械加工での効率性や、必要な部品強度も考慮していく必要がある。

 

この点について、同社はノウハウが少なく、協力会社の金型メーカーから助言を受けたり、これまで使ってきた金型を教材としながら、試行錯誤によって対応してきた。

 

筆者のコンサルティング

そこで、筆者が現役の金型技術者であったときに、同社が扱うCADである同じVISIを使って設計を行っていたこともあり、同社で実際にCAD設計を行いながら、新しい金型構造の実現をサポートしている。

 

VISIは、オリジナルで作るマクロ機能が充実しており、同社の目指す金型製作の自動化には適したシステムである。VISIの中で「標準部品」と呼ばれるこの機能は、ACCESSデータベースとPythonというプログラム言語を利用して機能させている。

 

AIの運用も進めている山本社長にとって、こうしたIT技術を扱える技術スタッフを増やしていくことが今後必要だと考えている。基本情報技術者試験の国家資格も持っている山本社長の理想は、自社から一人でも多くのIT資格を持つ社員が表れてくれることである。

 

この点については、今後この製造業を取り巻くIT化に対応していくため、新たな教育制度や給与手当なども検討している。ちなみに、資格試験の学習に教育機関を利用する場合、ある程度費用もかかるが、教育訓練給付制度といった国の援助もあるので、こうした助成金制度は、特に中小企業はフルに活用したいところである。

 

筆者は中学生の頃からの趣味で、当時はポケットコンピューターのBASIC言語でプログラミングを行ってきたが、社会人になってからもその経験は大いに役に立っている。金型製作においては、NCプログラムやその中で使われるマクロ機能などでプログラム言語の理解力は役に立つし、VISIやFEATURECAMなど、APIが充実したCAD/CAMにおいては、オリジナルの機能を作ることもできる。

図2 ACCESSとpython言語で構成されるVISIのマクロ機能

 

今後ますますAIやIOTの利用が進むであろう金型分野も、そこで働くにあたり、必要となるスキルが変化していくことが考えられる。直接自分がそうしたシステムを構築することはないとしても、AIによって何ができるのか、そのロジックはどうなっているのかを知ることは、今後その技術の利用を考えるならば、必ず必要になる知識である。

そうした流れを考えると、山本社長の理想はまさに時流に沿った方向性と言える。

 

今後の同社の成長

金型製作を行うにあたっては、実際に金型を作るだけでなく、見積もり業務や、日程計画やその進捗管理など、さまざまな周辺業務もある。同社は、それらの業務まで含めた「自動化」を今後推進していく計画である。導入したソフトウェアや機械設備も、それが可能になるものを選定している。

 

同社の金型技術者は、日々金型を作るだけでなく、そのプロセスまで作っていくという意識が必要である。ITで何ができるのか、自動化とはコンピューターに何をさせるのかを考えることが重要である。

 

ITリテラシーと金型技術の両方を高めていくことで、未来の金型づくりに対応していこうとする同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

株式会社 建和【前編】のコンサルティング事例(2017年8月号掲載)

 

本号で紹介するプレスメーカーは、株式会社 建和(愛知県安城市 TEL 0566-92-6295)である。同社は、主に自動車部品のプレス量産加工を行っており、60tプレスから300tまでの単発・順送型いずれも対応しており、サーボプレスも有効に活用している。プレス板材についても、普通材からハイテンまで幅広く対応している。

 

同社の強みと事業上の課題

同社のプレス加工は、前述したように自動車部品分野において幅広い対応ができるなかで、特に安定した順送プレス加工に強みがある。この安定感により高い操業度・稼働率を生み出している。筆者も同社工場内に滞在しているときは、その途切れないプレス機械の稼働音に、生産の高い安定度を感じる。

 

こうした生産を行ううえで、金型品質はもちろん重要になってくるわけだが、同社にとって全く問題がなかったかといえば、そういうわけではない。

 

これは同社だけに限ったことではないが、総じてプレス単価が下落していることにより、その製品に用いる金型の製作費も下げざるを得なくなっている。言い方を変えれば、プレスメーカーとして、充分な金型費をかけられないということになる。

そのため例えば、本来強度的に必要な金型鋼材が使えなかったり、プレス成形精度に必要な工程と型数で製作できなかったりといった問題が起こる。

 

そうした影響を最も受けるのは、その金型を使う立場にあるプレスメーカーである。もちろん同社とて例外ではない。

 

事業上の課題に対する同社の取り組み

そこで同社は、これまで自社で経験のなかった金型設計と製作を自ら行うことを決意した。これには金型設計システムの進化や、補助金の活用などもその背景にある。

同社はこうしたプレスメーカーにとってのチャンスを見逃さず、新たな事業に打って出たのである。

 

同社の取り組みの特徴は、単に金型メーカーが従来行ってきた方法を後追いするのではなく、最新のソフトウェア・機械設備も活用したうえで、競争力のある金型製造技術を追求している点である。

 

具体的には、次の3つである。

  1. 徹底したシュミレーション技術の活用による自社独自のプレス工法の確立
  2. 3次元システムによるフィーチャー設計の活用
  3. システムのカスタマイズによる自動化の追及

 

これらの取り組みについて、具体的にみていく。

 

シュミレーション技術による独自プレス工法の確立

同社は、自社で金型設計を行うにあたり、3次元で設計することにこだわった。その理由として、成形シュミレーションとフィーチャー設計により、同業他社よりも金型製造リードタイムを縮めたいという狙いがあるためだ。

 

成形シュミレーションを活用する効果として、同社が狙っているのは、①プレス工程数を減らすこと、②トライ回数を1回で済ますこと、である。

 

プレス工程数を極限まで減らす試みについては、同社が保有するダイクッション圧・最大20トンのプレス機を、シュミレーション技術と合わせて活用することで、従来のプレス工程とは異なる新たな成形方法を考案している。この技術については、別の機会で改めて紹介させてもらいたい。

 

同社のシュミレーション業務については、代表取締役である山本道典氏が自ら行い、これまで調達してきた金型にはない新たな工法を日々模索している。

 

3次元システムによるフィーチャー設計の活用

3次元設計を行うにあたり、同社はCAD/CAMとしてVISIを使っている。このVISIの持つフィーチャー機能を活用し、設計工程以降のリードタイム短縮を狙っている。

写真 VISIを使った3次元設計事例

 

ここでいうフィーチャー設計とは、金型を3次元で設計する際に、加工情報まで合わせて定義していくことをいう。例えば、金型に締結のためのキャップボルトを配置すると、金型を構成するプレートごとに、ザグリやタップなどの加工が定義される。

 

これは従来の金型メーカーの工程である、金型の組図を設計担当が製図し、バラシ担当がプレート図面や部品図を作図し、それを現場に提供し、現場の機械担当者がプレート図面や部品図を見ながら加工データを作成するといった工程と比較すると、加工用の図面作成や加工データの作成工数を省くことが可能になる。

 

また、複雑な金型の2次元組図については、それを「読める」熟練者も昨今は減ってきている。その点、3次元設計された金型構造は、若手技術者も構造を把握しやすく、熟練者も忙しい時間の中、すぐに構造を把握できるメリットがある。

ただしこのメリットは、同じシステムで構成される社内プロセスでのみ活かされる。したがって外注製作する場合には、VISIの設計データに定義された加工データは展開できない。

 

そこで同社は、3次元設計した金型データから、外注用の加工図面の出力を自動化することで、対応を図っている。

 

こうした「自動化」こそが、同社が考える独自の金型製造システムの本当のキーワードになる。

 

システムのカスタマイズによる自動化の追及

同社は、スケジューラーソフトも導入しており、徹底してムダのない効率化した製造プロセスを模索している。

 

スケジューラーソフトについても、ここ最近多くのシステムが販売されているが、同社の選定指針は「オリジナルカスタマイズができること」であった。

 

この指針は、設計システムや現場設備であっても同様である。それは、同社が考える「他社よりも短いリードタイムの金型製造プロセスの構築」の次ステップが、「徹底した自動化」にあるためである。

 

多くの中小製造業では、少子化のあおりを受け、優秀な人材の確保が年々厳しくなっている。同社も人材確保の厳しさは例外ではない。そこで、今後益々厳しくなる状況に対し、山本社長が考えた道筋が、金型製造の徹底した「自動化」である。

 

同社が現在進めている3次元システムを最大限利用した金型製造プロセスは、将来の「自動化」のための前準備である。

 

筆者のコンサルティング

このように同社は、昨今の設計システムの進化や補助金の活用といった、プレスメーカーにとってのチャンスを最大限利用し、自社に大きな変革を起こそうとしている。

 

ただし、他の金型メーカーと比較して、やはりあくまでも新規参入企業であり、当然、金型製作については、積み上げてきた歴史というものがない。

 

そこで筆者は、同社が考える中長期の新たな事業構想に対し、23年のプレス金型や機械加工の経験をもとに、金型メーカーや機械加工メーカーが積み重ねてきた成功や失敗を踏まえ、きちんと「地に足の着いた」イノベーションを実現させるべくサポートを行っている。

 

まずは同社における川上工程の、シュミレーション→フィーチャー設計→社内・外注への最適展開、といった流れにおいては、他社に負けないリードタイムの体制を確立させることができた。

 

次は、設計システムのさらなる自動化や、川下工程である機械加工の技術力UPと自動化といった技術テーマに取り組んでいく計画である。

 

今後の同社の取り組み

今後同社は、本格的な金型製造における自動化に向け、ロボット導入のための補助金なども活用しながら、着々と進めていく構想である。

 

従来のプレスメーカーが抱える事業課題の解決を図り、自社独自のプレス技術を見据えながら、中小製造業全体が抱える問題にも「自動化」という答えで解決させようとしている同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

株式会社 瑞木製作所のコンサルティング事例(2017年6月号掲載)

 

本号で紹介する機械加工メーカーは、フライス加工や旋盤加工などの機械加工を主力事業とする株式会社瑞木製作所である(愛知県尾張旭市 TEL 052-771-8410)。

 

同社は、航空宇宙産業分野で高い実績を誇っており、扱っている加工部品のほとんどは、チタン合金やインコネルといったいわゆる難加工材である。その技術力の高さから平成19年には経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業にも認定されている。

写真1 同社に飾られているサンプル加工品とコンテスト等の受賞実績

 

同社の技術者育成の特徴

昨年、同社が使用している3次元CAD/CAMの技術者教育のため、研修講師を担当させていただいた。

 

通常、3次元CAD/CAMの技術者教育は、販売ベンダやそれを専門とする事業者を活用する企業も多いなか、個々の応用力を伸ばし自ら考える能力を養っていくといった、同社の育成方針に沿いつつ、3次元CAD/CAMを習得するということから、CAD/CAMや切削加工分野を専門とした中小企業診断士である筆者に声がかけられた。

 

今回の支援の特徴

今回、面白い取り組みがあるので紹介したい。3次元CAD/CAMシステムを5・6名でシェアして活用していく点である。

 

筆者がこれまで見てきた多くの製造現場では、3次元CAD/CAMはユーザーインターフェースが進化し使いやすさは向上したとはいえ、依然その専門性は高く、多くの金型メーカーや加工メーカーでは、専任のオペレーターが担当していることが圧倒的に多い。

 

しかし同社は今回、5名の機械オペレーターに研修を受講させ、同社が保有する2台の3次元CAD/CAMを、5人全員が利用できるようにと考えた。

 

同社が普段加工している製品形状には非常に多くの種類があり、その加工方法においては、手動による汎用加工、工作機械の対話式プログラム、2次元CAD/CAMの利用、そして3次元CAD/CAMを利用した方がよい場合など、効率性、加工精度・品質を考慮するとそれぞれに適したツールがある。

 

今後、加工を行う各作業者が、同社にある全てのツールを活用できるようになれば、多くの加工品を多能工化でき、機械稼働率を高めることができる。

また、担当する作業者に依存することなく、同社にとって最適なコスト・加工品質で、ものづくりを行う体制がより強化することになる。

 

研修の具体的内容

今回の研修を行う前、3次元データ作成作業は、限定された担当者に負荷が集中しており、そういった加工品が集中したときには、工程にボトルネックが発生していた。

 

そこで、その解決を図るべく、同社の鈴木会長の号令の元、この研修が開始された。

 

今回の研修にあたっては、これもぜひ読者企業の皆さんに参考にしていただきたい点がある。5名の受講者がそれぞれ決意表明として、特に取り組みたい点・どのような加工で活用したいかなど、一人ひとり研修開始時に発表していただいた。

 

これも鈴木会長の計らいであり、講師としては一人ひとりの現状スキルや取り組み姿勢などを知る良い機会となり、大変ありがたかった。各受講者としても、自分の力量・取り組み方を整理する良い機会ではなかったか。

 

研修に使用した3次元CAD/CAMは、オートデスク社のHSMワークスである。

 

普段、3次元CAD/CAMにhyperMILLを使用している筆者は、事前にHSMワークスの機能・操作を調査し準備したのだが、このソフトウェアは同社の加工にとって、また今回の研修にとっても、非常に適したシステムだと感じた。

 

まず加工に適した点だが、同社の事業である航空宇宙産業分野における加工品には、多くの薄肉加工部位が多い特徴がある。

 

これまで金型製作を主に加工をおこなってきた筆者にとって、例えば、高硬度材を切削する技術とは異なる、非常に繊細で、段取りから工具選定、切削手順まで幅広いテクニックを要する加工技術だと強く感じた。

 

筆者の経験上、こうした繊細で複雑な加工を行う場合、使用するCAMシステムには、工具の切削軌跡を調整するパラメーターが多ければ多いほど助かる。

 

特に、3次元CAMにおけるデータ作成の場合、その切削軌跡はコンピューターに委ねる部分が多いため、あまり人間の手で細かな調整を行うことは少ない。

 

こうした操作性はユーザーにとって、運用できるまでの時間を短縮させ、誰でも簡単にデータ作成がしやすくなった効果をもたらした点はあるが、加工面にわずかなにできるアプローチ痕の除去や、切削軌跡の違いによる美観の向上、局所的な加工負荷の抑制など、部分的に、人間のノウハウを入れ込みたい加工があっても、それができるソフトとそうでないソフトが存在する。

 

同社が使用しているHSMワークスは、こうした細かな調整が可能で、それが荒取りから仕上げ加工まで細かなパラメーターが用意されており、同社の繊細な加工の調整に応えることのできるソフトウェアであった。

 

また、今回の研修にも適していると感じた点として、このHSMワークスのように多くのパラメーターは逆にデメリットとして、ユーザビリティを低下させる一因となることも多い。

 

しかしながら、HSMワークスの場合は、デフォルト設定される各パラメーター値は、事前に登録されている固定値ではなく、都度、工具や条件に合わせた数値に自動計算され、特に必要がなければ、そのまま入力・編集しなくても支障ないように作られている。

 

前述したように、同社の技術者育成の方針は、応用性・創造性を養い伸ばす方針であり、これはまさに、オペレーターそれぞれの扱い方に応える適正なCAMである。

 

とかくCAMシステムに切削軌跡の作成を依存しがちな3次元CAMにおいて、自分のこだわりたい部分にこだわってデータ作成ができるシステムだということである。

 

このような研修方針において筆者は、HSMワークスがアドオンされているSolidWoksを用いた3次元モデリング研修、HSMワークスによるCAMデータ作成研修の最中、3D加工のセオリーや工具選定指針などの講義も織り交ぜながら、それぞれを計8回で行い、最後は各自、自由に題材を決め、実際にマシニングを使って加工を行うという演習までを行い、昨年の研修は終了した。

写真2 研修課題のモデリングとCAMデータ作成を行っている様子

 

支援の効果と今後の同社の取り組み

前述したように、同社が扱う加工品のほとんどは、チタン合金やインコネルといった耐熱合金であり、こうした素材の切削加工は、単にロックウェル硬度が高いから加工条件をどうするといった対処だけでは済まない。

 

「ねばい」ということでその切削抵抗は上がり、素材の熱伝導性から切削点や素材にこもる熱も考慮しなくてはいけない。

 

こうした特殊な切削性に対応していくためには、金属・非鉄金属に対する正しい知識や、切削メカニズム、工作機械などに関する幅広い知識が必要になる。

 

筆者は、今年度も新たなメンバーと研修プログラムで構成される講師を担当させていただくにあたり、単にCAD/CAMの操作だけではなく、包括的に同社の技術者の底上げにつながるサポートをしたいと考えている。

 

高度な成長分野を支える同社において、その基盤となる技術者を、独自の方針で育成を図り、また自社の持つ加工ツールを最大限に活かし、最善の効率化・高品質化を図る同社に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

ユーアイ精機株式会社のコンサルティング事例(2017年3月号掲載)

 

本号で取り上げる金型メーカーは、本連載にて最初(第2回目)にご登場いただいたユーアイ精機株式会社(愛知県尾張旭市 TEL0561-53-7159)である。

 

これまで同社は、高い職人技術で、金型製作から試作板金、部品加工まで幅広く手がけてきたが、今後はその職人技術の継承を確実に行っていくため、応用力を持つエンジニアを採用し育てていかなくてはならない必要性を感じている。

 

そこで筆者は、昨年の新卒者である守山竜平氏、ベトナム研修生であるグエン・ヴァン・ビン氏、チュオン・タイン・トゥン氏の3名の教育の機会を通じて、同社の教育カリキュラムを構築するお手伝いをした。

写真1 ベトナム研修生にSolidworksを指導する様子

今回、この取り組みを紹介するので、ぜひ参考にしていただきたい。

 

中小企業が活用できる支援制度

今回の支援においては一部、国や県の専門家派遣制度を利用している。この制度は、筆者のような中小企業診断士や他の士業など、色々な方面の専門家が国や県の機関から派遣され、その費用は国や県が支払ってくれるというもの。

 

これは、中小企業を支援するための制度なので、何か相談したいことや、同社のように何か取り組みたいテーマがあれば、ぜひ活用してみると良い。

 

筆者は拠点とする愛知県や、ミラサポといった中小企業庁の専門家派遣制度に登録しており、遠方の県外企業から申請をいただくこともある。こうした制度は、取引金融機関や地元商工会議所から詳しい情報を聞くことができる。

 

最近の金型業界の人材の課題

さて、金型業界や機械加工業では今、多能工や応用力のある若手人材が減っている。この点について筆者は、採用後のスタート教育が原因だと考えている。

 

例えば、多くの金型メーカーにて新規採用者は、設備償却費が高く、なるべく稼働率を高めたいマシニングセンターや、工具を選ぶ作業がなく、また年々操作が優しくなっているワイヤー放電加工機の担当者になることが多い。

 

そこではまた、早期に機械稼動率を高めるため、手順ありきの教育になってしまう場合が多い。こうした教育は、いかにその「手順」を早く多く覚えるかといったものになり、暗記的な意味合いが強くなる。学生時代の勉強のやり方の延長に近い。また、こうした定型的な勉強は今の若手は得意だ。

 

しかし、こうした仕事のままでは、本人の付加価値の上がる要素が少なく、本人にとっても会社にとっても不幸になりかねない。

 

技術者の付加価値とは

仕事でも勉強でも、単語(手順)をたくさん覚えることが重要なのではなく、覚えた知識をどう活かすかを考えられる能力を持つことが重要である。

 

それこそ、今は細かな知識を覚えていなくても、インターネットで簡単に調べられる時代であり、ちょっとした調べモノは、本で調べたり先輩・上司に質問しなくても、インターネットですぐに情報が手に入る。

 

だからこそ、技術者として、本当の価値の出し方が問われる時代になった。多くの経験をしてきたベテランも、それだけでは部下や後輩に尊敬してもらえる時代ではなくなった。知識だけでもいけない。知識と技能、両方を合わせ持った技術者が価値を持つ時代である。

 

また、かつては多く存在した勘コツの優れた技術者も、高齢化に伴い減少している。勘コツの基礎となるような、あれこれ試せる時間や予算の余裕が無くなったことも原因だ。このような時代だからこそ、きちんと根拠や理由から説明できる教育が必要である。

 

そうした事態になっていることを、水野社長は気づき、いつか自社の強みを継承していくエンジニアが減ってしまうことを危惧している。

 

そこで計画的に、金型エンジニアを育成していける自社なりの教育カリキュラムを作るため、筆者に声をかけたというわけである。

 

金型メーカー・機械加工業の人材教育方法

筆者は、金型メーカーや機械加工メーカーの教育のあり方について、3つで整理している。それは①知識、②技能、③手順の3つであり、これらは、それぞれ教育方法が異なるため、扱いに注意を要する。

 

①の「知識」は、③の「手順」と明確に扱いを分けることが重要で、「知識」は、「手順」のように作業の順番ではなく、加工技術の理屈についてしっかりと教える必要がある。

 

例えば、マシニング作業において、エンドミルの刃数の意義とそれをどう使い分けるのかなどが「知識」にあたる。ミーリングチャックへのエンドミルの取り付け方やその注意点などは、「手順」にあたる。

 

また②の「技能」は、手順を知ったとして急に出来るものではない作業を指す。いわゆる経験が必要になる技術で、例えば、マシニング作業においては、平行出しや基準位置決め、ドリル研ぎなどの作業が該当する。

 

ただし「知識」にあたる、正しい道具の使い方や操作方法など指導を受けなければ、自己流として間違った方法で覚えてしまう場合もある。「技能」を効果的に習得するコツは、正しい「知識」を覚えた後、いかに「反復効果」を効かせた練習ができるかに尽きる。

 

よく、この技能を覚えるには5年かかるとか、10年かかるといった比喩を聞くが、こと金型製作の技能においては、その限りではないと考えている。

 

結局、通常業務の中で習得していこうとすると、覚えようとする技能について、反復効果が表れるほど繰り返し実施する機会に恵まれず、5年や10年以上、会社で仕事をしていると、ようやく習得できるくらいその技能に触れる機会が出てくるという話であって、意図的に反復効果の効く練習方法をとれば、もっと効率的に習得することは充分に可能である。

 

こうしたトレーニングに有効なのが、昔、学校の勉強で使った「ドリル」である。ゴルフの練習でも、よくこの表現が使われる。ある体の動きを短期間で強制的に体に覚え込ませたいときに使われるトレーニングで、「この動きをこの順番で続けて行えば頭や体に覚えさせることができる」といったトレーニング方法を、作業ごとに作ることが有効である。

 

このようなポイントを押さえながら、今回、同社では、①CADの操作、②板金展開、③金型部品の作図、④SolidWorksを使った3次元モデリングなどの項目について、3名の教育を実施した。

 

今回の取り組みをきっかけに、今後同社の技術者が習得していくべき技術について、①知識、②技能、③手順の切り口に分け、教育カリキュラムを作っていくことができる。

 

今後の同社の取り組み

同社は、高い応用力を持つ金型エンジニアを増やしてくため、採用活動を強化している。多くの中小製造業で課題になっている人材の定着については、同社も重く受け止め、性別や年齢層を超えた、一体感のある社内の雰囲気づくりを心がけている。

 

昨今の短納期化・低コスト化により、殺伐とした雰囲気になりかけている金型業界であるが、それを払拭するべく、同社では水野社長を中心として、若者からベテランまで満足して働きやすい職場を作る取り組みを日々実践している。

 

その水野社長については、企業の新たな付加価値創出のため、継続した技術開発に余念がない。

写真2 韓国セチャン社と共同受賞した自動車向けマグネシウム合金ファン

写真は「平成28年度 名古屋市工業技術グランプリ」で「公益財団法人名古屋産業振興公社 奨励賞」を受賞したもの

 

国境を越えた金型エンジニア育成に意欲を燃やす同社の未来に、筆者は大きな期待をしている。

 

 

有限会社ヤマヤス工業のコンサルティング事例【前編】(2017年1月号掲載)

 

本号で紹介する機械加工メーカーは、有限会社ヤマヤス工業である(愛知県稲沢市 TEL 0587-32-3587)。同社は、プリント基板への微細穴あけ加工の事業において40年の歴史があり、その専門技術の高さにより、これまで安定した事業を行なってきた。しかしこの分野においては、レーザー加工技術の進化によってその加工方法は変化しており、同社を取り巻く事業構造も変化している。

そこで同社は、これまでに培ってきた微細加工技術を活かし、新たな事業分野を拡充しようとしている。

本号では、そういった同社の活動を取りあげ、特に商流が固定されていると言われる、筆者の活動拠点であるここ中部地方において、新事業を開拓していく一つのあり方を見ていこうと思う。

 

コンサル前に抱えていた課題

同社は、既存技術である微細穴あけ技術を活かした新事業展開を模索していたが、具体的にどのようなアクションをとればよいのかわからなかった。というのも、既存事業においては主要取引先がすでに決まっており、新規取引先を開拓するような営業の必要はなかったためである。

また、新規事業とはいえ、新たに売り物となる製品や加工技術が無ければ、営業をかけることもできない。そこで筆者と共に、新たに柱となる加工技術を導入するところからはじめることとなった。

 

コンサル後に得た成果

プリント基板の微細穴あけ加工で用いる要素技術をブレークダウンすると、工具の振れ精度など精密な段取り技術や、加工素材を複数重ね、バリを発生させずに加工するノウハウ、また毎日万を越えて加工する極小穴の品質管理技術などがある。

 

一方、金属加工の分野においても、微細加工や従来以上に高まる品質管理技術の需要が益々高まっていることはよく知られている。そこで同社は、強みである微細加工技術を、金属加工分野で効率よく行なうために、5軸マシニングセンター(以下、「5軸MC」)とそこで用いるCAD/CAMを合わせて導入し、金属加工分野への参入を果たした。

写真1 導入した5軸MCを操作している様子

 

今後、すでに成熟されているこの市場において、新たな顧客を開拓していくためには、汎用的にさまざまな加工に対応できる知識と技術が必要になる。そのため、切削加工だけではなく、他の加工方法も含めた周辺知識も必要となるが、その点について筆者と取り組んだ活動については、次号にて詳しく紹介する。

 

さて、中部地方で活発な自動車部品加工におけるサプライチェーンにおいて、昨今、特に価格競争は熾烈を極め、金属加工を営む中小サプライヤーは「短納期」と「ワンストップ対応」を強みとし、受注合戦を繰り広げている。この競争の中にどう参戦していくのか、今後同社が判断していくことの一つであるが、どのような業種においても、ビジネスを優位に行なっていくために必要なことは、「参入障壁」の高さである。

 

参入障壁とは、まさに文字通り、企業が異なる事業分野や市場に新規参入する際、ハードルとなる壁である。これが高ければ高いほど、自分の事業領域への他社からの参入を防ぎ、仕事を獲られることは少なくなるというわけである。

例えば、スケールメリットを必要とする・既存製品が差別化されている・巨額の投資が必要になる・流通ルートが決まっている・許認可が必要で参入制限があるといった理由から、新規企業の参入が妨げられるといった例がある。

 

金属加工の分野においては、独自性の高い製造技術やプロセス、管理技術を必要とするような製品を扱うことで、ライバル企業を減らしていくことができる。また、金属加工においては、高性能なソフトウェアや機械設備を導入すれば、良い製品が自動的に出来るということはなく、「経験曲線効果」と呼ばれる、永く蓄積された実績に伴って高くなる参入障壁もある。

 

同社が5軸MCに期待するもの

同社における新事業の担当者は、もちろん金属加工についてスタートラインについたばかりである。しかし筆者の経験上、精度の高い5軸MCを使うことで、次のような効果が期待でき、そのハンデを補うことができると考えている。

  1. 多面加工を行なう際、基準位置と直角精度を楽に確保できる。
  2. クランプが困難な、異形の形状の溶接製缶品や鋳造素材であっても、3軸マシニングよりも楽にクランプできる。
  3. 多面加工であっても、少ない段取り替えで加工できるため、加工工程を検討しやすい。

 

これらの例に挙げたようなメリットを活かすことで、3軸加工で行なう場合に必要となる職人技術の習得時間を、短縮できる効果がある。最近の傾向として、加工そのものについてはCAMの機能が向上したことで、オペレーターの技能によらず、ある程度の加工生産性は確保できる時代になった。

しかし、ワークの段取り方法や加工工程の検討は、CAMの機能に関係なく、個人差も発生し、いまだに属人的な要素の強い職人的な作業である。

 

展示会などで披露される、インペラ加工に代表されるような同時5軸加工は、従来技術と比較して、派手さがあり高度な加工である。しかし金属加工分野で行なわれている日常的な部品加工においては、割り出し5軸で行なうような多面加工を、3軸加工で行なっているケースが圧倒的に多い。こうした加工は、工程の順序やバイス・治具をいかに活用するかといったノウハウが必要になり、こうした場面でこそ5軸MCが効果を発揮する。

 

また、CAD/CAMは筆者も使っているhyperMILLを導入した。以前にも書いたが、このソフトは同時5軸加工で評価が高いが、金型の自由曲面の加工だけでなく、2次元加工を含む部品加工にも使いやすい汎用的な3次元CAD/CAMである。この点については、まさに今後の同社の事業展開にも適している。

 

こうした設備導入を行なった同社は、次号で詳しく紹介する企業連携により、さっそくプレス金型の設計と機械加工、航空機部品の5軸加工に着手している。

写真2 hyperMILLでプレス金型を設計している様子

これらの仕事は、穴加工やポケット・輪郭加工などの2次元加工、金型意匠面の3次元自由曲面の切削加工、アルミ合金素材への同時5軸加工を、一つのCAD/CAMで行なうため、まさに汎用3次元CAD/CAMの利便性が発揮されるところである。

 

今後の同社の展開

こうして同社は、新規に営業をかけていくための基盤技術を得るスタートをきったわけだが、まだその課題は山のようにある。金属加工業界の同業他社に対し後発となる同社は、その課題を早期に解決していくため、①パートナー企業との事業連携、②OFF-JTの活用、③産学連携による共同研究の3つの活動に着手している。

特に企業連携については、筆者のクライアント企業などのネットワークを活用して、人材育成と販路開拓の両面を行なっている。連携企業同士がWinWinとなることで、お互いにメリットを得たり、企業の成長につながることを狙っている。

それら3つの活動の詳細については、引き続き、次号で詳しく述べたい。新たな事業分野への開拓に意欲を燃やす同社に大きな期待をしている。

 

 

株式会社ハイレックスコーポレーションのコンサルティング事例(2016年10月号掲載)

 

本号では以前、ご登場いただいた株式会社ハイレックスコーポレーション三田西工場(兵庫県三田市 TEL079-568-2480)の金型課におけるコンサルティング事例の続きとして、特にマシニング加工の改善について取り上げる。

 

近年、CAD/CAMシステムの進化によって、機械オペレーターに習熟度のバラツキがあっても、その影響をなくして加工を行うことができる。筆者も現役の加工者だった頃は、CAMオペレーター専任として複数の機械オペレーター向けにNCプログラムを作成・提供していたことがあるが、ベテラン・若手、気にすることなくプログラム作成できたことは非常に便利だと感じた。

 

しかし、このソフトウェアの進化によって、多くの金型メーカーで将来性に関わる問題が発生している。例えば、機械オペレーターにおいては、加工技術を知らないまま、段取りだけを行う「段取りマン」にとどまってしまう、また設計者においては、過去に自社で取り扱った図面を元に、修正・編集ベースでしか設計できないといった応用力の乏しい技術者が増えている。

また、そうした技術者が年齢的に中間管理職になっていることもあり、次の若手技術者に根本的な技術の視点でOJTを行うことができていない。例えば、「なぜそうなるのか?」「なぜこの方法で行うのか?」といった質問に対し、「昔からウチはこうやっているから」といった曖昧な回答をしていることも多い。

こうなるともはや、ものづくりの手段としては、場当たり的に暗記的に覚えた対応しかできなくなり、応用力が問われたり、トラブルシューティングを行う場合、対応ができなくなる。実際こうした製造現場が増えている。

本号では、こうした点への対応についても触れているので、ぜひ参考にしてほしい。

 

同社の機械加工の強み

以前、射出成形金型を扱う同課の金型製造の特徴として、①完全な3次元設計を実現、②機械加工はCAM担当者と機械オペレーターの完全分業化を実現している点などを紹介した(写真1)。

写真1 同課のCAM作業風景

これについては、人的ミスや忘れなど、手戻りロスなどが削減でき、効率的な金型製造が可能になる反面、製造工数を冗長化させるリスクもあった。

そこで同社は、さらなる製造コスト削減に着手するため、最も工数のウェイトが高い機械加工、特にマシニング加工に注力した改善に着手した(写真2)。

写真2 マシニングの技術改善の様子(担当の梶村氏と筆者)

 

同社のマシニング加工の課題

CAM担当者と機械オペレーターが分業することにより、複数の機械オペレーターに習熟度の違いがあっても、加工品質がバラつかないメリットがある。しかし、部品の種類によっては、手動操作で加工できるシンプルな形状の場合、CAMによるデータ作成に加え、CAM担当者と機械オペレーターとの意思疎通を行うための加工指示書の作成まで行うことで過剰な工数が発生する。

また、機械オペレーターは「段取りマン」になりやすく、長期的に見た場合、スキル向上の機会を得ることが難しい。同課は、新規型の製作・量産型の修理のため、高い負荷が慢性的に続いており、個々のスキル向上になかなか対応できない状況である。

 

課題解決への方向性

そこで、マシニング加工を行う部品について、加工部位に要求される面粗さごとに、次の改善を図ることとした。

 

  • 面粗さ▽の部位

荒取り工具だけで完了させる。もし加工面粗さが原因のクラック発生が懸念されるならば、リューダで手仕上げする。Gコードプログラムを使わない直線的な部位は、手動操作(ジョグ送り)の加工で終わらせる。また、CAMデータ加工で使う工具は、必ずしも手動加工でも使いやすいとは言えないため、ラフィングエンドミルなど、別の工具に使い分ける。

 

  • 面粗さ▽▽の部位

荒取りの加工条件よりも、むしろ仕上げ加工の送り条件をUPさせる。工具カタログに記載してある推奨条件は、過酷な条件となる荒取り加工の条件をセールスポイントとして記載してあることが多い。逆に、荒取りほど負荷のかからない仕上げの加工条件は、加工者固有のスキルによるところが大きい。部位にもよるが、金型構造部の▽▽の面ならばRz値12.5~25zレベルでもよいため、理論面粗さ値の計算式から、許容される送り速度を計算し、できるだけ送り条件をUPさせる。

 

  • 面粗さ▽▽▽の部位

設計面からも見直し、本当に▽▽▽レベルが必要なのかを検証する。例えば、放電加工は▽▽か▽▽▽レベルの面粗さが得られるため、オペレーターのスキルには影響されないが、部品用途によっては過剰品質になる。

また、社内で部品図面を作図する金型メーカーに多いのが、図面によっては、寸法公差・面粗さを省略している場合、加工現場では過剰な品質で加工されていることもある。

 

デジタル加工からアナログにすることで、まだ工数の削減はできる

同課の設計図面は、製図スキルの観点からも高度に書けており、一見すでに改善の余地はないように見える。しかしもう一歩、設計者が加工ノウハウに踏み込むことで、手動操作の加工に都合の良い部品構造にすることもできる。この点については、設計・CAM・マシニング、各担当が分業化されており、その間に隔たりがあることが弊害であった。

 

例えば、金型をクランプするための溝を肩削りで行うような手動加工であれば、その部品図面に記載する寸法は、基準位置からの累進寸法よりも、端面からの幅寸法の方が、電卓を打つ手間が省けミスの可能性を減らせる。

こうした体制を作るためには、設計者が加工を知らないとできないため、これは設計者としての「伸びしろ」になる。また、多能工やオールラウンドプレーヤーが多い金型メーカーと、そうでない分業制のメーカーでは、こうした点で製造コストに差が出やすい。

 

今後の同社の取り組み

今後の同課の取り組みとして、短期的にはさらなる製造コストの削減、中長期的にはベテランから若手への技術継承がある。ただし前述したように、技術継承においては、多くの金型メーカーでは、「作業手順の引継ぎ」にとどまってしまうことが多く、製造現場の技術力低下を招いている。

技術スキルの習得については、まさに「ローマは一日にして成らず」の言葉どおり、コツコツ続けていき、気づけば高度に習得できていたというものも多い。ところが多くの金型メーカーでは、短納期対応に追われ、着実な技術習得に取り組む時間が取れないのが実情である。

 

同課の、課としての金型技術としては高度に確立している。また、最新の切削工具の採用なども積極的に行っており、効果の高い改善を高頻度で行っている。今後は、技術者としての「個」の技術を高めていくことで、「社」としての金型技術を高度化させることができる。そのためには、技術者の直属の上司のマネジメント能力を高めることで、高度な技術者を計画的に育成し、将来にわたってコスト競争力を高めていく同課に、筆者はさらなる期待をしている。