もう一歩強い抜きパンチを作る方法について
丸や四角といった、単純形状ではなく、下図のように、ワイヤーカットで製作するような異形状の抜きパンチを使ってプレス抜きを行う場合、よく折れてしまう。
これは強度的に大丈夫なのか、対策はどうしたら良いのか、といった相談を、よく受けることがよくあります。

さて、こういったパンチの座屈強度、バッキングプレートの必要強度の計算などは、別の機会にするとして、パンチの材質、形状の変更以外に、あと何が対策として打てるでしょうか。
確かな実験データはないのですが、ワイヤーカットで材料から切り出す場合、素材ブロックから取る方向を変えてみるという対策もあります。
下の図を見てください。

日原 政彦 (監修), 型技術協会型寿命向上研究委員会 (編集), 安齋 正博 著 (2009/3)「金型高品質化のための表面改質」より
材料の方向を、L方向、W方向、T方向と呼ぶとすると、L方向、ここでは「鍛造方向」となっておりますが、金型メーカーで馴染みのある言葉でいうと、「圧延方向」といった方がわかりやすいでしょうか。
この図の左下の「特性」に書かれているように、折れにくさ(靭性)、耐摩耗性(強さ)は、L方向からとった方が強い、とあります。
ただし、注意点もあります。熱処理変寸および、放電ムラは、L方向が最も劣る、とありますので、パンチの作る手順には、注意を払う必要があるかもしれません。
これまでのT方向からとっていた場合よりも、熱処理変寸、放電加工後の変形が起こるかもしれません。
プレス抜きではありませんが、文献によると、この切り出し方向を変更することで、金型寿命が伸びたとされる実験データもあるようです。
私が知っているメーカーさんでも、実際にこの方法を使っているところもありました。
しかし、技術者の方はおわかりかと思いますが、ちょっと面倒ですよね。
さらに、今では当たり前のように使われるコーティングについても、もう一歩進めてみましょう。
下のグラフを見てください。
日原 政彦 (監修), 型技術協会型寿命向上研究委員会 (編集), 安齋 正博 著 (2009/3)「金型高品質化のための表面改質」より
このように、PVDコーティングのみの場合と、下地処理として、窒化処理を行った場合とでは、密着性が変わってきます。
素地である母材と、コーティング層には、硬度差があり、それが密着性の阻害要因になる場合があるとのこと。
その間に窒化処理を行う、つまり、母材の金型材に窒化処理を行い、そのうえにPVDコーティングを行うことで、中間層としての窒化組織が、密着性を高める効果があるようです。
さらに、新しい窒化処理の方法である、ラジカル窒化を行うことで、従来のガス窒化やプラズマ窒化などと比較して、より高い密着性を得ることができます。
下のグラフでは、粉末ハイス(HAP40)を使った抜きパンチによる、プレス抜きの耐久性実験の結果です。

日原 政彦 (監修), 型技術協会型寿命向上研究委員会 (編集), 安齋 正博 著 (2009/3)「金型高品質化のための表面改質」より
このように、ラジカル窒化による、コーティングの下地処理は、プレス抜きのパンチに使っても、効果を発揮しているようです。
ここまで見てきたように、どうしても折れてしまう抜きパンチやその他の金型部品、もう打つ手がないと思っているメーカー様は、もう「ひとあがき」の手段として、参考にされてはいかがでしょうか。
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参考文献
日原 政彦 (監修), 型技術協会型寿命向上研究委員会 (編集), 安齋 正博 著 (2009/3)「金型高品質化のための表面改質」日刊工業新聞社