部下のワクワク受け止めていますか
若手社員の退職とその背景
先日ある製造業にて、20代半ばの若手社員さんが退職しました。
会社としてはかなり将来を期待していたので、とても残念だったと思います。
ここから今回のテーマ「部下のワクワク受け止めていますか」に触れていきたいと思います。
この社員さんはこの会社では現場のハンドワーク作業がメインのお仕事でした。今時の若者として少し珍しかったのは、趣味でフリーのCADソフトを触るくらい、ものづくりとパソコンが好きだったようです。
EXCELマクロへの興味
さて、彼が入社してから何年かが経った時、彼はEXCELマクロに興味を持ったようで、趣味で色々な計算の仕組みを持ったEXCEL表を作り、私にも色々と作った仕組みのことを話してくれました。
また、何か実務で使うネタはないかとの相談も受けました。
彼はハンドワーク作業の担当者だったので、板金作業で用いる板厚や曲げRに応じた展開計算がいいのではないかという話をする中で、彼の勤める会社のビジネスモデルは単品受注の部品加工でした。煩雑な見積もり業務をサポートできるシステムがもし出来れば、会社から喜ばれるのではないかと、少し背伸びをしたアイデアも出ました。
その後、本人から聞いたところによると、顧客のパターンや短納期などの受注状況、工程の数や種類などに応じた、見積もり計算ができる仕組みを完成させたようで、それなら気軽な感じで社長に見てもらったらどうかとアドバイスし、社長にも完全なプライベートでこういったものを作ったみたいなので、使うかどうかは別として一回見てあげて欲しいと根回しをしました。
その後、本人から実質社内のメイン営業担当である社長に見てもらうことができたとの報告を受けました。しかしそれ以降、彼がEXCELで何か作ったという話は聞きませんでした。
その後、彼の退社の報を聞くことになったのですが、その時にふとこのエピソードを思い出しました。
私自身の経験
ところで、私自身も似たような経験があります。
以前のコラムでも書いたのですが、現在52歳の私が当時25歳の時、その時の上司である課長から、今のご時世で考えたらトンでもない指示なのですが、VBA(ビジュアルベーシック)のソフトを課長が会社の経費で買ってみましたが、うまく扱えなかったので、お前がやってみろというものでした。
私の会社での仕事は金型の現場仕事でしたので、全くの畑違い、したがって全くのプライベートの時間で何か自作のソフトを作ってみろというものでした。
まぁ今の厳格な労務管理の時代からすれば、平成初期の時代、今では絶対にあり得ないトンでもない指示です。
ですが、当時の私は労働基準法や労働基準監督署などの存在はもちろん知る由もなく、全く疑わずに、残業後の深夜、睡眠時間を削って、当時手打ちのNCデータで作っていた穴あけのNCプログラムを、型の組み図のCADデータから作成する手作りのCAMアプリを作りました。
ところが、完成したアプリをいざ現場で使う許可を得るため、アプリ作成の指示を受けた課長に相談したのですが、当時の私はまだ人間ができておらず、自慢気に話してしまったのだと思います。
その課長からは、許可どころか内容を見るまでもなく無視されてしまい、結果的に別の現場リーダーの許可を得て、加工現場で使うことになりましたが、手打ちでは難しい加工のNCプログラムも出力できたこともあり、かなりの加工時間短縮にもつながりましたし、その時使えていなかった新しい工具を使うこともできるようになりました。ですが、あくまで私の人間的未熟さが原因なのですが、上司に疎まれて無視されたことは、当時の若い私には、かなりガッカリしたことを、よく覚えています。
モチベーション管理の重要性
しかしその後、このスキルは自分のキラースキルとなり、様々な場面で助けてもらいました。今ではこの状況に感謝しています。
なぜここでこのエピソードを思い出して書いたかと言うと、私自身はこの時の課長の対応は、25歳だった私のモチベーションをかなり下げるものでした。また、前述した自動のEXCEL表を作っていた、事例の会社を退社した社員さんも、同じようにスルーされたことにガッカリしていました。
彼も私も、プライベートの時間でやっているということは、仕事の指示だからやっていたというだけではなく、ワクワク感からやっていたと思います。少なくとも私はそうでした。彼もそう言っていました。
そうであれば、仮に本人のメイン担当の実務に直接関係がないとしても、そのワクワク感だけでも受け止めて、本業実務のモチベーションを下げないようにした方が良いのではないかと思います。
とは言え、ワクワク感を受け止めるためだけに、本業と関係ない作業をタイムカード時間内にやってもらうのは もちろん違うと思います。また、クオリティを評価せず、問答無用で作ったアプリを会社で必ず使うというのも違うと思います。
しかし、こうした前向きな気持ちを無視や放置しないことについては、ぜひとも考慮すべきではないでしょうか。
このあたりは、本人のやる気に比例して、どれだけITスキルが高いかにもよると思いますが、私を含む今回挙げた2つの事例は、共に初心者レベルのケースです。システム開発を本業とするITエンジニアと比較すると、比べるまでもなくレベルが低いものであり、お給料をもらいながら会社の時間で作るのは適さないケースだと思います。
したがって、労務管理の視点からは、そのワクワク感をいかに潰さず、本業のモチベーションに向かわせられるかが、今回のテーマだと思います。
私のケースで言えば、このスキルは、CAMソフトのポストを編集するスキルに繋がったり、ポスト出力されたNCプログラムを自動編集するアプリ作成や、3次元測定器からプロットされた何百という座標値から異常値を見つけるアプリの作成などに、後々つながったわけです。
これらは実務で役に立ちますが、最初に挙げた事例企業でEXCEL表を自作した社員さんのケースでは、自分の実務に役立つものもあれば、自分の実務に全く関係ない営業に関するものもあり、無視されたということであれば、そのアプリのクオリティはあまり高くないものだったのかもしれません。
であれば、今回のテーマのポイントは、実務に関係ない方向に向いているワクワク感を、いかに自分の実務に関係するスキルに向かわせるか、これが上司に課せられるテーマであり、モチベーション管理として必要とされることではないでしょうか。
いかがでしょうか。これを読んでくださっている部下を持つ上司の方々は、部下のワクワク感、きちんと受け止めてあげていますでしょうか。
参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054