CAMデータ、ミスの指摘に「感謝」しますか? それとも「逆ギレ」しますか?

CAMデータ、ミスの指摘に「感謝」しますか? それとも「逆ギレ」しますか?
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CAMデータ、ミスの指摘に「感謝」しますか? それとも「逆ギレ」しますか?

現場の命綱を握る「ファインプレー」

金型加工や部品加工の現場では、CAMデータのミスは軽微な手直しで済むこともありますが、内容によっては深刻な事態を招くこともあります。

実機にデータを流した後での機械の衝突(クラッシュ)、高価な工具の破損、工程を何十時間も遡るワークの台無し……。これらは会社にとって数万、数十万、時には数百万円規模の損失につながります。

だからこそ、加工を始める前にデータのミスを見つけ、「ここのデータ、干渉してミスになってますよ」と指摘してくれる後工程の担当者は、本来であれば会社を危機から救ってくれた「恩人」であり、その気づきは最大のファインプレーとして称賛されるべきものです。

しかし、人間関係や「工程の力学」が働く現場では、時に信じられない現象が起こることがあります。

特に、データを支給する「上流工程」と、実際の加工を担う「下流工程」との間に、会社の組織構造上あるいは立場上の明らかな上下関係(パワーバランス)が存在する場合、この傾向は顕著に現れることがあります。

データのエラーや不備を指摘された上司(あるいは上流側の担当者)が、感謝するどころか、立場が下であるはずの現場(下流側)に対して猛然と「逆ギレ」するケースです。

「俺の方が早い」と息巻く上司の裏側

ある加工現場での実例です(※守秘義務の観点から一部設定を変えています)。

その職場の課長は、もともと部下の班長が担当していたCAMデータの作成作業を、「自分だったらもっと早くできる」と言って自ら引き受けました。

確かに、上がってくるデータのスピードは早かったのですが、その中身はお世辞にも良いとは言えませんでした。「スピードを最優先する」という熱意が、結果として裏目に出てしまいました。

もともと班長がデータを作成していた頃は、使用する工具の突き出し長さやツーリングの種類、工具そのものの型番といったごく当たり前な連絡事項をはじめとして、形状加工の際に「どの位置で、どれだけの幅をバイスで掴めるのか」といった掴み代(つかみしろ)の寸法にいたるまで、機械オペレーターが安全かつ確実に加工を進めるために必要な情報を指示書などで提供していました。

ところが、その課長は、早くデータを回すことを急ぐあまり、班長が行っていたデータ作成に付属する情報提供や注意点の記述、データ作成の意図の共有といった重要な実務をすべて省略し、データそのものも、チェック作業をほとんど省いて、次々と現場へ渡していました。

「早く回すこと」に集中するあまり、かえって後工程での確認作業やリワーク(やり直し)という予期せぬ負担を現場に強いてしまう……。これこそが、プレイングマネージャーや熱心な経営者が陥りやすい「効率化の罠」と言えます。

もちろん、この課長に悪意があったわけでは決してありません。むしろ「自分が先頭に立って業務を効率化させ、タイトな納期の中で少しでも早く現場にデータを回してやりたい」という、強い責任感と熱意を持ったチームの立役者であった側面もあります。本人は、良かれと思って必死に現場を牽引しようとしていました。

しかし、良意から始まったスピード最優先の体制も、現実は甘くありませんでした。
事前に担当者がミスを発見して水際で止めることもあれば、実際に工具の干渉を引き起こしたり、衝突という致命的なトラブルまで発生する事態が多発しました。

度重なる実害と、いつ機械が止まるか分からない現場の激しい混乱を見かねた班長が、これ以上の致命傷を防ぐため、「データに多くの不備がある事実」を課長に直言しました。

正論への反発と「防衛機制」の心理

普通であれば、「よくぞ実機に流す前に止めてくれた!」となるはずです。しかし、この課長の反応は違いました。

予期せぬ指摘に対する戸惑いや、自負(プライド)を守ろうとする強い心理的抵抗が働き、課長は本来の論点とは無関係な過去の課題を持ち出し、班長への厳しい追及へと話をすり替えてしまいました。

「そもそもお前たちは、以前から私が指示していた現場改善のタスクが全く進んでいないじゃないか! なぜ言われた通りの出来高が上がらないんだ!」

これはまさに、追い詰められた人間が窮した際に用いる典型的な「論点のすり替え(防衛機制)」です。

さらに信じがたいことに、課長が次に取った方策は、「自分自身のミスの撲滅・改善」ではありませんでした。相手を徹底的に貶めてマウントを取ることで、そもそも自分に対して二度と意見できないよう、「現場の発言そのものを封じ込めよう」としました。

その手段として、課長は機械加工に強い意欲を持つ班長に向かって、こう伝えたそうです。

「課長以上の会議で、いま部署間の応援の話が出ていてな。量産部門から『2〜3年ほど人が欲しい』と言われている。だから、お前にちょっと行ってもらえないかと考えているんだが」

もちろん、当時のこの機械加工部門は、日々ギリギリの人数で現場を回しており、現場の要であるこの班長を別の部署に異動(応援)させる余裕など到底ありませんでした。

つまりこの発言は、業務上の合理的な人員配置の打診などでは決してなく、現在の班長という立場や、彼の加工への情熱を人質に取った、事実上の「ハッタリ」であり「脅し」でした。

本人のキャリアや情熱を揺るがしかねない、立場をカサに着た過剰な圧迫であり、自分のやり方にこれ以上異議を唱えさせないためにパワーバランスを乱用して現場の声を抑え込もうとする、組織運営における典型的な悪手と言えます。

「えっ、そんな嘘みたいなドラマのような話があるの?」と思われるかもしれませんが、これは現場で実際にあったエピソードです。

社会保険労務士の視点から言えば、職務上の「優位的な立場」を背景に他部署への応援をチラつかせる言動は、厚生労働省の定義するパワーハラスメント(精神的な攻撃)のリスク領域に踏み込む重大なエラーです。良かれと思ったスピードへの熱意が、プライドの揺らぎによって職位の乱用へと変貌してしまった瞬間でした。

「責任は自分が取る」という言葉の誤解

さらに、この上司は周囲に対してこう主張したと言います。 「俺がデータを作ってこの部署を回しているんだ。もしデータにミスがあっても、最終的に会社から責任を追及されるのは管理職である俺だ。だから、現場の人間や後工程の担当者に文句を言われる筋合いはない」

一見、責任を背負う覚悟があるかのように聞こえる言葉ですが、技術経営の視点から言えば、この論理には大きな問題があります。

仮に、データミスによって発生した加工のやり直し(リワーク)や機械のメンテ、修理、遅れた納期の穴埋め作業まで、すべてこの上司が一人で夜通し作業して完結させるのであれば、その論理は成立するかもしれません。しかし、現実は違います。

実際に実機の前でクラッシュの恐怖と戦い、予定外の残業や休日出勤を強いられて「尻拭い」をするのは、現場のオペレーターです。

言葉だけで「俺の責任だ」と言ったところで、現場の肉体的な負担や精神的なストレスを、上司が代わりに引き受けることは不可能です。

これは、中間管理職のケースだけに留まりません。ものづくりの現場、特に中小企業においては、経営者(社長)自身が設計やデータ作成を行うプレイングマネージャーであるケースもあります。

そうした際、経営者という立場から「責任は俺にあるのだから、ミスをしても社員に言われる筋合いはない」という態度を取ることもまた、組織運営において極めて重大な問題を孕んでいます。

なぜなら、どれほど経営者が「俺の責任」と言い張ったところで、実際に現場で泥を被り、物理的な尻拭いをするのは雇用されている社員の方達だからです。

「給料を払っているのは俺だ」という強弁もありますが、これも大きな錯覚です。仮に社長が完全なポケットマネー(個人資産)から100%給料を捻出して配っているならまだしも、給料の真の原資は、社員全員が一丸となって現場で価値を生み出し、稼ぎ出してきた会社のお金です。社長が個人のお金を「恵んであげている」わけではありません。

「お金を払っている立場なのだから、社員に何をさせても、どんな態度を取ってもいい」という理屈がまかり通る労働環境を、現代の若者や優秀な技術者が選ぶでしょうか。

そのような環境は、心理的安全性が皆無の「劣悪な労働環境」と言わざるを得ません。これは、企業の労務管理や法的な職場環境の適正化を見つめる「社会保険労務士」としての視点でもあります。

工具の破損や材料費の無駄、納期遅延による損失は、会社全体の利益を圧迫し、巡り巡ってメンバー全員の評価や賞与の原資を削ることになります。

実務的なリスクと負担を、後工程(下流)に負わせた状態で「俺の責任だから口を出すな」と言うのは、責任の抱え込みであり、マネジメントの放棄、ひいては労働環境の破壊に他なりません。

なぜ「逆ギレ」が起きるチームはダメなのか

このように、上司がプライドを守るために逆ギレし、論点をすり替えるようなチームは、組織として最悪の循環に陥っていきます。

この時、上司の目的は「業務の改善」ではなく、「自身のキャパオーバーやフラストレーションのガス抜き(八つ当たり)」、そして「部下の口封じ」にすり替わっています。

ここに具体的な解決のゴールは存在しないため、指摘した側はどれだけ真面目に対応しても、ただ一方的にメンタルを削られるだけになってしまいます。

このような理不尽な対応を周囲が目の当たりにすると、現場は瞬時にこう学習します。
「余計な指摘やリワークの報告をすると、自分がターゲットにされて飛ばされる。次からは黙っておこう」

結果として、チーム内から「バッドニュース(悪い報告)」が一切上がらなくなり、組織は深刻な隠蔽体質へと傾いていきます。

そして次にデータミスが起きたときは、本当に機械が大きくクラッシュするなど、重大な事態になるまで誰も何も言わなくなってしまいます。

リーダーのつまらないプライドや虚勢は、現場の心理的安全性を根底から損ない、結果として会社の利益を最も大きく脅かす重大なリスク要因となってしまいます。

チームとは「持ちつ持たれつ」、必要となる感謝の循環

ものづくりの現場において、完璧な人間など一人もいません。上流でデータを作る人間も、プレッシャーの中でミスをすることは当然あります。

だからこそ、チームは本来、互いのエラーを後工程がカバーし合う「持ちつ持たれつ」の仕組みで動くべきです。

したがって、前工程としてデータを作る立場、あるいは人の上に立つ立場になったときには、この「逆ギレする課長」を絶対に反面教師にしなければいけません。

間違いやリスクを指摘されたその瞬間に、自分の非を隠すために相手の口を封じようとするのか。それとも、深呼吸をして「教えてくれてありがとう」「実機に流す前に見つけてくれて助かった」と言えるのか。

この“態度の分岐点”が、現場の文化を決定づけます。

上流は「裏でデータをチェックし、機械を守ってくれてありがとう」と下流に感謝し、下流は「タイトなスケジュールの中でデータを作ってくれてありがとう」と上流を支える。

この互いへの敬意と感謝があって初めて、機械も組織もクラッシュせず、安全で高品質なものづくりができる「本当に強い現場」の土台が築かれます。

まさに、“一瞬の態度”が現場の安全、ひいては会社の命運を大きく左右すると言っても過言ではありません。

仕組み(技術)と倫理(心)、両面からの処方箋

もちろん、この課長の考え方がすべて間違っているとも言い切れません。ミスがなく、しかも効率的であることは必要であり、目指すべき理想の形でもあります。

そこで私は、この根深い問題に対して、技術面(仕組み)と組織面(マインド)の両側からサポートを行いました。

まず、技術的な仕組みの解決として、以前のコラム(3D加工手順のセオリー:作業間のチェックポイント)でも解説している通り、データ作成のセオリーに応じて、作業間での『関所』とも言うべきチェックポイントの厳格な整備と標準化をサポートしました。これにより、属人的なミスや感情論が現場に流れない「防波堤」を構築しました。

最低限必要となる指示書の記載内容まで省いてしまうと、逆に不効率を招きます。そこで、絶対に必要なものと蛇足となるもののメリハリをつけ、必要なものと不要なものを明確に切り分けて標準化します。また、誰がデータを作成しても同じようにミスを防げるチェック方法の標準化(「関所」の構築)ができれば、現場が裏でこっそりと過酷な尻拭いをさせられることも、上司がデータミスを指摘されてプライドを爆発させることも、未然に防ぐことができます。

そしてもう一つ、組織・倫理面からのアプローチとして、この課長に対して個別にアドバイスを行いました。

ベースにしたのは、私のもう一つのコラム(経営とマネジメントにおける利他心の精神)の考え方です。

自分のプライドや保身(利己)のために現場をコントロールしようとするのではなく、現場のオペレーターたちがどれだけ安全に、迷わず加工できるかという「利他の心」を持ってデータを作ること。

そして、その利他の心がいかに巡り巡って、自分自身の評価や課の成果として返ってくるかという「感謝の循環」の大切さを、彼の傷ついたプライドを刺激しないよう、丁寧に、優しく伝えました。

セオリー通りの「仕組み(関所)」を正しく機能させた上で、「利他と感謝」を育む。
このハードとソフトの両輪を回していくことが、結果として理不尽な衝突を防ぎ、現場の安全を守る確実な一歩になると思います。

今回はかなり極端なエピソードをベースに取り上げましたが、その根底にある心理的な反発や組織の力学という課題は、多かれ少なかれどこのものづくり現場にも潜んでいる本質的なテーマだと思います。

人間関係や組織の在り方に悩むものづくりの現場において、今回の内容が多少なり参考になれば幸いです。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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