金型メーカーにおける3次元設計がうまくいかなかった事例

目次

3次元設計の導入がうまくいかなかった要因は何だったのか

今回は、金型メーカーにおいて、3次元CADを導入したがうまくいかず運用を断念してしまった、また運用をしているが明らかに他社と比べ設計工数が多く掛かり過ぎるなど、運用がうまくいっていないという事例を紹介します。

そのうまくいかなかったという結果に対してはいくつかの要因があります。その要因とはいったい何だったのか、順番に見ていきたいと思います。

金型モデリング後にさらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生

設計者のスキルにもよりますが、一般的に2次元での金型設計よりも3次元で設計する方が工数は多くかかることが多いです。

理由は、2次元図面では注記や省略図などにより省ける詳細部も、3次元になると忠実にモデリングしなければならないこと、また2次元であれば断面図などで指示しておくことで、後工程のCAMや機械加工で対応してもらえるような穴やワイヤーカット形状なども、忠実に形状としてモデリングしなければならないためです。

会社さんによっては、すり合わせやはめ合い・摺動面など、部品間のクリアランス(隙間)も全てモデリングしているところもあります。

しかしせっかく工数をかけて、部品ごとに細部までモデリングされたものを、後工程であるCAMオペレーターに3次元データとしてそのまま渡すのではなく、さらに1個1個の部品ごと2次元図面を描いて渡しているという会社さんがおられます。

3次元設計をやっている会社さんのCAM作業については、次の2つのパターンがあります。(主に穴加工や2D切削加工などの構造部を対象としています)

  1. 設計部門は、1個1個の部品の3Dモデルから三角法による寸法の入った2次元図面を作り、CAM工程はそのDXFデータから2次元CAMを使って加工プログラムを作成する。
  2. CAM工程は、1個1個の部品の3Dモデルから直接3次元CAMを使って加工プログラムを作成する。

この①と②を比較しますと、リードタイムと工数において、①のやり方を行っている会社さんの方が分が悪くなっています。

リードタイムについては、設計者による金型全体のモデリングが完了した後、後工程であるCAMオペレーターが作業に入ろうとしても、個々の2次元図面ができてくるまで待たなければいけません。

また工数についても、②のようにダイレクトに3Dモデルから加工プログラムを作成する会社さんと比較して、余分に工数がかかっています。余分に工数がかかるということは金型の原価が増えることを意味します。

大企業や比較的大きな規模の会社さんの金型部門の診断において、「サプライヤーである協力会社さんの金型メーカーよりもどうしても原価が高くなるのはどうして???」とよく相談されるのですが、そうおっしゃっる会社さんの多くで上記①の手順をとっています。

これはISOや管理体制がしっかりしており、工程間での管理や検査をしっかり行うため、詳細な図面を残す必要があります。そのため、手間をかけた2次元図面を残すという慣習ができていることが理由だと思われます。

またよくある理由として、外注の加工メーカーに仕事をお願いするため図面が必要になるといったこともあります。

ちなみに、2次元で金型設計を行う場合については、次の2つのパターンがあります。

  1. 製品意匠面を3次元CADでモデリングし、その3Dモデルを構造設計用に2次元に投影し、そのDXFデータから2次元図面を作図していく。
  2. 金型構造部を先に2次元で設計し、製品意匠部の3次元モデリングは2次元で作図された金型組図の配置に合わせて行う。

私が2次元で設計するときは、上記1.のパターンで設計することが多いのですが、一般的に、1人で構造部設計と意匠面モデリングを行う場合は上記1.を、構造部と意匠面それぞれ別の人が行う分業設計の場合は上記2.の方法をとっていることが多いです。

特に1.の方法では、構造部における高さ方向の注意すべき箇所を3次元CADでの作業時にチェックしておき、2次元CADの設計に移ったら、締結部品などは断面図や側面図に代表的なものを図示していけば済むので、個人差や設計ボリュームにもよると思いますが、結構手早く設計できます。

3次元設計においては、前述したように、細部まできっちり表現しなければいけない分、工数がかかるのですが、ルーチン作業的な部品配置の作業などで少しでも効率よく設計するなどの工夫も必要になります。この点については過去コラムを参考にしてみてください。

いずれにおきましても、3次元設計を導入したが失敗してしまった・断念してしまった・うまくいっていないという会社さんにおいては、過去に2次元設計をやっていた時や2次元設計している同業他社と比べて、あまりにも工数が多く増えてしまったという原因があったようです。

投影した図面の線要素に問題がある

これは3次元設計を行う金型メーカーにおいて、3Dモデルを2次元図面化したDXFデータを後工程に渡す場合、多くの加工現場で問題になっていることです。

具体的には、穴形状やポケット加工形状などの円要素や線要素が2重になったり細切れになったりするため、加工現場ではそれをCADを使ってせっせと修正する作業に追われていることなどがあります。

上記の「金型モデリング後にさらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生」で挙げた、3次元設計した後にさらに図面化する工数に加え、さらに後工程であるCAMやマシニングのオペレーターで追加の工数が発生してしまうため、結果、3次元設計の導入を断念した、もしくはその工数増加に気づかず原価UPになってしまっていることがあります。

これについては、やはり3次元設計したものは後工程も3次元のまま作業することが理想であり、詳しくは別のコラムで扱っておりますので、そちらをご覧ください。

これらの要因のため、3次元での設計を断念してしまったというケースがあるということです。

パラメトリック方式のCADが合っていない

そもそも3次元CADは、①パラメトリック方式と、②そうではなく履歴を残さないノンヒストリー型のCADがあります。

例えば、金型設計における部品配置においては、個々のパーツのモデリング時ではなく、アセンブリ段階になって初めて作業することが多く、特に締結部品などは複数のプレートや部品をまたぐためアセンブリ段階で配置します。

ということは、構造設計においては、複雑で複数の部品をレイアウトをするようなスケッチを描くことは少ないと言えます。

したがって設計する金型の種類によっては、パラメトリック方式のCADはいたずらに工数を増やす可能性があるかもしれません。

特に3次元に慣れていない人や、複雑なサーフェースモデリングを含む金型の設計において、パラメトリック方式のCADを使っている場合には、私から見て余計に工数がかかっているなぁと思うことがあります(レイヤ機能などが使えないとさらにそう思うときがあります)。

自社の金型設計において、「スケッチ」の段階から、後から編集したり、再利用設計をしたりする頻度が高いのかどうかによって、よく検討された方が良いと思います。

また、部品ファイルとアセンブリファイルが分かれていることが設計をやりにくくしているといった面もあります。

そもそも設計は、金型であっても機械設計であっても、部品を設計してからそれを組み上げるというよりも、全体像から構想していき、徐々に細かいところまで仕上げていき、最終的に個々の部品に切り分けていくといった進め方が多いと思います。

その流れでいくと、パラメトリック方式のCADの初心者向けの説明書で書かれているような、まず部品を一つずつモデリングしていき、全部揃ったら、それを合致拘束で組み上げていくという進め方は、すでに図面で設計が済んでいるものを3次元でそのまま立体化するという作業では相性が良いと思いますが、構想段階で「考えながら設計をする」という作業においては、うまくCADを応用して使っていかないといけないと思います。

ちょうど、SolidWorksでいうMFDのような手法です。逆にパラメトリック方式でないCADであれば、それを気にせずに3次元設計ができるとも言えます。

私は、今どきのサーフェース機能とソリッド機能が共存しているような3次元CADではなく、サーフェース機能しかない3次元CADでガッツリモデリング業務をしていた時期もありました。

あの頃は、フィレットRの大きさを変えるだけで、元の面をひたすら伸ばして元の状態を復元し、またフィレットを貼り直すなど、地道で根気のいる作業を余儀なくされました。

そのため、パラメトリック方式のCADを使ったとき、寸法値で形状を変更できる機能が大変便利で効率的に感じましたが、最近のサーフェースとソリッドが共存している3次元CADは、パラメトリック方式でなくても、フィレットを変えてもバンバン自動で面は元に戻りますし、パラメトリック方式と遜色ない操作でモデル編集ができます。

こう考えると、モデル編集のしやすさの基準だけでパラメトリック方式を選ぶ必要もないように感じます。

このように、これまで私が見てきた事例では、このCADの選定が合わなかったために、3次元設計の導入を断念してしまったケースがありました。

現場が3Dデータを扱えない(上流工程が問い合わせの嵐になる)

この要因については、3次元設計を断念してしまった企業、現状3次元設計を行っているが課題を抱えているといった企業、いずれにおいても見受けられます。

2次元設計の図面であれば、現場のベテラン社員さんも金型の構造や組み合わせ寸法・公差なども理解できるのですが、3次元のデータとなると、ソフトが触れない、慣れていないなどの理由から、せっかく3次元で設計をしていても、現場作業者のために平面図や正面図、側面図や断面図からなる組図を作図するといった、追加作業を余儀なくされるケースがあります。

また、設計者や途中工程であるCAMオペレーターに対し、3次元データを扱えない組み立て作業者や保全担当者から、問い合わせの嵐を受けるといったケースも色々な会社さんでよく見かけます。

そのため、問い合わせを受ける設計者やCAMオペレーターの作業効率を、著しく悪くさせてしまっていることもあります。

この点についての対策などまとめたコラムがありますので、もしよろしければ、ご覧ください。

組図が読みにくい

上記のテーマに付随するお話しですが、

  • 金型組み立て作業者や保全担当者が3次元データを扱うことができない
  • 金型メーカーが、顧客であるプレスメーカーや成形メーカーから金型製作を請け負った場合、金型検収後に図面の提出を求められる

などの理由から、3次元で設計したモデルから投影図を作り、2次元の組図を作図することがあります。

このとき、何も設定せずそのまま金型全体で投影図を作ると、内部の構造が全て破線状態になり、非常に見づらい図面が出来上がります。

平面図はまだマシなことが多いですが、正面図や側面図などは穴形状や部品などが重なって、ほとんどわけのわからない図面になることがあります。

実際これでは現場の作業者は理解できないので、断面を切ったり、破線を手作業で消して編集することがあります。

CADによってはこうなることを見越し、側面図に表示する形状を指定して、破線の嵐になることを抑制する機能を持ったものもあります。

いずれにおきましても、こうした手間により設計工数が増加し、3次元設計の導入を断念してしまったという事例があります。

やはり前述したように、ビューワーだけでも、組み立て現場で3次元データを扱えるようにすることが、一つの解決策になるのではないでしょうか。

モデリングスキルの問題

これは人のスキルに起因しますが、そもそも3次元のモデリング操作の効率性については、個人差がどうしても出てくるという問題です。

「慣れ」という要素はありますが、私が客観的に多くのCADオペレーターの操作を見させていただくと、明らかに早い人・遅い人の個人差が明確にわかります。

ただ、2次元設計の場合でも個人差は出るので、一概に3次元設計だけによらないのですが。

3次元設計の場合は特に、設計の知識・スキルとは別に、モデリングスキルも合わせて必要になります。

本来、「設計」の部分に頭を使わなくてはいけないのですが、モデリングが苦手な人は、「形」を作ることの方に頭(脳)の大半を使ってしまい、設計の効率が悪くなります。

また、3次元設計における早い人と遅い人の違いとして、一通りの操作を完了した後の形状が、事前に頭の中にある人とそうでない人に、決定的な速さの違いが出ると思っています。

3次元設計に慣れている人や作業が早い人の特徴として、これから作ろうとしている形状をすでに先に思い描いてから操作をしている人が多いです。

逆に遅い人は、とりあえず思いついた操作をやってみて、ようやく形状を認識するという人がいます。「あー、こういう形になるんだー」といった具合です。

これだと、目的としていた形にならなかった場合に、何度もやり直すことになり、効率がとても悪いです。

ある程度、素養と言いますか資質の部分もあるかもしれません。ちなみにこうした人には、立体を描くトレーニングをやってもらう場合もあります。

このモデリングのスキルに加え、そもそも本来必要なレイアウトや強度、コスト最適、目的品質などの本来必要な「設計」の要素を考えてCAD操作をしなくてはならないため、初めて3次元の設計をやる人にとっては、そこそこ高いハードルになってしまいます。

それを、会社さんによっては、ベテランよりはパソコンに慣れているという理由で、まだ設計に慣れていない若手に、立ち上げを任せっきりするというケースも少なくありません。

そうなると、モデリングスキルに加え、設計スキルの成長も待たなければならないため、余計に時間がかかり、やむなく導入を断念してしまったという事例があります。

この「人」のスキルというものも見逃せない大きな要因です。

まとめ

以上、3次元設計の導入がうまくいかなかった、またうまくいっていないという場合の要因をいくつか見ていきましたが、やはりうまく運用するためのポイントは、見切り発車ではなく、事前の情報収集ではないかと思います。

今ではCADの種類にも選択肢が豊富にあり、さらに後工程で使うCAMの種類もこれまた豊富で、これらを組み合わせると非常に多くの選択肢になります。

その中には、これまで紹介してきたように、自社に効率化によるメリットをもたらすもの、逆に足を引っ張ってしまうものもあります。

CAD/CAM販売業者さんの立場からしたら、どうしてもメリット部分を強く押さなければいけない事情もよくわかります。

そうした意味で、私どものような中立的な立場の意見に耳を貸してくだされば、少しはお役に立てるかもしれません。

参考になれば幸いです。

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代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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