3次元設計に潜む隠れた手間について
今回は私が行っている日々のコンサルティングの現場から、最近気になっていることをお伝えしたいと思います。
ますます3次元設計を行う会社さんが増えてきておりますが、その後工程である加工現場の方で、上流である設計工程や上司には気づかれていない、隠れた手間が発生していることがあります。
今回はこの「3次元設計に潜む隠れた手間」をテーマとしたいと思います。
事例①
事例で紹介したいと思います。
下図のようなプレートにシンプルな四角のワイヤーカット形状があったとします。

例えばこのワイヤーカット形状のNCデータを現場で作成し加工しているとします。これをCAMにかけるために、設計部門から3次元設計されたこのプレート部品に対し、2次元での図面化を行い、下図のようなDXFデータを現場に提供しているとします。

そこで問題が発生するのですが、下図のように、このプレート上に実は曲面形状がついているとします。

そうなった場合、DXFデータ内のこのポケット形状は、一見シンプルな直線とコーナー円弧に見えるのですが、3次元のときにはただの円弧だったコーナーRが、下図のようにスプライン化したり、細切れでブツ切れの線要素になることがあります。

また、プレート上面のエッジと、プレート底面側のエッジ、それぞれがラインとして存在するために、重複要素になっていることもあります。
そこで、今回のテーマである「3次元設計に潜む隠れた手間」ですが、ワイヤーカットのオペレーターがCAMでデータを作成する際、スプライン化した線をせっせと、近似円弧に作図して修正するという、上司には気づかれていない余分な工数がかかっているという実態がありました。
高度なCADであれば瞬時に近似円弧化できる機能を持っていたりしますが、特に設計を行うわけではない現場のCAD/CAMはチープな機能である場合があり、そもそもそういう機能の存在も作業者は知らなかったりします。
事例②
もう一つ事例で紹介します。
下図のように、プレートに単純なザグリ穴があったとします。

この場合も先ほどのワイヤーカット形状の事例と同様で、下図のように、曲面上にあったり、穴の上に段差があったりすると、2次元図面にしたとき、スプライン化したり、細切れの線要素になったりすることがあります。


こうした場合、穴加工を行う加工現場の方で、2次元ベースのCAMを使っていると、同じ穴種類なのに、同じと認識してくれなかったり、同じ座標位置で複数の穴があると認識されてしまうなどの問題が出ることもあり、今回のテーマである「3次元設計に潜む隠れた手間」として、CADでせっせと修正してからCAMにかけているという実態もありました。
対策方法
では、どのように対策するかですが、3次元データのまま加工現場に渡している場合は、こうしたCADでの修正処理を行っている会社さんは少ないようです。
またその場合、次の2つのパターンがあります。
- 設計で使われた3次元CADと同じ3次元CAMを使う
- 設計で使われた3次元CADとは異なる3次元CAMを使う
②の場合は、IGESやSTEP、PARASOLIDなどの中間ファイルが使われます。
また、①の場合は、設計時に加工属性を穴などにつけ、もちろん中間ファイルは使わずネイティブファイルのまま受け渡しすることで、属性情報を活かしたCAMの自動化ができます。
ワイヤーカットについては、圧倒的に2次元ベースのCAMを使っている会社さんが多いですが、上記の問題から3次元ベースのCAMを使っている会社さんもあります。
一方、どうしても2次元ベースのCAMを使うという会社さんでしたら、CADでの編集をいかに効率化するかという対策も考えられます。
私も経験がありますが、重複要素削除・真円変換などの機能があっても、半円化・細切れ化している穴要素はなかなか思うとおりに修正されなかったりして、結局自分の手作業で修正せざる得ないことがあります。
この辺りは色々試してみることで、自社のCADデータに合う修正・編集機能を持ったCADを選定する方法もあると思います。
また高度な機能を持つ3次元CADでは、2次元の平面図にしたときに、重複要素や近似円弧化の処理も自動で行ってくれるものもあります。
まとめ
以上、最近のコンサルティングで金型メーカーや加工メーカーで指摘させていただくことの多い「3次元設計に潜む隠れた手間」について書かせていただきました。
それだけ、3次元設計が多くなっていると言えると思います。
もちろん3次元CADにも色々な種類があり、今回のような問題が全く出ず、対処されているCADもあります。
もし「ひょっとしたら・・・」と思い当たる会社さんがありましたら、現場に赴き、確認されてはいかがでしょうか。
参考になれば幸いです。
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