「VB使い」なら、もうあなたの隣にいます
以前のコラムで、「加工現場などの改善において、社内に一人はVBA(プログラム)が使える人がいると、業務の幅が大きく広がる」と、お伝えしたことがあります。

昼夜で加工条件を切り替えたり、煩雑なNCデータの変換を自動化したり。また設計業務などでは材料一覧の寸法表の寸法の取り代を自動で加工の仕様に応じて調整させたり。そんな「ちょっとした、でも重要なツール」を自前で作れるスキルは、現場における重要な武器の一つでした。
「・・・でした。」そう、過去形で表現させていただきました。そうなんです、時代は変わりました。
今や、その「VB使い」のスキルを、AIが肩代わりしてくれる時代になりました。
実験:現役時代の「手組み」が、AIへの「指示」でどれだけ楽になるか?
今回は、がっつりと現場の課題を解決するというよりは、私が以前から「そのうち作ってみたい」と考えていたテーマを、AIを使ってお試しで形にしてみました。
お題は、「コーナー部の送り速度(F値)自動最適化アプリ」です。
ポケット加工の仕上げで、外周輪郭をまわる際、直線部と同じ送り速度で凹コーナーRに突っ込むと、当然ながら直線部よりも周長が短くなる分、とても分の悪い切削になります。

そこそこ高機能なマシニングセンターであれば、「金型モード」や「高精度モード」といった機能で自動的に加減速をかけてくれる場合もありますが、それはあくまで機械側が判断する制御であり、必ずしもユーザーが狙った通りの送り速度(F値)になるわけではありません。
また、私が使っているキャメストのような二次元のCAMですと、比較的細かな制御機能が付いていることがあり、今回のようなコーナーRでの加減速を設定してデータ作成することも可能だと思います。ですが、三次元のCAMなど、送り速度が一定のままデータ作成を行う仕様が多いのではないでしょうか。

そこで、「NCデータを読み込んで、計算式に基づいた凹コーナー部のF値をパッと変換できたら」と考えていましたが、なかなかまとまった時間が取れず、なかなか試作できずにいました。
そこで今回、AIを使えば簡単にできるのではないかと思い、AIを使って編集アプリを作ってみたというわけです。
私も現役時代でしたら、自分でVBAプログラムを手組みで打ち込み、時間をかけて完成させていたところですが、もしこれを「AIへの指示」に置き換えたら一体どれほど楽になるのか、今回はその実力を試してみました。
物理法則に基づいた自動変換
今回ターゲットにしたのは、こちらのサンプルとなるポケット形状です。加工深さは30ミリの設定で、この内側をφ6ミリのエンドミルを使って輪郭加工を行うNCプログラムをターゲットにしました。

このNCプログラムをビューワーで確認すると、以下のような軌跡を描いて加工します。Zステップは3ミリずつにしています。

今回アプリが使う計算式は、以下の「凹R部における刃先送り一定」の理論です。

シンプルに説明すると、エンドミル中心の軌跡でのコーナーRの大きさと、実際のポケットのコーナーRの大きさの比率を、直線部を含めた元々のF値に乗ずるというものです。
さて、このアプリの中で動いている仕掛けの方も、とてもシンプルです。

エクセルシート上に配置した「NCプログラム変換実行」というボタンを押すと、指定のフォルダに格納しておいたNCプログラムを、エクセルが1行ずつ読み込み、「G02/G03」の円弧指令を見つけると、その行のI, JまたはRの値から軌跡半径を算出し、前述の式で求めたF値をその行に追記します。
そして、次に「G01」が現れたら元のF値に戻す指令を差し込む。 これにより、切削加工部のF値の最適化を図っています。

例えば、今回のサンプル(50×30mmのポケット加工)では、製品形状の隅Rから工具半径分をオフセットした結果、エンドミル中心の軌跡でのコーナーRが0.2mmと2.2mmの箇所があります。

本来この部分に特定したF値はGコード上に入っていないのですが、それぞれのコーナーRに、計算式に応じた補正したF値を自動で加えるというアプリになっています。

なお、その後に続く直線部には元々のF値を加えないと、補正された(遅くなった)F値のまま動作してしまうので、改めて、直線部には元々のF値(今回はF1200)を加えています。
| 編集前(オリジナル) | 編集後(アプリ出力) | 備考 |
G03X25.Y3.I4.243J4.243 | G03X25.Y3.I4.243J4.243F800 | 円弧アプローチ(R6.0) |
G01X46.8 | G01X46.8F1200 | 直線(速度復帰) |
G03X47.Y3.2J0.2 | G03X47.Y3.2J0.2F75 | コーナー(R3.2部) |
G01Y24.8 | G01Y24.8F1200 | 直線(速度復帰) |
G03X44.8Y27.I-2.2 | G03X44.8Y27.I-2.2F508 | コーナー(R5.2部) |
ちなみに、今回のサンプルのポケット形状も、DXFデータはバイナリではないので、テキストファイル形式でAIに作ってもらい、それをCADに中間ファイルとしてインポートし、作図しました。

今回は「こうこういったコーナーRを持つ、何ミリ×何ミリの四角形を、DXF形式で記述してください」と指示をしました。
まぁ実際には、この程度の形状ならCADで書いた方が早いのですが、AIがどこまでDXFのフォーマットを理解しているのか試してみたく、ついでにやってみました。NotebookLMにDXFのフォーマットをソースとして渡してからの作業になるかと思いきや、チャットでいきなり作成指示しても問題なく対応してくれました。
プログラムだけでなく、図面データまでAIとの対話で用意できてしまうという時代です。これもアイデア次第で色々とアレンジして使えそうです。
AIは、エンジニアを「思考の重労働」から解放する
今回の「お試し開発」を通じて感じたのは、VBAプログラムにおける「2大作業」が、ほぼほぼ完全に消えてしまったという実感です。
- 一つ目は「プログラムの構成を考えること」です。
以前なら、1行ずつ読み込み、1行ずつ処理しながら都度出力するか、はたまた一旦すべての行を変数に格納してから行の前後を踏まえつつ処理し終わった全行を順次1行ずつ出力するかなど、そのプログラムの構成を決めるところから考えていました。今回は、そんな構成案を練る必要すらありませんでした。 - 二つ目は、もちろん「コーディング(実際の打ち込み)」そのものです。
私が今回行ったのは、AIに「やりたいロジック」を伝えただけです。
かつては数時間から数日かかっていたような「作りたいネタ」の具現化が、AIとの対話ならわずか数分、他の作業をしながらの片手間で終わってしまいました。
手組みをしていた頃の苦労が嘘のようです。
これでしたら「社内にVB使いがいないから……」と、諦める必要はありませんよね。
ちなみに今回、私も久しぶりでしたので、AIが作ってくれたVBAをエクセルの方に組み込む手順も、AIに指示してもらいました。おかげで非常にスムーズに事が運びました。
これからの時代は、「現場の課題を見つける力」と「AIに正しく伝える力」さえあれば、誰でもこういったプログラム的な改善ツールをサクッと作り出すことが可能になると考えられます。
もしまだ未着手という読者の方がおられましたら、長年温めていた「お試しネタ」などありましたら、AIという新しい相棒と一緒に形にしてみてはいかがでしょうか。参考になれば幸いです。
【補足】
今回のコーナーR部の減速プログラムですが、あくまで理論的な考え方を示したものです。例えば、実際にはコーナーの少し手前から減速をかける必要があるなど、実際の機械加工において、ビビリ振動の抑制や切削抵抗の低下に直接効果があるかどうかを論じたものではありません。また、単純な長方形ではなく複雑な形状の場合はどうするのかまでも踏み込んではいません。あくまで「理論的な計算値をNCプログラムに自動組み込みする」というアプローチの初歩として捉えていただければ幸いです。
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コラム投稿者
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代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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