それって改善提案?それとも業務?

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それって改善提案?それとも業務?

今回は、私が訪問するクライアント企業で多く遭遇するあるある話、「それって改善提案?それとも業務?」についてお話しします。

部下の方が良かれと思って改善提案を提出すると、上司から「それはやって当たり前の業務の範疇(はんちゅう)じゃないか」と、悪気はないのですが打ち返されてしまうケースです。

私がその内容を見せてもらうと、「まあ確かにこれはやって当たり前の業務の範疇かな」と思う内容もありますし、「ちょっと厳しいな、改善提案でいいんじゃないか」と思う内容もあります。

上司の方がこのように泣く泣く打ち返しをしなければいけない背景には、多くの会社で「改善提案に対して一定の報奨金が出る仕組み」が導入されているという事情もあると思います。会社のお金が動く公式な制度だからこそ、上司の立場としても、明確な線引きがないまま何でもかんでも受け入れるわけにはいかない事情もあるかと思います。

これについては、このコラムの読者の方々でしたらお気づきになると思いますが、そもそも「定義されていないこと」が問題ですよね。

そこでこのコラムでは、まず改善提案と業務の違いとは何かを確認してみたいと思います。

また、クライアント企業でもお話しすることがある、さらにその上にある「イノベーション」という、ちょっと大仰ではありますが、これも含めた3つの階層(やって当たり前の業務効率化、改善提案、イノベーション)の定義についても触れていきたいと思います。

現場の取り組みを見極める「3つの階層」

そこで私は、製造現場における工夫や取り組みを、以下の「3つの階層(レベル)」というモノサシで捉えることを提唱しています。

まずはその全体像をご覧ください。

階層(レベル)本質的な目的現場における取り組みの次元
第1階層:日常業務の効率化目の前の日常の最適化
(強固な土台づくり)
「目の前の今の仕事」を回すための手際・要領
第2階層:改善未来への仕組み化・汎用展開(価値の向上)「他の案件にも展開できる」
未来の仕組み作り
第3階層:イノベーション前提や構造をひっくり返す
(非連続な変革)
従来の延長では到達できない、破壊的な改革への活動

現場のリーダーも経営者も、まずはこの3つの階層が社内に存在するという全体像を頭に置いておく必要があります。これらがごちゃ混ぜになっていると、「これは業務だ」「いや改善だ」という不毛な衝突が現場で起きてしまいます。

では、特に境界線が曖昧になりがちな「第1階層」と「第2階層」の切り分けについて、詳しく見ていきましょう。

【第1階層と第2階層】「今だけの効率化」か「他案件にも展開できる仕組み」か

この二つを分ける決定的な境界線は、その工夫が「目の前の案件が終わったら消えてしまうものか、それとも次の別の案件にも残るものか」という点にあります。

【第1階層:日常業務の効率化】=「目の前の今の仕事」を回す手際

第1階層は、まさに導入でお話しした「やって当たり前の業務の範疇」にあたるレベルです。その本質は、「目の前にある特定の仕事を最も早く、効率よく処理するために、現場の底力を最大限に発揮すること」です。

5Sの徹底や義務の履行はもちろんやって当たり前、そのほか過去の類似案件のデータや手順をサッと引っ張ってきて流用するような、仕事に慣れた人がよくやっている要領の良さや手際がこれに該当します。

目の前のワークに合わせて、要領よく作業を進めたり、段取りのスピードを上げたりするのは、プロとしての義務(日常業務)の範囲内です。

その仕事が終われば消えてしまうその場限りの工夫に対して、上司が「それは業務の範疇だよね」と打ち返すのはたしかに正論と言えます。

【第2階層:改善】=「他の案件にも普遍的に展開できる」未来の仕組み

では、業務の枠を飛び越える第2階層の「改善(改善提案)」とは何か。

それは、目の前の今流れている仕事だけでなく、「やり方として手順が確立される」「治具や置き場所が作られる」などによって、今回の案件が終わった後も、次に別の案件が来ようとも流用・展開できる仕組みを作ることになります。

例えば、放電加工のオペレーターが、今のワークの加工中に、次のワークや使うクランプを先回りして準備し、機械の横に並べておく工夫をしたとします。そのための専用の置き場所を作ったり、台を工夫して自作したりした。これは第2階層(改善提案)です。

なぜなら、「今回の案件が終わった後も、未来の案件に効果が残り続ける仕組み」を確立したからです。

例え他工程の真似事であっても、過去にベテランが似たような手際をやっていたとしても、工程の新しいルールにしたのであれば立派な改善だと言えます。

現場リーダーへの警鐘:「仕組みの原石」を埋もれさせてはいけない

ここで、現場のリーダーや上司の方々に意識していただきたいことがあります。

部下から上がってきた提案に対し、主観のみで「それは日常業務(第1階層)だよ」と打ち返してしまうのは、思わぬ危険をはらんでいます。

その提案の中には、未来のためにノウハウ化して置いておくべき原石(第2階層になれるもの)が埋もれている可能性があります。

ベテランだったら「やってて当たり前」と処理している日常の手際の中にも、実は手順化すれば若手が劇的にラクになる原石が眠っているかもしれません。それを「個人の手際」としてスルーしてしまったり、「当たり前の業務」として却下したりすると、せっかくの知恵が組織全体に引き継がれず、属人化したまま消えていってしまいます。

属人化・・・改めて、よく聞く現場の課題ですよね。こういった改善提案にまつわるところにもその芽は潜んでいます。

だからこそ、リーダーの皆さんには「見極め、磨き上げる目」を持っていただきたいと思っています。

部下の提案や日々の工夫を見たときに、却下するだけでなく、「これは工夫次第で、他の案件にも展開できる仕組みに化けるのでは?」という視点をできるだけ持つことです。

残せるものはできるだけ第2階層(ノウハウ)へと磨き上げ、形にして現場に置いていく。このアプローチが属人化を防いでいく、強い現場を作るためのリーダーの重要な役割の一つだと言えます。

ここまでは、現場の足元を固め、技術を組織の資産にする「第1階層」と「第2階層」の境界線についてお話ししました。

ここからは、経営者が本当に熱望している「第3階層:イノベーション」との違いを見ていきたいと思います。

【第2階層と第3階層】「カタログショッピング」か「トレジャーハンティング」か

実は経営者が最も期待しているとも言える、「イノベーション(第3階層)」とは、これまでの改善の延長線上にはない、前提や構造をひっくり返すような「破壊的な変革」を指します。

「破壊」という言葉を使うのは、これまで現場で積み上げてきた日々の効率化(第1階層)や、仕組み化した改善(第2階層)を一旦きれいに崩してしまい、まったく別の方法でものづくりをすることになると思われるためです。

例えば、最近のこの業界の例で言うと、複数工程をまたいだ完全無人化の機械加工プロセスや、AI機能により人の手を介さずモデリングするCADや、同じくAIの機能により6割7割作業を削減できるCAMなどが該当するのではないでしょうか。

もうずいぶん前になりますが、タッチプローブを使って自動でワークの平行出しができるマシニングセンターの登場なども、ずっと前からこの業界で仕事をしているベテランの方からすれば、イノベーション的な機能だったのではないでしょうか。

この第2階層(改善)と第3階層(イノベーション)を分ける境界線は、インターネットや展示会で新しいネタを探しに行くときの「入り口(スタンス)」と「対象の性質」にあります。

  • 第2階層の探し方 = 『カタログショッピング』
    すでに世の中に答え(既成品)があることを前提に、「自社の今のやり方に当てはまる便利な道具やツール」を探しに行くスタンスです。ネットや機械工具展などで「この市販のクランプを使えば、今の段取りがもっと手堅くラクになる」と探しに行くのは、いわば安心できる「お買い物」です。
  • 第3階層の探し方 = 『トレジャーハンティング』
    プロセスの始まりは、外部の情報ではなく、まず社内の「もしこんなことができたら、うちの業界の常識が変わるのに」という、前提を無視した『妄想(問い)』から始まります。その問いを抱えた状態で、答えが世の中にあるかどうかも分からないけれど、「自社の前提をぶっ壊してくれる化け物のような技術」を、あわよくばの精神で「宝探し」をしに行くスタンスです。
    あるいは、全く逆のパターンもあります。日々の情報収集の最中に、偶然とんでもない破壊的技術に遭遇してしまうケースです。その出会いをきっかけに「待てよ、これを使ったら自社のあの常識を根本からひっくり返せる」と、これもまた形を変えたトレジャーハンティング(偶然の遭遇)と言えます。

情報を見る目は同じネットや展示会であっても、また、自ら問いを持って探すにせよ、偶然の出会いから火がつくにせよ、技術に向き合う「スタンス」がまったく異なります。

【第3階層の本分】「調査が本分、あわよくば」で十分です

しかし、皆さんもよくご存じのとおり、特にこうした「偶然の出会い」に興奮してしまったときほど注意が必要です。派手で破壊的な最新技術ほど、パッとおカネを払ってすぐに導入するのは危険なところもあります。

カタログの謳い文句がどれだけ素晴らしくても、いざ買って入れてみたら額面通りに動かない……というのは、最新技術の世界ではよくある現実だからです。

実際、過去に私のクライアント企業でも、鳴り物入りで注目されていたAI搭載のCAMの体験版を使ってみたところ、自社の加工とは噛み合わず、使えるNCプログラムが全く出力されなかったというリアルなトラブルがありました。

破壊的な技術であればあるほど、「そもそも本当に動くのか?」「我が社の現場にフィットするのか?」を疑い、検証するプロセスが絶対に欠かせません。

だからこそ、第3階層においては「すぐに費用対効果(成果)を求めてはいけない」という前提が極めて重要になります。

では、成果が出ないかもしれない活動に、なぜ会社としてリソースを割く必要があるのでしょうか。

それは、この活動の本当の価値が、単なる技術の導入成否ではなく、現場リーダーたちに、破壊的な外部の最新技術へ、日常からアンテナを張り、関心を持ってもらうための「強力な意識付け」にあるためです。

日々の忙しい現場作業や目先の改善だけに追われていると、どうしても視野が狭くなってきます。だからこそ、リーダーに対して「最初の1年は成果ゼロでもいい。自社に100%ハマる最高の仕組みが見つかれば儲けもの(あわよくば)という精神で、堂々とテストや情報収集をしてきて欲しい」と公式に背中を押します。

この「外の世界にアンテナを張る意識」を持たせること自体が、組織にとって価値の高い投資になります。仮に導入見送りという結論があったとしても、この調査プロセスを通じて「最先端の技術に関心を持ち、広い視野を獲得したリーダー」の経験は、必ず足元にある第2階層(日々の改善)の質を高める肥やしになって返ってきます。

第1階層という土台があるからこそ、次へ繋がる

ここまで、「日常業務の効率化(第1階層)」「改善(第2階層)」「イノベーション(第3階層)」という3つのモノサシを見てきました。

「これは業務なのか、それとも改善提案なのか」と、現場で不毛なすれ違いが起きたり、報奨金の査定で揉めたり、あるいは最新技術に飛びついて大金をドブに捨てる結果に、もしもなってしまっていたら、この3つの定義が曖昧だったのかもしれません。

ところで改めて、第1階層についてですが、「なんだ、他の案件に展開できる第2階層(改善)にならないなら、第1階層(日常業務の効率化)なんてやっても意味がないのか」とお思いでしたら、それは間違いです。

一品一様のものづくりが多いこの業界だからこそ、毎日異なる形状のワークに向き合い、「目の前の今の仕事を少しでも手際よく、要領よく回そう」とする日々の第1階層の取り組みは、工場の命綱として絶対に不可欠であり、常に意識し続ける必要があります。

例えば、過去の類似した案件を探してきて、その時の手順や治具、設計データなどを流用し、できるだけ楽をしようというのは、第1階層のよくある定石ですよね。

こうした初歩の積み重ねこそが、すべてのベースであり、現場の底力そのものです。

ただ、その「目の前のその場限りの工夫」を、次の別の案件や他の工程でも横断的に使い回せる「普遍的な技術や仕組み(第2階層)」へと引き上げるために、もう一段上の技能が必要になります。

そして、現場に埋もれているその原石を見極め、組織の資産となる仕組みへ格上げすることこそが、現場リーダーの大事な役割の一つです。

作業者が第1階層という尊い土台を意識し、時には「これって他の案件にも流用できる(第2階層化できる)かも?」という視点が思い浮かべば改善提案に乗せ、それをリーダーが一緒になって仕組みへと引き上げる。
さらに、日々の業務と並行して、限られた隙間時間で第3階層の未来へのアンテナを張る。

この3つの階層が社内の共通言語になったとき、現場の不毛なすれ違いは消え、次の世代へ確実に技術が繋がっていく、強い現場が作られていくと思います。

今回も参考になれば幸いです。

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金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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