その力量評価、現場の実態を映せていますか?当事務所が提唱する『総合力』を可視化する方法

その力量評価、現場の実態を映せていますか?当事務所が提唱する『総合力』を可視化する方法
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その力量評価、現場の実態を映せていますか?当事務所が提唱する『総合力』を可視化する方法

「うちの職場には、一通りの機械を扱え、図面も読める。それなのに、なぜか仕事が遅く、難しい案件を任せられない…。」

私がお手伝いをしている、金型メーカーや機械加工メーカーさんの経営者や管理者から、このようなご相談を受けることがあります。

個別のスキルを評価する従来型の「力量マトリックス」では、〇はたくさん付くのに、実際の成果と結びつかない。このギャップは、多くの現場が抱える共通の課題ではないでしょうか。

今回は、当事務所が提案する独自の力量マトリックスを例に、なぜ評価制度の導入が担当者の立場の違いによって全く異なる反応を生むのか、その深層にある「視点の違い」を解説します。

「何ができるか」と「どれだけ上手くできるか」を可視化する

従来の力量マトリックスが「できる/できない」のスキル有無を評価するのに対し、当事務所では「加工難易度(縦軸)」と「遂行能力レベル(横軸)」という2つの軸で、技術者の実力をより立体的に評価します。

  • 縦軸:加工難易度(Complexity)
    • どのようなレベルの仕事を担当できるか、仕事の「種類」と「複雑性」を評価します。(例:単純な穴あけ加工から、複雑な5軸加工まで)
      ポイントは、あくまで実態に即した評価を行うため、「社内で実際に取り扱っている案件」を基準に難易度を定義することです。
      例えば、「○○社の△△案件に含まれる□□部品の加工」といった具体的な表現を用います。実際に評価をするとき、「あの部品だったら彼は一人で全部加工出来そうかな? 一人全部出来るとして、かかる時間はベテランと比べてどのくらいかな?」といった具合で評価していきます。
  • 横軸:遂行能力レベル(Performance)
    • 担当業務を「いかに高いレベルで遂行できるか」を、品質・効率の観点から5段階で評価します。詳細は事例と共に後述します。

このマトリックスを使うことにより、「特定の機械が使える」「図面読解力がある」「工程を考えることが出来る」など個別項目のスキルだけではなく、「標準時間内で、安定した品質の製品を、自律的に生み出せるか」という、現場の成果に直結する総合力を可視化するのです。

加工難易度の事例(右に行くほど難易度高い)AIにて作成
マシニング加工の場合での「加工難易度」の例(右に行くほど難易度が高いイメージ)図はAIにて作成

「遂行能力レベル」5段階の定義

横軸の「遂行能力レベル」は、単なる習熟度ではありません。自律的に成果を生み出し、チームに貢献できるレベルかを測る重要な指標です。

次の指標は、マシニング加工の場合での一例です。

  • レベル1:基礎レベル (Foundation)
    • 品質 (正確性): リーダーや先輩の補助を受けながら、作業を完了することができる段階。
    • 効率 (スピード): 安全確認や手順の理解、上司・先輩への相談などの時間を必要とするため、実務作業以外にも大きく時間がとられる。
  • レベル2:準一人前(Associate)
    • 品質 (正確性): 基本的には一人で作業を完結できる。案件によっては、最終的な仕上がりにリーダーの確認が必要なときがある。
    • 効率 (スピード): 一人で作業を実施、完結できるが、標準時間の120%以上、作業時間がオーバーする。
  • レベル3:標準 (Performer)
    • 品質 (正確性): 単独で作業を任せても、常に安定した品質(公差内、要求仕様通り)の製品をアウトプットできる。
    • 効率 (スピード): 設定された標準時間通りに、作業を完了することができる。ここが一人前の基準点となる。
  • レベル4:熟練 (Skilled)
    • 品質 (正確性): 高い集中力と技術力により、長期間にわたって不良ゼロを維持できる。加工中の予期せぬトラブルにも柔軟に対応し、応急処置や再発防止策の立案も可能。
    • 効率 (スピード): 段取り方法、工具選定、加工条件などの工夫により、標準時間より常に20%程度短縮して作業を完了できる。
  • レベル5:エキスパート (Expert)
    • 自身の経験を活かし、ミスが発生しにくい作業手順を考案することで、品質保証の仕組みを構築できる。また、考案した改善策をチームメンバーへ展開し、組織全体の品質向上に貢献できる。
    • 効率 (スピード): 単品加工においては、レベル4と同等以上の効率性を発揮できる。さらに、多数個取りなど複合的な知識とスキルを要する工程においても、生産性向上に寄与する改善を実現できる。

「できるはず」と「成果を出せる」のギャップが浮き彫りに

さて、実際に当事務所流の力量マトリックスを運用してみると、その実態として、理想的な成長曲線とは異なる現実が見えてくることが多々あります。

実際に運用してみた結果の事例(前述した表から変化している)

例えば、上図にあるように、長年ベテランとして活躍してきた社員。経験が豊富なため難易度の高い仕事を任されてはいるものの、その遂行レベルを測るとレベル2、つまり「いつまで経っても標準時間内に終わらないことが多い」という状況が可視化されることがあります。

あるいは、在籍5年以上の中堅社員。しかし、担当業務を詳しく見ると、普段は加工難易度Aの簡単な仕事ばかりで、実は複雑な仕事の経験がほとんどない、という実態が可視化されるのです。

もちろん、この二人は従来の個別スキルの力量マトリックスでは、ほとんどの項目に〇がついています。それどころか、ベテラン社員の方は「◎(指導もできるレベル)」と評価されていることさえあります。

この「できるはず」という評価と、「成果を出せる」という現実のギャップこそ、多くの現場が抱える根深い課題と言えるのではないでしょうか。

評価制度導入時の「温度差」:2つの事例

この評価制度を、ある企業に提案した際、担当者の立場の違いによって、興味深いほど明確な「温度差」が見られました。

事例A:評価を「内側」から見る担当者の場合

ある部署で、評価制度の導入担当となったのは、現場のオペレーションも兼務するベテラン社員の方でした。従来の個別スキル評価ではそれなりに高い評価を得ていた方です。

しかし、当事務所がご紹介した新しいマトリックスで現状を分析すると、この方ご本人が、担当できる仕事の難易度や効率面で、想定よりも低いレベルに位置付けられることが明らかになりました。

その結果、この方は新しい評価制度の意義を理解しつつも、ご自身の評価が相対的に下がってしまうことを懸念し、導入に対して慎重な姿勢を見せました。

これは、評価を「今の自分の立ち位置を確認するもの」と捉える、いわば「内側からの視点」と言えると思います。

事例B:評価を「外側」から見る管理者の場合

一方、別の企業で部署を統括する管理者に同じ提案をしたところ、「これだ!」と非常に前向きな反応をいただきました。

その管理者の方が抱えていたのは、「一通りのスキルは身につけているはずなのに、なぜか生産性が上がらない中堅社員」の育成でした。

このマトリックスを使うことで、彼らの課題が「遂行能力レベル(特に効率)」にあることを定量的に示し、具体的な成長目標(伸びしろ)を設定できると喜んでいただけたのです。

これは、評価を「チームの未来を創るためのツール」と捉える、「外側からの視点」だと言えます。

「教えてもらう待ち」から「自ら解決する」風土へ

先ほどまで出てきた、個別スキルと当事務所でご紹介した、2つそれぞれのマトリックスによる評価手法には、もう一つ大きな違いがあります。それは、技術者の意識に対する影響です。

従来の個別スキルの力量マトリックスでは、まだ出来ていないスキルがあった場合、それは「まだ上司や先輩から教えてもらっていないから」という外的な要因(外因)に意識が向きがちです。

一方、当事務所流の力量マトリックスで評価する「総合力」は、前提となる基礎的な操作スキルは既に教わっているケースがほとんどです。その上で「なぜこの仕事が時間内に、高い品質でできないのか?」を問うため、技術者は自分自身の工夫や問題解決能力といった内的な要因(内因)と向き合わざるを得なくなります。

これは、技術者一人ひとりの当事者意識を高め、自ら考えて仕事を進める「自立性」を促す、非常に重要な効果ももたらすと思っています。

あなたは「今」を見ていますか? それとも「未来」を見ていますか?

前述した2つの事例から見えてくるのは、評価制度に対する当事者の「視点」の違いです。

  • 内側からの視点(作業者・担当者): 「今」の自分の評価がどうなるかを気にする。
  • 外側からの視点(管理者): 「未来」の組織力向上や部下の成長に目を向ける。

もちろん、ご自身の評価が気になるのは当然のことです。しかし、本来、力量評価とは、個人の成長を促し、チーム全体の生産性を高め、少し大袈裟な言い方をすれば、会社の未来を創るために行うものだと言えます。

多くの企業では、ISO9001の品質マニュアルに基づき、力量マトリックスを運用しています。しかし、その評価が現場の実態と乖離しているというご相談を頻繁にいただきます。認証取得を目的とした「できる/できない」のチェック表だけでは、今回ご紹介したような現場のリアルな課題には対応できないと考えています。

実務での成果に直結する「総合力」を正しく評価し、社員一人ひとりの「伸びしろ」を可視化する。それこそが、これからの時代に求められる人材育成の第一歩ではないでしょうか。

御社の力量マトリックスは、社員の「今」と「未来」、どちらを向いていますか?この機会に一度、見直してみるのはいかがでしょうか。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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