【改訂版】令和の現場リーダー像:かつての鬼軍曹はなぜ成果を出せたのか?
はじめに
私は金型・部品加工業専門のコンサルタントとして、多くの金型メーカーや機械加工メーカーを見てきましたが、そうした中、多くの会社で「かつての鬼軍曹が仕切っていたときは、とても効率的で出来高を多く上げられていた」という話を耳にします。
コンプライアンスやパワハラ意識の高まり、リーダーシップに対する考え方の変化など、様々な理由が考えられますが、かつてのような「鬼軍曹」タイプのリーダーは減少しているようです。
そこで今回は、私が考える「鬼軍曹」リーダーの定義、鬼軍曹リーダーが成果を上げていた理由、そして令和の時代に求められるリーダー像について考察し、金型メーカーや機械加工メーカーにおける管理者教育のヒントとなるような内容をお伝えしたいと思います。
「鬼軍曹」リーダーとは?
私が考える「鬼軍曹」リーダーとは、部下からのボトムアップの意見や自主的な判断を求めず、有無を言わさず自分の指示に強制的に従わせるスタイルで、全員ではないですが、現場で自らもモノづくりをしながら、都度部下に次の仕事の指示をしていくマネジメントです。
これは、最終的な目標を部下に示し、具体的な指示は最小限に留めて、部下の自主性を尊重するような現代的なマネジメントとは真逆のスタイルを指します。
理想を言えば、高いカリスマ性によって部下から尊敬と畏怖の念を持たれ、強固な指揮命令系統を確立している人なら、なお望ましいと思います。
鬼軍曹リーダーが成果を上げていた理由
かつての鬼軍曹リーダーが成果を上げていた理由は、主に以下の3つが考えられます。
- 絶対的なトップダウンによる統率力 鬼軍曹リーダーは、部下に一切の異論を挟ませません。そのカリスマ性や(時には恐怖による)強制力をもって「有無を言わさず従わせる」ことで、部下はリーダーの指示を忠実に実行し、迷いなく作業に集中できました。これが結果として高い成果に繋がったと思っています。
- 現場での圧倒的な経験と知識 鬼軍曹リーダーは、自らも現場で誰よりも仕事ができるため、現場の状況を深く理解し、的確な指示を出すことができます。その指示は絶対であり、部下は「あの人が言うなら間違いない」と従うしかありません。結局、自分自身でモノづくりを行っているため、仮に的を外した指示をしてしまうと自らの首を絞めることになり、最適な指示を出さざるを得なくなります。
- 思考・判断のプロセスを部下に求めない効率性 部下に自主性やボトムアップの意見を求めないということは、裏を返せば「部下は言われたことだけをやればよい」状態を作るということになります。部下が「次は何をすべきか」と考える時間をゼロにし、リーダーの指示通りに動くことだけに集中させたため、極めて高い作業効率と生産性を実現できたと考えられます。
令和の時代に求められるリーダー像
しかし、現代社会においては皆さんご存じのとおり、単にカリスマ性や経験・知識だけで、部下や後輩が自ら必死に食らいついてきて、高い成果を上げられるという時代ではありません。
令和の時代におけるリーダーには、以下の要素が求められると思います。
- コミュニケーション能力 これについては、もはや月並みかもしれませんが、部下とのコミュニケーションを上司の側から積極的に取っていき、互いを尊重し合い、信頼関係を築くことが重要です。
- 協調性 チームワークを重視した指揮で、部下と協調し、組織としての目標達成を目指すことが重要です。
- 柔軟性 変化の激しい現代社会においては、変化に対応し、技術面においても職場環境(働き方)においても、柔軟に対応できるリーダーシップが必要になります。
令和の鬼軍曹とは?
では令和の時代において、まだ「鬼軍曹」リーダーが存在していけるのだとすれば、それはどのような人物なのでしょうか?
ここで、ある企業の2人の現場リーダーの事例を見ていきたいと思います。
- Aさん:仕事のできる職人タイプ
Aさんは、社内で1、2を争う仕事ができる人ですが、黙々と一人で仕事をこなし、自らの本業を優先するため、消耗品の管理など、実務以外の雑用は部下や後輩に任せています。また、5Sや仕事のやり方について正論を強い口調でかざすため、よく社内で対人関係のトラブルを起こしています。 - Bさん:高い生産性とチームワークを両立するリーダー
Bさんは、Aさんと同じくとても生産性の高い人ですが、実務以外の雑用も他の後輩たちと同じようにこなし、それでいて実務の仕事も多くこなしています(残業臨出が多いのが望ましいことかもしれませんが・・・)。さらに社内で一番難しい仕事を率先してやりたがり、部下や後輩に積極的に声をかけ、質問や相談にも親身に答えてくれます。
令和の鬼軍曹とはBさんのようなリーダー
Aさんは、高い技術力とスキルを持っていますが、コミュニケーションや協調性に欠けており、いかに技術面で突出していても、そのカリスマ性だけでは部下から慕われておらず、令和の時代に適したリーダーとは言い難いところがあります。
一方、Bさんは高い技術力とスキルを持ちながらも、コミュニケーションや協調性に優れており(本人は意識していないようですが)、普段から部下に感謝されていることで、Bさんからの作業指示にも反発なく従ってくれているようです。
このように、令和の鬼軍曹リーダーとは、単に厳しい指導を行うだけでなく、部下と同じ目線でコミュニケーションを取っていく、平等性に配慮し、チームでの成果を重視するリーダーであると言えるでしょう。
この「同じ目線」で、統率を取っていく点が、かつての鬼軍曹と令和版との違いではないでしょうか。
金型メーカーや機械加工メーカーにおける管理者教育
この事例を踏まえ、金型メーカーや機械加工メーカーにおける、令和の時代に適すると思われる管理者教育については、以下の点を意識することが重要だと思います。
- 部下の感謝に繋がる、きめ細かなコミュニケーション能力
- 部下や後輩からの尊敬や畏怖の念を持たれる、何か尖ったスキルを持つこと
- かつての鬼軍曹スタイルの長所を残しつつ、権利を重んじる現代人にも配慮出来るマネジメント能力
まとめ
かつての「鬼軍曹」リーダーは、カリスマ性や経験・知識によって部下を統率し、高い成果を上げていた人が多かったと思います。
しかし、現代の金型メーカーや機械加工メーカーの現場においては、単に厳しい指導を行うだけでなく、部下と「同じ目線」でのコミュニケーションが取れる、協調性を重視した、チームワークを重視するリーダーが、成功しているように思います。
令和に適した鬼軍曹リーダーとは、先ほどのBさんのようなリーダーであり、高い技術力とスキルを持ちながらも、若手や部下に混じった自然なコミュニケーションをとり、部下から感謝されるようなサポートをしていくことで、結果、知識や技術面でも尊敬されるようなリーダーであると言えるでしょう。
そういった意味では、もはや「鬼」ではないソフトタイプの「軍曹」になりますね。タイトルと少し意味がずれてしまい申し訳ありません。
逆にある意味、先ほど事例に挙がったA さんが、かつての鬼軍曹タイプのリーダーだと言えるかもしれません。ただし、Aさんは実務以外の雑用を部下に押し付け、自分の実務仕事に集中していた感があります。その点では、組織全体のオペレーションまでを完全なトップダウンで管理していた、いにしえの鬼軍曹とは少し異なるかもしれません。
ですが、いずれにせよ権利にしっかり守られた今の労働者に(Aさんのようなスタイルが)通用しないのは、皆さんご存じのとおりです。
金型メーカーや機械加工メーカーにおける管理者教育では、自然なコミュニケーション能力、部下や後輩からの尊敬や畏怖の念を持たれる何か尖ったスキル、かつての鬼軍曹スタイルの長所を残しつつ、現代人向けのマネジメントにも配慮出来る管理能力、などを育成していくことが重要だと思います。
働き方改革が叫ばれる現代においては、仲良しクラブのマネジメントが望ましいと思われる場面もありますが、やはり生産性を求めるならば、無理のない程度に鬼軍曹マネジメントも取り入れたいところです。
そのためには、部下が指揮命令を聞いてくれる下地をいかに構築していくかが、令和の時代の現場には必要だと思います。
このコラムが、金型メーカーや機械加工メーカーにおけるリーダー育成の一助になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054