マニュアルには書かれない「基本」の重要性
ベテラン不在の現場で起きた出来事
ある知り合いの会社で、少し考えさせられる出来事がありました。
その会社では社長とベテラン社員の折り合いが悪くなり、特にマシニング工程のベテランオペレーターが全員、順番に辞めてしまいました。
その会社の社長は、量産部門にいた機械加工未経験の外国人社員をマシニングオペレーターに急遽抜擢しました。辞める社員からの引継ぎを経て「まず自分(社長)が操作を覚え、自分が彼(外国人社員)に教える」と宣言されました。
そのような状況の中、未経験で言葉もほとんど通じない外国人の方がオペレーターになるため、原点出しなど段取り操作をできる限り自動化したいので手伝ってほしいと相談を受け、私は久しぶりにその会社の現場で作業をお手伝いすることになりました。
現場で感じた「強烈な違和感」
現場で社長と一緒に機械を触り始めてすぐ、私は社長自身の行動に幾つか違和感を覚えました。
- 私が機械を操作している最中に、横から別のボタンを押してくる
- 私が操作盤に数値などを入力し終わると、再確認する前に保存ボタンを押そうとしてくる
- 私がバイスを締めていると、横から樹脂ハンマーでワークを叩いてくる
- 切り屑を綺麗に除去しないまま、ワークをバイスに挟んで締め付けている
- 機械に数値を入力した後、内容を再確認せずいきなり「保存」を押して閉じる
- バイスを締めた後、樹脂ハンマーで敷板の無いところを思いきり振りかぶって叩く
社長がこれから人に教えようとしているその動作を見た瞬間、私は「これは先が長いぞ……というか、作業手順以前の“基本中の基本”、いや“基本以前のもっと根本の部分”が抜けている」と感じました。
例えるなら、社会人になったときに求められる挨拶や基本的なマナーのような、当たり前に身につけておくべき基礎動作のレベル。
料理の世界で言えば、コンロの正しい使い方や危ないからやってはいけないこと、野菜の正しい洗い方といったような、普段料理をしない人ほど無意識に抜け落ちやすい細部の手順に近いものです。
こうした細やかな配慮や下処理が抜けたまま作業を進めれば、安全面を脅かしたり、大きな操作ミスにつながることは容易に想像できます。
ベテラン社員の「本当の価値」はどこにあるのか
この社長自身、こうした「水面下にある細部への配慮や技術」を軽んじていたからこそ、ベテラン社員の本当の価値が分からなかったのだと思います。
表面に見えている「機械のボタンを押して動かす」というオペレーションしか意識がいかなければ、「ベテランは普段それほど大したことをしていないのでは」と錯覚してしまうのかもしれません。
私自身が現役のオペレーターだった頃は、前述した社長の行動について、上司や先輩から口酸っぱく注意を受けました。
- 数値を入力したら、必ずもう一度念入りに指差し呼称で再確認する
- 他人が作業をしている横から不用意に手をださない
- ワークを樹脂ハンマーで叩くときは、敷板の上を止めるように叩く
- ワークをバイスに挟む時は、切り屑を綺麗に拭き取る(「舌で舐められるくらい綺麗に」と例えて教わったものです)
一見すると当たり前に思えるこうした細部へのこだわりや気配りこそが、技術者が持つ「熟練技能」の基礎部分であり、現場を支える最大の強みだと思います。
長年の経験と研鑽によって磨かれた、細やかな配慮を自然にこなす技術者たちの存在は、本当に素晴らしく敬意を払うべき価値があります。
こうした配慮については、特に前半の2つについては、わざわざ作業マニュアルに書かれていないかもしれません。そうした場合日々の現場で、先輩からの「小言」や指導を通じて身体に染み込ませていくものだと思います。
しかし、その会社には社長にそのような「小言」を言える人がおらず、新しく入った外国人社員にも基本が伝わらないまま作業が進んでいく――。こうして会社の技術や現場力は衰退していくのだと、目の前の事例を見て感じました。
「パワハラ」を恐れすぎて基本を諦めていませんか
昨今、パワハラ防止意識の高まりから、部下や後輩への注意や「小言」を言うことに消極的になっている上司や現場リーダーの方々が増えています。
しかし、今回挙げたような安全面や操作間違いを防ぐための指導は、単なる嫌がらせや理不尽な「小言」ではなく、業務上不可欠な「正しい注意・指導」です。当然ながらパワハラには該当しません。
手順書やマニュアルを揃えることも大切ですが、その前提には細部への配慮・確認といった、基本動作と現場の文化が存在します。
基本中の基本という土台があって初めて、作業手順(マニュアル)が活きると思います。
おわりに
自社の現場で、
- マニュアル通りにやっているのにポカミスやトラブルが減らない
- 技術が継承されていない気がする
と感じることがあれば、「手順の水面下にある基本動作や現場文化」が、無視されていたり軽視されていないか、一度確認してみるのはどうでしょうか。
細部に至る技能を持つ技術者へのリスペクトを忘れず、またパワハラを恐れて細かな指導を遠慮してしまうでもなく、安全や品質を守るための、正しい注意や小言をきちんと言える「現場文化」を取り戻す。
当たり前のような基本動作を大切にした、適切な指導を守る文化を維持していくことが、結果として自社の技術力を守り、強固な現場をつくる基盤になると思います。
御社の現場はいかがでしょうか。参考になれば幸いです。
金型・部品加工業専門コンサルティングからのご案内
ホームページの技術コラム本の第10巻が発売されました!

設計部署や製造現場、管理部署にぜひ一冊。
経営者や部長などマネージャー職の方々から、悩める現場リーダーへのプレゼントにも最適です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【動画セミナーDL販売】現場リーダーのための「稼ぐ力」養成講座
大手セミナー会社向けに制作したコンテンツを、安価に一般販売いたします。
金型・機械加工など単品・小ロット品加工の「現場リーダー」向けの動画セミナーです。

- 教材構成:約300ページ分のスライド資料をもとに制作された解説動画
- 学習時間:動画+演習で約6時間(367分)
- 目的:現場リーダーが 数字に強くなり、成果を見える化できる力を養うこと
- 特徴:目標管理・不具合対策を中心に実務直結のスキルを習得
- 形式:動画(mp4)+PDF資料
- 割引:通常価格50,000円 → セット購入で50%OFF:25,000円(税込)
【改善・管理の上級編】セミナー動画が発売中です【お得なDL版あります】

過去に大手セミナー会場で、代表コンサルタントが講師として登壇した内容をZOOMで再収録しました。
内容は、加工や管理における上級コースとなります(基礎知識はすでに持っておられる方向けになります)
動画セミナーですので、いつでも何人でも受講でき、長時間一気に受講する必要もありません。隙間時間を有効に使って受講できます。
お買い求めしやすいダウンロード版もございます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【書籍販売中です】経営が厳しい金型メーカーのための本
このホームページに掲載している多くの技術・管理コラムから、経営が厳しい金型メーカーのために、大きな投資に頼らず、意識面や仕事の取り組み方などから改善改革していける方策に関するコラムを集めた本をつくりました。
こちらの書籍を販売しております。内容は、366ページの大ボリュームとなっております。

ぜひ社員の皆さまで読んでいただければと思います。また、金型メーカーを支援される金融機関や公的機関、会計事務所やコンサル会社でお勤めの方々にも、読んでいただければ幸いです。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
YouTubeを使った上級セミナーを配信中です

金型メーカー・部品加工メーカーにおける、個別テーマの上級セミナーを配信しております。
YouTubeによる動画配信ですので、ネット環境があればいつでもどこでも視聴できます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための管理職育成マニュアル」発売中です

当サイトの管理職育成ルームに掲載しているコラムを集めて編集したものになります。
金型メーカーや機械加工メーカーで、新たに管理職になられる方や、すでに管理職としてお仕事をされている方向けに、ストーリー形式で、心構えから具体的に取り組む業務内容まで、幅広くまとめております。
くわしくは、こちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・部品加工メーカーにおける処世術」が発売中です
こちらの書籍は、金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、国内全体で賃上げの機運が高まる中、勤める会社に貢献しながらも、ご自身の付加価値・市場価値を高めていこうとされる方々の一助になるような内容をお届けすることを目的としています。

「処世術」をテーマにした一般書籍はたくさんありますが、主にホワイトカラー向けのものが多く、金型メーカーや部品加工メーカーのお仕事ですぐに使えるものが少ないと思っています。
一方この本では、金型メーカーや部品加工メーカーの現場「あるある」を題材にしており、そこでお仕事をされる方々に身近なわかりやすい内容にしております。
簡単なワークも掲載していますので、社内研修にもお使いいただけます。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための自己診断ハンドブック」が発売されました!

私がコンサルティングの初回訪問時や、無料診断サービスにおいて、訪問先企業の製造現場で確認する項目を解析付きで紹介しています。
金型メーカーや部品加工メーカーに皆さまに、自社をセルフチェック(自己診断)するために使っていただければと思っております。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
2パターンの技術セミナーレジュメを販売いたします

日刊工業新聞社さん主催で行われた、機械加工メーカー向け、金型メーカー向け、それぞれの技術セミナーで配布されたレジュメを販売いたします。どうしても遠方で参加できないといった方や会社さまより、レジュメだけでも使いたいとリクエストがあったためです。
当事務所のホームページに掲載されているコラムの内容がベースとなっておりますが、それとの違いとしては、具体的計算と事例ワークなどを盛り込み、ホームページよりも手厚く解説しております。
本来レジュメと言いますと、図やイラストがほとんどで、言葉による文章が入っていないイメージがありますが、本レジュメはそうではなく、復習がしやすいよう、多くが文章で構成されており、1人で読み進めることができます。
くわしくはこちらのページからどうぞ
ミドルマネジメント層向け人材育成セミナーのレジュメを販売いたします

ミドルマネジメントの人材育成のテーマで、講演をさせていただいた際に作成したレジュメ(当日映写したパワーポイントファイルと同じものです)を販売いたします。
日程や生産管理、品質管理だけが幹部・管理職の仕事ではありません。儲けるためのマネジメントが必要です。
そういった視点や意識を持ってもらうためのきっかけとしてオススメの一冊です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
4コマ漫画ギャラリーを開設しました
コラムページにプロローグとして添付している4コマ漫画を集めたページを開設しました。

こちらをクリックすると入れます

コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
