研修レポート:高度ポリテクセンター「金型の鏡面磨き技法」
私の23年間の現役生活の中で、金型磨きは相当作業しましたが、体系的に正しいやり方というものを、公的に学習したことがなかったので、今回、3日間に渡り、千葉県の高度ポリテクセンターにて、「金型の鏡面磨き技法」という講習を受講してきました。
3日間の中で、いろいろと学ぶことはありましたが、座学はほとんどなく、基本的に実技が90%を占めており、実践の中で手を動かし、体で覚えることを重視した内容でしたので、今回私の記憶をまとめておく意味でも、研修での磨き工程の流れと、各工程ごとのポイントなどをまとめてみたいと思います。
全体の流れ
今回受講した、3日間の鏡面磨き工程は、次のとおりです。
(1)砥石研磨工程
- #600
- #800
- #1000
(2)ダイヤモンドペースト研磨工程
- #600
- #800
- #1000
- #2000
- #3000
- #5000
- #8000
今回ポリテクセンターで受講できる、一つのメリットでもあるのですが、上記の各番定の最後に、高精度な海外メーカー製の表面粗さ測定機で、表面性状を計測してもらえます。
これにより、定量的に、各番定を終えるときの面粗さを、数値で知ることができます。
具体的な流れ
ワークサイズは60×60×15ミリで、素材はウッデホルム社STARVAX材で、硬度はHRC31~35です。磨きのスタートの状態は、φ6ラジアスエンドミルで、複数の軌跡を一方向仕上げで走ってあるフライス目です。その表面粗さは、Ra0.2a相当でした。
1. 砥石:#600
まずは、フライス目を除去する平滑加工からスタートです。
・使用する道具
砥石:株式会社Misumi スティック砥石 EXSCシリーズ
研磨油:株式会社Misumi 仕上加工用研削オイル (BCUT)
まずは、スポイドを使って研磨油をワークに2、3滴つけ、下図のように、砥石をわずかな力で回しながら、ワークに馴染ませます。
次は、いよいよ磨き作業の開始になります。
今回のサイズのワークの場合でしたら、下図のように、Y方向を3つのエリアに分けて、ストロークが長くならないように磨きます。これにより、ワークの中で、磨く力のバラツキが起こらないようにします。
磨きについては、削れていることを手に感じながら、とにかく今表面に残っているフライス目に対し、「直角」に磨きます。簡単なようですが、私が見たところ、今回の参加受講生は12名いましたが、多くの方が、それができておらず、指摘を受けていました。
なぜ、意識して直角にストロークしないといけないか、ですが、次の#800は、今磨いている#600の磨き傷に対し直角に磨きますが、このように、各番定が変わるたびに、直角に方向を変えながら磨いていくと、今磨いている前の番定の磨き傷が残っていることを見つけやすくなります。
基本的に、番定の#番号が大きくなるほど、砥石の目がきめ細かくなり、削れる深さは浅くなっていきます。したがって、前の番定でつけてしまった深いキズを、後の番定で除去することは大変なことであり、不効率な作業になります。
さて、3つのエリアに区切り、磨きを行なっていくわけですが、途中で、油をきらせると、オレンジピールと呼ばれる焼けの原因になるので、気をつけなければいけません。
焦らず、油分が無くなってきたと感じたら、再度、スポイドで2,3滴、塗布し、再び砥石で回しながら、なじませます。
このように磨いていると、徐々に手の感触として、削れていないことを実感できると思います。実際に粉も出てこなくなります。そうなったら、次の番定に移る頃合いです。時間として、15~20分を2セットほど行います。
そうしたら、次の番定に移るための測定・検査を行ないますが、その前に、磨いた表面全体を再度、力を抜いて磨きなおし、表面を慣らす磨きをしました。
具体的には、押さえるほどの力をかけず、全体を磨きなおします。このとき講師の先生は、直線のストロークではなく、ランダムな軌跡で磨いてよいと言っておりましたが、私はその勇気はなく、引き続き、直線の往復動作で磨きましたが、特に問題はなかったようです。時間にして、10~15分ほど磨きます。
磨き終われば、表面性状の測定・検査のために、水洗いをします。ただし、水洗いだけでは、微細な溝の間に入ったスケール(削った粉)は完全には出てきません。そこで、コンタクトレンズなどの洗浄で用いる超音波洗浄機を使って、ワークを3分間、洗浄します。
こうして洗浄したワークを、①ルーペによる確認と、②表面粗さ測定機により、表面性状を確認します。
まず、ルーペによる確認では、今磨いた番定によって深い傷が出来ていないか、また、前の番定(ここではフライス目)の傷が残っていないかを確認します。ルーペは、10倍のものを支給して、貸してくれました。
特に、磨きにくい真ん中以外が要注意です。これは、この後のダイヤモンドペーストも同様ですが、真ん中が磨きやすく、また自分の手を良く見ているとわかるのですが、真ん中は軌跡として何回も通過するので、真ん中は磨く割合が多くなります。
その結果、真ん中ばかりが磨かれて、その周りは磨き不足になりやすくなります。これを防ぐには、意図的に真ん中以外のストロークを増やしてやるとちょうどいいです。
私は、周辺2:真ん中1、の意識で磨きました。
ルーペによる確認で問題なければ、講師の先生に診てもらいます。そこで、先生は、エタノールをカット綿に含ませ、ワーク表面を拭き取ります。そうすると、水洗いのうえ、超音波洗浄機で洗ったワーク表面であっても、まだそのカット綿は黒く汚れます。
このように、磨き傷の間に入ったスケールは、細かいため、傷の奥の奥にまで入っています。ですので、正確に今の番定の磨き後の表面性状を確認する場合には、エタノールで洗浄するのがよさそうです。
なお、まだ後の工程ですが、ダイヤモンドペーストによる磨きの後は、磨いて出る粉が、さらに細かくなるため、超音波洗浄機による洗いでは、ほとんど洗浄効果がなくなるので、水洗いのあとは、このエタノールを含んだカット綿で拭くだけの洗浄になります。
さて、講師の先生による確認の後は、センターの測定機を使って表面粗さの測定になります。そこでは、受講生全員の測定結果による平均値、また毎年受講される受講生さんの前年までの平均値と比較してくれます。
この番定の平均粗さは、算術平均粗さでは、およそ0.42aでした。
もし、平均の表面粗さ値に達していなかったり、深い傷が残っているようなら、再度、#600のスティック砥石を使って、これまでと同様の手順で磨きます。このときの注意点としては、深い傷があるからといって、同じ箇所ばかりを念入りに磨いていると、せっかく前加工のフライス加工で表面の平面度を確保しているのに、それが崩れてしまいます。
したがって、特定のところばかりを磨かずに、深い傷の箇所が消えるまで、全体を均一に磨きます。
私の場合は問題ないとのことでしたので、次の番定に移ることになりました。
なお、作業場では、新聞紙が複数枚重ねてひいてあり、番定を上げるごとに、一枚ずつめくって使えるようになっていました。その意義は、番定を上げるときに、今の粗い番定の磨き傷が、次の細かな番定の砥石に付着し、深い磨き傷をつけてはいけないためです。徹底的に周辺の作業環境をきれいにします。これは、自分の手も同じことで、必ず水洗いをして、今の番定の粉を、後に残さないようにします。
このように、今回の講習では、とにかく作業環境をきれいにすることを言われました。
② 砥石:#800
・使用する道具
砥石:株式会社Misumi スティック砥石 EXSCシリーズ
研磨油:株式会社Misumi 仕上加工用研削オイル (BCUT)
次の#800のスティック砥石に移ります。ここでの注意点は、必ず、前の番定の#600の砥石を隔離し、間違えて使わないようにすることです。
それと、前の番定で使った研磨油を塗布するスポイドですが、ワークに先端を触れないようにすることでした。もし、触れてしまうと、磨き粉が付着する可能性があるので、別のスポイドを使うようにします。
さて、磨き作業ですが、基本的には、#600と同じです。3つのエリアに分けて磨き、ストロークが長くなりすぎないようにします。研磨油を含ませ、磨きに入ります。
#600のときと同様に、ここでは、#600の磨き方向に対し、きっちり直角方向で磨きます。そのため、下の写真のように目印として、ワークの側面には、ポンチ痕をつけておりました。
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