働き方トレンド用語から読み解く、金型・部品加工現場の課題と解決策
今回は、少し趣向を変えて、世間の働き方のトレンドについて書いてみたいと思います。
先日、コクヨ株式会社が発表した「働き方用語辞典」のトレンドランキング(2025年7~12月集計)を目にする機会がありました。そのランキングの上位10個は以下の通りです。
【「働き方用語辞典」ランキング(出所:コクヨ)】
1位:ガスライティング 2位:ホワイトハラスメント 3位:Y2K 4位:パープル企業 5位:デスマーチ 6位:バイオフィリックデザイン 7位:確認会話 8位:インシビリティ 9位:確証バイアス 10位:リブランディング
そこには「ガスライティング」や「パープル企業」など、横文字の新しい言葉が並んでいました。
一見すると、金型メーカーや部品加工メーカーといった製造現場には関係のない言葉のように思えるかもしれません。
しかし、言葉の定義をよく見ていくと、「これって、この業界の現場でも普通に起きている問題じゃないか?」と、思わされるものがいくつかありました。
そこで今回は私自身の備忘録も兼ねて、この10個のトレンド用語を入り口とし、直接本当の意味とは違うかもしれませんが、過去の私のコラムで触れてきた現場エピソードと掛け合わせ、そこで書いていた問題点と解決の方向性と合わせてみていきたいと思います。
1. ガスライティング(相手を精神的に追い詰める言動)
相手を精神的に追い詰める言動や行為を指す言葉です。
私の過去のコラムでは、製造現場での指導において、事前のルール設定や教育がないまま「そんなの常識だろ!」と強く叱責する、いわば「後出しジャンケン」のような指導が横行している事例を取り上げました。
例えば、バリ取りのルールを決めていないにもかかわらず、「バリを取るのは当たり前だ!」と叱るようなケースがあり、これは部下にとって過大な要求となり、パワハラや精神的な追い詰めにつながりかねないというエピソードでした。
こうした“ルールの不在”が原因で生じる不公平な叱責を防ぐために、私のコラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
その内容としては、「やってはいけないこと」や「やらなければいけないこと」を事前にルール化しておくこと。さらに、加工直前の『関所』や、手順・あるべき状態・急所を押さえた『作業標準』をしっかり整備し、それを周知した上で適切な指導を行うべきである、というものでした。
2. ホワイトハラスメント(過剰に配慮しすぎて適切な指導をせず、成長機会を奪うこと)
若手や部下に嫌われるのを恐れ、過剰に配慮しすぎて適切な指導をせず、結果的に成長機会を奪ってしまうことを指す言葉です。
私の過去のコラムでは、「面倒くさい」という理由でダミー面作成など手間のかかるCAM操作を学ぶことを拒否した若手に対し、厳しい指導を避けた結果、決まったテンプレートでしかデータが作れない“スキルの薄い人材”になってしまった事例を取り上げました。
つまり、本人を自由気ままにさせすぎたことで、現場で求められる応用力が全く身につかなかったというケースです。
こうした問題に対して、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
大前提としては、標準化された手順を教える「ホワイトリスト方式の教育」を徹底すること。しかし、それだけでは応用力や創造力は育ちませんので、失敗を許容する「環境」と「遊び」の要素をどう組み込むかが重要になる、という視点を提示しました。
この点を説明するために、過去のコラムでは子供の育て方の例を挙げました。
「多少のケガをするのは承知で公園で自由に遊ばせるのか、ばい菌が入ったら危ないので家の中でゲームをさせておくのが安全なのか。それは親の判断一つ。」
失敗を恐れて過剰に守りすぎる環境では、柔軟な力は育たないという比喩です。
さらに別のコラムでは、ある設備メーカーの会長が、現役を退いた後も自宅の壊れた排水口の部品を自らCADやCAMで作り、楽しみながら加工していたエピソードを紹介しました。
普段の仕事とは異なる“遊び”のような加工に挑戦できるワクワク感こそが、モノづくりの醍醐味であり、成長の原動力になるという視点です。
つまり、嫌われることを恐れて腫れ物のように扱うのではなく、あえて定量的な目標を課して課題を生み出しつつ、時には失敗や「遊び」を許容し、本人の好奇心を満たす環境を与えること。
その両輪が、自立心と成長を促すマネジメントにつながる、という方向性を示しました。
3. Y2K(2000年代トレンドの再燃や、Z世代特有の価値観)
2000年代トレンドの再燃や、Z世代特有の価値観を指し、タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパを重視する働き方もこれに含まれます。
私の過去のコラムでのエピソードでは、若手のCAMオペレーターが、3Dモデル移行時の「面落ち(面抜け)」の修正作業を「タイパが悪いからソフトを変えてくれ」と嫌がった事例や、指示される仕事に「そういう仕事ならやりたくない」と条件を出す若手の事例を取り上げました。
一方で、かつての職人たちは、ラジアルボール盤で試行錯誤しながら得た“回転あたりの送り量”を、マシニングセンターのF値に応用するなど、泥臭い作業の積み重ねから多くの引き出し(ノウハウ)を身につけてきました。
こうした背景を踏まえると、タイパやコスパを優先するあまり泥臭い作業を「やりたくない」と切り捨ててしまうことは、結果として技術者としての貴重な経験を自ら手放してしまうことにつながりかねません。
このような対比的なエピソードを紹介したことがあります。
こうした若手と昔の職人の姿勢のギャップを踏まえ、私のコラムでは「では現場としてどう向き合うべきか」という観点から、いくつかの解決の方向性を示しました。
その内容としては、タイパやコスパを気にして泥臭い作業を避けると、結果的に自分の技術的引き出しを増やす機会を失うことを対話で伝えること。
さらに、現場の体制としては「最初から最後まで1人で任せる」という昔ながらの職人スタイルは責任が重く、若手には敬遠されがちであるため、「チームで一つの仕事をクリアしていく」分業やマルチスキルの推進をアピールすることが、現代のニーズに合致するという点を示していました。
4. パープル企業(ブラックではないが、ゆるすぎて社員が育たない企業)
ブラック企業のように過酷ではないものの、ゆるすぎて社員が育たない、やりがいのない企業を指す言葉です。
私の過去のコラムでは、「自由な社風でノビノビやる」という聞こえの良い方針を掲げた結果、悪意のない善良な社員による「部品の逆組み」などのポカミスが多発していた事例を取り上げました。
こうした“自由さゆえのミス多発”という状況を説明するために、コラムでは警察が車道で行う「ネズミ捕り」を例に挙げました。あれは悪意ある犯罪者を取り締まるというより、善良な市民のちょっとしたポカミスを取り締まることで、「世の中にはルールが存在している」というモラルを再認識させる効果があると考えられると説明しました。
同じように、細かなルールがない職場では、要領よく手を抜く人が得をしてしまう不公平感が生まれ、結果として組織全体の品質やモラルが低下してしまう――そんなエピソードを紹介しました。
こうした“ルール不在による不公平感”を解消するために、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
まず、組織の停滞を防ぐためには、コトの重大さに応じてペナルティを前提とした「作業標準」などのルール整備を行うことが必要です。
さらに、「労働分配率」や「べき動率」を用いて個人の貢献度をシビアに“お金(付加価値額)”で見える化し、会社への協力性を明確に評価基準として示すことで、頑張る人が正当に評価される適度な緊張感を持たせることが重要である、という方向性を示しました。
5. デスマーチ(過酷な長時間労働やプロジェクトの破綻状態)
過酷な長時間労働や、プロジェクトが破綻状態にあることを指す言葉です。
私の過去のコラムでは、金型内製部門などで、キャパオーバー時に「可能な範囲の長時間残業」や「休日出勤」で対応せざるを得なくなっていた事例を取り上げました。
例えば、ワイヤーカット加工において、Gコードが読めないため休日出勤して1個ずつ真面目に段取りを行うAさん(社長から忠義に厚いと評価されがち)と、Gコードを編集するスキルを持ち、休出せずに「多数個掛け」による夜間無人運転でAさん以上の出来高を稼ぎ出すBさんの対比を紹介しました。
この違いから、デスマーチのような労務管理に陥っている根本的な原因は、こうした個人の「スキル不足」にあるという点を示したエピソードでした。
そこで示した解決の方向性としては、Aさんのように気合と根性の長時間労働で乗り切ろうとするのではなく、BさんのようにGコード編集などのスキルを身につけること。
さらに、昼間の隙間時間を事前スケジュールで埋める精緻化された小日程計画を立てることに加え、「座席予約方式」を活用した夜間無人化を組み合わせることで、製造キャパを大きく広げ、悪循環を断ち切るべきである――という内容でした。
6. バイオフィリックデザイン(自然や心地よさを取り入れた環境デザイン)
自然や心地よさを取り入れた環境デザインを指すオフィス用語ですが、製造現場における「心地よい環境整備」と読み替えることができる言葉だと思います。
私の過去のコラムでは、ある製造現場で、夜に帰宅すると「明日また会社に行くのが待ち遠しい」と感じていた若手社員のエピソードを紹介しました。
その理由は、一緒に作業する先輩社員がユーモアに富み、ワクワクするような楽しいコミュニケーションをとってくれていたためでした。
一方で、マシニングのテーブル上に工具が直置きされていたり、測定器が切りくずまみれで放置されているような、5Sが乱れた雑然とした職場では、「別にこの会社を辞めても惜しいと思わない」という投げやりな心理に陥りやすいという事例も取り上げました。
この対比から、心地よい環境づくりは精神面・物理面の両方が重要であることが見えてきます。
こうした背景を踏まえ、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
設備や制度だけでなく、「明日が楽しみと思える」前向きなコミュニケーション環境を整えることが、最高の職場づくりの条件であること。
さらに物理的な面でも、無駄に歩き回らない「4メートル四方で完結する動線レイアウト」や、顧客に誠実さを示す「営業活動としての5S」を徹底し、快適な現場をデザインしていくべきである――という内容でした。
7. 確認会話(認識のズレを防ぐため、互いに確認し合うコミュニケーション)
認識のズレを防ぐため、互いに確認し合うコミュニケーションを指す言葉です。
私の過去のコラムでは、一品加工の現場で頻発する、恐ろしい「思い込みミス」の事例を取り上げました。
例えば、間違った認識のままでは、どれだけ一人でセルフチェックを繰り返しても手戻りを引き起こしてしまいます。
そこで、「もしこの材料が1,000万円したら、あなたの作業手順はどう変わるか?」と問いかけることで、Z軸キャンセルで軌跡を確認したり、Z原点をずらして0.1ミリだけ削って定規で確認するなど、普段なら“そこまでやっている暇はない”と思うような超慎重な手順を導き出した――そんなエピソードを紹介しました。
こうした背景を踏まえ、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
1000万円の材料を想定して考えた「+α」の手順をルーティンに落とし込むこと。
さらに、同僚を捕まえて確認してもらうような第三者の「目」を入れるダブルチェック(確認会話)を仕組み化し、これを加工直前の「関所」として強固に設定するべきである、という内容でした。
8. インシビリティ(礼儀に欠ける態度や職場の無作法)
礼儀に欠ける態度や職場の無作法を指す言葉です。
私の過去のコラムでは、現場において、機嫌の悪さを表に出して周囲に甘える人や、トラブル時に自分の非を認めず他人に八つ当たりするなど、無差別なネガティブ発言が止まらない“自分ファーストな社員”の事例を取り上げました。
こうした身勝手な態度は、チームの生産性や士気を大きく下げてしまい、結果として周囲や上司から腫れ物のように扱われる「面倒くさい人」になってしまいます。すると、誰も本音で話してくれなくなり、ますます孤立が深まる――そんなエピソードを紹介しました。
このような背景を踏まえ、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
現場で面倒な態度をとる人に対して、上司は感情論で言い合いをするのではなく、冷静な「システム」と「処世術」で賢く対処すべきであるということです。
具体的には、彼らの自己顕示欲や承認欲求を適度に満たしてあげること。
そして、例えば新しいルールや設備投資を導入する際、会議の場で感情的に反発されて場を乱されないよう、あらかじめ個別に意見を聞いておく「事前の根回し」という処世術を使ってうまくコントロールすることも示しました。
さらに、個人の都合(自分ファースト)ではなく会社全体の利益(部門ファースト/会社ファースト→全体最適)の視点を持ち、会社の方針に対する「協力度合い」を、週に1回の点数評価といったドライな仕組み(数字)に落とし込んでシビアに評価・管理していく――こうしたアプローチが求められるという内容でした。
9. 確証バイアス(自分の思い込みや仮説に固執する心理)
自分の思い込みや仮説に固執する心理状態を指す言葉です。
私の過去のコラムでは、3D設計や新しいCAMの導入を進めようとした際、「ウチには自動機能がないからできない」と、新しい技術を拒んでいたベテラン社員の事例を取り上げました。
例えば、5軸マシニングの新しい使い方を提案したにもかかわらず、「ネットでお手本を探したが出てこないから諦めようかと思っていた」と言い訳をした担当者のケースがあります。本来、他社がやっていないからこそ率先して挑戦することが競争力につながるのに、過去の成功パターンに安住し、新しい挑戦から目を背けることで、自分たちの思い込みによって組織を停滞させていた――そんなエピソードを紹介しました。
こうした背景を踏まえ、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
企業の成長には「自らの現状否定の力」が不可欠であり、思い込み(バイアス)を打破するには、まず社内に1人の「モデル人材」を作ること。
その人がゼロからイチの成功体験を実現し、その成果を周囲に見せることで、他の社員の心理的ハードルを下げていく――こうしたアプローチが有効であるという内容でした。
10. リブランディング(企業イメージや戦略の再構築)
企業イメージや戦略の再構築を指す言葉です。
私の過去のコラムでは、「安く作る(個別の工数削減)」ことに固執しすぎた結果、遅い旧式機械を使わず、最新鋭機にばかり負荷が集中してしまった金型内製部門の失敗事例を取り上げました。
例えば、稼働率30%の旧型マシニングに「荒取り加工」だけを振り分ける提案をした際、現場からは「段取りが2回に増える」「CAMデータの手間が増える」と猛反対されました。しかし、経営者の判断で実行した結果、ボトルネックとなっていた高精度機に余力が生まれ、新たな受注を取り込めるようになり、会社全体の利益が大きく伸びた――そんなエピソードを紹介しました。
こうした背景を踏まえ、コラムではいくつかの解決の方向性を示しました。
量産メーカーと同じ「1個を安く作る」という発想から脱却し、夜間稼働や旧式機械の活用によって製造キャパを広げ、「量をこなす」という単品加工マインドへと組織全体の意識を切り替える――これこそが、この業界におけるリブランディングの一つの在り方だと言えます。
さらに、現場の努力を「労働分配率の改善」という決算書の数字に直結させる『ジョブショップの勝利の方程式』を共有し、組織全体が同じ方向を向くことで、真の企業改革につながるという内容でした。
おわりに
いかがでしたでしょうか。 時代が変わり、新しいトレンド用語が次々と生まれても、現場で働く人たちの心理や、マネジメントの根幹にある課題は、昔も今も本質的には変わっていないと改めて感じます。
世間のトレンドを「よそ事」とするのではなく、自社の現場課題に置き換えて考えてみることで、改善の新たな切り口が見えてくるかもしれません。
これを読んでくださっている御社の現場に、思い当たる用語はありましたでしょうか。 参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
