なぜなぜ分析が難しい理由と、克服するための2つのポイント
コンサルタントとして多くの現場を拝見する中で、「なぜなぜ分析は難しい」という声をよく聞きます。
ご存知の方も多いと思いますが、なぜなぜ分析とは、トヨタ系の会社の不具合対策でよく行われる、「なぜ」を3回とか、5回繰り返すと真因にたどり着くというものです。
かくいう私も、現役の作業者だった頃は、苦手意識がありました。
その理由は、大きく2つあると考えています。
- 最初の原因の特定が難しい(スキルがいる)。
- ポカミスやうっかりミスの場合、なぜを繰り返すと迷宮入りする。
②について、例えば「なぜ寝坊したのか?」を分析すると、「寝坊した」→(なぜ?)→「目覚まし時計をセットし忘れた」→(なぜ?)→「うっかり忘れた」→(なぜ?)→「うっかりはうっかりですし。次からは気を付けます!」と、うっかりの真因をと言われましても、「うっかりの真因?心理学??」となって迷宮入りするんです。
作業現場のミスの大半は、機械や工具などの物理現象もありますが、その多くは人の未熟さ、ポカミス、うっかりミス、思い込みなどが絡みます。
そこで「なぜ?」を繰り返しても、「知らんがな・・・うっかりはうっかりだし」と分析が止まってしまうのです。
そこで今回は、多くの人が苦手とする「なぜなぜ分析」を克服するための、2つの重要なポイントをご紹介します。
克服のポイント①:拡散 → 収束 → 深堀 で進める
なぜなぜ分析が苦手な人は、いきなり「最初の原因」を特定しようとして難しさを感じているケースが多いのではないでしょうか。
例えば、加工現場で「マシニングセンタでの加工中、タップが折れてしまった」という不具合が発生したとします。
この場合、想定される原因は非常に多くあります。
- 間違ったプログラムを呼び出した。
- 切削油の供給にムラが出た、または停止した。また、水溶性の場合、濃度が薄かった。
- 深い止まり穴なのに、ステップ(ペック)加工を行っていなかった(機械による)。
- 下穴の上面に切り屑が覆いかぶさっていた。
- 下穴の直径や深さを間違った。
- 加工条件を間違えた。
- ポイントタップとスパイラルタップの使用を間違えた。
- 切りくずの排出がうまくいかず、タップの溝に詰まった。
- タップの寿命管理を怠っていた(摩耗したタップを使用していた)。
- ワークの内部に、たまたま硬点があった。
- ミーリングチャックを締め忘れていた。
このように、まず「拡散」の工程では、思いつく限りの原因をできるだけ多く挙げます。「今回は該当しないかも」と思うものでも構いません。これが後々の分析の良い「練習」になります。
次に「収束」は、事実確認で要因を絞り込む工程です。
挙がった原因候補が「なぜそう言えるのか(あるいは、言えないのか)」を検証し、消し込んでいきます。
例えば、「下穴深さを間違った」という原因案については、「NCプログラムを検証したところ、正しい数値だったので、今回は該当しないので次!」といった具合です。
このようにして最後に残った案が、最も確からしい原因だと考えられます。
そして、この「収束」で特定された原因に対して、初めて「なぜなぜ分析」を行う。これが「深堀」工程です。
「拡散」→「収束」が技術的な側面(物理現象)の分析であるのに対し、「深堀」は、その原因が「なぜ発生したのか」という仕事の仕組みやルール、作業標準などの面(管理・人的側面)から深堀していく、本来のなぜなぜ分析となります。
そう考えると、大手自動車メーカーなどで使われている「なぜなぜ分析」は、そもそも「人」の側面にフォーカスした分析手法であって、確立された量産工程からヒューマンエラーなどを見つけ出す(絞り出す)ための手法だと思えてきます。
私たちが普段向き合う、金型メーカーや機械加工メーカーなどの単品小ロット品を扱う現場では、「深堀」の前段である「拡散」→「収束」の工程こそが肝になると、私は考えています。
克服のポイント②:個人の問題ではなく、組織(チーム)の問題として深堀する
2つ目のポイントは、「深堀」工程での考え方です。
冒頭で述べたとおり、ポカミスやうっかりミスの「なぜ」を追求すると迷宮入りしやすくなります。
したがって、その対策は、「個人の問題」ではなく、「組織(チーム)の問題」として深堀することです。
先ほどの目覚まし時計の例で言えば、「なぜ(彼は)うっかり忘れたのか?」で問うのではなく、「なぜ(組織として)うっかり忘れる人が出るのか?」と問いを変えます。
こうすれば、
「目覚まし時計をセットする時間帯が、ルールとして決められていなかったり、チェックをするルールもなかったから」
「自動セット機能を持つ時計で統一する、といったルールがなかったから」
といったような、ルールや仕組みの面から問題点を深堀できます。
物理現象はそのまま扱って構いません。しかし、人の問題が絡む場合は「個人」の問題として扱わず、「組織」の問題として扱うと、その後の対策までが非常にスムーズになります。
具体事例:マシニングセンターの加工中、φ10リーマが折れていた
最後に、「①拡散→収束→深堀」と「②組織の問題として深堀する」の2つを使って、「マシニングセンターの加工中、φ10リーマが折れていた」という不具合の事例で実践してみます。
①拡散(4Mで要因を洗い出す)
まず、考えられる原因を4M(Man, Machine, Method, Material)で洗い出します。
- 人 (Man):
ホルダー(コレット)の締め付けが弱かった。 - 機械 (Machine):
コレットやホルダー本体が摩耗・変形していた。
クーラントオイルが充分にかかっていなかった。 - 方法 (Method):
リーマ代(しろ)が大きすぎた(下穴が小さすぎた)。
下穴深さが充分でなかった。 - 材料 (Material):
リーマ加工以外の切りくずも巻き込んで、穴の中で詰まった。
リーマの食い付き部の損耗を確認していなかった。
②収束(事実確認で要因を絞り込む)
次に、現場の事実確認を行い、要因を絞り込みます。
- ホルダーの締め付けトルクや、機能や状態に異常はなく、すべて正常だった。
- 回転や送りの加工条件、クーラントオイルの状態、かかり方に問題はなかった。
- 下穴に使用したドリルやエンドミルのサイズに問題はなかった。
- リーマ加工は、全ての無人加工の終了後に、作業者が目視のうえ有人で行うプログラム構成にしており、リーマ加工前に切り屑は掃除されていたため、切り屑の巻き込みによる問題ではなかった。
- 下穴深さについて、すでに穴が損傷していたため現物では測れず、CAMの設定を確認した。
リーマ穴の図面要求「有効深さ15mm」に対し、使用リーマには2mmの食付き部があったため、加工深さは Z-17.0mm が必要だった。
しかし、CAMデータではドリル・リーマ共に「Z-15.0mm」と設定されていた。この深さでは、超硬ドリルの先端角(140°)により、有効な下穴深さは約13mmしか確保されていなかった。
結論:
有効深さ15mmを得るためにZ-17.0mmまで進むべきリーマが、有効深さ13mmしかない穴の底に衝突したことが判明。「ドリルの先端角」と「リーマの食い付き部」という、双方の工具形状を考慮した有効深さの設定ができていなかったことが(技術的な)原因であると判明した。
③深堀(なぜなぜ分析で真因を追求)
「収束」で特定した原因=「工具形状を考慮した設定ができていなかった」ことについて、なぜなぜ分析で深堀りします。
- なぜリーマが折れたのか?
→ リーマの先端が穴の底に衝突し、過大な切削抵抗(または トルク)が発生したから。 - なぜ穴の底に衝突したのか?
→ リーマ加工で必要な目標加工深さ(17mm)に対し、下穴の有効深さ(13mm)が全く足りていなかったから。 - なぜ下穴の有効深さ(13mm)が全く足りていなかったのか?
→ CAMプログラムで、ドリルの先端角と、リーマの食い付き部という、両方の工具形状に関する補正計算を怠ったから。 - なぜ補正計算を怠るCAM担当者が出るのか?(←ポイント:組織の視点で)
→ 納期が迫り、手作業での入力で、ヒューマンエラー(うっかりミス)が発生しやすい状況にもかかわらず、その計算ミスをチェックする仕組みやルール(例:シミュレーションの必須化や、穴深さの計算チェックリストなど)がなかったから。 - なぜ(穴加工に対する)チェックする仕組みやルールがなかったのか?(真因)
→ エンドミル加工のプログラムはCAMのシミュレーションで事前確認するルールだったが、今回はドリルとリーマによる穴加工だけだったため、「シミュレーションは不要」という慣習(組織の暗黙のルール)があり、エラーをチェックする機会がなかったから。
この事例のように、ポイント①の「拡散」→「収束」で技術的な原因(計算ミス)を特定し、ポイント②の「深堀」では、個人の「うっかりミス」で終わらせず、「なぜミスが発見できなかったのか」という組織の仕組み(ルール)の問題までたどり着くことができました。
(今回の、マシニングセンターの加工中、φ10リーマが折れていたという事例では、「拡散」で、原因をたくさん挙げたところで、CAMデータの間違いには割とすぐに気づくと思いますので、もしかしたら、拡散→収束の効果は実感しずらいかもしれませんが)
まとめ
今回は、多くの人が苦手意識を持つ「なぜなぜ分析」を克服するための2つのポイントをご紹介しました。
- 「拡散」→「収束」→「深堀」 のステップで、技術的な原因特定と、管理的な原因の深堀りを分けて考えること。
- 特に深堀りにおいては、個人の「うっかりミス」や「不注意」で終わらせず、「なぜそのミスを防げなかったのか」という「組織の仕組み」の問題として捉え直すこと。
事例で見たように、個人の責任を追及しても、「次から気を付けます」という精神論で終わってしまい、同じようなミスが再発しがちです。
なぜなぜ分析の本当の目的は「犯人探し」ではありません。不具合の根本にある組織のルールや慣習の問題を見つけ出し、誰もがミスをしにくい「仕組み」を構築して再発を防止することです。
今回の内容が、「なぜなぜ分析がうまくできなくて困っている」という読者の方の参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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