【工場長・部長・課長向け】管理成果の見える化はどのように行うのか
第3話は、第2話で扱った班長・主任向けの内容から一気に飛躍し、工場長や部長、立場によっては課長向けに、日々の管理の成果を見える化するための「管理指標」にはどのようなものがあるのかを解説していきます。
私のコンサルティングでは、次の管理指標を使った見える化をオススメしております。
- 労働分配率(社員の人数と付加価値とのバランスを見える化)
- 社員一人あたり付加価値額(付加価値のボリュームを見える化)
- 時間あたりの付加価値額(労働時間が適正かどうかを見える化)
- 損益分岐点の確認(設備投資が適正かどうかを見える化)
それでは、これらを順番に見ていきたいと思います。
①労働分配率
まずは、最も基本となる管理指標、「労働分配率」です。
この指標により、社員の人数と現場の生産・加工から生まれる付加価値額とのバランスを見える化することができます。
計算式は、次のようになります。

この計算式により、製造部門であげた付加価値額、これは粗利益と言い換えても構いませんが、その付加価値額と人件費のバランスを見ることができます。
一般的には、次のような目安となります。
- 40%以内:良好
- 50%以上:黄色信号
- 60%以上:赤信号
つまり製造部門を任される、工場長・部長・課長としては、この労働分配率が40%以内に収まるよう、さまざまな管理の取り組みを行うというわけです。
また黄色信号であったり、赤信号のパーセント数値になった場合には、それを引き下げる取り組みを行っていかなければいけません。
その取り組む内容については、計算式の内訳を見るとよくわかります。
まず分子の「総人件費」については、できる限り必要人数以上に増やさないことで、パーセント数値を低く抑えることができます。
次に分母の「付加価値額」については、できるだけ増やしていくことで、パーセント数値は下がります。
具体的に付加価値額の計算は、売上-購入費-外注費ということで、売上額から、社外に支払う「購入費」や「外注費」を差し引いた、社内に残る利益額を表しています。
したがって、製造部門による努力、例えば稼働率を上げて手離れ良く仕事を行い、作った余力時間にさらに受注を増やしていくことで売上額が増え、付加価値額のアップに貢献していくことができます。
また、あい見積もりをとって材料や市販品を安く購入したり、できるだけ機能を満たせる安い部品を使ったり、リーズナブルな工具を使ったりすることで、さまざまな購入費を抑えれば、付加価値額を増やすことにつながります。
さらにできる限り内製化を行い、社内でできるものは全て社内で加工することで外注費を抑えることができれば、これも付加価値額のアップにつながります。
「労働分配率」は、こうしたさまざまな製造部門の取り組みによって、見える化される指標ですので、総合的な製造部門の管理指標としてオススメしております。
②社員一人あたりの付加価値額
次の見える化指標は「社員一人あたり付加価値額」です。
労働分配率は万能的な指標なので、これだけでも毎月の管理の見える化は可能ですが、あくまでパーセント数値なので、絶対値としてのボリューム感がわかりません。
そこで、具体的に製造部門で生まれた付加価値を金額として表し、さらにそれを生産性、すなわちいかに投入資源を少なくし効率よく生産できたかを表す指標として、「社員一人あたり付加価値額」を使います。
計算式は、次のようになります。

この計算式により、投入量(インプット)としての従業員一人あたりに、アウトプットとしてどれだけの付加価値額をあげることができたかがわかります。
付加価値額の計算式は、先ほどの労働分配率と同じで、売上額から社外に支払う「購入費」や「外注費」を差し引いた、社内に残る利益額を表しています。
例えば、月次の目標額としては、70万円~90万円あたりが目安でしょうか。
多く付加価値額をあげることができれば、社員一人一人の働きがよかったこと、管理者としての仕事の割り振りや設備の利用効率が良かったなどが考えられます。
逆に付加価値額が少なければ、人数のわりに生産できた量が少なかったことが考えられ、人数に見合った仕事量を入れるか、非正規社員の人数を見直す・他部署へ異動させるなどの取り組みを考えなければいけません。
なお、目標とする月次の付加価値額は、業界・業種で異なりますので、自社にあった目標値を設定することが必要です。
③時間あたりの付加価値額
次は「時間あたりの付加価値額」です。
計算式は、次のとおりです。

本来この指標は、時間あたりの生産性を見える化することで、付加価値を生む「速度」を見るための指標ですが、
この指標を使うことで、「②社員一人あたりの付加価値額」では見えてこなかった過度な残業依存になっていないかを見ることができます。
「②社員一人あたりの付加価値額」は、従業員数から割り出した1人あたりの計算ですので、仮に毎月一定目標の付加価値額を維持できていたとしても、従業員一人ひとりが実は過度な残業によって達成されていたという事実があったとしても、この指標からは見えてきません。
例えば、②の「社員一人あたりの付加価値額」は目標達成していたとしても、過度な残業が行われていれば、③の「時間あたりの付加価値額」は下がってきます。
一見同じような計算をしているようでも、この「③時間あたりの付加価値額」を使うことで、時間あたりの出来高を見ることができ、効率良くモノづくりができているかを確認することができます。
④損益分岐点の確認
最後は「損益分岐点」の確認です。
この指標を使うことで、人件費や工場家賃など、仮に売上ゼロでも発生する固定的な費用(これを「固定費」と言います)を、いくらの粗利益(この指標では「限界利益」と言います)で乗り越えることができるかを見える化することができます。
ここで、この指標を使うことの意義は、これまで出てきた指標では見ることができなかった「設備投資が過剰になっていないか?」を確認するためです。
設備投資を行うと、下図のとおり年間の機械償却費が増え、これは仮に売上ゼロだったとしても毎年発生する固定費にあたるため、黒字を達成するまでの損益分岐点が上がってしまいます。

したがって、現場の効率化のために設備を増やす・最新設備を導入する、ということは大いにメリットがあるのですが、得られる利益とのバランスを見ておかないと、自社や事業部門のビジネスとしては成り立たなくなってしまいます。
それではここから、損益分岐点の考え方を図と共に見ていきます。
まず、固定費と粗利益(以降は「限界利益」と表現します)とのバランスは下図のようになっています。

上図にある「変動費」とは、材料費や購入品費のように、売上が発生すると、それに伴い比例的に発生する費用です。
言い換えると、売上ゼロなら発生しない費用です。
ここで重要なのは、売上額に占める「限界利益」、つまり売上額から変動費を差し引いて手元に残る限界利益の比率です。
この比率を「限界利益率」と言います。
下図のように売上額と共に限界利益が増えていき、売上額に含む限界利益が固定費を上回ることができたときの「売上額」を「損益分岐点売上高」と言います。

上図は、ちょうど固定費と限界利益が同じになったときの「売上額」を表しています。
また下図は、限界利益が固定費を上回ることができたときを表しています。

ちなみに、損益分岐点を上回るための努力は売上額を増やすことばかりではありません。
下図のように、売上額に含む変動費の割合を減らすことでも限界利益を増やすことができます。

例えば、なるべく安い材料を購入する・オーバーフロー外注を減らすなどの改善や努力によって、変動費の割合を減らすことができます。
こうすることで、仮に売上額が減っても黒字化しやすくなるといった「損益分岐点を下げる」ことに寄与します。
機械償却費に話しを戻しますと、できるだけ「固定費を増やさない」ことで、毎年の黒字化のハードルとなる「損益分岐点を下げる」ことに寄与します。
したがって、現場作業者からは「機械が足りない」「設備が古くてスピードが遅い」などの不満は常に出てくると思いますが、工場長・部長・課長という立場からは、この損益分岐点を常に意識しながら、企業の最大の命題である「利益をあげること・増やすこと」のハードルが高くなり過ぎないかに常に配慮しながら設備投資を考える必要があります。
まとめ
以上、ここまで工場長・部長・課長が管理するべき色々な指標を見てきました。
製造現場において一般職の社員さんからは、「人が足りない」「設備が足りない」「古い機械ばかりで能率が悪い」など、様々な不平不満が日常的に出てきます。
しかしながら、管理職の皆さんとしては、ここで見てきたような見える化した数値指標に常に配慮しながら、バランスよく製造現場をまわしていく使命・役割があります。
まずはいきなり、今回出てきた指標全てを使うまで一気にステップアップしなくても良いと思いますので、労働分配率の見える化からはじめてみてはいかがでしょうか。
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