【金型・部品加工業の管理職の育成ルーム】 第13話 負担増に流されるリーダーと、未来の見返りで規律を生むリーダー
──差を決める目線の高さ
業務改善や新しい仕組みを導入しようとした際、現場からの「忙しい」「面倒くさい」という反発に遭い、方針を断念してしまった経験はありませんでしょうか。
以前、あるクライアント企業で「2つの部署」を並行して支援したことがあります。 この2部署を比較する中で、現場マネジメントの本質、そして「リーダーの影響力」の正体を浮き彫りにする、非常に示唆に富むエピソードに触れました。
現場に「わがままな社員(輩)」が生まれてしまう土壌と、規律ある強い組織が育つ土壌。 その境界線はどこにあるのか──当時の現場のリアルな声とともにご紹介します。
2つの部署の背景、同じ「リーダー対部下」の割合
まずは、その当時の体制をご紹介します。
- 【第1の部署】 メンバー:15名 / 現場リーダー(班長クラス):3名
- 【第2の部署】 メンバー:5名 / 現場リーダー(班長クラス):1名
第1の部署は、係長クラス1名と班長クラス2名の計3名で15名を見ているため、リーダー1人あたりの担当部下は「5名」です。一方、第2の部署もリーダー1名で5名を見ています。つまり、どちらの部署も「リーダーと部下の数の割合(1対5)」は同じであり、管理する人数の負担に差はないと言えます。
しかし、現場の「空気」には決定的な違いがありました。
第1の部署には、会社の方針やリーダーからの指示に対して、素直に従ってくれない部下が2〜3人ほど存在しました。
仕事そのものを完全にボイコットするわけではありませんが、例えば「ひと手間かけた作業日報を導入し、今後の改善データとして活かしたいから協力してほしい」という要請や、「特急の仕事が入ったため、全員で少しずつ残業に協力してほしい」といった、現場に負荷がかかる指示に対して、何かと言い訳をして非協力的な態度を取るのです。
一方、第2の部署には、そういった非協力的な人間は1人もいませんでした。
ある時、私は第1の部署のリーダーたちに、次のような質問を投げかけてみました。 「もし、あの言うことを聞いてくれない部下たちが、第2の部署に移って同じような非協力的な態度を取ったら、あの部署の班長さんは許すと思う?」
彼らから返ってきたのは、迷いのない言葉でした。 「……いや、おそらく絶対に許さないと思います」
なぜ片方の部署ではワガママが通用し、もう片方の部署ではワガママを言わせない強力な影響力が発揮されているのでしょうか。
現場の「負担増」という、人質を盾にした強固な正論
現場の一般社員から発せられる「これ以上負担が増えるのは無理です」「現場の作業時間が奪われます」という拒否の言葉は、もの凄く強いパワーを持っています。
なぜなら、「手間が増えて大変になる」という目の前の事実に基づいているため、誰も否定できない「もっともな正論」のように聞こえてしまうためです。
彼らは「目の前のものづくりの仕事(納期や作業)」について、あたかも人質に取ったように、負担増を拒絶します。
リーダーの側が、このパワーを上回るだけの説得性、論理、あるいは圧倒的なエネルギーを持っていなければ、指示を貫き通すことは非常に難しくなります。
では、なぜこの事例において、片方のリーダーにはそれができて、もう片方のリーダーたちにはできなかったのでしょうか。
その理由を紐解く最大の鍵は、リーダーの「年齢」と、それに伴う「仕事に対する目線の高さ」にあると考えられます。
第1の部署の3名のリーダーは概ね30代から40代前半。対する第2の部署のリーダーは、50代半ばの中堅ベテランでした。
「目線の高さ」がもたらす、包括的な説得力
ここで言う「目線の高さ」とは、視野の広さと時間軸の長さのことです。
この事例企業の30代のリーダーたちの視線は、どうしても「今、目の前にある仕事の負荷や納期」という目先の次元に留まりがちでした。しかし、55歳のベテランリーダーが見ている景色は違っていました。
彼は、目先の負荷のさらに先にある「会社や部署が未来に得る収益」、そして「それに伴い自分たちの給与・賞与・雇用として返ってくる見返り」までを含めて捉えていました。その視点の高さが、態度や言動の端々に表れていたのです。
だからこそ、部下から「日報なんて面倒くさい」と反発されても、目線を下げずに語ることができました。
「確かにひと手間は増える。でも、今このデータを取って改善につなげていけば、必ずこの先の利益につながるはず。その利益は、最終的に我々の給与や賞与、働きやすさといった“未来の見返り”として返ってくるから、この一手間は“負担”というより、投資だと思ってほしい」と。
しかし、この「未来の話」を高次元で語るには、リーダー側に相応の「覚悟」が必要となります。
若手リーダーを阻む「気恥ずかしさ」という壁
30代の若いリーダーたちは、未来の利益や見返りの重要性を理解していなかったわけではありません。むしろ心の中では、すでに未来を見据えた目線を持っていたのだと思います。
ただ、彼らはよく私に本音を漏らしていました。 「役職がついたからって急に張り切っていると思われて、部下から冷めた目で見られるのが怖い」と。
少し前まで「同じ現場の仲間」として会社への不満を言い合っていた関係だからこそ、急に経営的な視点で未来の話(綺麗事)を語ることに、強い「気恥ずかしさ」や「照れ」を感じていたようです。
「意識高い系になっちゃって」と冷やかされ、現場で浮いてしまうことを恐れていたそうです。
そのため、どうしても一線を越えられず、「未来の話」を部下に伝えきる前に、指示を引っ込めてしまう場面があったようです。
そして、こうした躊躇こそが、現場にワガママを許し、非協力的な社員を「輩」へと育ててしまう土壌になっていたのだと感じています。
一方、50代半ばのリーダーは、そこで引くことがありませんでした。周囲からどう見られようが、冷やかされようが関係ないという、良い意味での「開き直り」を持っていたのです。
そのため、未来の話を部下に対して引っ込めることなく、最後まで語りきることができました。
こうした姿勢の差こそが、現場にワガママを入り込ませない強固な規律を生み出していたのだと考えられます。
最後に:土俵際で後ずさりしない覚悟を
この「周囲の目を気にする気恥ずかしさ」は、年齢とともに自然と消えていくものかもしれません。
しかし、企業が激しい変化の中で生き残るためには、現場のリーダーたちには、できれば少しでも早い段階で、心の中にある「高い目線」を恐れずに言葉にして、部下へ語る覚悟を持ってもらいたいところです。
どれだけ心の中で高い目線を持っていても、それを言葉にして部下にアウトプットできなければ、リーダーとしての仕事をしているとは言えません。
このサイトのコラムを日々読んでくださっているような意識の高いリーダーの方々は、すでにその未来を語る覚悟ができていることと思います。
ですが、もし皆様の周囲や配下に、現場の反発を気にして踏み切れずにいる若手リーダーがいる場合には、適切な支援をお願いできればと思います。
彼らが現場の声に過度に引きずられず、必要な改善や将来の利益について説明しきれるよう、組織として、また経営層として、その判断を後押しし、必要に応じて助言を行っていただくことが重要かと思います。
本稿が、貴社の現場リーダー育成と、強い組織づくりの参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
