第12話 注意指導の境界線 —— 部下の「心が折れる」前に上司がすべきこと
今回は、私がとある企業の現場を訪問した際に目撃した「ある強烈なエピソード」をもとに、部下への「注意指導の境界線(デッドライン)」について考えてみたいと思います。
現在、部下の指導方法や、現場のモチベーション管理に悩んでいる経営者や管理職の皆様の参考になれば幸いです。
現場から聞こえてきた「心が折れた」という呟き
それは、ある企業の現場を訪問したときのことでした。 私が工場に入ると、決まって誰かが「心が折れた、心が折れた……」と周囲に訴えかけているか、あるいは1人でポツリと呟いていました。
それも、1度や2度ではなく、割と人が代わる代わる訪問する度にです。
詳しく話を聴いてみると、どうやら何らかの人的ミス(ポカミス)や作業の遅延などが発生し、それに対して上司から厳しく叱責された模様でした。
昨今はパワハラ防止法(パワハラ規制)が厳しくなったこともあり、ここまで露骨に社員が気落ちしている現場を見る機会は少なくなりました。しかし、この光景を目にしたとき、私は改めて重要な事実に気づかされました。
注意指導において、決して超えてはならない境界線。それは「相手の心が折れるかどうか」にある。
では、そもそもこの「心が折れる」とはどういう状態を指すのでしょうか。
私は、「次は頑張ろう」という、次への意欲(改善へのエネルギー)を完全に失ってしまった状態だと定義しています。
なぜ、現場では「心を叩き折る指導」が起きてしまうのか
誤解を恐れずに言えば、その現場で指導を行った上司は、意図的に相手の心を叩き折ろうとしたのかもしれません。
特に、私たちの関わる製造・加工業界の現場では、昔ながらの職人気質も手伝って、以下のような考え方に基づく厳しい指導が今なお多く見られます。
- 「一度、鼻をへし折って(心を叩き折って)から這い上がらせるべきだ」
- 「何度言ってもポカミスが減らないから、強く言わざるを得ない」
- 「プライドが高く上司の言うことを聞かない部下には、徹底的に言わないと効果がない」
重大な不良や怪我に直結する現場だからこそ、厳しく指導せざるを得ない局面があるのも事実です。
パワハラ規定には十分に配慮しなければなりませんが、現場を守るための「熱い指導」が必要とされる局面もあるかもしれません。
しかし、どのようなケースであっても、指導の「ゴール」を間違えてはなりません。
本当に必要なのは、注意指導を受けたあとに、本人が「よし、今日今から(明日から)、もう一度出直して頑張ろう」と思えているかどうかです。
「次からは気をつけよう、頑張ろう」と思わせられるかどうかに、上司としての腕の見せ所があり、現代の管理職に求められる必須スキルになります。
部下のタイプに合わせた「ドンマイ」の締めくくり方
とはいえ、部下へのアプローチは一筋縄ではいきません。皆さんもご想像の通り、指導する相手の性格やタイプによって、響く言葉や対応は千差万別だからです。
ただし、この業界特有のパターンとして、ある程度の「目安」は存在します。 以前、私の別のコラム(FAQ)でご紹介した「4つのマトリックスによる分類」を覚えているでしょうか。

最低限、このタイプ別の対応を意識したうえで、最後は
- 「ドンマイ」
- 「次へのチャンスでは期待してる」
といった前向きな言葉で締めくくり、注意指導を終えることが重要です。
この「締め(フォロー)」ができていないと、注意指導を受けた社員は冒頭の事例のように「心が折れた」と呟き続けることになります。
そして、最悪の場合には、貴重な人材の流出につながる突然の退職や、会社への帰属意識を失い最低限の業務しか行わなくなるステルス退職といった、会社・社員双方にとって不幸な結末を招きかねません。
まとめ:自分なりの「次こそは」を引き出すスタイルを
上司の立場からすると、部下の心が折れているかどうかを正確に見極めるのは簡単ではありません。
だからこそ、注意指導の後には、ほんの少しで構いませんので部下の様子を丁寧に観察し、「ドンマイ」という励ましがきちんと伝わり、本人が「次こそは」と前向きになれているかどうかを確認することが大切です。日頃から部下を見ていれば、その小さな変化には必ず気づけるはずです。
先ほど「部下のタイプ別にやる気の引き出し方は異なる」とお話ししましたが、同時に指導する上司側のキャラクター(性格や役職)によっても、最適なやり方や声のかけ方は変わってくると思います。
熱く励ますのが得意な人もいれば、冷静にロジックで期待を伝える方が自分には合うという人もいると思います。
ぜひ、デッドライン(心が折れたまま終わらせない)を意識しながら、ご自身に合った「指導の締めくくり方」を身につけていただきたいと思います。
そして、もし経営者や部長の皆さまの周りに、今回のテーマに該当しそうな現場リーダーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ今回の内容を参考にしつつ、そっとフォローしていただければ幸いです。
現場のポカミスや遅延が減り、かつ組織を活性化させるための参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
