ユーアイ精機株式会社のコンサルティング事例【後編】(3月号掲載)

目次

ユーアイ精機株式会社のコンサルティング事例【後編】

先月号から引き続き愛知県尾張旭市にあるプレス金型メーカー・ユーアイ精機㈱における特に長期的な対策となる改善事例を紹介する。

筆者が企業の経営診断で作成する診断報告書は、①経営の現状、②課題、③改善策を提示するが、③の改善策については、明日からでも取り組める短期的対策、3か月から1年後、3年から5年後といった中・長期的に取り組む対策に分けて提案している。

例えば、短期的対策については、技術面や生産管理面など比較的効果が早期に出やすい改善を取り上げることが多く、長期的対策は、組織体制の見直し、人材採用の取り組み方の見直し、販路開拓、人材育成など、効果が出るまで時間のかかるテーマを取り上げている。

本号は、ユーアイ精機における中・長期的な取り組み事例である。

会社が強みとしているポイント

先月号に引き続き同社の強みを見ていくと、経営者が技術と経営の両面に意欲的に関与している点が挙げられる。

筆者が日々お会いする経営者の方々はどちらかに偏っている事が多い。

本来、製造業の企業経営は、受注・生産・出荷などを行う「事業」の上に、ヒト・モノ・カネを運営するという「経営」がある。

ところが多くの中小製造業が日々のめまぐるしい「事業」に追われ、「経営」まで手が回っていない。

その点、同社の水野社長は経営と事業をバランスよく行っている(大変だと思うが)。

例えば、解析ソフトのセミナーに社長自らが参加し、トライや型設計効率化のため積極的に研究している。

さらにプレス金型メーカーには珍しく3Dプリンターを導入し自社独自の活用方法を模索している。

そういった社長を支える製造部長の存在も同社の強みである。

顧客との打ち合わせや外注手配、組付けやトライまで、内外何でもこなす製造部長の存在は同社のキーマンと言える。

多くの中小企業経営者には、片腕とも言える参謀や番頭役の方がついておられるが、最近筆者に多い相談は、いずれ事業承継を迎える後継者を支える参謀役が見つからないというものである。

技術面に加えマネジメントまで行う人材の存在は、会社の将来をも左右するポイントになる。

粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

ところが同社の強みはウィークポイントにもなっていた。

製造部長は上流・下流工程、両方の中核業務を兼任しているため、負荷が集中すると中間工程が滞り、会社全体の稼働率を低下させてしまう要因となっていた。

例えば、製造部長がトライ作業に追われていると、上流であるCAMや機械加工への手配が遅れ、受注が溜まっていてもスタートが切れない、その後差し迫った納期対応に追われるといった状況が発生し、①新しく入った仕事の話を泣く泣く断る、②外注対応で急場をしのぐ、といったことが多くなっていた。

これは、粗利益=売上-製造原価という観点で言えば、まさに粗利益を下げることにつながる(図1)。

図1 高負荷による粗利益減少の要因

製造部長に負荷が集中する原因は、設計や組付、トライといった、特に上流と下流工程を担当する人材の技術教育が思うように進んでいないという点である。

そこには会社が抱えるジレンマもある。

工作機械は高価な設備でありその投資額は大きいため、経営者としてはまずその稼動率を高め投資回収期間を短縮したいと考え、マシニングなどの稼働を優先しがちになる。

しかも最近のマシニングやワイヤーカット放電加工機は、ユーザーインターフェースやCAMの操作性が飛躍的に向上し、その習得期間については昔よりも随分短縮できるようになった。

そのため同社においても機械加工担当者が優先的に配備され、育成に長期の時間を要する設計やトライ作業の人材育成が停滞するといった状況になっていた(図2、図3)。

図2 ユーアイ精機の機械加工現場
図3 ユーアイ精機のトライ作業現場

特に設計やトライ作業は経験値がモノを言う仕事であるうえ、利益貢献度を算定しにくいため、多くの中小金型メーカーでは多能工化や設計人材育成に取り組めない悪循環を生んでいる。

課題となっていた部分の改善

そこで同社は、前号で紹介した6つの段階的な生産管理項目のうち、「製造工程全体を俯瞰できる機械・作業者への割り当て計画」を機能させ、この課題解決に取り組んだ。

各工作機械に加工計画を割り当てていくと、よほど受注が満タンで、かつ隙間なく納まるスケジューリングをしない限り、空き時間は出来るものである。

この時間を教育時間として事前に計画する取り組みを行った。その空き時間についても、例えば1時間空く時もあれば半日空く時もある。

技術指導の経験のある方でしたらこう考えないだろうか、「半日あったらこの練習をやって欲しい」「1時間しかないならこの反復練習をやっておいて欲しい」など。

同社はこれを事前に準備して加工計画の間に教育計画を落とし込む改善を行った。

機械加工から取り組むことになったが、現在はウィークポイントであった順送型の設計人材育成をおし進める計画をしている。

もう一つ行った改善は多能工化である。

これにより、機械担当者に設計やトライ作業などを習得させる狙いがある。これは指示書作りなど間接コストの削減ができる「ついでに」方式によって行った。

「ついでに」方式とは、筆者が金型技術者であった時に自ら実践した多能工化を行う方法である。

後工程など自分以外の作業者に意志を伝えるためには指示書などを作成するが、すぐ後の工程の作業を自ら行うことでこの指示書を不要にする。

例えば、型設計及び部品図を作ったらそのまま自分でCAMデータまで作り、そのCAMデータを作ったらそのまま自分で機械加工まで行う。

機械加工を自分でやったらそのまま自分で組み立てる。そうすることで形状や寸法以外の細かな指示を省くことができ、間接コストの圧縮ができる。

本来私が18歳で金型の世界に入った頃は当たり前だったやり方でもある。

倣い加工から3次元CADの計算によるNCデータで型を削るようになり、習得に時間がかかるCAD/CAM作業者は専任になった。

著しい短納期化と相まって多くの中小金型メーカーでは効率化のため、各作業工程の分業化が進んだように思う。

そのため後工程に意図を伝える指示書が必要になった。

「ついでに」方式はその変遷を逆戻りする方法でもある。この方法により、3次元CAD設計後の寸法入れも省くことができる。

さらなる企業の発展へ

今後同社は、順送型設計の完全内製化によるさらなる外注費の削減に取り組み、粗利益の向上を図る。

さらに計画的な人材教育と多能工を増やすことにより会社全体としての余剰時間を創出し、3Dプリンターの新たな付加価値の創出といった計画もある。

そのため、機械的な金型部品の3Dモデリングだけでなく、デザイン性の高いモデリング能力を持つ人材教育に取り組んでいる。

こうした将来への投資を行うことは企業を永続させることにもつながる。

今年も国内金型メーカーを取り巻くマクロ環境の変化は、経営者にとって目の離せないところであるが、同社のような先を見据えた取り組みは、その経営環境変化に備えるものである。

同社は本号で取り上げた中・長期的な改善で、より多彩な能力を持つ人材育成が可能な体制をつくることができた。今後企業としてのさらなる成長が楽しみである。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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