「稼働率向上」のためのオススメ方策7選(型技術2024年10月号掲載)

売値単価に影響されない現場のモチベーション管理(後編)
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「稼働率向上」のためのオススメ方策7選(型技術2024年10月号掲載)

今回のテーマは金型メーカーにおける「稼働率向上」である。

マシニングセンターや放電加工機など、機械加工の稼働率は、機械が実際に加工を行っている時間の割合のことで、これを高めることで生産性や利益率を向上させることができる。

しかし、どのようにして稼働率を上げるかは、皆さんご存じのとおり一筋縄ではいかない。そこで今回は、稼働率向上に向けたいくつかの方策をご紹介する。

前倒し生産

前倒し生産とは、まだ先の納期の仕事であっても、できるだけ早く加工を開始することである。

これにより、納期に迫ったときに慌てなくて済み、急なトラブルや追加注文にも対応できる。 また、前倒し生産をすることで、機械の空き時間を減らすことができ、直近の機械稼働率向上に寄与する。

一方、後々の日程の仕事を先食いすることで、後の機械日程には空きができてしまうのだろうか。

そうではなく、金型メーカーや単品部品加工メーカーにおける営業活動においては、後の機械日程に空きを作ることで、そこに次の仕事を入れやすくなることもある。

逆に、前倒し生産をしないと、後から入ってきた別の仕事が重なることで、その新しい仕事を断るか(失注)、オーバーフローによる外注策で、利益率の悪化を招いてしまうかもしれない。

少し話が逸れたが、前倒し生産は稼働率向上に寄与するだけでなく、会社収益にもメリットがある。

小日程計画の最適化

小日程計画とは、機械や人に対して、時間単位で仕事のスケジュールを割り振る計画である。

小日程計画が最適化されていれば、各工程で機械の待ち時間や空き時間を最小限に抑えることができる。

小日程計画を最適化するためには、実際の作業時間の見積もりと、作業者の能力をある程度正確に反映させることがポイントになる。

なお、この小日程計画については、前述したように前倒し生産が理想ではあるものの、状況によって前詰めと後ろ詰めの方針を使い分ける必要もある。

多能工化だけでなくマルチスキルを導入する

多能工化とは、一人の作業者が複数の機械や工程を担当することである。

多能工化は柔軟性や効率性に寄与するが、一方でジョブローテーションのタイミングがなかなか来ないなど、多くの金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、着手するまでに一定のハードルの高さが課題になっている。

そこで、筆者は多能工化ではなくマルチスキルの導入の方をオススメしている。

マルチスキルとは、作業者が自分の担当する工程の仕事を行うにあたり、他工程で用いるスキルまで用いることで、仕事の質や幅を広げることを言う。なお、これは一般的な生産管理用語ではなく、筆者がオリジナルで使っている概念である。

例えば、CAMと機械オペレーターが分業している場合であっても、機械オペレーターがCAMを操作してNCデータを作成・編集したり、機械オペレーターが無人加工で手すきになった際、機械の段取り作業場で後工程の組み立て作業まで行ったりすることなどが該当する。

多能工化との違いは、実際に他工程に入って仕事をするわけではないため、他工程の負荷や定員数などに配慮する必要がなく、着手にあたって多能工化ほどハードルが高くない点である。

マルチスキルの導入により、機械加工にあたっては、CAM工程からのNCデータ待ちや、ハンドワークや組み立て作業などの後工程のボトルネックを解消するなど、現場の稼働率向上に寄与することができる。

最低限行うべき機械の状態整備

機械加工の稼働率向上において、前提となることは、機械の故障やトラブルを防ぐことだ。

故障やトラブルが発生すれば、稼働率は大幅に低下するし、品質や安全性にも影響する。

自動化

機械加工の自動化とは、人の手を介さずに機械が自動的に作業を行うことであり、言うまでもないことだが、金型メーカーにおける自動化は、有人作業時間の短縮や品質の安定化などのメリットがある。

自動化の方法は様々あるが、筆者が着眼しているのは、機械加工における機上計測と自動追い込み加工である。

機上計測は、機械にセットされた状態、つまり機械からワークを降ろす前に、マイクロメータやタッチプローブなどで、加工後の寸法や形状を測定することである。

ワークがまだクランプされたままの状態であれば、仮に削り足らない箇所があっても、追加工することが可能だが、一旦降ろしてしまえば、再段取りの時間ロスが発生するし、原点位置の再現も容易ではない。

したがって、一発で狙い寸法が出ているにこしたことはないが、不要な乗せなおしによる稼働率悪化を避けるためには、的確な機上計測は重要になる。

これらの作業を自動化することで稼働率向上に寄与することができる。

また、自動追い込み加工は、例えばマシニングセンターでポケット加工した後の機上計測の結果に基づいて、まだ取れ残りがあった場合に、自動で寸法追い込み加工をさせる仕掛けのことである。

こちらも人の手を介さず無人で行うことが出来れば、稼働率向上に寄与する。

これらの仕掛けについては、CAMのオプション機能を使ったり、専用ソフトを用いる方法がある。

これらを行うことで、作業者の手間や有人作業の待ち時間などを減らし、稼働率向上に寄与させることができる。

あるべき仕事の教え方によるスキルアップ

機械加工の稼働率を上げるためには、作業者のスキルアップも重要である。

しかし、スキルアップのためには、ただ経験を積むだけでは不十分であり、重要なのは、あるべき仕事の教え方である。

あるべき仕事の教え方は、ルーチンワーク的な作業と応用力を要する作業とを切り分け、それぞれに適した指導を行う必要がある。

標準的に決まったルーチン作業を覚える手順については、次のような順序で仕事を教える。例えば、マシニングセンターや放電加工機の段取り作業などが考えられる。

  1. 手順を覚える
  2. あるべき状態を知る
  3. 急所を押える

一方、応用力を要し、ジャッジ(判断)を要する作業については次のような順序で仕事を教える。

  1. 選択肢を知る
  2. 判断基準(優先度)を覚える

このように、状況に適した教育方法を使い分けることで、適切なスキルアップを行うことができ、作業者は高い品質と効率で仕事ができるようになり、ひいては稼働率向上に寄与するはずである。

内段取りの外段取り化

内段取りとは、加工直前や加工直後に行う段取りのことで、例えば、ツールや治具の交換、プログラムの修正などがこれにあたる。

外段取りとは、加工中に行う段取りのことで、例えば、ツールや治具の前準備、プログラムの読み込みなどがこれにあたる。

この違いは、機械が稼働している最中に行うか、停止中に行うかの違いで、内段取りは稼働率を低下させるが、外段取りは稼働率に影響しない。

そこで、内段取りを外段取り化することで、稼働率を上げることができる。

例えば、ツールや治具の準備や交換、プログラムの読み込みや修正などは、可能な限り外段取りで行うべきである。

まとめ

以上、筆者が推奨する稼働率向上の方法7つを紹介した。これらは、実際に筆者がクライアント企業の現場でオススメしているものである。

もちろん、これらの方法は一朝一夕にできるものではない。しかし、稼働率向上は金型メーカーにとって重要な課題であり、取り組む必要がある。

また、稼働率向上と出来高向上の違いについても、しっかりと理解しておくことが重要である。

稼働率向上は機械加工の空き時間を減らすことであり、出来高向上は、生産量を増やすことである。

優先すべきは出来高を増やすことであり、それぞれを目標とする取り組みは、似ているようで異なる点に注意が必要である。

極端に言えば加工のスピードは変わらないままでも、機械スケジュールに空きを作らないよう管理することで、稼働率向上を実現することはできる。

これで結果的に出来高を増やすことになるが、これはあくまでも稼働率を上げたことによる成果である。

したがって、稼働率向上は出来高向上の一手段であると言え、それぞれは分けて考えるべきで、この点はしっかり現場に浸透させておくべきである。

読者企業の現場はいかがだろうか。参考になれば幸いである。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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