隣の人への優越感が「井の中の蛙大海を知らず」を招く???(型技術2024年8月号掲載)
日々、金型メーカーや機械加工メーカーのコンサルティングをしていると、ある種の「あるある」に遭遇する。
それは、ご自身の現状に満足し、改善の必要性を認識していない、いわゆる「井の中の蛙大海を知らず」の状態になってしまっているケースである。
例えば、プレスメーカーの金型内製部門の方の事例では、量産部門の作業者には出来ない工作機械のオペレーションやハンドワーク作業のスキルに、強すぎる自信を持ってしまい、納期や生産性といった業績への視点からの弱点に目を背けてしまっていることがある。
また、売り型メーカーの事例では、金型を製作できるという技能に自信を持つあまり、納期までのリードタイムや月間生産型数の弱さに危機感を感じていないケースも散見される。
しかし、現実の世界は非常に厳しく、常に上には上がいて、競争相手は日々進化している。
出来高が低い、業績の悪い会社にありがちな「病気」
皆さんご存じのとおり、「井の中の蛙大海を知らず」とは、自らの知識や経験に閉じこもってしまい、他にも広い世界があるのを知らないことを例えたものである。
今回のテーマは、金型メーカーや部品加工メーカーでお仕事をされる方にありがちな心の持ちようにより、この「井の中の蛙」になってしまうケースを取り上げたものである。もしよろしければ、参考にしていただければ幸いである。
社内での「優越感」が強いと、「井の中の蛙」になりやすい
金型や機械加工の技術に自信を持つことは悪いことではない。だが、その自信が過剰になってしまうと、社内を飛び越えて、あたかも「自分たちは他社よりも優れている」という錯覚を生み出してしまい、新しい知識や情報、他社の優れた技術への関心を失ってしまう、心のバリアを生み出してしまうことがある。
「井の中の蛙」の何が問題なのか?
「井の中の蛙」の最大の敵は、情報への無関心である。例えば、筆者が見てきた中では、次のような状況が見受けられた。
- 外部の同業者との知識や技術の差を意識せず、現状に満足してしまう
- 新しい技術やノウハウを積極的に学ぶ姿勢が退化してしまう
- 競合他社の動向を把握しようとしない
「井の中の蛙」を克服するために
この状況を打破するためのポイントは、「よその会社はどこまでやっているんだろう」を常に意識することである。
具体的には、次のような行動をとることが望ましい。
- 同業他社の技術力や生産性を聞いたり調査し、自社とのギャップを把握するようにする
- 業界誌などを定期的に読んだり、業界のネット記事を閲覧するなどして、業界動向や最新技術に関する情報収集を怠らない
- 外部セミナーや展示会に積極的に参加し、知識や人脈を広げる
A社、B社の事例
プレスメーカーであるA社は、微細な穴抜き加工や深絞り加工、板鍛造など優れたプレス技術を持っている反面、金型を高能率で製造する技術は、同業他社と比較するとやや劣っていると言わざるを得ない状況だった。
具体的に設計部門においては、シミュレーションソフトの活用や、CAD/CAMシステム活用の仕方が、それらが進んでいる同業他社と比較すると大きく劣っており、シミュレーションソフトを使わないことによる最終工程のトライ作業の手離れの悪さや、設計リードタイムの大きな冗長化などの悪循環を生んでいた。
機械加工においても、マシニングセンターにおいては、10年以上使用する工具が変化しておらず、積極的に最新工具を採用している同業他社と比較すると、倍以上の工数をかけ加工している部品も少なくなかった。
そういった切削加工技術の遅れにより、精密寸法を要する部品の加工は、放電や研削加工に頼ることが多くなり、それらの工程がボトルネック化することで、一つ一つの金型の製造リードタイムは同業他社に比べ、大きく劣っている状況であった。
A社の金型内製部門の作業者が、同じ社内の量産部門で仕事をする者へ優越感を持つことが原因であったかどうかはともかくとして、A社に限らず、筆者がプレスメーカーの金型内製部門のコンサルティングを行う際、金型部門の者が金型保全に注力するあまり、新規の金型を製作するための技術習得へ関心を失ってしまっているケースは大変多く見かける。
同じプレスメーカーのB社においても、同様の状況が見られた。
B社は、顧客への納期と品質の順守率が極めて高い、優れた量産プレス部門を持っているが、金型内製部門の生産出来高が低いことがウィークポイントになっていた。
B社においても同様に、金型内製部門の作業者は、金型保全業務に注力するあまり、新規の金型を効率よく製造していくことへの関心度は低い状況であり、設計部門や機械加工部門の業界水準からの遅れは、A社と同じような状況であった。
具体的には、やはり設計部門はシミュレーションソフトを使わないことで、スプリングバックを全く見込まない成形パンチとダイの設計により、延々と終わらないトライ作業や、機械加工においては、金型保全とトライ作業にベテラン社員、機械加工工程は入社5年未満の社員といった偏った配置になっていることが原因で、機械加工による金型部品は極めて寸法再現度が低くなっており、トライ作業や金型修理の足を大きく引っ張っていた。
A社B社いずれにおいても、筆者のコンサルティングにより、テクニカルな改善に入る前には、まずは技術導入が進んでいる同業他社の部品や金型の出来高を知ってもらい、危機感を持つことから改善をスタートした。
その後、目標とする各工程の出来高を数値目標として掲げてもらい、意識面・技術面、いずれからも改善を進めたことで、現在は2社とも同業他社に劣らない部門体制を作ることが出来ている。
まとめ
金型や機械加工メーカーが直面する競争は、日々激しさを増している。技術の進歩は加速度的に進み、市場の要求は常に変化している。
特にわかりやすい企業間の競争力の違いは、リードタイムと生産出来高にあると言えるだろう。つまり、「どれだけ早くか」と、「どれだけ多くの」の違いである。
今回テーマにした「井の中の蛙」症候群の有無によって、金型メーカーや機械加工メーカーには、特にこの2つに違いが生まれていると思っている。
このような環境下で、「井の中の蛙」症候群に陥らないためには、自社の技術力や生産性を客観的に評価し、常に改善点を探し、向上心を持つことが不可欠である。
謙虚な姿勢で外部からの情報やアドバイスを受け入れ、自己満足に陥らず、常に外の世界を意識し、新しい情報や技術を獲得する必要がある。
会社組織として考えても同様である。危機感を共有し、改善に取り組む文化を醸成すること、そして常に学び続ける姿勢を持ち、自社の成長を追求することが、金型・機械加工メーカーが市場で生き残っていくための鍵となる。
これらの取り組みを通じて、会社組織は競争力を高めることができ、持続的な成長を実現することにつながっていくと思われる。
最後になるが、あくまで「優越感」に浸ってはいけないということではない。優越感に浸ることはむしろ、ある意味 そこまで頑張った自分へのご褒美とも言える。
繰り返しになるが、苦労して得た知識や技能による「自信」は、この業界で仕事をしていくうえで、むしろ必要なプライドや誇りであり、それを積み上げていくことで、もっと自分を高みに引き上げていこうとするインセンティブになり得る。
ただし、重要なのは、「優越感」に浸るまでのハードルを多少なり高くすることで、さらに理想を言えば、自分のパワーアップと共に、さらにそのハードルを引き上げていくことである。
これを読んでくださっている読者企業の皆さんはいかがだろうか。参考になれば幸いである。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
