有限会社 鬼塚製作所のコンサルティング事例(型技術2020年11月号掲載)

目次

有限会社 鬼塚製作所のコンサルティング事例

これまで掲載していた無料診断サービスの解説は前号で終了させていただき、本号からは再び「伸びる金型メーカーの秘訣」ということで、実際の企業の取り組み事例を取り上げながら、金型メーカーや機械加工メーカーの粗利益向上の秘訣について解説していきたい。

本号で紹介する機械加工メーカーは、有限会社 鬼塚製作所(愛知県稲沢市 TEL 0567-46-5308)である。

同社は、鉄道車両などで用いられる鋳物製の部品の切削加工をメイン事業としている。

同社の強み

同社の強みは、次のような点である。

  1. 鋳物素材(ねずみ鋳鉄・ダグタイル鋳鉄)の切削加工についての豊富なノウハウを持っていること。
  2. 幅広い形状に対応できる工作機械が多種に渡ること。
  3. 難易度の高い薄肉鋳物素材において、低い不良率で加工していること。

1.の切削加工ノウハウについてポイントは2つあり、一つ目は鋳物素材の加工で最も課題となる段取りの難しさへの対応力が高いことである。

旋盤やフライス加工でチャッキングやクランプをするためには、保持するための平面や円筒面など寸法管理された切削面が必要になり、そのため6面フライスされた鋼材から加工する場合と比較すると、単純にその分の1工程が余分に増えることになる。

加工工程の中で、そうした黒皮部分をクランプするための加工(以下、「捨て挽き」と表現)が増えれば増えるほど、余剰な工数と工程が増えていく。

同社の加工担当者は、鋳物加工に長年特化してきた経験により、最小限の捨て挽きと段取り回数で工程を組むための治具設定や工程設計を行うノウハウを持っており、それが同社の鋳物加工における強みとなっている。

ポイントの2つ目は、加工で使用している工具の専門知識が豊富にあることである。

近年市販されているコーティング超硬チップは、普通鋼や炭素鋼と鋳物素材を包括して加工できる商品もあるが、同社では切削条件や切り屑の出方が異なるねずみ鋳鉄とダグタイル鋳鉄を扱っており、それぞれに使用する工具を分け、シビアに配慮した方が寿命やトラブル防止のために必要だと考え、それぞれに特化した工具選定と加工条件の作りこみを行っている。

こうした取り組みが、様々な鋼種を加工している同業他社とは、鋳物加工の加工技術については差別化ができていると同社は考えている。

同社の強み2.の幅広い種類の保有設備については、様々なサイズと形状の鋳物加工に対応できるよう機械を取り揃えている。

具体的に、旋盤加工については、縦型旋盤・一般的なNC旋盤・5軸加工にも対応できる複合旋盤、フライス加工については、立形マシニングセンター及び横型マシニングセンターである。

図1 同社の複合旋盤エリア

これにより、小型・中型のあらゆる鋳物部品の形状に対応できるため、複雑かつ多面的な加工を要する部品についても、効率的な工程で加工を行うことができている。

同社の強みの3.については、下の写真にあるとおり、薄肉円筒部品で片肉5ミリしかないような部品の加工にもかかわらず、高い円筒度と寸法精度を出すことができている。

図2 同社が扱う薄肉鋳物部品

鋳物素材の加工は、一般の6面フライスされた鋼材等とは異なり、不具合による材料の再調達が難しく、同社の量産加工においては極めて低い工程内不良率を実現しなければならない。

そうした中、同社の加工担当者は特殊な治具を駆使したり、加工条件や工程を工夫することで、難易度の高い加工でありながら低い不良率を実現している。

同社の今後の新たな取り組み

同社の受注品のほとんどは、リピートで繰り返し受注する量産部品である。

同社の扱う加工品は、鉄道車両など公共設備に関わる部品が多く、景気動向の影響を受けにくい点が経営面での強みであったが、新型コロナウィルスによる景気減退が今後も社会全体へ広がっていくことを危惧し、既存事業だけを継続する「守りの経営」ではなく、新たな販路を拡大していくことを同社専務取締役である鬼塚真生氏は決意した。

販路拡大を進めるにあたり、まず同社が必要だと考えたのは、得意分野である鋳物素材の切削加工技術と保有設備を活かした仕事の受注である。

またこれまでの量産部品加工は継続し、その隙間の工数を活かす受注となれば、小ロットもしくは単品の加工品の受注となる。

量産加工と単品加工の違いについて

では同社がこれから取り組む単品加工と、これまで行ってきた量産部品加工にはどのような違いがみられるのだろうか。

まず量産部品加工の管理には段階があり、加工リードタイムが納期までのリードタイム内におさまるかどうかによって、在庫管理が発生するかが決まる。

加工リードタイムが納期までのリードタイムよりも短ければ在庫は不要となり、注文が入ってから材料手配と加工を開始すればよい。逆に加工リードタイムの方が長くなる場合は、注文を受けてから材料手配と加工に入っていたのでは当然に間に合わない。

そのため一定の在庫数を持つことになり、加工現場への手配はこの在庫数と出荷数の差を見ながら行うこととなる。

同社の既存の量産部品加工は後者にあたり、極めてタイトな日程で注文が入るため、過剰な在庫数にならない範囲で、見込み生産を行いながら日々の加工を行っている。

一方、小ロット品や単品加工は主に試作部品などの分野で需要があり、必要な時に必要な分だけをジャストタイムで注文されるため加工メーカーは在庫を持つことはない。この在庫管理の有無が、量産加工と単品加工の最も大きな違いになる。

したがって単品加工は在庫を持たず見込み生産を行わないため、多品種で小ロットの部品を受注すると、これまで行ってきた見込み生産よりも多頻度の段取り替えが発生する。

これまでやってきた量産加工から新たに単品加工を行う同社にとって、こうした点が新たな技術課題となって立ちはだかる。

新たな取り組みで発生する課題の解決について

同社は今後、新たな単品加工の受注を量産加工の隙間に取り込み売上増加を図っていく計画である。

そのためには、マシニングセンターやNC旋盤など日々の量産加工の日程計画を事前に把握・共有し、営業担当である鬼塚専務取締役が可能な限り早いタイミングでそれを認識し、その隙間日程に入る仕事の引き合いを取り込んでいかなければいけない。

これまでの同社の日程計画にはそこまで緻密なものは存在しなかった。また生産計画は個々の機械の担当者に任されており、日程計画を共有する仕組みも存在していなかった。

そこで同社は市販のスケジューラーシステムを導入し、本社工場と少し離れた場所にある第2工場も含めた生産活動全体を一元管理し、かつ社員全体で共有していく計画である。

また多頻度で発生する段取りに加え、加工に必要となるNCプログラムについて3次元CAMを導入し、外段取り化を強化する計画である。

その3次元CAMの選定については、同社の強みである複合旋盤から立形マシニング及び、横型マシニングまでを包括的に対応できるCAMを選定することが課題となったが、筆者の薦めでhyperMILLを導入する計画である。

これらを導入した同社の今後については、またの機会で紹介させていただいたい。

新たな販路開拓についての課題を高機能なソフトウェアの性能によって解決を図ろうとする同社に筆者は大きな期待をしている。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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