人材育成に欠かせない2つのテーマ(型技術2025年1月号掲載)
今回は、金型メーカーや機械加工メーカーにおける現場リーダーに向けた提言について、2つのテーマから見ていきたい。
テーマ①:御社に自社流は整備されていますか
最近、多くの会社で「たしかにね~」と皆さんに賛同いただくエピソードがある。
それは、主に機械加工や検査工程で聞かれるのだが、自社に○○流と言えるような、作業者共通のやり方が存在していないという問題である。
そうなった経緯には理由があり、一品物や小ロット品を扱っている加工メーカーや金型メーカーでは、試行錯誤しながら物を作り上げていくことが多く、結局 終わってみると、どういうやり方が一番近道で正解だったのか、あとで振り返らないまま、次の仕事に取り掛かっていくことが多いためだ。
これを日々繰り返していくと、結果 作業者間で共通したセオリーを確立していくことなく、担当者ごとにやり方が異なったまま、現在に至っていく。
ここで対象となっている「やり方」には2通りあって、一つは機械やソフトなどを操作する手順や使い方のクセなど。もう一つは、加工や検査などの段取りの仕方や工程の考え方の違いなど、ノウハウ的なものである。
こういった標準化ができていないことは、新人教育の際にも悪影響が出ており、以前の記事にも書いたが、過去事例を新人に振り返らせていない原因にもなっている。
その理由として、答えが明確になっていない過去事例を、一生懸命時間をかけてやっても、あまり得るものがないという認識になっているためというのがある。
ましてや 一品ものを扱う現場では、過去事例を振り返っても、また同じものが来るとは限らないため、なおさら過去事例は意味がないのではという認識になっているようである。
こうした背景から、新人社員が仕事を教えてもらう際、自社セオリーが確立されていない現場では、加工や検査のやり方については、誰に教わったかに依存することになる。
したがって、その教えてもらう内容は、教えてもらったその先輩のやり方であって、それが自社にとって最適解であるかどうかはわからない。
自社セオリーを確立しないままに教育を行った結果、のちに新人が「あれ?」と思うやり方をしていても、「誰々さんがこうやれと言ったから」という受け答えは、現場のあるある話である。
また、新人が次の案件を教えてもらう際に、別の先輩に教えてもらう時、異なるやり方であった場合、「どっちが正解なの?」と迷ってしまうのも同様である。
では、どのように自社流(最適解)を整備していくかであるが、フォーマットはどうあれ、基本の考え方は、フローチャートのような考え方が望ましいと思われる。
その際の分かれ道(分岐点)をどうするか、そこに設定する選択肢をどうするかがポイントとなる。
例えば、直近でコンサルした、ある単品部品加工メーカーの検査部門での最適解の整備では、色々と整備したフローチャートの分かれ道の一例として、「図面内の検査箇所が何ポイントあるか」があった。
何ポイント以下であれば自動検査表ソフトを使う、それを超えていたら 測定器から出力される測定値を自分でEXCEL上に並べ、手動で検査表を作るといったものがある。
もう一つの例として、検査する加工品に「リピート性があるかどうか」というもので、EXCELで作る検査表に、自動公差判定や図面数値とのギャップ計算などの仕掛けを、組み込むか組み込まないかという選択肢もあった。
これだけ見ると、ある程度当たり前の検査プロセスに聞こえるかもしれないが、実際にこのレベルの「分かれ道」でも、こちらの現場では 検査のやり方や表の作り方に違いが出ており、作業工数の個人差が著しく大きくなっていた。
実際に、この部署のリーダーにフローチャートの考え方を実践してもらい、最適解となるやり方で部下に仕事を行わせた結果、以前の記事で紹介した可動率が90%を越える仕事が多くなり、効果を実感してもらえた。
御社の現場には自社流と言えるセオリーは確立しているだろうか。
テーマ②:「評価」は上司の唯一の特権?
近年、金型メーカーや機械加工メーカーの上司、特に現場リーダーの方々は、大変な苦労をされていると感じる。
例えば、部下を強く叱責するとパワハラ疑惑に発展するリスクがあり、強くものを言うことも難しくなっている。また、現場で加工などの作業を行うプレーイングマネジャーの場合、真面目に指示に従ってくれる部下がいる一方で、チームの状況に関係なく頻繁に休んだり、家庭の都合で残業ができないなどの理由で、どんなに忙しい状況でも残業を拒否する部下もいたりする。
このような状況が理由で現場の作業が滞ると、上司は管理業務に加え、現場作業もフォローしなくてはいけなくなり、非常に苦しくなる。
「部下を育てるためには、じっくりとチャンスを与え、待つことが大切だ」とよく言われるが、実際には納期が迫ると、現場リーダーの上司自身がすべての責任を背負い込むことになり、自らが追いつめられる状況になることもあって、部下にチャンスを与える余裕もなくなってしまう。
これは現場でよくある話である。
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