金型製造現場の業績を左右する管理職の責務とは(型技術2025年10月号掲載)

図1 金型現場の実状
目次

金型製造現場の業績を左右する管理職の責務とは(型技術2025年10月号掲載)

「今月の売上を考えると、追加で引き合いが来た仕事を入れたいのだが、現場はもう一杯だと言っていてな…」。

金型メーカーや部品加工メーカーの経営者や管理職の方であれば、一度はこのようなジレンマに頭を悩ませた経験があるのではないだろうか。「しかし、本当に現場は手一杯なのだろうか…」。 そんな疑念が拭えないのもまた、偽らざる心境であろう。

現場の生産能力と、会社が達成すべき売上・利益目標との間で板挟みになるのは、管理職の宿命ともいえる。しかし、会社の持続的な成長のためには、この課題を乗り越えなくてはならない。

本稿では、会社の業績を向上させるために管理職が果たすべき本来の役割を再確認するとともに、その役割を全うするための具体的な目標管理手法について、特に「納期」と「出来高」という二つの指標を軸に深く掘り下げて論じていく。

管理職の本来の役割—部下のパフォーマンスを最大化する影響力

そもそも、「上司の本来の仕事とは何か」という根源的な問いについて、我々は明確な答えを持っているだろうか。現場で発生するトラブルへの対応や、部下からの技術的な質問に答えることだけが管理職の仕事ではない。もちろんそれらも重要な業務ではあるが、より本質的な役割が存在する。

その核心にある原則とは、「部下を鼓舞し、その部下それぞれに1.1人前、1.2人前のパフォーマンスを発揮させ、その0.1や0.2人分の上前を頂戴することで、上司は部下よりも高い給料を得る」というものである。

これは、上司が自身の持つ「影響力」を行使して、部下一人ひとりのパフォーマンス、すなわち「出来高」を向上させることを意味する。 そして、その影響力によって上乗せされた成果こそが、管理職の高い報酬の源泉となるのである。

この原則を理解すれば、「俺はとやかく部下には何も言わないからな」といった姿勢が、管理職としての責任放棄に等しいことがわかるだろう(圧倒的なカリスマ性で背中を見せるだけで部下がついてくる場合は除く)。

上司の存在価値は、部下のパフォーマンスをいかにして引き上げ、組織全体の生産性を向上させられるかにかかっている。 大変な仕事ではあるが、誰かがやらねばならず、その役割を割り切り、部下を鼓舞し続けることが管理職には求められるのだ。

なぜ目標は「納期」ではなく「出来高」なのか

では、管理職が部下のパフォーマンスを最大化するためには、具体的に何を目標として日々管理すべきなのだろうか。

多くの加工現場では、個々の仕事の「納期」を守ることが絶対的な目標とされている。 しかし、筆者の経験上、「納期」を日々の目標としている加工現場を持つ会社の業績は芳しくなく、むしろ「出来高」を目標としている現場の方が良好な業績を上げていることが多い。

この違いはどこから生まれるのだろうか。まず理解すべき大前提は、「顧客は、こちらの会社がちょうど良く利益の出るように仕事量を調整して発注してくれているわけではない」という厳然たる事実である。

したがって、ただ漫然と納期通りに仕事をこなしているだけでは、会社が目標とする売上や利益の達成に結びつくとは限らないのだ。

特に、単品受注生産が主体の部品加工メーカーなどでは、この問題が顕著に現れる。

例えば、現場の負荷に余裕がある時期、作業員は無意識のうちに加工スピードを緩めてしまうことがある。 納期にさえ間に合えばよい、という考えが働くからだ。

その結果、営業担当者が売上目標達成のために新たな仕事を受注しようとしても、現場はあたかも手一杯のような状態に見えてしまい、追加の仕事を受け入れられないという「負のスパイラル」に陥ってしまう。

こうした状況が続けば、会社は採算ラインギリギリか、赤字と黒字を行き来するような厳しい経営状態から抜け出せなくなる。

この悪循環を断ち切るために、現場リーダーは「納期」だけを追いかけるのではなく、会社の利益に直結する「出来高」をこそ目標として日々の業務を管理していく必要があるのだ。

「出来高」目標の具体的な設定と運用

「出来高」を目標に据えるといっても、具体的にはどのように計画し、運用すればよいのだろうか。

能動的な現場リーダーは、個々の仕事の納期に過度にとらわれることなく、あくまで現場全体の「出来高」にこだわった生産計画を立案すべきである。

ここで注意すべきは、「稼働率」という指標の扱いである。稼働率を上げることを目指すあまり、本質を見誤る危険性があるからだ。

過去に見たある金型メーカーの事例では、現場の作業員は真面目で、複数台のマシニングセンターは常に忙しく稼働しているように見えた。

しかし、その実態は、安全性を重視しすぎた非常に遅い切削条件で加工が行われており、一見すると稼働率は高いものの、成果物である「出来高」は全く伴っていなかった。

このように、稼働率は高くても生産性が低いという状況は往々にして発生する。現場リーダーが本当に目標とすべきは、見かけの稼働率ではなく、加工枚数などの具体的な「出来高」なのである。

では、その「出来高」目標はどのように設定すればよいか。一つの有効な方法は、会社を健全に運営するために必要な、マシニングセンター1台あたりの1日の目標売上額をまず算出することである。 そして、その目標売上額から逆算して、各機械オペレーターが日々達成すべき「出来高」を設定するのである。

筆者自身の見解では、従業員30名以下の小規模な加工メーカーにおけるマシニングセンター1台あたりの1日の最低売上ラインは「4万円」だと考えている。 この額を確保できなければ、賞与を含む人件費の支払いや工場の維持・運営など、正常な経営が困難になる可能性が高い。

仮に、受注する仕事の平均チャージ(時間単価)が4千円だとすれば、1日あたり10時間分の仕事をこなさなければ4万円の売上は達成できない。 この「10時間分の加工」が、日々の具体的な目標となる。もちろん、定時内で終わらない2時間分については、夜間の無人加工などを活用して対応するといった工夫も検討する必要があるだろう。

まとめ

部下である機械オペレーターの方々に悪気はない。 上司から具体的な指示がなければ、彼らは「納期を守ること」と「不良品を出さないこと」という2大鉄則を最優先に行動する。

しかし、この2つの鉄則は、「守ろう」と意識すればするほど作業は慎重になり、結果として加工スピードは遅くなる方向に作用しがちである。

だからこそ、会社が必要とする売上と利益を確保するためには、上司である現場リーダーが、より高い次元の目標、すなわち「出来高」という目標を明確に設定し、現場を導いていく必要があるのだ。

もちろん、「出来高」という厳しい目標を現場に課せば、ほぼ確実に反発が起こるだろう。 「そんな目標は達成不可能だ」「納期に間に合っているのに、それ以上やる必要があるのか」といった声が上がるはずだ。

そのような部下からの反発をなだめ、目標達成の重要性を説き、チームを鼓舞して「出来高」に向かって走らせることこそ、管理職に与えられた最も重要な仕事なのである。部下と一緒になって「納期に間に合っていれば十分」などと考えていては、いつまでたっても会社の業績は向上しない。

1日あるいは週間単位で必要な売上から「出来高」を算出し、それを日々の生産計画に落とし込み、個々の作業者に割り振る。

このような能動的なリーダーシップを発揮する管理職が一人でも増え、利益体質の金型メーカー・部品加工メーカーが業界に増えていくことを切に願っている。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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