金型・部品加工業専門コンサルティング

金型・部品加工業専門コンサルティング(加工コンサル)は、金型メーカーや、マシニングなどの機械加工業を専門とする経営コンサルタント事務所です。

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事務所所在地: 愛知県刈谷市

射出成形金型

株式会社エスケイモールドのコンサルティング事例(2017年10月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、株式会社エスケイモールド(愛知県豊橋市 TEL0532-35-2007)である。同社は、PPやナイロン系の樹脂材料を成形素材とするモールド金型を製造するメーカーである。

 

筆者が同社をサポートすることになったきっかけは、金融機関から専門家派遣制度を活用した支援依頼があったためである。

 

同社の強み

支援内容としては、同社が自社を紹介するホームページを製作するにあたり、そのコンテンツとなるPRの内容について、自社だけでは相対的な特徴を洗い出すことが難しく、そのサポートをお願いしたいとのことであった。

 

金融機関の支援担当者と共に訪問し、代表取締役である鈴木 秀男氏からヒアリングを行ったところ、筆者は同社の事業について、次のような特徴を挙げた。

図1 構造設計・3Dモデリングを行っている様子

図2 同社の機械加工現場の様子

 

  1. 構造部・意匠面のモデリング、全てを社内設計できる体制が整っている。
  2. 新規の金型製作から納入後の修理・メンテナンスまで、全て一括で対応している。
  3. ワイヤー放電・型彫り放電、マシニング加工など、機械加工を全て内製化している。

 

これらの特徴から見出すことのできる同社の強みは、①短納期対応と②小回りの良さであろう。

 

これらを、同社の強みとして挙げたのは、モールド金型メーカーを筆者が経営診断させていただく際、本来モールド金型メーカーがコア技術とするべき業務を、ここ最近アウトソースしている傾向にあると感じたためである。

 

例えば、次のような傾向である。

  • 金型構造設計及び、キャビとコアの製品意匠面モデリング(パーティング面・勾配面のモデリングなど)を外注で対応し、CAMデータの作成から機械加工を社内で行う。
  • 機械加工の終わったキャビとコアの磨き作業を外注に依頼する。
  • 金型の組み付けは社内で行うが、トライ作業は客先にお任せする。

 

これらの傾向については、やはり年々短納期化する金型納期と、引き下げられる金型費への対応のためであると考えられる。

 

また、若手技術者の強みを活かせる分野として、CAMや機械加工といったマニュアル化・標準化しやすい作業を、今後もより内製化していく傾向になるものと思われる。

 

しかしながら、筆者のような中小企業診断士やいわゆる経営コンサルタント等は、SWOT分析などから、「強みを市場機会にぶつけ競争力の高い事業を行う」などと提案することが多いが、前述したように本来コア技術となるべき業務をアウトソースする金型メーカーについては、筆者も「強み」を洗い出すことに思わず悩んでしまうことも多い。

 

しかしながら、筆者が拠点とするここ中部地方では、まだまだ仕事量は飽和しており、どの金型メーカーも忙しく、受注についてはキャパオーバーとなっている。

 

そうしたなか、海外生産に主力を移しつつある金型メーカーも多くなってきており、今後の国内の技術・コストの競争力については、楽観視できないところもあると思われる。

 

同社の競争戦略

こうした業界事情の中、同社は同業他社との差別性を意識した戦略をとっている。

 

いかなる事業においても、企業が競争力を維持してために最も重要なこととして、「参入障壁」をいかに高くできるかだと考えている。

 

全くライバルが存在しない新しい事業というものは、このご時世なかなか無い。仮に、全く新たなプロダクト(商品)を開発できたとしても、インターネットなどによって情報が一瞬で行き渡るこの時代では、すぐに模倣品が現れ、コモディティ化してしまう。

 

ところが、金型製造という事業は、職人技術を要するために、各社これまで一定の事業領域を保ってビジネスを行ってくることが出来た。

 

それが皮肉にも、CAD/CAMや工作機械の進化により、一部の職人技術が機械システムに置き換わることで、限られた人にしか扱えない技術から、ソフトや機械を操作することで、誰にでも扱える技術に裾野が広がってきたという背景がある。

 

例えば、昨今の鏡面磨き加工がある。筆者も以前、高度ポリテクセンターにて鏡面磨きの研修を受講したことがあるが、受講生10名強の中で、最終課題である#8000の磨きの完了まで到達できた者はわずか4名ほどであった。

 

このように金型の鏡面磨きは、必要な体の動作を、一定のトレーニングにより時間をかけ段階的に習得していくものであり、やり方・方法を知識的に知ったところで、とたんに作業できるというものではない。

 

ところが、これを工作機械の加工で置き換えるとした場合、もちろんソフトや機械の操作、工具の特性・使い方など、覚えなくてはならないことは多岐に渡るが、人間がトレーニングをするといったものとは異なる技術の扱いになる。

 

一概には、どちらが覚えやすいか、覚えにくいかを明確に分けることは難しいが、前述した「参入障壁」という視点でみれば、習得に時間の掛かり、個人差が生まれやすいものほど、障壁は高いと言える。

 

また経営学で使われる用語に「経路依存性」というものがあり、これは過去に多くのさまざまな経験によって積み重ねられた技術や経験値は、他社から見ると複雑で、簡単には真似ができないといった強みを指す。これを模倣困難性と言う。

 

つまり金型業界で言えば、現時点の技術ではまだ機械に置き換えることができない人の技能や、多くの失敗・経験によって構築された金型ノウハウについては、同業他社に追従される可能性を低くできるということになる。

 

同社が内製化にこだわる、金型設計、金型の溶接補修などは、そうした経路依存性の高い技術だと言える。

 

また、他社が製作した金型についても、補修・メンテナンスを依頼されることが多く、こうした積み重ねが同社の設計において、さらなるノウハウの積み重ねとすることができる。

 

これにより、壊れない・トラブルを起こさない金型製作をより強化していくことができ、これが同社の模倣困難性をさらに高めていく。

 

今回、筆者は同社のホームページ製作をサポートするにあたり、金型を専門とするコンサルタントの目線から、中長期的な視点でこのような同社の競争力を見出すことができた。

 

同社の今後の取り組み

同社は、これまである程度決まった取引先から受注を請けてきたが、今後は事業の拡大と安定化のため、金融機関と協力した販路開拓にも取り組んでいく。

 

現在、中小企業に関わる支援策は、金融機関や公的機関を窓口に、多岐に渡って展開されているため、信用金庫など身近な金融機関などに適宜、課題を相談しながら、うまく活用することが経営の効率化にもつながる。

 

同社は事業拡大に伴い、設計対応力の強化を図るため、新たな技術者の採用に合わせてCADの拡充を検討しており、その際にはSolidWorksなどを活用した設計のオール3次元化も視野に入れている。

 

同社の強みである、長期間に渡り使用できる丈夫な金型を製作する設計ノウハウを、若手技術者に継承していくための仕組みづくりも今後必要になってくる。

 

人の持つ技術を最大限に活かした自社の競争力を高め、さらなる事業拡大を目指す同社に筆者は大きな期待をしている。

 

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング

代表:村上 英樹(中小企業診断士)

愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

 

株式会社ハイレックスコーポレーションのコンサルティング事例(2016年10月号掲載)

 

本号では以前、ご登場いただいた株式会社ハイレックスコーポレーション三田西工場(兵庫県三田市 TEL079-568-2480)の金型課におけるコンサルティング事例の続きとして、特にマシニング加工の改善について取り上げる。

 

近年、CAD/CAMシステムの進化によって、機械オペレーターに習熟度のバラツキがあっても、その影響をなくして加工を行うことができる。筆者も現役の加工者だった頃は、CAMオペレーター専任として複数の機械オペレーター向けにNCプログラムを作成・提供していたことがあるが、ベテラン・若手、気にすることなくプログラム作成できたことは非常に便利だと感じた。

 

しかし、このソフトウェアの進化によって、多くの金型メーカーで将来性に関わる問題が発生している。例えば、機械オペレーターにおいては、加工技術を知らないまま、段取りだけを行う「段取りマン」にとどまってしまう、また設計者においては、過去に自社で取り扱った図面を元に、修正・編集ベースでしか設計できないといった応用力の乏しい技術者が増えている。

また、そうした技術者が年齢的に中間管理職になっていることもあり、次の若手技術者に根本的な技術の視点でOJTを行うことができていない。例えば、「なぜそうなるのか?」「なぜこの方法で行うのか?」といった質問に対し、「昔からウチはこうやっているから」といった曖昧な回答をしていることも多い。

こうなるともはや、ものづくりの手段としては、場当たり的に暗記的に覚えた対応しかできなくなり、応用力が問われたり、トラブルシューティングを行う場合、対応ができなくなる。実際こうした製造現場が増えている。

本号では、こうした点への対応についても触れているので、ぜひ参考にしてほしい。

 

同社の機械加工の強み

以前、射出成形金型を扱う同課の金型製造の特徴として、①完全な3次元設計を実現、②機械加工はCAM担当者と機械オペレーターの完全分業化を実現している点などを紹介した(写真1)。

写真1 同課のCAM作業風景

これについては、人的ミスや忘れなど、手戻りロスなどが削減でき、効率的な金型製造が可能になる反面、製造工数を冗長化させるリスクもあった。

そこで同社は、さらなる製造コスト削減に着手するため、最も工数のウェイトが高い機械加工、特にマシニング加工に注力した改善に着手した(写真2)。

写真2 マシニングの技術改善の様子(担当の梶村氏と筆者)

 

同社のマシニング加工の課題

CAM担当者と機械オペレーターが分業することにより、複数の機械オペレーターに習熟度の違いがあっても、加工品質がバラつかないメリットがある。しかし、部品の種類によっては、手動操作で加工できるシンプルな形状の場合、CAMによるデータ作成に加え、CAM担当者と機械オペレーターとの意思疎通を行うための加工指示書の作成まで行うことで過剰な工数が発生する。

また、機械オペレーターは「段取りマン」になりやすく、長期的に見た場合、スキル向上の機会を得ることが難しい。同課は、新規型の製作・量産型の修理のため、高い負荷が慢性的に続いており、個々のスキル向上になかなか対応できない状況である。

 

課題解決への方向性

そこで、マシニング加工を行う部品について、加工部位に要求される面粗さごとに、次の改善を図ることとした。

 

  • 面粗さ▽の部位

荒取り工具だけで完了させる。もし加工面粗さが原因のクラック発生が懸念されるならば、リューダで手仕上げする。Gコードプログラムを使わない直線的な部位は、手動操作(ジョグ送り)の加工で終わらせる。また、CAMデータ加工で使う工具は、必ずしも手動加工でも使いやすいとは言えないため、ラフィングエンドミルなど、別の工具に使い分ける。

 

  • 面粗さ▽▽の部位

荒取りの加工条件よりも、むしろ仕上げ加工の送り条件をUPさせる。工具カタログに記載してある推奨条件は、過酷な条件となる荒取り加工の条件をセールスポイントとして記載してあることが多い。逆に、荒取りほど負荷のかからない仕上げの加工条件は、加工者固有のスキルによるところが大きい。部位にもよるが、金型構造部の▽▽の面ならばRz値12.5~25zレベルでもよいため、理論面粗さ値の計算式から、許容される送り速度を計算し、できるだけ送り条件をUPさせる。

 

  • 面粗さ▽▽▽の部位

設計面からも見直し、本当に▽▽▽レベルが必要なのかを検証する。例えば、放電加工は▽▽か▽▽▽レベルの面粗さが得られるため、オペレーターのスキルには影響されないが、部品用途によっては過剰品質になる。

また、社内で部品図面を作図する金型メーカーに多いのが、図面によっては、寸法公差・面粗さを省略している場合、加工現場では過剰な品質で加工されていることもある。

 

デジタル加工からアナログにすることで、まだ工数の削減はできる

同課の設計図面は、製図スキルの観点からも高度に書けており、一見すでに改善の余地はないように見える。しかしもう一歩、設計者が加工ノウハウに踏み込むことで、手動操作の加工に都合の良い部品構造にすることもできる。この点については、設計・CAM・マシニング、各担当が分業化されており、その間に隔たりがあることが弊害であった。

 

例えば、金型をクランプするための溝を肩削りで行うような手動加工であれば、その部品図面に記載する寸法は、基準位置からの累進寸法よりも、端面からの幅寸法の方が、電卓を打つ手間が省けミスの可能性を減らせる。

こうした体制を作るためには、設計者が加工を知らないとできないため、これは設計者としての「伸びしろ」になる。また、多能工やオールラウンドプレーヤーが多い金型メーカーと、そうでない分業制のメーカーでは、こうした点で製造コストに差が出やすい。

 

今後の同社の取り組み

今後の同課の取り組みとして、短期的にはさらなる製造コストの削減、中長期的にはベテランから若手への技術継承がある。ただし前述したように、技術継承においては、多くの金型メーカーでは、「作業手順の引継ぎ」にとどまってしまうことが多く、製造現場の技術力低下を招いている。

技術スキルの習得については、まさに「ローマは一日にして成らず」の言葉どおり、コツコツ続けていき、気づけば高度に習得できていたというものも多い。ところが多くの金型メーカーでは、短納期対応に追われ、着実な技術習得に取り組む時間が取れないのが実情である。

 

同課の、課としての金型技術としては高度に確立している。また、最新の切削工具の採用なども積極的に行っており、効果の高い改善を高頻度で行っている。今後は、技術者としての「個」の技術を高めていくことで、「社」としての金型技術を高度化させることができる。そのためには、技術者の直属の上司のマネジメント能力を高めることで、高度な技術者を計画的に育成し、将来にわたってコスト競争力を高めていく同課に、筆者はさらなる期待をしている。

 

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代表:村上 英樹(中小企業診断士)

愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

 

株式会社ハイレックスコーポレーションのコンサルティング事例(2016年4月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、兵庫県宝塚市に本社を置く株式会社ハイレックスコーポレーションの三田西工場、金型課(兵庫県三田市テクノパーク内)である。同課のスタッフは12名。扱う主要製品は、自動車部品が中心であり、製作している金型の種類としては、中型・小型の射出成形金型からダイカスト金型まで製造している(写真1)。

写真1 同課で製作した金型で成形した製品

 

筆者がお手伝いしているメーカーは中小企業だけではなく、大企業や中堅企業の金型部門も対象としている。また、筆者の専門はプレス金型であるが、マシニングやCAM作業などの機械加工が得意分野であるため、プレス成形以外の金型を扱う事業者さまからもご依頼をいただいている。

 

以前にも書いたが、射出成形やダイカスト金型、プレス金型の違いについても興味深い。工程設計や金型構造、機械加工、トライ作業の際の着眼点など、それぞれ共通するところもあれば大きく異なることもある。ただしトライ作業については、成形作業の知識を持たないといけない点は、どの金型を扱っても同じである。今回はその点について触れてみたい。

 

同社金型課の強み

同課の強みとして、次の点が挙げられる。

  1. 完全3次元設計の実現
  2. 機械加工の完全なデータ化
  3. 徹底した5Sの実現

 

多くの金型メーカーでは2次元CADによる設計が中心であるが、同課では意匠面だけでなく構造部まで完全に3次元CADによる設計が行われている(写真2)。

写真2 同課で行われている3次元金型設計の例

 

このメリットとして、スライドを複雑に使った金型であっても、設計者のみならず後工程の担当者まで、型構造・製品形状が理解しやすい点が大きい。また3次元に対応したCAMを使っていれば、フィーチャー機能などを活かすこともできる。

逆に留意点として、シンプルな構造部も立体で表現するため設計負荷は増える印象が強い。こうした負荷をいかに前後行程のメリットで相殺できるかがポイントである。また、公差情報などの言語情報が伝わりにくい点も以前から言われているところである。そのため、3次元モデルデータとは別に、公差図や単品の部品図を作成する場合も多い。

 

同課の強みとして、主にマシニング加工にあたり、完全なCAMによるデータ提供が行われている。このメリットは、①CAD図面の情報を読み違えなく加工データ作成に利用でき、ミスによるロスが減らせる、②加工履歴を残しやすく、金型メンテナンス時に効果を発揮する。

逆に留意点として、①データ作成者と機械オペレーターが異なる場合、加工指示書の作成工数など間接コストが増大する、②機械オペレーターの応用力育成が鈍化するなどがある。

 

さらに同課の強みとして、5Sの徹底がある。前述した完全なCAMデータ化も、こうした5Sや管理ルールの徹底があるからこそ成り立つ。例えば、作成したデータのツール番号と、実際にマシニングに取り付けられている刃具やツールホルダーが統一されているといった連携がなければかえって混乱を招く。同課はこうした点をクリアしており、ロスの少ない機械加工を行っている。

 

コンサルティング前の同課の課題

同課の金型製造の課題として、自社で使う金型を製造しているが遠方の客先メーカーで使う金型を製作することもあり、組み上げた金型は客先で成形トライすることが多く、立ち会いもままならないことが多い。そのためか、製品意匠部の寸法を追加切削する金型修正が頻発しており、また溶接補修も多いことから、金型完成までのリードタイムは冗長していた。そこで筆者と共に、機械加工の一部ハンドワーク化も含め、金型製造における総リードタイム短縮への改善を行った。

 

具体的な問題点

トライ作業の際、ショートショットや焼け、銀条といった外観不良は、成形メーカーのオペレーターが対策するため、同課2名の設計者による金型では、そこが大きな問題点となることは少ない。同課を悩ませていたのは、ソリや変形などによる微小な寸法不良である。

 

そのため、成形トライ後の修正方法として、金型を追加切削する寸法補正が高い頻度で発生していた。形状を盛る方向であれば、溶接肉盛りを伴い、溶接費用とリードタイムが余計にかさむ。もちろん溶接補修を避けるべく、ファーストトライ時は変形収縮方向を確認するため、切削の取りしろを余分に付け、変形の傾向を見るなどの対策はしていた。それでも、2回目、3回目のトライ時の成形サンプルを測定すると、傾向とは逆の動きに反るなど金型修正を繰り返す問題が頻発した。

もはやこうなると、遠方の成形メーカーと同課で、金型修正を繰り返しながら行ったり来たりである。どこで寸法が決まるのか読めない状況になってしまう。

 

取り組んだ改善

これまでのやり方を改善すべく、過去、寸法補正加工が多かった金型を事例として取り上げ、設計時の狙い・意図からどれだけの誤差が出るのか、トライ時にいくつかの調整値による成形サンプルをとり、どれだけの振れ幅の調整値によって、どれだけの寸法変化が出るのか、同課のスタッフが主導となって検証した。

 

同課の中で、射出成形の技能検定の受験経験のある佐川氏が中心となり検証を行った。その結果、例えば、射出速度をいくつか変えて成形したところ、見込んでいた傾向とは異なる寸法の結果が出たりもした。

冷却の遅い箇所の収縮が大きくなるなど、反りや変形は製品形状によるところも大きい。そのため、多段射出を行ったり、キャビティとコアの型温度を変えたり、保圧のタイミングを遅らせたりといった調整を行う場合があるが、こういったさまざまな影響要因が考えられるため、限定した調整値の見込みだけでは、寸法変化の傾向は読みきれないところが難しい。

 

そこで今後は、成形サンプルを複数とるにあたり、成形メーカーに対してトライに用いる成形調整値を、あらかじめ同課から指定して依頼することとした。ただしこのためには、成形オペレーションの知識が必要になる。まずはもっとも知識のある佐川氏が依頼する条件値を選定しているが、今後は、通常トライ立ち会いを担当している設計担当者の2名が、射出成形の技能検定を受けるなど、順次知識を得て行く計画である。

 

今後の同課への期待

同課はこれまで成形シュミレーションも活用してきたが、今後成形オペレーションの知識を増やしていくことで、さらに有効に活用していける。例えば、冷却水穴の位置・金型温度と、製品寸法の変形度合いなどを解析するなどである。

また、機械加工の完全なCAMデータ化は、加工内容によっては工数増加リスクがあるため、今後はマシニングオペレーターを中心に、CAMデータに頼らないマニュアル加工を習得する。これにより、CAMデータや指示書作成など間接コストの削減とリードタイム短縮が期待できる。

デジタルによるものづくりを徹底した同課において、今後は職人技術を高め、同業他社に負けない柔軟な金型づくりをしていけることを期待している。

 

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【番外編】ものづくり補助金特集(5月号掲載)

 

今回は人気の産業支援策、ものづくり補助金について、筆者の見解から採択確率を高める申請書作成について触れてみたい。

 

この補助金は経産省の産業支援策であり補正予算で組まれている。多くの補助金は設備投資に制約があるなか、数少ない生産転用がきく補助金として人気がある。新製品や技術開発に対し設備投資を行うと、その支払った費用の2/3が補助金として事業終了後に入金される。

 

小売りやサービス業も対象とした「革新的サービス」分野もあるが、ほとんどの金型メーカーは「ものづくり技術」分野で応募すると思われる。この「ものづくり技術」分野は、「ものづくり高度化法」で定められている12種類の技術が開発対象になるのでご注意いただきたい。

 

金型メーカーとしての活用方法として、技術の高度化・生産効率化・新製品開発などが考えられる。なお、設備投資は必須要件である。例えば、技術の高度化として高硬度材の直彫り切削や、生産効率化として金型の高速加工などが考えられる。新製品開発としては自社業務のために開発した機械装置の他社への販売なども例として考えられる。

 

申請ノウハウについて

では、申請にあたっての具体的な準備をみていく。ただし一般的な解説はネットで容易に調べられるため、今回は筆者が13社全て採択させることができたサポート経験に基づき、採択確率の高い申請書の作り方をご紹介する。

 

ただし、本記事による採択の保証はないのでご注意いただきたい。あくまで私個人の私見である。

 

申請書をつくる手順は、大きく次の4つのフェーズに分ける。

具体的には、①導入する機械設備を決める、②テーマを決める、③小見出しに沿って下書きをつくる、④申請書に記載する、である。

 

申請書の作成にあたっては、テーマを決めることが9割の仕事だと思っている。そのくらい重要な仕事である。要件さえ満たせば受給される助成金とは違い、採択・不採択が分かれる補助金。採択レベルのテーマを先に決めてから書かないと、途中で何度も書き直すことになるのでご注意いただきたい。

 

それでは申請書の具体的な作り方を見ていこう。

 

具体的な申請書の作り方

① 導入する機械設備を決める。

気を付けたいのは、なるべくリプレースを避けること。このイメージが強い案件は不採択確率が高くなる可能性があるのでご注意いただきたい。

② テーマを決める。

安易なテーマでは採択確率は上がらないためここが重要である。私のオススメは3C+1分析である。3C+1分析とは、「顧客(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」といった、「C」の頭文字が付く各分野全てに適合する事業分野を模索する際に使う分析手法で、3つのCにもう一つの視点を加えた筆者オリジナルの手法である。

 

すなわち、①自社でまだ対応できていない、②近隣の同業者も対応できない、③顧客(川下企業)が求めている、④貴重な税金を投入するべき価値がある、この①~④の要件に重なる技術を取り上げたことで、昨年筆者がサポートした企業は全て採択された。ぜひ参考にしていただきたい(図1)。

図1テーマの考え方

 

 

③ 申請書の下書きをつくる。

オススメなのは公募要領に記載してある審査基準を元にした小見出しをつくり、それに沿って記載内容を下書きする。こうすることで、審査に求められている項目を漏れなく記載でき、審査側も見つけやすいという効果がある。

 

④ 実際に申請書に記載していく。

伝えたい要点を優先した文章にする。長い文章はわかりにくくなるので避ける。なるべく主語と述語のシンプルな文章にする。ポイントは、現状の加工方法で起こりうる事実を「技術的課題」として記載し、これを新しい設備が持っている機能を使って解決を図るという内容にする。

 

具体的に何の数値がどうなったら解決なのかを「定量的目標」として記載する。

 

ただし、導入する機械の機能を使って即解決するのでは、その機械を導入した他企業が同じメリットを享受できてしまうため差別性のある競争力強化にならない。そこで、自社独自の技術や製品などを完成させるための実験を記載し、その試行錯誤についての「定性的目標」も記載する。

 

事例紹介

筆者が支援した3社の事例から参考にできるポイントを紹介する。

 

① 有限会社 タチバナ金型製作所(愛知県愛知郡東郷町春木下鏡田161-6 TEL 0561-38-1314 )

申請例が多いマシニングの事例である。やはりマシニングの機能だけではなく、既存設備には無かった新しい機能を開発にどう活用するかを記載するのがポイントである。筆者は多くのリベンジ申請を手掛けたが、不採択になった申請書の内容は、ほとんど設備の持つ機能のアピールのみであった。

 

同社は、金型の鏡面加工をテーマとした。取りあげるテーマは何も業界初の技術である必要はない。自社の取引の中で、川下企業の課題・ニーズに応え競争力を生むテーマであれば、採択の可能性は十分にある。

 

② 株式会社 伊藤プラスチック工業(愛知県大府市桃山町1丁目137−2 TEL 0562-45-6100)

同社は金型メーカーではないが、射出成形金型を扱うメーカーには量産成形まで請け負う企業もあるので参考になればと思い取り上げた。一般的に射出成形機の採択確率は低いと言われている。 汎用性が高い機械と比較すると開発には使いづらいためである。

 

同社は、難易度の高いインサート成形などに強みを持ち、熱可塑性エラストマー素材を扱う成形技術の開発をテーマとした。自社や顧客、同業者が困っている技術の開発につながれば十分採択テーマとなる。同社のように、同業者も安定成形が難しい原料や製品を扱うといったテーマも面白い。

 

③ 株式会社 愛工金型製作所(愛知県小牧市大字大草5419-12 TEL 0568-54-1981)

取りあげるテーマは、強い顧客ニーズが存在する技術分野が望ましい。それは、中小企業庁が提示している「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針」の中で記載されている。ここに示されている川下企業が求める12の技術分野の課題及びニーズがそれにあたる。これに応えるテーマが望ましい。

 

同社は、高品質な金型を極めて短納期で作り上げる技術に強みを持ち、補助金事業においては「精密加工」の分野で、高機能化・精密化・軽量化及び品質の安定性・安全性の向上という課題及びニーズに応えるべく、アルミを使った試作型の技術開発に取り組んだ(写真1)。

写真1 金型と量産、トータルバランスで収益性を考えた経営を行う愛工金型製作所の業務風景

 

 

「技術課題の解決方法」には、新しく導入するマシニングの持つ機能により、高精度な高速加工を行うことを記載し採択されている。

 

留意点について

最後に留意点をお伝えしたい。

申請書の代行を依頼する際、金額が大きいのでよく相手のサービス内容を確認のうえ依頼されることをオススメする。リベンジ申請を多く手掛けた筆者が思うに代行業者は大きく2種類に分かれる。

 

一つは、金型メーカーの皆様の頭の中にある案を行政向けのきれいな「である調」の文章に書き起す代行。もう一つは、私が申請書作成の9割の仕事だと考える、採択レベルの開発テーマとその技術的課題まで一緒に考えてくれる代行である。

 

高額な着手金を支払うのならば後者を選びたい。不採択になった場合、大きな機会損失となるのでご注意いただきたい。金型メーカーの皆様の採択を心よりお祈りする。

 

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(株)愛工金型製作所のコンサルティング事例【後編】(8月号掲載)

 

今月号も引き続き、愛知県の(株)愛工金型製作所(愛知県小牧市 TEL 0568-54-1981)を取り上げ(以下、「同社」と言う)、ラベルシール・カードで有名なエーワン合同会社とタイアップして行ったラベル活用5Sコンサルティングの具体的な事例を紹介する。

 

5S導入の目的

今回のラベル活用5Sコンサルティングのメインテーマは、「粗利益にインパクトのある5S改善」である。

 

粗利益とは売上-製造原価であり、今回は特に製造原価と5Sとの関係に着眼したい。製造原価は主に材料費+労務費+購入品+外注費などであるが、これらの費用と5Sとの関係性は次のようなものがある。

 

① 材料費と購入品

これらの費用は変動費として概ね受注数量に比例するが、製造コストを増加させない管理として、欠品と過剰在庫を発生させないことが5S導入のポイントになる。

 

② 労務費と外注費

労務費を売り上げに比例しない固定費と考えると、外注費が社内製造現場の稼働率の影響を受ける。

つまり、社内の生産能力をオーバーした分が外注対応になり、もし稼働率が低下するとその分外注費が増加し粗利益を圧迫する。

 

そのため、製造現場の5S導入は稼働率を高めることがポイントになる。

 

5S導入の際の留意点

では、どのように進めると良いのか。一般的に5Sは、まず「整理」として不要品の廃棄から始めるとされている。

 

今回エーワン社と取り組んだ方法は課題抽出を入り口としたことである。「何が稼働率低下の障害になっているか」に着眼し検討を進めた。

この切り口で同社の技術者の方々にヒアリングを行い、そこでどのような問題が発生し、どのような改善を行うことで、探す・待つ・歩くなどのムダを減らせるのかを一緒に検討した。

 

このように、5S導入にあたっては教科書どおりに進めることも間違いではないが、特に中小企業については、道具が見つけやすい、仕事が楽になる、疲れなくなるといった従業員が自らやりたくなるような目的がなければ、そもそも定着が難しい。

 

具体的な導入事例の紹介

それでは、エーワン社と取り組んだコンサルティング事例を紹介する。

 

【事例1】作業エリア:測定具置場

発生していた問題点:

同社の強みとして、精密で小型な金型から大型の金型まで幅広く扱っているという点がある。

そのため、測定具の種類が多くなり、特に大型ノギスやマイクロメーター等は共用工具であるため本数が限られており、誰かが使用中になると、それを探し回ったり、空くのを待つ等のロスが発生していた。

 

改善策(写真1):

写真1 測定具置場の改善後

 

a.棚の名称とその責任者を明示し、整頓状態を維持するための管理責任者を明確にした。

b.測定具と棚板それぞれに測定具名を記載したラベルを貼り、置くものと置く場所を一対一で明確にし、使用中かどうか・どこに戻すかをわかりやすくした。

c.作業者ごとの氏名ラベル(マグネット仕様)を用意し、測定具を持ち出す際に持ち出す測定具のあった棚板に貼ることで誰が使用中かをわかるようにした。

 

使用したエ-ワン社のラベル:

屋外でも使えるサインラベルシール(油面にも貼れるハイグレードタイプとマグネットセット)を使用。測定具に貼るラベルは、マシニング等の機械油や放電加工機の水・油などの汚れにも強いラベルを使用。棚板にはマグネットタイプを使用し、変更や移動が簡単にできるようにした。

 

【事例2】作業エリア:各種金型置場

発生していた問題点:

同社の強みとして金型製造だけでなく、量産成形も隣接する工場で行っているため、保全がしやすく稼働率の高いプラスチック製品の量産成形を行うことができる点がある。

ところが、扱う製品種類が多いためメンテナンスを行う金型も多くなり、新規の金型もあることから同社の金型置場は大混雑していた。

このため作業に入る際に着手する金型を探す手間があったり、入荷してきた金型に気づきにくいといったロスも発生していた。

 

改善策(写真2):

写真2 金型の処置段階に応じた置場の明示

 

用途・処理段階に応じた金型置場の区分けと明示を行った。具体的には、入荷してきた金型、出荷できる金型、まとめて分けて置いておきたい大型の金型などが一目で見分けがつくよう、金型置場の種類が記載されたプレートを掲示した。

 

使用したエ-ワン社のラベル:

屋外でも使えるサインプレートセットを使用。

耐水・耐光性に優れたフィルムラベルとプラスチック板のセットで構成されており、油汚れしやすい金型工場内でも問題なく使用できる。

さらにこのプラスチック板は紙の穴あけパンチでも容易に穴をあけられるなど利便性が高い。

 

【事例3】作業エリア:各種掲示板

発生していた問題点:

同社の強みとして、多品種かつ超短納期対応を行っている点がある。そのため、日程表や掲示版には連日追加・変更が繰り返されている。

ところが、その掲示場所は使用用途が明確に区分されていなかった。

このため、各作業者が目的の情報や書類について、探す・見落とすといったロスが発生していた。

 

改善策(写真3):

写真3 月次・週次日程表の明示と注意喚起する付箋の活用

 

d. 2つあったそれぞれの掲示板に「月次日程表」「週次日程表」といった明示を行い、何の情報を掲示するのかを明確化した。

e.「緊急」「変更あり」といった印刷した付箋紙を使い、即時対応や設計変更のある図面を一目でわかるようにした。ポイントは白色を基調とし、いかに赤など注意喚起させるための色を目立たせるかである。

 

使用したエ-ワン社のラベル:

屋外でも使えるサインプレートセット、ポスト・イット®ラベルシールを使用。

ポスト・イット®ラベルシールは糊つき付箋紙として簡単に貼ったり剥がせるので採用した。裏面には「剥がしやすい加工」がされており作業性も良い。

 

以上が今回のラベル活用コンサルティングの事例紹介である。

 

ラベルの印刷については専用アプリケーションにより、手軽に作成でき、負担なく追加・更新できる。

筆者は多くの企業の製造現場を拝見しているが、やはり手書きマジックの掲示よりも、印刷文字による見た目に引き締まった掲示の方が厳密な品質管理をしている印象を受ける。

 

5S改善によって伸ばせる強み

今回の取り組みによって、企業としての強みである金型・量産・品質部門の一体生産をさらに強化できる効率的なオペレーションが可能になる。

それは製造現場の稼働率向上であり、今回の5Sへの取り組みを量産成形部門や品質管理部門へ横展開することにより、さらなる効果が期待できる。

 

新社屋移転により、同社はQCDに対し理想的な動線を実現できる工場レイアウトを構築し、金型製造については顧客からも高い信頼を得ている短納期対応をさらに強化していく。

 

トライ回数を最小化できる設計や精度の高い機械加工技術を高める取り組みを行っていく同社の今後の成長に大きな期待をしている。

 

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング

代表:村上 英樹(中小企業診断士)

愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

 

(株)愛工金型製作所のコンサルティング事例【前編】(6月号掲載)

 

今回取り上げる金型メーカーは、愛知県にある(株)愛工金型製作所(愛知県小牧市 TEL 0568-54-1981)である。

同社は、主に自動車の燃料タンクやブレーキの油圧等で使用されるプラスチック製品の金型製造から量産成形まで行っている、従業員40名の射出成形金型メーカーである。

 

今回筆者は、ラベルシール・カードで有名なエーワン合同会社とタイアップし、同社のラベルを活用した5Sコンサルティングを行った。今回、特に中小企業に適した5Sに取り組むことができたのでぜひ紹介したい。

 

そもそも中小企業の5Sは難しいと言われているが、それは次のような理由がある。

1. 人的資源に余裕がないこと

本業に加え5Sまで行う時間がなく、仮に整理整頓ができたとしても維持していくための管理が難しい。教科書どおりにやろうとすると間接人員が余分に必要になるため、改善後しばらくすると元に戻ってしまうことも多い。

 

2. 工場内のスペースが限られていること

中小企業は多品種生産が多く、使用する道具や仕掛かり在庫が増えやすい。このため、モノが乱雑に置かれやすく置き場所が足らなくなる。

 

3. 問題意識を持つ必要がないこと

工場はとびきり汚いが、作る製品は絶品という会社もある。こういった会社は一人親方や家族経営が多い。

詳しくは後述するが、5Sを起因とする問題は、そもそも複数メンバーが同じ場所・同じ道具・同じ機械を使用するために発生する。場所や道具を共有してなければ5Sの問題は意識しないものである。

 

4. 新入社員や非正規雇用が少ないこと

中小金型メーカーは元々人材確保が難しく、さらにルーチンワークも少ないため、パート社員で対応できる業務が少ない。

業務に慣れていない者が多い職場では、道具や治具置き場に何丁目何番地と明記する等、定置化の改善を行うことで、探す・戻すロスを減らすことができる。

しかし、人の新陳代謝が進んでいない職場では、この改善効果は出にくい面がある。

 

そうした中、筆者は中小製造業を対象に「売上・粗利益アップにつながる5S」を意識したコンサルティングを行っている(図)。

 

図 5Sの目的

 

売上とは「単価×数量」であるが、まず「単価」UPへの取り組みとして、「安心」を売る現場づくりをする。自分が治療を受ける診療現場をイメージしてほしい。

 

もし、自分のカルテを探し回る、自分の予約が抜けていた、順番が回ってこない、自分に打つ注射を探し回る、といったことがあった場合、自分が受ける外科的治療や注射などに信用がおけるだろうか。

私なら「ちょっと待って。もう一度確認し直してほしい!」と言いたくなる。製造現場もこれと同じと考えている。

 

「自分たちは知っている」「わかっているから大丈夫」ではなく、客観的に「当社は安心」を納得してもらえる現場づくりが重要である。

「これだけの管理をしているために他社よりも単価が高い」を納得してもらい客単価のアップを図りたい。

 

「受注量」UPへの取り組みとして作業稼働率を高める。探す・待つロスの削減、計画どおり確実に着手できる仕組みを作る。

これにより、機会損失の削減や前倒し生産の促進を図り、生産と販売の数量アップを図る。

 

これらの5S導入にあたっては、常に粗利益への貢献度を意識して検討することがポイントであり、こういったメリットがなければ導入は進まない。

 

会社が最も強みとしているポイント

1. 短納期で金型製作できる技術を持っている。

設計者が樹脂の流動予測をしっかり行うことで、適格なゲートやランナー等の設計を行っている。これにより、トライ工数を徹底して減らす取り組みを行っている。

なお、設計人材の育成のため、あえて解析ソフトを使わない方針をとっている。

樹脂流動を自ら考え設計し、結果とのギャップをフィードバックし、設計能力を高めている。

 

2. 成形・出荷まで一貫して行っている。

プラスチック製品の金型製作・量産・出荷まで一貫して行うことで、費用対効果の高い金型製作ができている。

今年1月に移転した新工場は動線に配慮され、製品の移動距離を最小化できる効率性の高いレイアウトになっている。

 

コンサルティング以前に粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

部門間連係に配慮した工場レイアウトは、製品(モノ)の移動最小化には寄与しているが、部門ごとにある5S上の問題により、ヒトの移動最小化までは実現できていなかった。

 

一見すると新しい工場であるため、整理・整頓ができているように見える。しかし、実際に作業を行っているヒトの動きに着眼すると、さまざまな問題が見えてきた。前述したように、多くは複数メンバーによる作業に起因したものであった。

 

一方、プラスチックやダイカスト製品を扱う金型メーカーに多いのが、型彫り放電加工で使う電極管理の問題である。

緻密に更新型の履歴管理を行うことで、最小限の数の電極製作で済ませることは金型メーカーの腕でもある。

 

しかし、あまりに管理が複雑すぎると、実際の加工現場では人的ミスの発生確率が高まる。

ミスの発生は、①材料・時間のロス、②ミスを巻き返す時に本来着手できた仕事ができなくなる機会損失発生や外注費増、③製品品質や納期遅延に影響があれば顧客からの信頼低下、といった3重のロスが起こる。

 

これらの要因により同社の製造現場では、(a)共有道具を探す・待つロス、(b)材料・購入部品の入荷状態が見えづらく欠品リスクがある、といった問題が起こり、設備・ヒトの稼働率に影響し、粗利益を引き下げる要因となっていた。

 

課題となっていた部分をどのような方策で改善したか、成功した改善策

同社は、筆者とエーワン合同会社によるラベル活用5Sコンサルティングにより、前述した売上アップにつながる5S導入に取り組んだ(写真1)。

 

写真1 同社金型部門での5Sコンサルティングの風景

 

この改善のポイントは、(ア)粗利益効果に着眼した整理・整頓、(イ)色や言語による情報の視認率向上であり、さらに継続的に5Sを行うための仕掛けとして、利便性の高い表計算ソフトデータを活用したラベル運用の仕組みを構築したことにある(写真2)。

 

写真2 整頓場所ごとにエーワン製品の各種ラベルと専用ソフトを活用した

 

これにより、「探す」「待つ」の削減による稼働率向上、材料や部品入荷の「見える化」による欠品防止・前倒し生産促進など、金型製造や型メンテナンスの回転率を高める取り組みを行った。詳しい内容は次号で紹介する。

 

今後の事業拡大に向けて

同社は、昨年のものづくり補助金に採択され、今年の夏には新型のマシニングセンターが導入される。

 

テーマは、アルミ金型を使用する試作品製作であり、よりトライ回数の少ない迅速な金型製作にチャレンジする。これまでの正確・迅速な金型づくりが評価され、より短納期の試作品製作まで要請をいただいたことがきっかけである。

 

金型から量産まで一貫生産する同社は、今後、上流の試作工程まで対応することで、受注の幅をさらに広げることができる。

 

厳格な品質管理や成形サイクルタイム向上などの量産技術は、多品種一品生産である金型製造技術とは異なるものであるが、意欲あるスタッフ全員で幅広い技術の高度化に取り組む同社に大きな期待をしている。

 

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代表:村上 英樹(中小企業診断士)

愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

 

タチバナ金型製作所のコンサルティング事例(4月号掲載)

 

本号で取り上げる金型メーカーは、愛知県にあるタチバナ金型製作所(愛知郡東郷町春木下鏡田161-6)である。同社は主に自動車部品や遊戯具部品などの射出成形金型を製造しており、従業員3名の少数精鋭である。

 

同社を取り上げたのは、経産省の産業支援策である「ものづくり補助金」の申請を筆者がサポートし無事に採択され、そのまま技術開発もお手伝いさせていただいたため、その取り組みについて紹介させていただこうと思ったからである。

 

同社は、自社の弱みを改善するテーマに挑戦し、本業と並行しながらじっくりと腰を据えた実験に取り組んだ。筆者が一番に伝えたいのは、開発テーマが採択要件にあっていれば小規模メーカーも十分採択される点である。

 

会社の最も強みとしているポイント

同社の強みは、顧客から見て要求価格で受注してくれる点である。

これを可能にしているのは、もちろん低コストで金型を製作できているためだ。

 

橘木社長は創業社長であるため、設計から機械加工、組立・調整まで全工程に対応できる。社長以外の製造スタッフについては、各工程を必要最小限ムダのない人工で担当しており、伝達など間接コストを無くし高い稼働率でものづくりを行っている。

 

コンサルティング以前に粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

ところがこうした効率的なものづくりを行っていても、特に射出成形金型は、価格競争による型単価の低下は著しく、多くの中小金型メーカーの大きな課題となっている。

筆者自身も23年の金型メーカー勤務の中で驚くほどの価格変化を見てきた。

 

こうした背景から起因する同社の課題は企業の成長性だとみている。連載第1回に書いた、財務面のチェック項目「設備投資のための資金計画」が同社の課題である。

 

これまで同社は1台保有しているマシニングを2台に増やしたいという想いがあった。

2台体制であればキャビティとコアを同時に加工できリードタイムは1/2にできる。

 

リードタイムが半分になると受注できる型数を増やすことができ売上は増加する。労務費や外注費を比例して増やすことなく売上増加ができる。

 

これにより効果的に粗利益を増やすことができる。

同社はそういった投資のチャンスを逃していた。これは機会損失と呼ばれ、実は増やせるべき利益を逃している損失だと考えるべきである。

 

設備投資の原資は多くの中小企業の場合、借入で調達することが多い(図1)。

 

図1 設備投資の原資の内訳

 

利息支払い額や銀行借入の返済額、またはリース費用が充てられる。

 

粗利益とは、売上-製造原価(材料費、労務費、外注費)であるが、設備投資の原資を確保できる粗利益を稼ぐことができていたか、これらの構成要素を細かく見ていく。

 

① 売上:生産能力により毎月受注できる型数に制約がある。
② 材料費:売上に比例するが為替動向などによっても変動する。基本的に自社ではコントロールできない。
③ 労務費:効率性の高い生産が会社方針であり過度な残業は少ない。
④ 外注費:無理な受注による負荷オーバーのための外注策は少ない。

したがって、①~④によると同社の粗利益減少要因は「売上」が主原因であるとわかる。

次はこの売上についての構成要素を見ていく。売上とは単価×数量であるため、それぞれを同社に当てはめ分析する。

① 単価:とにかく顧客要求に応える方針であり、これまで価格交渉はほとんど行っていない。
② 数量:毎月ほとんど固定的な型数を受注している。

 

したがって、①②によると同社の粗利益減少要因は「受注単価」にあるとわかる。

受注単価については、やはり何といってもリーマンショックにより業界全体で仕事量が激減し、価格相場が大きく引き下がったことも影響している。

同社は粗利益について中長期的な視点で検証ができていなかった。

 

課題となっていた部分をどのような方策で改善したか、成功した改善策

そこで同社は、経営のカンフル剤とも言える、補助金を活用した設備投資を考えた。

新型マシニングの導入により粗利益に直結する生産改善を行った。

 

具体的には、金型意匠面の切削加工面の品質向上による磨き工数削減と、既存設備よりも早い主軸回転で送り速度を上げ、加工工数の削減を図った。

それに伴い、ボールエンドミルの加工条件と加工パス軌跡の見直しも行った(写真1)。

写真1 補助金事業で使用した設備や実験ワークなど

 

そもそも手仕上げ磨きはコスト増加要因が多い。

労働集約型業務であるうえ一定レベルの技術が必要で、型ダレやキズなどにより修正・手直しロスの発生要因にもなるため、人件費の安いパート社員に任せる、というわけにもいかないところがある。

 

同社は、補助金事業によって製造コスト(労務費、外注費、減価償却費)を増やすことなく売上増加を図り、しかも単価ではなく数量要因の増加で実現できた。

顧客への価格メリットはそのままに自社の粗利益がアップできたことになる。

 

補助金による改善後は、労働生産性による儲けから設備生産性による儲けへと粗利益の稼ぎ方が変化した。機械設備によって稼働率を高め製造コストを引き下げる考え方である(図2)。

 

図2 労働と機械の製造コストに対する考え方の違い

 

従来は、型数をこなすには人が頑張る考え方であったが、改善後は機械に仕事をさせ、人の時間を有効に使う管理を重視するようになった。

人がフレキシブルに動けるための時間管理である。

人の時間を有効に使う管理を実施した結果、外注化していた設計が内製化できるようになった。これによる粗利益アップの効果は高い。

 

もちろん補助金の活用にあたって苦労した点もある。これについては次回で詳しく解説する。

なお、補助金は開発計画が全て終わってからの後払いになるため、初期投資となる資金調達は必要である。

 

今後の成長に向けて

同社は、今後の事業拡大のため射出成形とプレス、両方の金型を扱い始めた。

しかし、それぞれの金型技術には明確な違いがあるため容易ではない。

 

例えば、型合わせの考え方から異なる。プレス型は直角面が多いが射出成形はコッター面と呼ばれる傾斜面が多い。

 

プレス曲げの場合、板が曲がり終わる下死点までが金型の仕事であり、板を曲げる最中に上下型それぞれの面を摺動させ型ズレを防ぐ。

一方、射出成形は型が閉じた下死点で原料を射出し成形する。それぞれ型を閉じる前か後、どちらで仕事をするのか異なる。

 

このため、柔軟に対応できる技術・ノウハウが必要になる。

 

同社は、人がフレキシブルに動ける時間管理により、こうした新たな仕事に取り組む時間が作れるようになった。

現在、生産能力を強化するため一緒に金型づくりを続けていけるスタッフを募集している。

 

ヒトモノカネの面で生産性の高い経営を目指す今後の同社の成長に期待している。

 

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