量産メーカーと金型メーカーを取り巻くパワーバランスについて
このコラムを読んでくださっている金型メーカーや部品加工業の皆さんにおかれましては、ものづくり補助金の申請などで馴染みになっていると思われる中小企業診断士の資格ですが、
1次試験の企業経営理論という科目で、ポーターの「ファイブフォース分析」というものが出てきます。
このファイブフォース分析というのは、下図のような自社を取り巻く5つの脅威それぞれについて、抜け漏れなく考えていこうとするときに使う枠組みで、これら5つ全てに対し、バランスをとって企業経営を続けていけば、おのずと利益が出て企業も永続させていくことができるというものです。

私は、金型メーカーや部品加工業においては、労働分配率と並び、このファイブフォース分析は必須のツールで、これを使って自社を取り巻く5つの脅威に対し、企業は常に対策をとっていかなければならないと思っております。
例えば、マシニング加工をメイン事業とする部品加工メーカーについては、
買い手企業はもちろんお客様であり、例えば、もし依存度が高い顧客があると、こちらはとたんに交渉力が弱くなり、利益を押し下げてしまう脅威になり得ます。
また売り手企業、つまり自社が買う立場となる外注の協力メーカーですが、これも例えば、自社で対応できない難易度の加工をいつも助けてもらっているといった場合においては、高い加工費で購入しなければならないなど、交渉力が弱くなったりします。
新規参入企業については、主要顧客との取引の間に新たなに営業してくる業者の脅威は常にあり、価格面や技術面で競争にさらされ、もし価格勝負になった場合には、自社の売上に影響が出てきます。これは既存の同業他社の存在についても同様です。
金型メーカーや部品加工業においては、代替品の脅威は、直接的に頻繁にあるものではありませんが、それに近いものとして、顧客メーカーの「内製化」がそれにあたります。CAD/CAMや工作機械の進化や補助金などにより、従来のような職人仕事でもなくなってきた設計や加工業務は、かつて内製していなかったメーカーも、自社でマシニング加工などを行うようになってきました。
と、このようにどのような業種であっても、この5つの脅威が自社を取り巻いており、短期・中長期それぞれにおいて、常に気を配っておかなければなりません。
自社の売上・利益に直結する、買い手企業と売り手企業とのパワーバランス
このうち、「買い手企業」「売り手企業」との交渉力(パワーバランス)は、直近の自社の売上と利益に影響してきます。
ですから、以前のコラムで出てきた労働分配率の数値指標と同じく、このファイブフォース分析は自社が「何に頑張るのか?」「社員に何を頑張らせるのか?」を明らかにするために使います。
さて、「交渉力」と出てきましたが、この交渉力を決定づけるものは何でしょうか?
交渉力は、「決裂してもいいと思っている側が強い」というのがまず前提にあります。
ざっくり言えば、「決裂してもいい」「そんな安いならウチは無理してやらなくていい」「そんな無理な条件ならウチは断っていい」 と言える立場にある方が、価格や納期の交渉においても強いと言うことです。
例えば、プレスメーカーと金型メーカーを取り巻く環境でこのような話があります。
近年、廃業などにより減少傾向にある金型メーカーですが、その中でも技術や納期遵守の面で力のある金型メーカーは、プレスメーカーや成形メーカーにとって取り合いの状況になりがちで、金型調達部門は一定の苦労を強いられることがあります。
そのような中、顧客メーカーや公的機関、金融機関などから、金型メーカーを紹介してもらうことがあります。
私は、この「紹介」してもらう場合に極めて慎重になるべきだと思っていて、この「紹介」というものは、私も経験があるのですが、紹介する側も一定の責任のようなものを負うので、あまり力のない金型メーカーを紹介するわけにはいきません。
例えば、紹介したくない金型メーカーの代表例と言えば、とにかく納期を守れないところでしょうか。
したがって、一定の実績がある・近隣の業界内で評判が良い、といった金型メーカーを紹介することになるのですが、こうした金型メーカーはすでに多くの顧客を持っており、仕事も一杯です。
そこで、先ほどの交渉力とパワーバランスの話が出てくるのですが、仕事を依頼する側が、長期的に一定量の仕事を発注できるティア1メーカー等でない限り、プレスメーカー側が金型を作ってくださいとお願いする立場になり、パワーバランスで劣る、弱い「交渉力」で仕事をお願いしなければいけません。
これはファイブフォース分析における「売り手企業」側とのパワーバランスが悪いことを意味します。結果、高い金型費で注文しなければならない・納期が多少遅れても文句が言えないなど、企業活動や収益に悪影響を及ぼします。
社員には何を頑張らせるか
したがって、この事例におけるプレスメーカーにおいて、「自社は何を頑張るか」「何を社員に頑張らせるか」については、「常に仕事が足りなくて困っている」金型メーカーを自分の足で探し出して、そこを技術面や納期面で発注側企業の要求を満たせるよう教育していく等、日々の努力が必要になります。
厳しい言い方になりますが、「紹介」という楽な手段に頼ると、それが自社と相手企業との「パワーバランス」として表れ、売上と利益に影響が出てきます。
一方、逆の見方で、金型メーカー側の立場としては、安定的な収益を確保できる主要取引先は維持しつつ、調達先が無くて困っているプレスメーカーや成形メーカーから声がかかるようなPRや営業活動が有効だということになります。
相手は調達先に困っているわけですから、納期はできるだけ融通するとしても、ここぞとばかりに価格面で有利な見積もりが出せるというわけです。実際にそういった状況はよく見かけます。
昔、経営の分野で「球場のビールはなぜ800円で売れるのか」という本がありましたが、まさにこれですね。
まとめ
ここまでをまとめますと、ファイブフォース分析のうち、「買い手企業」「売り手企業」との交渉力(パワーバランス)は、自社の売上と利益に直結してくるため、「決裂してもいいと思っている側が強い」の原則のもと、日々の仕事・活動については、ものづくりの生産活動だけでなく、自分の足で調達先を探すなど、「いかに自社の立ち位置を相手よりも有利に持っていくか」のための努力も必要になるということです。
御社のファイブフォース分析の状況はいかがでしょうか。
参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
