【今さら聞けない】金型メーカーの健康診断はやっぱり労働分配率
最近、金型メーカーの経営診断をやらせてもらう際に気になっていることは、労働分配率が高くなっている企業がとても多いことです。
その要因は極めてシンプルなロジックです。
元々、金型と言えば、設計や磨きなど職人仕事で、時間単価が高く付加価値のあるお仕事で、時間もかかるけど高い対価をもらえる、いわゆる「儲かる」お仕事であったはずが、
皆さん周知の通り、中国・韓国をはじめとする海外メーカーとの価格競争などにより金型単価が下がり、また最近の私と契約しているクライアント企業は、金型内製部門を持つプレスメーカーや成形メーカーがほとんどなのですが、そもそも金型を調達していたメーカーが自ら金型を設計製作していることで、そもそも需要自体の減少もさることながら、そもそも同じものを内製で作れているので、高い付加価値を金型メーカーに払う必要性も無くなっている、というのが私の見解です。
一方、その金型メーカーでお仕事をされる方々はと言うと、設計や機械加工者、組み立てやトライ担当者など、一定のスキルを要する仕事であるため、なり手も少なく、また職人ということであれば、ルーチンワークの作業者よりも、給与水準は高いとされがちです。
さて、こうした背景を持つ金型メーカーの経営の健康管理の指標として、私がオススメしている労働分配率ですが、下記の計算式に当てはめれば、良くない状況(数値が高い)になる要因ばかりだということがわかります(一般的には、40%であれば青信号・50%が黄色信号・60%以上だと赤信号の状態だと言われます)。

- 職人集団ということで、お給料は高くないと、なり手は減ってしまう(分子が増える)。
- 売上は、金型単価×数量だが、金型単価が下がったことで、がんばって面数を稼ごうにも製造キャパに限界がある(分母が増えない)。
- 購入費については、材料の価格は高騰するし、部品代は基本的に市販部品であるため、下げるための価格交渉は難しい(分母が減る)。
- 近年の金型は、特に短納期対応を求められるため、一定の短期間に金型面数をさばくためには、ある程度の外注対応はやむを得ない(分母が減る)。
また熱処理は当然必要であるし、コーティングや特殊な表面処理など顧客から求められれば処理しなければならない(分母が減る)。
等々、これら全て、労働分配率を引き上げてしまう要因ばかりです。
したがって、金型の設計・製造というビジネスにおいては、この労働分配率の管理は重要でありますが、私がこれまで見てきた中では、労働分配率が60%を超えているメーカーが多く存在しているのが実態です。
先日は70%という金型メーカーもありました。恐ろしいのは、その実態を社員さんは、ほぼ全員知らなかったことです。
「外注メーカーを今後もどんどん活用して、仕事をさばいていきますよー♪」と、意気揚々に社員さんが語っていましたが、労働分配率70%という状態からすると、私は心の中であきれるしかありませんでした。
ですがこれは仕方ありません。実態を知らないのですから。
さて、これら労働分配率が高過ぎる会社は、私が見てきた中では概ね赤字企業になっています。
赤字企業ということは、運転資金、主にお給料と材料代などを、高い頻度で金融機関から融資してもらわなければならないのですが、運転資金の融資を受け続ける状態が続くと、強めの態度で経営に口を出してくるようになります。具体的には、人件費の削減と購入費の削減の努力をせよと強めに指示を出してきます。
義理堅い方が多い金型メーカーの経営者は、製造キャパを維持するためもあり、雇用を守りたいと考えるため、労働分配率の計算で言うところの、分母の売上UPの方針で対策したいと伝えますが、金融機関さんは、固定費としてやはりウエイトが大きく、営業利益確保に直結しやすい人件費削減からということになることが多いようです。
これは仕事をとるためのチャージ計算においても合理的です。
金型の発注の引き合いがあったときに作る見積もりについても、社員の皆さんのお給料を下げることができれば、工賃分の計算において、機械や人の加工工数は下げられないとしても、チャージ金額(時間単価)を下げることができれば、赤字受注にならず仕事がとりやすくなります。
わかりやすく表現すると、100時間かかる作業において、チャージ5,000円で見積もりを作ると、50万円になりますが、お給料を減らして、チャージ3,500円にすれば、35万円で見積もりを作れることになり、価格競争において仕事を受注しやすくなります。
と、このようなことを書きましたが、もちろん社員の皆さんのお給料が下がるというのは、絶対にやりたくない方策です。
ですが、冒頭にも書きましたが、後発の中国や韓国でも金型を作っている、またそもそも発注側企業も金型を内製しているという状況においては、そもそも金型の設計や機械オペレーター、組み立て作業者など、それぞれの工程の作業において、「俺は職人だ!」「私は職人よ!」と言った付加価値はあるでしょうか。
厳しいことを言うようですが、私は、そもそもCAD/CAMソフトは昔よりもはるかに使いやすくなっている、マシニングセンターなど工作機械も熱変位補正もあり(朝と夕方の寸法誤差など気にしなくていい)、また操作も使いやすくなっており、組み立ても前工程で百分台の部品精度がきっちり出してあり光明丹によるすり合わせ調整が昔ほどは不要、トライも解析シミュレーション技術でトライ回数を減らせる、設計自体も全く目新しい金型構造の発明・開発ということではなく、ほとんど過去の類似型の編集使いまわし設計、といった状況が多く、金型製作のそれぞれの工程の作業は、もう職人仕事という付加価値は少ないと思っています。
では、何で付加価値を上げるのか、やはり工程ごと負荷のピーク時の移り変わりによって、いつでもどこでも「忙しい工程に入って仕事ができる」人の付加価値が高いと思っています。
少し前、倒産したプレスメーカーさんのホームページを見たところ、こうPRされていました。
「当社には卓越した専門の熟練磨き工がいて・・・」
・・・私はこれが良くないと思っています。
時代に合わせて、付加価値のあり方は変わっていくものであり、会社の利益に直結する自分の付加価値・市場価値は何かを考えるべきかと思います。
そうした意味で、やはり労働分配率は、製造現場の健康状態を見るには、都合の良い指標であり、アクセルとブレーキのバランスを見るには適切だと思います。
最後のまとめになりますが、近年の金型メーカーにおいては、分母側の会社に残る利益は減る一方、分子側の社員の皆さんのお給料は、元々職人気質だったこともあり、元々高めに設定され、また雇用維持の観点から下げにくい・・・このため多くの金型メーカーにて労働分配率を計算してもらうと、赤信号の数値である60%を全然超えてしまっている会社がたくさんある、という状況になっています。
ただ、そもそも高いとダメなのか?という議論もあります。
言い換えると、労働分配率が高いというのは、経営者がとても雇用に気を配っていて、たくさんお給料を支払っている証とも言えます。
しかしながら、中小企業診断士として経営コンサルタントの立場から見ますと、「会社経営は人ありき」とは言うものの、人への投資ばかりでなく、その他にも投資しなければならないことは多くあります。
特に、職場環境や福利厚生の面も重要です。
「なかなか優秀な人が来なくてねぇ・・・」とよく言われますが、一目で小汚いとわかる昔ながらの工場に入社したいという「優秀な人」はそうそういないと思います。
私が以前訪問した会社の例でも、「立ち入り禁止」などと書かれ、古くて壊れた階段があったり、雑なもの置き場が、通路沿いや工場入り口付近にあったりすると、私でも「こんな小汚い会社・・・よっぽど仕事に困らない限り入社したくないなぁ」と思います。
こうした面も、労働分配率ギリギリでお給料を支払っている会社では、修繕費を捻出するのも苦しいのではないでしょうか。
色々と書きましたが、製造現場でお仕事をする社員さんにとっては、分母側、特に売上、金型単価×面数のうち金型の「面数」、「外注費」を引き下げるための内製化、これらを一生懸命がんばり、会社が高いお給料を支払ってでも、労働分配率が悪化しない組織体制を作り上げるべきでしょう。
労働分配率のような指標は「良かった」もしくは「悪かった、残念」と、結果を知るためのものではなく、これから「何をがんばるか」を知るためのものですから。
参考になれば幸いです。
金型・部品加工業専門コンサルティングからのご案内
ホームページの技術コラム本の第9巻が発売されました!

設計部署や製造現場、管理部署にぜひ一冊。
経営者や部長などマネージャー職の方々から、悩める現場リーダーへのプレゼントにも最適です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【動画セミナーDL販売】現場リーダーのための「稼ぐ力」養成講座
大手セミナー会社向けに制作したコンテンツを、安価に一般販売いたします。
金型・機械加工など単品・小ロット品加工の「現場リーダー」向けの動画セミナーです。

- 教材構成:約300ページ分のスライド資料をもとに制作された解説動画
- 学習時間:動画+演習で約6時間(367分)
- 目的:現場リーダーが 数字に強くなり、成果を見える化できる力を養うこと
- 特徴:目標管理・不具合対策を中心に実務直結のスキルを習得
- 形式:動画(mp4)+PDF資料
- 割引:通常価格50,000円 → セット購入で50%OFF:25,000円(税込)
【改善・管理の上級編】セミナー動画が発売中です【お得なDL版あります】

過去に大手セミナー会場で、代表コンサルタントが講師として登壇した内容をZOOMで再収録しました。
内容は、加工や管理における上級コースとなります(基礎知識はすでに持っておられる方向けになります)
動画セミナーですので、いつでも何人でも受講でき、長時間一気に受講する必要もありません。隙間時間を有効に使って受講できます。
お買い求めしやすいダウンロード版もございます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【書籍販売中です】経営が厳しい金型メーカーのための本
このホームページに掲載している多くの技術・管理コラムから、経営が厳しい金型メーカーのために、大きな投資に頼らず、意識面や仕事の取り組み方などから改善改革していける方策に関するコラムを集めた本をつくりました。
こちらの書籍を販売しております。内容は、366ページの大ボリュームとなっております。

ぜひ社員の皆さまで読んでいただければと思います。また、金型メーカーを支援される金融機関や公的機関、会計事務所やコンサル会社でお勤めの方々にも、読んでいただければ幸いです。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
YouTubeを使った上級セミナーを配信中です

金型メーカー・部品加工メーカーにおける、個別テーマの上級セミナーを配信しております。
YouTubeによる動画配信ですので、ネット環境があればいつでもどこでも視聴できます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための管理職育成マニュアル」発売中です

当サイトの管理職育成ルームに掲載しているコラムを集めて編集したものになります。
金型メーカーや機械加工メーカーで、新たに管理職になられる方や、すでに管理職としてお仕事をされている方向けに、ストーリー形式で、心構えから具体的に取り組む業務内容まで、幅広くまとめております。
くわしくは、こちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・部品加工メーカーにおける処世術」が発売中です
こちらの書籍は、金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、国内全体で賃上げの機運が高まる中、勤める会社に貢献しながらも、ご自身の付加価値・市場価値を高めていこうとされる方々の一助になるような内容をお届けすることを目的としています。

「処世術」をテーマにした一般書籍はたくさんありますが、主にホワイトカラー向けのものが多く、金型メーカーや部品加工メーカーのお仕事ですぐに使えるものが少ないと思っています。
一方この本では、金型メーカーや部品加工メーカーの現場「あるある」を題材にしており、そこでお仕事をされる方々に身近なわかりやすい内容にしております。
簡単なワークも掲載していますので、社内研修にもお使いいただけます。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための自己診断ハンドブック」が発売されました!

私がコンサルティングの初回訪問時や、無料診断サービスにおいて、訪問先企業の製造現場で確認する項目を解析付きで紹介しています。
金型メーカーや部品加工メーカーに皆さまに、自社をセルフチェック(自己診断)するために使っていただければと思っております。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
2パターンの技術セミナーレジュメを販売いたします

日刊工業新聞社さん主催で行われた、機械加工メーカー向け、金型メーカー向け、それぞれの技術セミナーで配布されたレジュメを販売いたします。どうしても遠方で参加できないといった方や会社さまより、レジュメだけでも使いたいとリクエストがあったためです。
当事務所のホームページに掲載されているコラムの内容がベースとなっておりますが、それとの違いとしては、具体的計算と事例ワークなどを盛り込み、ホームページよりも手厚く解説しております。
本来レジュメと言いますと、図やイラストがほとんどで、言葉による文章が入っていないイメージがありますが、本レジュメはそうではなく、復習がしやすいよう、多くが文章で構成されており、1人で読み進めることができます。
くわしくはこちらのページからどうぞ
ミドルマネジメント層向け人材育成セミナーのレジュメを販売いたします

ミドルマネジメントの人材育成のテーマで、講演をさせていただいた際に作成したレジュメ(当日映写したパワーポイントファイルと同じものです)を販売いたします。
日程や生産管理、品質管理だけが幹部・管理職の仕事ではありません。儲けるためのマネジメントが必要です。
そういった視点や意識を持ってもらうためのきっかけとしてオススメの一冊です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
4コマ漫画ギャラリーを開設しました
コラムページにプロローグとして添付している4コマ漫画を集めたページを開設しました。

こちらをクリックすると入れます

コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
