ウチの社員はプロ野球選手かアマチュアか?
今回は、以前クライアント先で受けたある質問を元に、自社の設計者や加工者などが他社の社員と比べ、上か下かどれだけの水準なのかについてみていきたいと思います。
以前受けた質問とは、「ウチの社員の力量は、野球で言うと、プロ選手なのか、はたまた草野球のレベルなのか、どのあたりなのでしょうか?」というものでした。
この質問をされるお気持ちは、とてもよくわかります。
実際に、社長職や部長職などをやらない限り、複数の会社間での社員の力量を推し量るということは現実的には難しいと思います。しかも同じ業界ばかりでとなるとほとんど無理だと思います。
そうなると、この業界の現場で行われている設計や組み立て、機械加工の実務がわかる経営コンサルタントに質問するしかないというわけで、今回の質問をされた心境についてはとても理解できます。
どのレベルが「プロ野球」か?
さて本題です。私は30年近くこの業界の仕事を現場の実務レベルで見てきましたが、結論から言いますと「プロ野球」レベル」の人と言うのは、ほんの一握りしかいないと思っています。
そもそも高校野球のレベルでも、私のような野球の素人から見れば、しっかりとプレーが成立しており、緻密で複雑なルールも頭に入っている高校生の皆さんの野球レベルは相当高いと思っています。
これならば、工作機械やCAD/CAMの操作が一通り頭に入っており、手にもなじみ、要求された品質と納期でものづくりができる人は、この業界以外の人から見れば、相当レベルの高いモノづくりができているように見えるのではないでしょうか。
一方、プロ野球選手となると、「野球の上手い人の中でも、さらに飛びぬけて上手い人」という位置づけになると思いますので、この定義でこの業界に当てはめてみますと、「設計ができる人のなかでも、飛びぬけて設計が上手い人」、「加工ができる人の中でも、飛びぬけて加工が上手い人」となります。
「飛びぬけて」まではオーバーだとしても、実際に取扱説明書どおりに加工や設計ができる人はゴマンといるわけで、その中でもさらに上手に仕事をされる人が、今回の例えで言う「プロ野球」レベルになると思っています。
「プロ野球」レベルの人が具体的にやっていることは
そもそも私は、「納期通りにモノを作る」のは社会人として当たり前のことだと思っています。
もちろん、昨今の極めて厳しい短納期要求や、ひと昔前に比べると一桁上がった厳しい寸法公差など、そもそも「納期通りにモノを作る」こと自体、容易なことではないこともわかっています。
ですから、あの厳しい練習を経て試合に臨む、高校生の皆さんの野球レベルであれば、お仕事は充分成立していると思っています。
ですが、「プロ野球」レベルとなりますと、社会人としては当たり前の「納期通りにモノを作れる」を上回る技術者ということになりますので、さらに上のレベルで「正確に、かつ短いリードタイムで、高品質なモノを作るための取り組みをしている」という人たちになります。
この業界ですと色々な人がいます。例えば、
- ワイヤーカット放電加工で初期設定の加工条件ではなく自分で調整したパラメーター条件を作る
- EXCEL VBAやビジュアルベーシックなどを使ってオリジナルのNCプログラムの作成・編集ソフトを作る
- ACCESSやデータベースソフトを使ってオリジナルの管理システムソフトを作る
- CAMのポストを自分で編集し、細かなマシニングセンターの動作をさせるプログラムを出力できるようにする
- マシニングセンターのマクロプログラムを駆使して、プログラム編集・段取り・工具管理を効率化させる
- CAD/CAMのAPIを駆使して、作業ミスやCADモデルの不備を発見するプログラムを作る
- スローアウェイ工具を自社で自作し、自社の加工の品質UP・効率UPを図る
- ダイス鋼の内部成分の偏析を考慮し独自の使い方で金型を作る
- 旧型マシニングの熱変形のクセを時系列で全て把握し、それを考慮して高精度な仕上げ加工を行う
この中には、今現在では高度に進化した工作機械やCAD/CAMの機能により、不要になったものも多くあります。
それで言えば、私自身も20代のとき、EXCEL VBAを使い、金型を部品単位に分解せず、組図の状態のCADデータから各プレートや部品の穴あけNCデータを作る、お手製CAMを作ったことがあります。
ただし今現在では、それに代わる便利なソフトがたくさん市販されていますから、今同じ状況にあったら自作しようとは思わないと思います。
しかし、今必要か必要でないかが論点ではなく、無いなら自分で作ってでも、必要な機能や効率化を図ろうというバイタリティーがあるかないかが、今回のテーマです。
どうすれば「プロ野球」レベルの社員をつくれるのか?
では、一体どうすれば「プロ野球」レベルの社員をつくれるのか?
これは冒頭でお話ししたクライアント先の企業でも受けた質問です。
これは以前のコラムでも書いたことなのですが、先天的な素質の要素が大きいと考えています。
つまり、そういった人材を「育成する」というよりは、「元々そういった素質を持っているか」が大きいということです。
一方、以前のコラムで書きましたが「指示を受けたから」ではなく、趣味に近い感覚で、APIやVBA、マクロ、工作機械のパラメーターなどを駆使して、オリジナルの仕組みやプログラムシステム、加工方法や条件などを作り出す人に見られる傾向があります。
それは、これらを自ら進んでやるような人たちは、指示を受けた仕事として取り組むと、とたんにモチベーションが下がってしまうことがあることです。
ところが、改善時間などの自由に使って良い時間があった場合には、こうしたオリジナルのツールを、プログラム言語や機械パラメーターなど、一般の作業者が持っていないスキルを駆使して、何かを作り上げる。
こうした取り組みをしている人を、「プロ野球」レベルの作業者だと私は考えています。
ですから、「どのように育成するか?」という質問においては、
- 余裕時間を社内で意図的に作る
- オリジナルのプログラムシステム・マクロ・加工条件・加工方法など、何かを作りたいと提案する
- 作るために必要となるスキルを元々持っているか、持っていなければ習得期間を決める
- 改善・取り組みに着手する
- 会社の取り組みなので放置はできないが、過度に期限設定をしてモチベーションを下げないよう配慮する
こうした取り組みを会社の仕組みとして促していくことが、良いのではないかと思います。
ただし前述したように、後天的に育成するというよりも、先天的にそういったことが好きかどうかの要素がかなり大きいため、「できる人・出来ない人」は発生すると思います。
「出来ない人」は、スキルの問題もありますが、「オリジナルのものがなくても仕事はできる・モノは充分作れる」という言い訳をする人が多いこともあります。
しかしこれは、今要る・要らないといった目先のことではなく、他社のエンジニアと比べてより競争力を自社に持たせていくための投資という要素と、長期に考え、取説の枠を超えた技術にチャレンジしていけるエンジニアを一人でも多く自社に根付かせていくため、という意義を持っています。
しかし実際には、これまで私が多くの金型メーカー、部品加工メーカーを見てきた状況では、こうした「プロ野球」レベルの技術者が一人か二人以上いるという会社と、残念ながら全く1人もいないという会社に分かれてしまっています。
ソフトや機械が高度に進化した現在、目指すべき職人の姿とは
御社はいかがでしょうか。
たしかに今のCAD/CAMや工作機械には、人のスキルをサポートする機能が本当に増えてきて、人間の泥臭い技術・技能を使わなくても、ある程度、品質の高いモノづくりができるようになりました。
しかしそこに頼り過ぎると、行きつくところは、月給30万、40万の職人ではなく、時給でお仕事をされるパート社員さんにより、できるだけ人件費を抑えたモノづくりをした方が良いという考えが加速していきます。
事実そういった加工現場も増えてきました。もちろん新規採用が難しくなったという背景もありますが。
かつては「給料がいいから製造業で働く」という考え方もあったと思います。
ところが、「機械の性能が上がったから、人のスキルには頼らなくなった」というのであれば、技術者一人一人の差別化をする要素はなくなってしまいます。
ではどこでその差別化の要素を見せるのでしょうか?
私は今回挙げた「プロ野球」レベルと定義したようなことだと思います。
もちろん誰もができることではありません。
でも、職場に一人や二人はいてもいいのではないでしょうか。こういった人が職場のロールモデル(お手本)になると思います。
参考になれば幸いです。
最後に。今回のお話しは、実際のプロ野球や高校野球のレベルを評価したり、報酬の有無などに触れるものではありません。例えの表現として使わせていただきました。
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金型・部品加工業 専門コンサルティング
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