【改訂版】金型メーカーや部品加工メーカーの現場で起こる突き上げの背景と対応策
なぜ、部下は上司に「突き上げ」てしまうのか
コンサルタントとして多くの金型メーカーや部品加工メーカーの現場に伺いますと、「部下からの突き上げが厳しくて困っている」という相談を受けることがあります。
話をお聞きすると、突き上げを受ける上司のタイプは様々です。
現場の技術を熟知していない管理畑出身の方もいれば、部下より圧倒的に高い技術力を持ちながら突き上げられてしまうベテランもいます。
多くの場合、上司の人間性や器量に大きな問題があるわけではありません。それなのに、なぜ理不尽とも思える突き上げが起きてしまうのでしょうか。
この構造を理解するために、私は「なぜ、私たちは政治家の文句を言ってしまうのか?」という問いに置き換えて考えています。両者の背景には共通した構造があると思っています。
突き上げの背景にある「三つの不満」と「認識のズレ」
私たちが政治家に抱きがちな不満は、主に次の三つではないでしょうか。
- 何をやっているか、よくわからない:休日もなく働いているようだが、具体的に何をしているのか見えない。国会では紙を読んでいるだけに見えてしまう(実際には違うと思いますが)。
- 自分に直接的な恩恵がない:何か難しい政策を進めているようだが、自分の生活が良くなった実感がない。
- 謎の不公平感:高い給料をもらっているようだが、その働きに見合っているのか疑問に感じてしまう。
現場で部下が上司に抱く不満も、かなりこれに近い同じ構造だと思っています。
上司が会議や調整事に奔走していても、現場の部下からは「PCの前で何をしているかわからない」ように見えてしまうかもしれません。上司が会社全体のために動いていても、部下は「自分たちの仕事が楽になるわけではない」と感じているかもしれません。そして、「自分たちより楽そうな仕事で高い給料をもらっているのでは」という不公平感を募らせてしまうかもしれません。
この根本には、「職務給」と「職能給」に対する認識のズレも原因の一つだと思っています。ご自身の勤める会社がどちらの制度を正式に採用しているかにかかわらず、現場と管理職とでは、自身の給与に対する感覚が、どちらかの考え方に近い傾向がある、ということです。
ゲームに例えるなら、現場作業者の給与は、目に見える技やスキル、作った成果物で評価される「職務給」(スキル給)に近い。一方で、部長や課長といった管理職の給与は、目に見えにくい経験や調整能力、役職そのものの責任といった、いわば基本ステータスの高さで評価される「職能給」(ステータス給)の側面が強くなると思います。
現場肌の人間からすれば、管理職のマネジメント能力という「高い基本ステータス」は非常に見えにくく、だからこそ、「あの人は一体何がすごいんだ?」という不満が「突き上げ」という形で噴出するのではないでしょうか。
見えない価値を可視化する、具体的な対応策
では、どうすればこの問題を解決できるのでしょうか。対策は至ってシンプルです。
突き上げの原因となっている「三つの不満」を、一つずつ裏返していきます。つまり、上司が持つ見えない価値を、部下にも見える形にしていくことが求められます。
1. 高い「基本ステータス」を仕事ぶりで見せる
部下は、上司の「管理能力」を直接評価できません。だからこそ、その能力がもたらす「結果」を具体的に見せる必要があります。
例えば、他部署との難しい交渉をまとめて現場の負担を減らす、なかなか通らなかった稟議を次々と承認させて新しい設備を導入する、社内の面倒事を一手に引き受けて部下が業務に集中できる環境を作る、といった社内での横断的な政治力や統率力です。
これらは、現場作業者にはない、管理職ならではの「すごい能力」であり、部下は「自分たちにはできない仕事で会社に貢献している」と納得するかもしれません。
2. 「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」の役割を明確にする
上司と部下の貢献度が不明確なことも、不満の原因になると思います。両者の役割を明確に定義し、互いに不可欠な存在であることを認識させることが重要です。
- リーダー(上司)の役割:チームの目標を設定し、必要なリソース(人、物、金、情報)を確保し、部下が働きやすい環境を整えること。
- フォロワー(部下)の役割:リーダーが示した目標に対し、自身の高い専門技術や技能を発揮して最高の成果を出し、現場の状況をリーダーに的確にフィードバックすること。
このように役割を定義すれば、「上司のリーダーシップがなければ自分たちは最高のパフォーマンスを発揮できない」という健全な依存関係が生まれ、突き上げは自然と収まるかもしれません。
3. 現場に「恩恵」がある制度を設計し、実行する
「自分に直接的な恩恵がない」という不満を解消するために、上司が現場のために動いていることを制度として示すのが最も効果的だと思います。
例えば、部下が持つ技能に応じて支給される技能手当を新設・拡充する、個々人の仕事の負荷を「見える化」して不公平感をなくす、といった制度設計を上司が主導して実現します。
このような具体的な恩恵があれば、部下は「自分たちのことを考えてくれている」「上司の働きが自分たちの待遇改善につながっている」と実感でき、突き上げは感謝へと変わるのではないでしょうか。
まとめ
現場で起こる突き上げは、単なる好き嫌いや技術力の問題ではなく、上司と部下の間に存在する「価値認識のズレ」が引き起こす構造的な問題だと思っています(これが全ての理由ではないと思いますが)。
部下は上司の「見えない価値」を理解できず、上司は自身の価値をうまく「見せる」ことができていない。その結果が、不毛な対立を生んでいるのかもしれません。
突き上げに悩む上司に求められるのは、自身の管理能力や調整能力といった「高い基本ステータス」を、具体的な「実績」や「制度」という目に見える形で現場に示していくことではないでしょうか。
見えない価値が可視化された時、突き上げは信頼へと変わり、現場はより強い一つのチームになれることを切に願っています。
この記事が、より良い現場作りの一助となれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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