HRC60の状態から荒取り・穴あけするダイス鋼SLD-f、金型に使用していくにあたり考慮することは?

新しい鋼材を使用するにあたっての考察
目次

HRC60の状態から荒取り・穴あけするダイス鋼SLD-f、金型に使用していくにあたり考慮することは?

以前、このホームページのコラムや、日刊工業新聞社さんへ私が寄稿した記事などで紹介した、日立金属株式会社の新しい冷間ダイス鋼SLD-fですが、その後クライアントのプレスメーカーさんで、これまで10型ほど実際の金型に使い、私もその活用についてサポートしてきました。

その企業さんでは熟練のCAMオペレーターがいなかったので、CAMを使ってどのような工具や軌跡で削るのか、実際に私がCAMを操作してアドバイスしてきました。

そうして加工した部品の一つが下の写真のダイ部品です(企業さんが保有している部品ですので全容をお見せ出来ずすみません)。

この鋼材のコンセプトとして、HRC60のプリハードン鋼ということですので、その硬度の状態から荒取り加工もしておりますし、穴あけやタップも切っております。

改めてこの鋼材を使うメリットとしては、

焼入れ処理が必要になる金型のパンチ・ダイ部品について、マシニングセンターで前加工することなく、先に焼入れ処理と6面フライスされた材料に、穴加工及び荒取りから仕上げ加工まで一気に全加工を行える点だと思います。

これにより従来の、外注業者による焼入れ焼戻し処理をまたぐ部品製作リードタイムよりも、数日の短縮が可能になると思います。

ですが短所になるかもしれないのは、プリハードン鋼として調達しようとすると、焼入れ焼き戻し処理とフライス加工(場合によっては研磨加工も)を行った状態のものが手元に来るまで、納期が10日ほどかかるようで(材料業者さんにもよると思いますが)、この調達リードタイムの長さがネックと言っているプレスメーカーさんもあります。

具体的には、他のSKD11相当の改良鋼などを焼入れ処理前の状態で購入し、それをマシニングセンターで前加工(形状部は0.3残し等)して、それを焼入れ処理したのち、平面研磨及びマシニングセンターによる仕上げ加工を行う方が、材料調達から部品完成までにかかる実際の日数は短いのではというものです。

つまり部品の完成が、例えば今月の何日までにと設定した場合に、加工のスタートが遅くなるため苦しくなるという解釈です。したがって作業日報上、焼入れ前後で加工が分かれない分、人の作業工数の集計は少なくできるとしても、いついつまでに部品を完成したいという期限がついた場合には、材料がプリハードン鋼の状態で手元に来るまでが遅いために苦しくなるという言い分です。

私が聞く限りこの鋼材を使った各社の感想としては、会社内での立場によって異なっていて、前述した完成までにかかる日数は、従来の鋼材を使ったプロセスの方が短くて済むので良いという意見は現場寄りの方々に多いです。逆に経営サイドの方々には、焼入れ処理の前後に分けた機械段取りやCAMのデータ作成もそれぞれに行う手間、焼入れ処理後に行う歪んだ状態でのやりにくい平面研磨などがあるため、SLD-fを使って、各工程での人の作業や手間を減らす方を優先して欲しいとの意見が多いようです。

経営コンサルタントでもある私もどちらかと言うと、経営サイドの方々のおっしゃる意見の方に賛同で、実際にCAMを使って加工プログラムを作っていると、焼入れ処理の前後にCAMデータを分けるとか、歪んだ焼入れ処理後の鋼材の平面研磨のやりにくさや、焼入れ処理前に削ってクランプしにくい形状になったワークを焼入れ処理後にどう掴むかなど、そういったことを考えなくてよくなる方がメリットは大きい気がします。

実際これも分業化時代の弊害があると思っていて、CAMオペレーターや研磨担当者、マシニング機械オペレーターなどが分業化されている昨今の現場においては、個々の工程で分担されており1人で全てやるわけではないので、それぞれに負担はあまり感じないのかもしれません。それよりもやはり納期は心配ですので、実際に完成できる日にちの方が気になるのは確かにそうかもしれません。

ところが、経営幹部の方々にとっては作業工数を集計した原価も重視していますので、それぞれの立場で意見が異なってくるのかもしれません。

あと、原価と言えば、いきなりHRC60の状態から荒取り加工が出来るとは言え、焼入れ前の状態のワークで荒取り加工するのとでは、焼入れ後のワークは加工条件を下げなければいけない分、ワークサイズに比例して荒取り加工にかかる時間の差が大きくなってくるというのがあります。

グラフにすると下図のようなイメージでしょうか(横軸はワークサイズ、縦軸は加工時間)。

焼入れをする前と後の材料の荒取り加工時間の違いのイメージ
青が焼入れ前、オレンジが焼入れ処理後の加工時間

したがって、焼入れ前後にあった段取り作業を1回で済ますことができるとはいえ、この荒取り加工時間の差をどこまで許容できるかについて検討する必要があると思います。

いずれにおいても、私がコンサルティングしているプレスメーカーでは、従来よりもワイヤーカットを減らし、マシニングセンターでの切削による輪郭形状仕上げが増えたりすることで、複数機械をまたいだ段取り工数が減るなどのメリットが出せています。

調達リードタイムが長い点については、設計の方で早めに発注をかけることや、マシニング加工現場の日程調整(差し立て)などで対応しているようです。

そうすることで、短所を補って余りあるメリットが得られているようです。

また日立金属株式会社の方から直接伺った話ですが、焼入れ前の荒取り加工において、一般的なSKD11相当のスローアウェイカッターの加工条件、切削速度は概ね110~150m/分くらいでしょうか(工具によって違いはあると思います)、それを最大473m/分まで上げて加工した実績があるそうです。

実際にそこまで上げて使うかどうかは別として、例えば300m/分まで上げて加工するとなると、生材の状態において、単純計算ですが倍の条件で加工できることになるため、プリハードン鋼としてではなく、従来プロセスにおいても切削ボリュームが大きい場合はメリットがありそうです。

以上、コンサルタントの近況報告としてSLD-f鋼材の加工事例と、運用していくにあたっての考察でした。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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