【ショートコラム】金型内製部門の目標設定:目的と手段のすり替えを防ぎましょう
目的と手段を履き違えた金型内製部門の目標設定:社員教育は手段、目的は「出来高」こそが真の目標
私は金型・部品加工業専門のコンサルタントとして、日々金型メーカーやマシニングセンターなどの部品加工メーカー様と向き合っています。
今回ご紹介するのは、とあるプレスメーカーの金型内製部門でのコンサルティング事例です。
部署の各作業者全員を対象に、3~5年までの中長期目標を作成してもらったところ、「教育計画」を目標としている社員が非常に多かったことに違和感を感じました。
確かに、スキルアップやキャリアアップのための教育は重要です。しかし、教育それ自体を目標とするのは本末転倒となってしまうかもしれません。
少し厳しい言い方かもしれませんが、教育はあくまでも手段です。仕事の幅を広げたり、レベルを上げたりするために、仕事を覚えていくことは当たり前のことです。
本来の目標は、「出来高」に置くべきです。
例えば、金型内製数であれば、「月に5型」とか「10型」など、マシニングセンターの担当者であれば、「加工枚数が月に機械1台当たり200枚」といったものになります。
今回の中長期目標は、まさに目的と手段が入れ替わってしまった悪い事例と言えるでしょう。
社員一人ひとりが、自身の目標達成のために何が必要かを考え、具体的な行動計画を策定することが重要です。
今回の事例企業のコンサルティングにあたり、私は以下のようなアドバイスをしました。
- 目標を「出来高」に置き換えること
- 目標達成に必要なスキルや知識を洗い出すこと
- 目標達成のための具体的な行動計画を策定すること
- 定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて計画を修正すること
教育計画が目標とされていた修正前の計画の内容と大きく異なったのは、③の内容についてです。
例えば、マシニングセンターの担当者については、いつからいつまで何の教育をやるといった内容から、これまで切削加工のプロではない設計担当者が作成していたNCプログラムを、現場の加工者が切削のプロとしてCAMを担当するようにすることや、これまで1個かけしかやっていなかった夜間無人加工を、複数個の段取りができる並列バイスに買い替え、多数個かけを積極的にやっていくこと、日中昼間は加工条件を見直し、ラップタイムを縮める改善を積極的に進めていくこと、これらによって具体的な加工枚数を段階的な中長期目標として設定しました。
設計担当者においては、これまで使用していなかった解析シミュレーションソフトを活用し、トライ回数を削減していくこと、設計の自動化機能をさらにもっと活用し、設計の手離れをよくしていくこと、部品の標準化を進め、図面に記入する公差指示などを減らし、部品図作成の効率化を図っていくこと、これらの取り組みによって、月あたりの設計件数を増やし、具体的な図面数を中長期目標としました。
やはり、修正前と大きく異なるのは、具体的な出来高となる数値と、それを実現するための取り組みを各自設定したことです。それを為すために足りないスキルを習得していくことは、あくまで手段であって目的にはなりません。
私は今回、先ほどのプレスメーカーとは別のクライアント企業の社長が、中核社員の方々に言われていた言葉を思い出しました。
「当たり前のことだが、会社は学校ではないので、勉強しに来るところじゃない。教育や練習は必要なことだが、それが目的になってしまうと、それは会社じゃなくて学校になってしまう。」といったものでした。
これが正解かどうかの前に、人件費を管理する立場である、会社の経営者として切実な言葉だと思います。
昨年くらいから賃上げの話題が盛んになっていますが、私が接するほとんどの経営者さんが、「周りに合わせて賃上げを行うものの、本音としてはその分の生産性向上は不可欠と感じている」と言っています。
こうした状況の中で、本業と研修時間とのバランス、研修に費やした時間をどれだけ生産高に結びつけることができたかなど、色々と考えなければいけないことが多いと思います。
最後になりますが、金型内製部門に限らず、すべての部門において、目標設定は極めて重要です。
社員一人ひとりが、自身の役割を理解し、目標達成に向けて努力することができれば、企業全体のパフォーマンスも必然的に向上するはずです。
OJTや外部研修をしっかりやっているのに、なかなか成果に結びついていないという読者企業の方がおられましたら、一度、社内で設定している中長期目標を見直してみてはいかがでしょうか。
参考になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054