エンドミル仕上げの際のZ切り込み量はどう考えるべきか
ここ最近、マシニング加工においては、CAMや対話システムが当たり前のように使えるようになり、かつてGコードプログラムや手動操作では、わずらわしかった立壁加工が、今では不自由なく加工できるようになりました。
垂直な立壁をエンドミルで仕上げる際、Z切り込み量を細かく分割して切削する手法があります。

例えば、工具径の2倍を超えるような、そこそこ深い立壁の仕上げ加工の場合、一回のZ深さで加工してしまうと、切削抵抗のため、下図のように工具がたわみ、切削面の直角度が確保できないことがあります。

そこで、手動のハンドル送りで加工したり、Gコードプログラムで加工する場合は、Z切り込み量を細かくし、Z深さを何回かに分けて最終深さまで切削するわけですが、
同じ動作のプログラムを何度もコピーしたり、サブプロを使った場合は念入りなチェックが必要になったりと、何かと面倒なこともあり、結局送り速度を下げ、一回か2回くらいに分け、倒れを最小限にするよう送りを下げながら、何とか無理やり加工するといったことがよくありました。
しかし、CAMを使ったり、マシニングに付属している対話システムを使うことが当たり前になってきた今現在、Z切り込み量を細かく分割して、切削負荷をかけない立壁の仕上げ加工が簡単にできるようになりました。
何ミリずつ切り込むのが正しいのか
さて、ここで出てくる疑問が、
「じゃあ、何ミリずつ切り込むのが正しいの?」です。

結論から申しますと、使う工具の種類ごとに異なります。
その「工具の種類」とは、工具径や刃数、リード角などによる違いです。
では、今回のテーマであるエンドミル側面を使った立壁を仕上げる際、Z切り込み量を何ミリずつにするかを検討するにあたり、何を考慮すべきか。
考慮すべきこととして、切削抵抗に影響を与える「同時切削刃数」があります。
同時切削刃数とは、2枚刃、4枚刃、6枚刃など、複数の刃を持つエンドミルを使い、壁の側面を仕上げる際、同時に接触するエンドミルの刃の枚数のことです。
ストレート刃でない限り、一般的に使われるエンドミルの多くは、下図のように、刃にリード角があるものです。
リード角とは、エンドミルの側面刃にある「ねじれ」のことです。これによって、切削抵抗が分散される効果があります。

下図のエンドミルによる切削加工時の模倣図を見ると、切削面には同時に2枚の刃が、当たっているように見えます。

これが、側面仕上げ加工時に発生する「同時切削刃」です。
ざっくり言えば、この同時切削刃が多いほど、切削抵抗は大きくなり、ビビリなどの振動、エンドミルの倒れなどが起こりやすくなります。
ですから、せっかくCAMや対話システムを使って、簡単にZ切り込み量を細かく分割できるのであれば、
- 同時切削刃をできるだけ少なくする。
- Z切り込み量を細かくし過ぎて加工時間が長くならないようにする。
この2つが両立する、Z切り込み量を選定すべきです。
加工時間を短くしたいために、Z切り込み量を多くとれば、同時に接触する刃の数が多くなるのは、容易に想像できると思います。
では、同時切削刃が起こらない、つまり1枚の刃で切削できる最大のZ深さは、どのように計算すればよいのでしょうか。
Z切り込み量の計算方法
その計算は、エンドミルの直径1周分を1枚の平面に引き伸ばして考えます。
まずは、1枚の刃だけで考えてみますが、リード角がありますので、φ10のエンドミルの場合、その平面の状態は下図のようになります。

これを、2枚刃と4枚刃、それぞれの状態で見てみると、下図のようになります。

最近使われることも多い、不等分割エンドミルではなく、等分割エンドミルの場合の図になりますが、前述した1枚刃の状態の図と比較して、図の中に同じ角度の線がそれぞれ、刃の枚数に応じて追加されています。
この追加された斜めの線が、2枚刃・4枚刃、それぞれ増えた分の刃の線になります。
1枚刃の図にあった斜めの線のすぐ右隣にある線が、エンドミルが回転している際、次に切削面に接触する刃になるわけですが、例えば、上図(左)の2枚刃の場合、27.19ミリよりも深いZ切り込み量で立壁の仕上げ切削を行うと、縦の一点鎖線が示すように、同時に2枚の刃が接触することになります。
上図(右)の4枚刃の方は、2枚刃に比べると4枚の刃の間隔が狭いため、同時切削刃になるまでのZ切り込み量が浅くなり、13.6ミリよりも深くなると、同時に2枚の刃が接触します。
ここから読み取れることは、例えば、
- ワークやクランプの剛性により、切削振動が起こりやすい。
- BT30のツールホルダーを使用しているなど、機械剛性があまり強くない。
- ±01公差などかなり高精度な仕上げ加工を行いたい。
といったような場合において、よりデリケートに切削したい場合には、同時切削刃が起こるZ切り込み量よりも浅く切削した方がよく、また4枚刃よりも2枚刃の方が、同時切削刃が起こるまでのZ切り込み量は深くとれるということです。
ただし逆に、4枚刃や6枚刃など多刃エンドミルは、
- 芯厚が太い。
- 送り速度を上げられる。
といった理由により、加工生産性を高めることができますので、仕上げ加工においては積極的に使っていきたいところです。
さて、では次に工具径の違いによる、Z切り込み量の違いを見た場合の状態が、下図のようになります。

上図のそれぞれを見てみると、φ10よりも、φ6エンドミルの方が、同時切削になるまでのZ切り込み量が浅いです。
ここから読み取れることとして、
工具径が大きい方が、同時切削刃になるまでのZ切り込み量が深い。
ということですから、そもそも工具径が太い方が切削負荷による倒れに対しての剛性が強いということもあり、加工生産性の点からも太い工具を使った方が送り速度を上げることができ、精度・工数削減、いずれの観点からも良い結果が得られます。
参考として下図に、φ10とφ20ミリでの違いも掲載しておきます。

最後に、エンドミルのリード角の違いによる、同時切削刃までのZ切り込み量の違いを見ていきたいと思います。

これを見ると、まず上図の真ん中と左の図の違いとして、同じ径のエンドミルでも、リード角の違いによって、同時切削刃になるZ切り込み量が異なってきます。
ここから読み取れることとして、
リード角が大きい方が、同時切削刃になりやすく、許容されるZ切り込み量が浅くなってしまう。
ということになります。
同じ工具径であってもリード角が大きくなると、同時切削刃までのZ切り込み量は浅くなりZ切り込み回数は多くなってしまいますが、そもそもリード角を大きくすることは加工負荷を低減することを目的としていますので、その分、リード角の小さい工具よりも送り速度を上げることができ、切り込み回数が増えるデメリットは相殺できるとも考えられます。
したがって、デリケートに立壁を仕上げたいときは、
- リード角の大きい工具を選ぶ。
- 同時切削刃にならないZ切り込み量を選ぶ。
という方向性がよろしいのではないでしょうか。
さらに、上図の真ん中と右の図を比較すると、リード角が大きくても、やはり刃の数が多い4枚刃の方が、同時切削刃になるまでのZ切り込み量が浅くなります。
まとめ(デリケートな立壁仕上げを行うときの手順)
この件も踏まえ、デリケートな立壁仕上げを行うときには、
- 切削抵抗の少ないリード角の大きなエンドミルを使う。
- 送り速度が上げられる刃数の多いエンドミルを積極的に使う。
- 同時切削刃にならないZ切り込み量を選定する。
- Z切り込み量が細かくなり過ぎると、Z切り込み回数が増え、加工時間が伸びるため、その際の工具選定は慎重に行う。
という順で考えるのがよろしいのではないでしょうか。
ただし、あくまでも加工品質と加工工数は、相反するものですので、過剰品質にならないよう、充分にお気を付けください。
一段上の加工技術者を目指す皆さんには、一つひとつの加工条件に根拠を持って取り組んでいただきたいと思っております。もしよろしければ、参考にしてみてください。
※ 実際の加工においては、工具材種だけでなく、被削材の物性、機械剛性、工具の消耗状態、被削材のクランプ状態などの外的要因で、如何様にも状態は変化するため、実際の加工においては、自己責任のうえ、充分な確認・検証を行ったうえで、加工してください。
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