タイパ?コスパ?たしかに感じることがあります
ここ最近ニュースやネットの記事で聞くもので、タイパやコスパといった言葉があります。
いわゆるタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスのことですが、私が見る限り、金型メーカーや部品加工メーカーの現場でもこの言葉に当てはまる事象が起きていると感じることがあります。
例えば、ある成形メーカーの金型加工現場で、私が実務としてCAMを操作し、加工データ及び切削加工の改善を支援していたときのエピソードです。
金型あるあるですが、現場で使っているCAMとは別の3次元CADでモデリングされた3Dモデルを、現場のCAMにインポートしたときに、モデルから面が抜け落ちるいわゆる「面落ち」はよくあることです。
これをせっせと、私がモデリングして貼り直しているのを、CAM習得のため横で見ていた20代の若手加工者が言いました。「うわっ!この作業、ホントやりたくねぇ~、上の人に話して、CAMとは別のCADを使っているベテラン設計者の人に、CAMと同じCADに変えてもらえるよう何とかして説得してもらえないですかねぇ」とかなり本気で話していました。
これはこれで正論の一つですし、たしかに昨今こういった穴抜けを簡単にモデリングしてくれるCAM作業向けの3次元CADや、ヒーリングソフトなどが市販されておりますが、別の視点で、このとき私が何より思ったのが、20代という若さでこういった経験をする機会を何としても回避してしまおうとする、その勿体なさです。
私自身、昔はそういった便利なソフトを使う環境がなかったため、伸ばしたくても伸びないサーフェース面や、CADからCAMにモデル移行させる際に落ちるフィレットの▽部など、こうした面を貼りなおす作業とひたすら格闘した経験があるため、今回のようなモデル修正する際に、使用するCADが変わっても、試行錯誤するための引き出しというか方法を色々と知っています。
しかしながら、いずれ会社が便利な修正ソフトの導入を検討するとか、そもそもそういった修正作業の頻度が高くなければ、そのためのスキルを習得する時間は「タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスが悪い」ということになるかもしれません。
ですが私が思ったのは、長期的な視点で見ると、この20代の若手社員さんは、今回のような「頻度は高くない」「他の手段で代用される」スキルへの対応をかいくぐったまま、30代・40代へと年齢を重ねていったとき、結果将来どのような技術者として育っていくのか、そもそもどのような技術者になることを目指して今の会社に中途入社したのか、そちらの方が気になりました。
皆さんご存知のとおり、今は工具や機械、ソフトの進歩によって、過去のものとして今は使われなくなったスキルや方法が多くあります。
例えば、穴あけ加工の定番中の定番だったラジアルボール盤も、今はほとんどマシニングセンターで加工しているため、全く使わなくなったという会社も多くあります。
ですが私は、23年やってきた加工の現役生活の中で、ラジアルボール盤はかなりお世話になっていて、ハイスの黒ドリルであっても、そこそこ加工条件は上げられることを身をもって知っています。
昔は、ラジアルボール盤で試した回転あたりの送り量(例えば0.15とか0.08ミリなど)を、マシニングセンターで使うNCプログラムのF値に反映していました。
泥臭い作業なのでやりたくないと一蹴してしまえば、それはそれでマシニングセンターなど代わりの手段はいくらでもあるのですが、私自身がもし今、金型メーカーや部品加工メーカーに就職するタイミングでしたら、今から触ることはなかったかもしれませんが、そうした汎用機械を触ったことは今思えば貴重な経験だったと思います。
したがって、習得する時間のタイムパフォーマンスという考えは一旦横に置いておいて、やりたくないと思った作業にも手を出してみると、自分の引き出しや手数が増えるというメリットもありますし、技術知識としての裏付けや根拠になり、厚みを持たせることもできます。
ちなみに、タイパやコスパとは似た別の視点になりますが、この若手社員さんがいた職場には、指示される仕事に条件を出すといった社員さんも結構多くて、これも自身の経験を積むという機会を得るためには、とても勿体ないことだと思いました。
「条件を出す」とは「そういう仕事ならやりたくない」とか「それでやれと言われるならやりたくない」といった発言のことです。
・・・社会人としてどうかという意見は置いておいて、技術者として自分をスキルアップさせる視点から見ると、これもやはり貴重な機会を自ら奪ってしまっているように思いました。
さて、このタイパやコスパという発想は、この事例企業だけでなく、昨今分業体制が主流になっている他の会社の加工現場でも同様に見うけられ、例えば、マシニングセンターの段取りオペレーターが、その上流工程であるCAMの習得にはあまり積極的ではなかったり、その逆で、CAMオペレーターはその下流工程の機械段取り作業には、自分の工程が暇なときでも関心を持って覚えようとしなかったりと、勝手な個人の判断で担当以外の設備を触ることはできませんが、そもそも多能工になるよう指示があっても、なかなか着手がされないといった課題を抱える現場もあります。
自分の担当以外の作業は必然的にかかわる頻度は低くなりますが、タイパやコスパを気にすることなく、そこに飛び込んでいけるかどうかは、今後の自分の付加価値、もっと広い意味で言えば、自分の「市場価値」をも高めることにつながると言えます。
このコラムの執筆している時点で、岸田政権では、企業に賃上げを促すための様々な施策を検討、または実施しており、例えばリスキリングなどの学びなおしにより自分の付加価値や市場価値を高めることで、自社で、または転職により賃上げを実現することを推奨しています。
そうした中で、ニュース等で岸田総理は「日本型職務給の確立」を言われていると報道されています。
この職務給という言葉だけだとわかりにくいのですが、職能給との対比すると理解しやすいです。
かつての日本企業や公務員で主流だった、「一定レベルの能力を持つ人に何の仕事をさせるか」人それぞれが持つ仕事を遂行する能力によって給料が決まる職能給から、「何の仕事をしているか」その人が担当している仕事の責任の重さや難易度によって給料が決まる職務給制度に移行していこうという動きです。
この従来の年功序列的な給料ではなく、職務給という制度に基づくと、管理職を含め社員それぞれ「何ができるか」が重要になってきて、タイパやコスパを重視するあまり、嫌だという感情を優先して近道ばかり通っていると、結果自分の付加価値・市場価値を高めるスキルが身に付く機会を失い、30代・40代・50代と年齢を重ねたとき、気づいたときには手遅れになっていることもあり得ます。
このコラムを読んでくださっているような勉強熱心な方に、今回望ましくない事例に出てきたような方はおられないと思いますが、今回のコラムが、今後さらにご自身の付加価値・市場価値を高めていこうとされる方の一助になれば幸いです。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054
