2つの金型コスト、頑張る方針が異なることに要注意?
今回は、私が売り型メーカーやプレスメーカーなどの金型内製部門で、よくお話しをさせていただく、2つの金型コストの存在と、それぞれの計算方法の違い、それに伴った現場の頑張り方の違いについて、書いてみたいと思います。
まず金型コストの計算というと、下表のように、個々の金型ごとに集められた材料費や購入部品費、外注費などに加え、金型ごとに行った設計やハンドワーク作業、機械加工などについて、時間単価に工数を乗じた「設計費」や「加工費」などを合計して計算するのが一般的だと思います。

ですが、この計算方法は、特に「加工費」の部分について、次の2つの問題を抱えています。
一つは、工数の集計を前提としているため、金型ごとにかける作業や加工は、早ければ早いほど(少なければ少ないほど)金型の原価は安くなるので、それは現場の方針として最良なのか?という点です。
これはある会社で実際にあった解釈ですが、最も高速な機械しか使用を許されない方針になってしまい、どれだけ仕事が忙しくなっても、他の空いている機械があっても、それが最速の機械でない場合は、使うことが許されず、社内の金型内製数を増やすことが困難だったという事例があります。
また多能工化についても、不慣れな作業者が担当すると、その作業工数は、慣れた作業者の工数よりも多くなってしまうため、これも他の工程の作業者が担当することが許されなかったという極端な例がありました。
もう一つの問題は、この計算方法で集計された金型コストが、仮に売価を下回るコストで製作できた場合、それで会社や金型内製部門は利益を上げているのか?という点です。
もちろんそうとは言い切れないですよね。この点については後ほど詳しく触れていきます。
このように、一般的に使われている金型コストの計算方法は、それだけを用いると、会社や内製部門にとって望ましい成果につながらない考え方や方針を生み出す可能性があります。
したがって、売り型メーカーや金型内製部門においては、もう一つの金型コストの計算方法も用いて、望ましい現場の方針を導く必要があります、というのが今回のテーマです。
もう一つの金型コストとは
もう一つの金型コストは、前述した「積み上げ方式」の金型コストとは異なるもので、「正味の金型コスト」と呼んでいます。
まず前提として、金型メーカーを含む一般的な製造業では、以下のような各種費用が発生します。
材料費、労務費、外注加工費、修繕費、水道光熱費、倉庫保管料、支払運賃、旅費交通費、消耗品費、通信費、減価償却費、賃借料、事務用品費、新聞図書費、諸会費、車両費、リース料、保険料、地代家賃、雑費など
これらの費用を、製造業だけに限らず企業は、1か月とか1年間など、一定の期間で集計し、月次・四半期・年次といった区切りで決算を行っています。
正味の金型製作コストは、これら発生した費用を、決算期間中に製作した各種の金型に按分したものになります。
実際には全く同じ金型を作り続けるわけではないため、均等割りというわけにはいかないと思います。したがって、材料費率や金型のサイズ、成形工程数、成形難易度などに基づいて割合を変え、按分することになります。
ポイントは、前述した各種の製造業の費用には、金型の受注量に比例する変動費と、受注量に関わらず発生する固定費が含まれていることです。
一方、「積み上げ方式」の金型製作コストの方は、金型ごとの製作に要した費用を集計する方法で、そもそも受注がなければ計算は発生しません。
正味の金型製作コストの方は、特に固定費が受注量に関わらず計上されます。そのため、年間に発生する費用に見合う受注及び、金型製作数がなければ、個々の金型受注金額よりも高い、金型製作コストが按分されることになります。
この考え方について、かなりシンプルにした事例を使って説明したいと思います。
まず、事例となる金型メーカーにおいて、年間に発生する費用が2億円だと仮定します。
実際には、「積み上げ方式」の金型製作コストの計算と同様に、材料費や部品購入費、外注費などは、個別の金型に紐づき、それぞれの金型製作コストとして集計されるため、年間に発生した正味の費用を按分するのは、それら以外の人件費や機械償却費、リース料、電気代、地代家賃などの経費になります。
ですが、この事例では計算をとてもシンプルに考えるため、全部まとめて按分することとします。これを図にすると、下図のようなイメージです。

次に、年間に製作する金型数ですが、計算を簡略にするため、ほとんど同程度の金型を20型製作したとします。
この場合の1型あたりの金型製作コストは、1千万円(2億円÷20型=1千万円)となります。仮にがんばって25型製作できれば、800万円(2億円÷25型=800万円)となります。
このように、費用を集計した期間における製作金型数が多ければ多いほど、金型ごとのコストが結果的に低くなってくるのが、この「正味の金型製作コスト」の考え方になります。
なお、「積み上げ方式」の金型製作コストは、製造部門のみで管理・集計することが可能だと思いますが、「正味の金型製作コスト」の計算については、経理部門の協力が必要となると思います。
それぞれの金型製作コストの目的と意義
では、このそれぞれの金型製作コストは、自社に合いそうな方を選択して使うものなのでしょうか。
実はそうではなく、それぞれに目的と意義があり、併用して扱うことが正解になります。
例えば、下のイメージ図は、毎月の費用が1,000万円発生している金型メーカーの事例です。2種類のコストを併用し、それぞれ計算した結果、「積み上げ方式」の金型製作コストよりも「正味の金型製作コスト」の方が安くできたケースを表しています。このケースは人や機械の稼働時間を効率的に活用できた証拠となります。

特に、機械加工においては、夜間の無人加工が積極的に行われたり、作業者が掛け持ち作業を積極的に行うため、現場では多能工化が積極的に行われていたことが分かります。
一方、下図のイメージは、同じ条件の事例メーカーにて、「積み上げ方式」の金型製作コストよりも、「正味の金型製作コスト」の方が高くなってしまったというケースです。

つまりこの月に受注・製作した金型数が少なかったという状況です。このケースでは、人や機械、工具、電気代などの諸費用が、金型受注数(内製数)に対し、過剰になっていることが分かります。
ではここで、それぞれのコストが持つ意義を整理してみたいと思います。
- 「積み上げ方式」の金型製作コストの削減に向けた取り組み
こちらで集計されたコストは、金型受注金額の参考値となり、企業の価格競争力を表す指標となります。実際に個々の金型をいくらで売るかは別として、「仮にこれだけ安く受注したとしても、利益は確保できる」という根拠になります。
したがって、仕事を多くやればやるほどコストは増加するため、出来る限り最小の仕事量で金型を製作し、工数を削減していくことが望ましい方針になります。
「何を頑張るか」ですが、早く作ることで金型は安くできることになります。
したがって、機械加工においては、特に日中昼間の加工時間の短縮や、ハンドワーク作業においても、技能の習熟や改善などにより、個々の作業の工数削減に努めます。 - 「正味の金型製作コスト」の削減に向けた取り組み
こちらの数字は、会社や部門の損益に直接影響します。仕事を多くやればやるほど、金型内製数が増えることにつながり、その結果、1型あたりに按分されるコストは減っていきます。
したがって、できるだけ多くの仕事をしていく方が望ましいという方針が立ちます。
「何を頑張るか」ですが、最小限の人員や設備で、出来るだけ多くの仕事量をこなす方針になります。
例えば、機械加工においては、多少安全を見て落とした加工条件を使ってでも、夜間無人加工や多数個かけを積極的に行います。
人の作業においては個々の作業時間の短縮にこだわり過ぎず、多少不慣れな作業であっても多能工化を推進します。その他、一つひとつの金型の手離れをよくしていくための改善を行っていきます。
まとめ
「ん?「正味の金型コスト」の方は、別に個々の金型に振り分けずに、決算期間に発生した費用と、その期間に製作した金型の受注金額の合計(売上額)との対比で見れば良いのでは?」と思われる方がおられると思います。
たしかに全くそのとおりなのですが、なぜ「正味の金型コスト」という考え方が必要なのかと言いますと、やはり「積み上げ方式」の金型コストとの比較のためです。
前述したように、「積み上げ方式」の金型コストだけを見た現場管理を行いますと、偏った方針が生まれかねません。
例えば、加工条件を落としてでも無人加工を行っていくことや、多能工化やマルチスキルへ積極的に取り組むことへの数字的根拠が弱くなってしまいます。つまり、個々の金型に対し、早くやることだけが正義という考え方に偏ってしまう可能性があります。
また、ある金型メーカーでは、工数だけを見て、とある部品では外注メーカーの方が加工が早いので、「積み上げ方式」の金型コストの考え方によると、外注メーカーをどんどん使った方が安いという極端な考え方に陥っている例もありました。
今回のコラムのポイントは、金型製作コストを管理する際には、「積み上げ方式」と「正味の金型製作コスト」の両方の視点から考えることが重要であるということです。どちらかに偏った管理を行うと、会社にとって大きな副作用を生む可能性があります。
このあたりは、以前のコラム「金型メーカーの足を引っ張る?一型あたりの製造原価の考え方」にも書いておりますので、もしよろしければ、こちらもご覧いただければと思います。

改めて、この2つのコストは、どちらにも配慮した方針を立てることが重要です。
コスト管理は、単にコストを削減するための手段ではなく、企業がより効率的に経営を行うための重要なツールです。今回お伝えした「積み上げ方式」と「正味の金型製作コスト」の両方の視点から金型製作コストを管理することは、企業の競争力向上につながる重要な取り組みです。
また、仕事の受注が多いときは「積み上げ方式」の金型製作コストに注目しがちですが、仕事の引き合いが少ないときこそ、現場は「正味の金型製作コスト」にしっかり向き合うことで、金型製作の効率化を図り、企業の競争力を高めることができます。
これを読んでくださっている読者の方々の現場はいかがでしょうか。参考になれば幸いです。
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