OJTにおける教え方のポイント
普段、製造現場で行われているOJT、もう何回も教えているという先輩方もいらっしゃると思いますが、気を付けなければいけない点があります。
そもそも、金型製作や機械加工の仕事が難しいという理由として、作業するために必要となる知識と技能を、まず身に付けなくては、そもそも仕事自体ができないということがあります。
これが手順書などで決まった作業を行うサービス業や小売業の現場とは違うところです。
この知識と技能が、先輩から後輩へ教えられていくのですが、その教え方が曖昧になっているため、せっかく教えたことが、正しく現場で使われていないという状況をよく見かけます。
先日、このような話がありました。2次元CAMを使った切削加工についてです。
下図の中の、赤い線の部位の貫通形状の切削加工を行うにあたり、当事務所でも使っているhyperMILLの2D加工の機能を使い、どのように加工したらよいかという初歩的な質問を、まだCAMに慣れていない加工者さんから受けました。

この形状を、CAMを使って荒取り加工(貫通)するにあたり、次の選択肢があると思います。
- ポケット加工の機能を使う。
- 輪郭加工の機能で対応する。
それぞれを試したところ、下図のようなパスが出ました。
まず、ポケット加工機能で出したパスが、こちら(切削距離の合計:542.4ミリ)。

次に、輪郭加工の機能で出したパスがこちら(切削距離の合計:431.3ミリ)。

結局どちらの機能でも、問題なく荒取り加工ができることがわかりました。
ここでもう一つ、質問の回答に補足をしました。
「こういった加工のとき、どちらを優先して使うべきか」です。
「基本的に輪郭加工を優先に考え、次に輪郭加工で対応出来なかったらポケット加工を使う」と、回答しました。
つまり、輪郭加工の機能を優先して使うことを、まず先に検討するべきだということです。
理由は、先ほどのパスの出方にあります。輪郭加工と比較すると、ポケット加工は一筆書きになっているため、同じところを再度回ることで軌跡の総距離が長くなっています。
ポケット加工の機能は、パス軌跡は基本的にオートマチックにCAMに計算させるため、人間がコントロールできる余地は少ないです。
そのため、今回の事例においては、必要最小限の軌跡で加工している輪郭加工よりも、ポケット加工は、複雑に細かく動き、無駄のある軌跡になっています。
本来、2Dの切削加工においては、ポケット加工で荒取りを行い、輪郭加工で壁面を仕上げるというのが、CAMソフト側の思惑だと思いますが、ことユーザー側の加工効率を考えた場合、その限りではありません。
特に、一品だけの加工ではなく、数ロット加工するとなった場合、ムダな軌跡は、その数量分だけロスが多くなります。
やはり、一歩上を目指す技術者としては、パスを自分でコントロールできる機能を優先的に選ぶべきでしょう。
私が使用しているhyperMILLの2D切削においては、なるべく輪郭加工を使った方が、加工効率のよい荒取り加工のパスを出力させることができます。
加工範囲が広いなどの理由で、輪郭加工では対応が厳しいという場合、次の手段としてポケット加工の機能を使うという順番で考えると良いと思います。
OJTで教えるときに重要なこと
ところで、今回のコラムの本題は、この機能についての解説ではありません。
「OJTで教えるときに重要なこと」についてです。
今回の、輪郭加工とポケット加工のように、対象とする課題について、①対処方法の選択肢と、②どのような優先順位で考えるべきか、理由と共に教えてあげないといけないということです。
これについては、企業ごとに、優先順位が変わっても構いません。それが会社の持つノウハウです。
前述した輪郭加工とポケット加工についての考えが、必ずしも唯一の正解というわけではありません。
要はその優先順位が、教える人のなかで明確になっていて、それをきちんと後輩に教えることが出来ているかどうかがポイントです。
そういった教え方でなければ、知識だけ増え、頭でっかちになり、適材適所で知識を使うことができない加工者に育つか、そもそも覚えることができず教えたことがいつも素通りしてしまうか、どちらかになってしまいます。
やはり、金型製作や機械加工業は、応用力があってナンボなので、この応用力をどう育てていくか、ここが難しいところです。
普段行っている先輩から後輩へのOJT、ぜひ実のあるものとして、よい教育活動を行っていただきたいと思います。
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