経営者や営業担当に聞いた名言集
先日、価格交渉術セミナーにお手伝いとして参加しました。
常々、私が思っていることですが、どんなに高く苦労してモノにした技術であっても、
それを高く売ることができなければ、「商売」「ビジネス」として同業者と戦っていけません。
そんな業界の荒波を乗り越えて、商売をしていかないといけないわけですが、
そのやり方についても、会社ごと、経営者ごと、いろいろなやり方があります。
今回は、これまで私が20年以上、この製造業の業界で見て聞いてきたキーワードを元に、
価格交渉について考えていきたいと思います。
「ウチは高いよ」
これは、駆け込み寺的なスタンスで、
高難度、超短納期の部品加工を請け負う機械加工メーカーさんの言葉です。
そこでは、φ900といった大型NC旋盤や、5軸マシニングなどの設備を取りそろえ、
ほとんどの種類の加工相談に対応できるだけの能力を持っていました。
それだけの設備の減価償却費を維持していかないといけないという事情もあると思います。
逆に安い仕事をフィルターできる一言でもあると思います。
「ウチは高いよ」。これを言えるだけの能力・設備を持つことができれば、高い仕事を集めることができます。
この会社の顧客は、商社が多かったのも特徴です。
他の加工屋さんでどこにも引き受けてくれなかった受注品を、
駆け回って、最後どこでも高くていいから何とかしてほしい、といって駆け込み寺のように依頼されるケースです。
「メールとFAXは使わせない」
上手いトップ営業を行っていた、金型メーカーの経営者さんの一言です。
次の項目にもつながる話ですが、顧客の購買担当との商談において、
図面をその場の手渡しで、もらってくることが必要なんだと言ってました。
つまり、メールやFAXは、他の下請け業者にも容易に振り分けることができるため、
あい見積もりをとられやすい。
ですから、それをやらせないことをとにかく考える、ということです。
少し待ってでも、その場で持ち帰ることにこだわる。
「後でメールしとくわ」「FAXさせるから」と言われても、「いや、持っていきます」と
とにかくその場で持ち帰ることにこだわっているそうです。
「その場で勝負をつける」
これも同じ経営者さんの一言です。
発注側である購買担当者さんにあい見積もりをとらせない戦術です。
発注条件には、価格や納期などありますが、納期の方が重視 されるときに使われる戦術です。
「今決めてもらえれば、この納期に間に合いそうですけど、どうしますか」
「今日ならこの後すぐ材料発注して、週明けにそれが入ってくるんで、そこから機械2台使って、何とかギリギリの納期ですかね」
などと交渉し、翌日に決断を引き延ばしさせない交渉術です。
ただしこの戦術は、見積もりがその場ででき、しかも決裁権を持っている人しかできないという前提条件があります。
ですから、トップセールスでよく使われる戦術になると思います。
うまくいけば相手の想定している予算額よりも高く値段で受注できるときもあるそうです。
「取りにいくと叩かれるから今は行かない」
この業界では定番の話ですね。
門型マシニングを持つ大物の機械加工を得意とするメーカーの営業さんが言っていた一言です。
タイミングによって、使い分けをするそうです。
例えば、月末近くに目標売上に達していない時には、叩かれるのを覚悟で取りに行く場合がある、などです。
また、お客さんの部署によっても、単価の良い部署とそうでない部署があるので、
やはり月末近く目標売上に達していないときだけ、顔を出す部署や担当者さんがいるということです。
「向こうが自滅するまで待つ」
これは、ある試作板金メーカーの営業さんが言っていた一言です。
顧客である厨房機器メーカーは、その営業さんの会社を含む3社でいつも、
あい見積もりをとっていたのですが、その内の1社がある時、仕事を一気に集めるため、
または他社を駆逐するためか採算度外視の低価格で受注し始めた時があったそうです。
その営業さんは、目標売上に達しなくなるのを恐れ、受注できるスレスレの値段で
見積もりを出していくことも考えたそうですが、その会社の社長はストップの指示を出しました。
しばらくすると、その安く受注していた会社は、納期遅延や、社外不良流出が多発し、発注自体なくなっていきました。
度を外した単価で受注すると、それを実現するため、あり得ない原価で仕事をしないといけなくなるいため、
例えば、本来必要な数だけ金型を用意できず、苦しい板金仕事になってしまうなど、品質に大きく影響します。
結局、そのライバルメーカーの自滅により、正常単価で仕事が戻ってきたそうです。
「あえて社長にならない」
これは、単品部品の加工を主に受注する機械加工メーカーの専務さんの言っていた一言です。
この人は、実質すでに社長業をされていたのですが、価格交渉で攻めたあげくここ一番、
「社長に聞いてきます」というクッションを置くために、あえて「専務」という立場をとっていました。
「競合相手に外注したら納期遅延された(失敗例) 」
これは、試作板金メーカーの営業さんの失敗談です。
そりゃそうだろ、と言いたくなるような話です。
多くの営業担当さんは、受注してきた製品については、
きちんと要求品質どおりの製品として納品できるか、納めるまで気が気でないと思います。
その営業担当さんは、とあるティア2メーカーから受注した板金仕事を
社内は手一杯で対応してもらえず(派閥の問題もあり)、困ったあげくライバルメーカーに外注しました。
この業界は、仕事の得手不得手もありますので、仕事を出しあったりするものです。
ですから本人はさして問題はないだろうと思っておりましたら、やはり案の定、納期をダダ遅れにされました。
「あー、やられたな」という感じです。
そのライバルメーカーとは、いつも仕事を取り合っていたので、受けた仕事の納期をあえて遅らせることで、
外注した営業担当さんの会社は、大きく信用を失うことになりました。
ひどいケンカ状態になり、「どうしてくれるんだ!」と掴みかかってましたが、後の祭りでした。
「安い仕事受けるなら、遊んでいた方がマシ」
これは、ある研磨屋さんの社長の一言です。
安い仕事で現場の負荷が埋まってオーバーフローしていると、
単価の良い仕事の話があったときに受注できなくなるため、
安い仕事は、仮に現場が空いていても受けない時が多いそうです。
「接待するとナメられるだけだから、ウチはやらない」
これは、ある大型の門型マシニングを持つ機械加工メーカーさんが、
自動車部品の仕事から撤退する決意をしたときの一言です。
その会社は、これまで毎年年間、何百万円という接待費を使っていました。
接待という営業は、仕事を確保するには効果はあるかもしれませんが、
価格交渉においては足を引っ張るだけとその会社は考え、一切止める決断をしました。
そして、得意だった大型の金型を高精度に加工する技術を活かし、県外営業拠点もつくり、
広く顧客を開拓して、顧客に対し強い立場での受注を行っていくことで、高い利益を得ることに成功しています。
「ウチは相手がもってない設備で勝負する」
これは、まだ大手企業でも5軸加工機を設備していない頃、
ある機械加工メーカーの経営者さんが言っていた一言です。
この経営者さんの考えは、同業他社の持っていない機械を設備することで、
業界水準より高い価格基準を持つことが重要だと言っていました。
これによって、同業他社の倍くらいのアワーレートで仕事を受注していたと思います。
「この時期は空けとけよ」
この言葉は、ある機械加工業の社長さんの言葉です。
「この時期」とは、年末年始やゴールデンウィークなど長期休暇前後のことです。
こういった長期休暇の直後の納期、例えば、年始であれば1月6日といった休み明け初日が納期の仕事は、
どこも受注したがらないため、仕事を発注する担当者さんなどは、仕事をさばくのが大変です。
そこで、通常の単価よりも割高で受注できる確率が上がるのが、この長期休暇の前後になるというわけです。
これを利用し、そういった時期は、あえてなるべく仕事を断り、空けておくよう指示を出す会社もあります。
「その工数でやれるなら、やってもらおうじゃねぇか」
最後に、これは私自身、実際に発注企業から言われた言葉です。
捨て身の戦術です(そんなにオーバーなことでもありませんが)。
私は以前勤めていた5軸マシニングを主力にしている加工メーカーにて
CAMオペレーター兼務で技術営業もやっていました。
そこで、航空機部品の仕事を、知り合いづてで受注するため、
ある大手企業に訪問営業をしたのですが、その企業では、ある航空機部品を
3軸の門型マシニングで3回段取り、60時間で加工していました。
その部品を私は、5軸の複合加工機を使い、24時間で加工できますと大見得を切りました。
そこで相手企業の部長さんがお怒りになりまして、項目タイトルの言葉をおっしゃられました。
無事何とか受注に至り、結果としては、若干のトラブルはあったものの、
加工工数については無事に24時間以内で加工することができました。
価格についても、「本当にやれるんだったら、60時間分の単価で払うよ」と
言われていたので、なかなかに高い利益率の仕事になりました。
まとめ
以上で今回は、こんなところですが、まだまだいろいろありました。
これらは、私が20年以上この製造業の金型や部品加工の世界で
見て聞いた、価格交渉の場で発せられた実際の生の言葉です。
繰り返しになりますが、
苦労して作った製品、高い技術で作った金型部品などは、高く販売してナンボです。
ですから私は、ものづくり企業の皆様が営業上手になっていただくことを願ってやみません。
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