【改訂版】金型メーカーや部品加工メーカーの現場で新しいことに興味をもてない人の問題と解決策
今回は、多くの金型メーカーや部品加工メーカーの現場で見られる、根深い問題について書いてみたいと思います。それは「新しいことに興味を持てない人」の存在です。
この業界は、まさに日進月歩で、常に新しい技術や知識にアンテナを張っていなければ、あっという間に時代に取り残されてしまいます。それにもかかわらず、なぜ変化を拒み、新しい技術に関心を持てない人が生まれてしまうのでしょうか。
単に「仕事が嫌いだから」「面倒くさがりだから」といった個人の資質の問題で片付けてしまうのは簡単です。しかし、私がコンサルタントとして多くの現場を見てきた経験上、原因はもっと構造的で、根深いところにあると感じています。
今回は、その本当の原因と、停滞した現場を変えるための現実的な解決策について、私の見解から切り込んでみたいと思います。
新しいことを避ける、本当の理由
なぜ、彼らは新しいことに背を向けるのでしょうか。この業界でお仕事をされる方に多い根本原因として、代表的なものとして、主に次の2つが該当すると思っています。
1. 「過去の成功体験」への固執
この業界で長く活躍してきたベテランに多いのが、このパターンです。「俺はこのやり方でずっとやってきた」「今までこれで問題なかったじゃないか」という自負が、新しい手法を受け入れる上での大きな壁となりがちです。
しかし、その成功体験が永久に有効であるかは疑問です。市場環境も、顧客の要求も、加工技術も、10年前とは大きく異なります。かつての成功法則が、今の時代の足かせになっていることに気づかなければ、個人の成長はおろか、会社の成長まで止めてしまいます。
2. 変化に伴う「スイッチングコスト」の壁
もう一つは、より現実的な問題です。やり方を変えることは、想像以上に大きなエネルギーが伴います。これを「スイッチングコスト」と呼びます。
私のコンサル経験でよくあるのが、2次元CAD/CAMから3次元CAD/CAMへ移行する際の現場の抵抗です。長年慣れ親しんだツールを捨て、全く新しい操作を覚えるのは、日々の忙しい業務をこなしながらでは大変な負担になります。皮肉なことに、初めてCAD/CAMに触れる会社が、いきなり3次元から始めた方がスムーズに導入できるケースすらあります。
この「忙しい中で新しいことを覚える大変さ」、つまりスイッチングコストの大きさが、変化への意欲を削ぐ第二の大きな要因だと思います。
その先に待つ「顛末」とは？
では、新しいことに興味を持てない人がいる現場は、最終的にどうなるのでしょうか。
もし社内に新しいことが好きな社員がいれば、その人との間にスキルや評価の差が生まれ、個人間の問題で済みます。
しかし、私がこれまで見てきた中で深刻なのは、これが個人ではなく「会社間の問題」に発展するケースです。
社内全員が変化を嫌い、誰もその状況を問題視しなければ、一見平和な状態が続きます。しかし、その間に競合他社は新しい技術を導入し、生産性を上げることでコストを削減し、品質を高めることでリードタイムの短縮も実現していきます。
気づいた時には技術力で大きく水をあけられるだけでなく、価格競争や短納期対応でも太刀打ちできなくなり、受注を失い、競争力を失うかもしれません。これこそが「時代遅れの現場」が生まれる一番の要因ではないでしょうか。
停滞した現場を動かす、現実的な処方箋
この問題を解決するには、これを「会社の問題」から、いかに「個人の問題」として意識させられるかが鍵となります。しかし、比較対象がいない社内で、個人の意識を変えさせるのは至難の業です。
そこで、私が提案している現実的なファーストステップは、社内に「モデル人材」を一人作ることです。
理想は、変化に対して前向きで、周囲からの信頼もある人物をまず一人選定します。そして、その一人に新しい技術ややり方を学んでもらい、まず社内に最初の実績を作ります。
この「ゼロからイチ」を立ち上げるプロセスが一番苦しいのですが、ここを乗り越えれば、その成功事例が他の社員への何よりの刺激となります。
一人の成功は「あの人ができるなら自分も」という意識につながり、新しいやり方を他の社員へ伝播させていく際の心理的なハードルを下げてくれます。
したがって、「誰を最初のモデル人材に選定するか」、ここが改革の成否を分ける極めて重要なポイントとなります。
まとめ
現場で新しいことに興味が持てないという問題には、職場に一人二人が存在するパターンと、職場全体がそういう文化に染まっているパターンの両方があります。
前者の場合は、比較対象がいるため、評価制度の整備などで解決に向かうことができます。本当に大変なのは、後者の「職場全体が停滞している」ケースです。
もし御社の職場がその後者の状態にありましたら、ぜひ今回ご紹介した「モデル人材の選定と育成」から試してみてはいかがでしょうか。
会社全体を一度に変えようとするのではなく、まず一人の成功事例を作ることが、停滞した現場を動かす第一歩になるかもしれません。
この記事が、御社の現場を変える一助となれば幸いです。
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金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表：村上 英樹（中小企業診断士）
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