高難易度部品のマシニング加工人材育成の課題と対策(型技術2024年1月号掲載)
金型メーカーや部品加工メーカーにおける複雑な形状をした高難易度部品のマシニング加工について、育成がとても難しいという相談をよく受ける。
マシニングセンタで加工する高難易度品とは、CAMデータの作成に多くの時間と労力を要することや、クランプ方法や治具の設計にも多くの時間がかかることが挙げられる。また、5軸マシニングセンタを使用する場合でも、クランプ方法や治具の設計が複雑で、手間とスキルを要する加工品となる。
このような理由から、社内では対応できる人とそうでない人に分かれてしまうことがある。うまく対応できない人を育成するためには、以前こちらのコーナーで書いた設計人材の育成手順と同じにするのが良いというのが今回のテーマである。つまり、工程を逆順にさかのぼる教育方法になる。
今回のテーマである高難易度品のマシニング加工や金型の設計を、いくつかの作業工程に分解し、それぞれを単一の作業で見てみると、後の工程ほど選択肢の幅は狭まり、上流工程ほど応用力は必要としなくなると思われる。
例えば設計の場合では、①構想設計(工程設計)、②構造設計、③部品設計に分かれるが、効率の良い教育を行うためには、①②をベテランが担当し、ベテランが設計し終わった構造設計データを使って、若手が③を担当するというものである。
③ができるようになったら、次は②を、最後は①を担当するというものである。
なぜこういった逆順を辿る教育を推奨しているかというと、ポイントは2つある。
一つは、そもそも①②③の設計には異なる経験と知識が必要なこと、そしてもう一つは、③よりも②、②よりも①の設計は幅広い知識と応用力が必要になるためである。
この逆順をたどる教育のポイントとして、③の部品設計をしているときには、すでに終わっている前工程の②の構造設計の要所を、部品設計をしながら理解し、習得していくという本人の努力が必要になる。
例えば、なぜこの部位にこの材質のプレートを採用したのか、なぜこのプレートの厚さをこう決めたのか、なぜこの締結方法を採用したのかなど、金型構造のそれぞれの部位について、その形状を採用した根拠や理由を考える作業である。
さて、この考え方は、高難易度品のマシニング加工にも適用することができる。
高難易度品の作業工程を分解すると、次の例が挙げられる。
- 工程検討
- 治具(クランプ方法)検討
- CAM荒加工データ作成
- CAM仕上げ(中仕上げ含む)データ作成
- 治具作成
- 機械段取り
- 自動加工のオペレーション
これらの工程を見ると、上流工程ほど、検討すべき項目が多く、応用力が必要になってくることがわかる。
最後の「⑦自動加工のオペレーション」から見ていくと、CAMデータ作成や機械段取りまで終わっていて、後は自動加工を見守りつつ、途中の測定や追い込み加工などをやるだけであれば、図面やCADモデルを渡され、先頭から作業するよりは、はるかにやりやすい作業と言える。
その前の「⑥機械段取り」作業から入るにしても、すでにCAMデータが作成されており、専用の治具なども設計・作成されているとしたら、後は具体的な指示を受けることで作業に入ることは容易だと思う。
その前の「⑤治具作成」から入る場合も同様である。この時点でCAMデータはベテランや先輩に作ってもらっているため、ここからは機械オペレーション作業になる。これについては教育という場面でなくても、CAMオペレーターと機械オペレーターの分業という形で、多くの会社でとられている仕事のやり方でもある。
しかし、マシニング加工における高難易度品の場合は、結構多くの会社で、自分でCAMデータを作り、自分で機械を仕掛けるという方式がとられている。
今回のケースでは、そういった方式の現場での人材育成をイメージしている。
というわけで、高難易度品のCAMデータ作成は、前述したように多くの時間がかかる。また、荒取りと仕上げ加工では、必要なノウハウがかなり異なる。
これは先ほど事例で挙げた金型設計と同様である。一口に設計と言っても、作業工程ごとに要する知識やノウハウが全く異なる。
したがって、高難易度品のマシニング加工のCAMデータ作成については、荒取りと仕上げで、担当者を切り分けることも一つの方法として考えられる。
具体的には、荒取りまではベテランや先輩がやっておき、その後の仕上げのデータは若手に任せる、といった分け方である。
なぜここまでするのか、その理由は、今回のテーマにおける教育のポイントが、「仕事を覚えるための千本ノックはどう打つのが望ましいか」というためである。
器用な部下や後輩に教える場合では、色んな球を打ち分けて良いと思われるが、そうではない人に教える場合にはそうはいかない。いきなり多くのことを一度に覚えてもらおうとすると、なかなか前に進んでいかないことは、皆さんご存知のとおりである。
そのため、ある一つの姿勢で球を取れるようになるまで、繰り返し集中して練習してもらう必要がある。その集中ノックのために、工程を分解する。
さらに実務上、比較的応用力を必要としない難易度の低いところから習得してもらうために、工程を逆にたどるというわけである。
ここで、教えてもらう側は注意することとして、後工程から仕事を覚えていくわけであるが、その工程だけに注力していればいいわけではなく、前の工程の作業を行うために必要な知識を、今担当している後工程の仕事をやりながら覚えていくことになる。
もう一つ、よく加工現場の人材育成の課題でよく聞くのが、出来るようにはなったけれども時間が追い付かない、つまり時間がかかり過ぎてしまういう問題である。
例えば、熟練者は50時間で終わるが、未熟な人は80時間もかかってしまうというケースなどである。
まさにこういうときこそ、作業工程を分解した千本ノックの出番だと思う。どこに時間がかかっているかを見極め、そこに注力することが大切だ。
治具やクランプ方法の検討、荒取りのCAMデータの作成、ボールやラジアスなどのエンドミルの使い分けによる仕上げデータの作成、新しい工具の探索など、時間がかかる要因は色々と考えられる。
しかし、作業工程を分解して見ることで、問題点が明確になると思う。
さて、高難易度品のマシニング加工を行っている御社の教育方法はどのようになっているであろうか。
今回は、少し大げさに細かく切り分け、さかのぼっていくイメージに感じられたかもしれないが、実際にはいずれかの工程で2分し、ここまで担当するのがベテラン、ここから後は若手といった分け方になると思われる。
もし読者企業の現場が、少し育成がうまくいっていないという状況であれば、工程分解した千本ノックと工程を遡った教育順序を、一度試してみてはいかがだろうか。
参考になれば幸いである。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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