タイパ・コスパにこだわり過ぎない(型技術2023年9月号掲載)
今回のテーマは、タイパ・コスパ、いわゆるタイムパフォーマンスやコストパフォーマンスについてである。具体的には、金型メーカーや部品加工メーカーで仕事をするうえで、タイパ・コスパにこだわり過ぎると、どのような弊害を生むかを見てきたいと思う。
まずメリット面から考えていくと、金型メーカーや部品加工メーカーにおいても、働き方改革や仕事と家庭の両立といったような労働者保護の政策が徐々に浸透してきており、ますます仕事にかける時間をスリム化、絞っていくことが従来よりも求められている。そのため、より効率よく仕事をすることや、仕事を効率よく覚えていくことなどが求められている。
したがってメリット面としては、タイムパフォーマンスや、作業にかかる工数をコストと見るならば、そのコストパフォーマンスを意識することで、会社としては安く早くモノを作ることができ、そこで働く社員としては、よりプライベートに回せる時間を捻出していくことができるということになる。
一方、今回のメインテーマであるデメリット面、弊害は何かを見ていくと、ここで取り上げたいことは、次の2つである。
- 失敗経験が減ってしまう
- 持ちつ持たれつが形成されない
失敗経験が減ってしまう
まず一つ目の弊害は、「失敗経験が減ってしまう」ことである。
「経験を積む」ということは、「失敗の数を重ねること」だと言っても過言ではない。
その理由として、例えば マシニングセンターにおけるエンドミル加工の条件などは、工具を折ったり、ワークを飛ばすなどの失敗をして、初めて加工の限界を知ることができる。
ただしミーリングチェックを締め忘れたとか、突き出し長さを間違えたとか、そういったポカミスではなく、送り速度でチャレンジして折れたなど、「攻めた」あげく折れた経験である。
これをタイパ・コスパにこだわり、カタログ条件よりもさらに落とし、安全に安全に、とにかく失敗しないことを最優先に加工していると、いざ急いで完成させなければいけないときなど、ギリギリの条件が出したいときに出せる、引き出しの多いエース社員になることはできない。
つまり、やや底の浅い加工者になってしまうということである。
エンドミル加工に限らず、設計業務や、組み立て・トライなどのハンドワーク作業でも同様だと思われる。
チャレンジをせずに「成功」体験しか持っていないと、それはそれでミスやトラブルのない作業者という評価を得ることはできるかもしれないが、やはりここ一番、瞬発力を発揮したいときにその引き出しが無かったり、新しいことを発案するときの根拠が薄くなる。
特に新しい方法の発案とその採用の判断においては、「失敗」経験ほど頼りになるものはない。許容値がわかるためである。
うまくいった「成功」経験しかないと、「どこまでいける?」の許容判断は、その成功したところまでしかない。この「許容値」こそが会社の「競争力」だとも言える。
つまり「この会社はここまで早くできる」とか「ここまで細い加工ができる」、「ここまで大きなサイズを扱うことができる」など、この「どこまでできる?」は、失敗経験とそれを踏まえた成功体験による「確認」によって確立される(失敗の後の検証も必要)。
したがって例えば、タイパ・コスパにこだわるあまり、上司や先輩に頼り、教えてもらってばかりいると、成功体験しか積むことができず、結局自分の判断での「どこまでいける?」が身につかず、底の浅い技術者になってしまうことが考えられる。
もちろんわざと失敗してくださいということではない。タイパ・コスパにこだわって、チャレンジしない・攻めないということが良くないということである。
ポイントは、「どこまでいけるか?」「どこまでできるか?」を、自分の経験で知るということである。
ちなみに、わざとエンドミルを折ることでもない。例えば加工条件を上げてみて、ビビリ音などにより、直前で条件を戻すというのは賢明な判断だと言える。
あくまで目的は「どこまでいけるか?」を知ることであり、ある意味チキンレースのようなものである。行けるところまで行った人の勝ちだということである。
持ちつ持たれつが形成されない
次は、「持ちつ持たれつが形成されない」である。
これについては前提となる考え方があり、「人に助けてもらおうと思ったら、3倍は手を貸すくらいでちょうどいい。」と考えている。つまり「ある人を3回助けたら、ようやくその人に1回助けてもらえる」と思うくらいでちょうどいいということである。
職場全員がこういう気持ちで仕事ができれば、全員が助け合いの精神を持つ、とても雰囲気が良くバランスの取れた職場になるのではないか。
また個人で考えても、このくらいが適度に人にコミュニケーションをとりつつ、過度に甘え過ぎないバランスになるのではないかと思っている。
さて、こうした理想的なコミュニケーション関係を築くことを目指していく中で、今回のテーマで取り扱っている、タイパ・コスパにこだわって仕事をしていると、人を助ける行動が希薄になってくることが考えられる。
結果自分の周りや会社全体に、「持ちつ持たれつが形成されない」ということになってくる。
こういった問題を考えるときは、短期と長期、2つの目線に分けて考えることが重要である。
タイパ・コスパにこだわって、時間を有効に使って仕事とプライベートを充実させていく発想は短期的なもの。一方、職場に「持ちつ持たれつ」を醸成して、皆が助け合う風土を形成していく発想は長期的な目線によるものである。
したがって、この短期的なものと長期に考えていく業務を一緒にしてはいけないということである。
もちろん短期的な目線で、タイパ・コスパにこだわった方が良い業務もある。例えば、人とあまりかかわらず、しかも技能やスキルの醸成にあまり関係のない間接業務などである。コピーを取る、定型的な入力作業、事務的なメールのやり取り、定型的な発注業務などが考えられる。
こういった仕事は最小限の時間で行えるよう、タイパ・コスパを意識し、業務を効率化させていくべきであろう。IT化は会社としても望むところだと思われる。こういった活動・行動は、処世術的にも会社で評価されるべき対象になるものである。
まとめ
まとめになるが前述したように、タイパ・コスパの意識は一切不要とは思っていない。
むしろこれからの金型メーカーや部品加工メーカーにおける労務面から見た働き方としては、さらにもっと必要になっていくものと思われる。
例えば、IT導入による効率化はその代表例である。
だが一人の社会人として成長していく観点からは、特に今回挙げた2点(失敗経験が減ってしまう・持ちつ持たれつが形成されない)において、中長期的な視点で弊害を生む可能性が高いということである。
したがって今回挙げた2点にあたる場面になった時だけは、少しタイパ・コスパを緩めてみるというのはいかがだろうか。
参考になれば幸いである。
なお本記事はこのホームページに掲載している自己啓発シリーズというコーナーから抜粋した。今回以外にも個人で取り組めるテーマを多数掲載しているのでご覧いただければ幸いである。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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