無料診断サービス編⑪
今月も引き続き、筆者が金型メーカー向けに行っている無料診断サービスの内容について解説する。無料診断サービスは金型メーカーで行われる作業工程の流れに合わせ、下記の項目に分けて行っている。今回は最後の回として、5Sについての診断内容を解説する。
- 設計工程
- CAM工程
- マシニング加工工程
- 機械加工全般
- 組み立て工程
- トライ工程(主にプラスチック金型)
- 原価管理
- 会社全般
- 購買
- 5Sの状況(効率性の観点で)
5Sの診断項目
筆者は、金型メーカーや機械加工メーカーにおける5Sの取り組みについては、①安全面、②品質面、③効率性、④客観性という順で着手することを推奨している。 順に詳しく見ていこう。
① 安全面
まず加工現場などで作業するにあたり、環境としてケガや事故の発生確率をゼロにするよう整備してあることが重要である。
重たい鋼材を持った状態で段差を登る作業や、いつも作業着がひっかかる出っ張り、立てかけた鋼材が倒れてきそうな通路、重たいツールや治具が頭より高いところに保管してあるなど、危険な箇所はないかどうか。
5Sを管理している状態を作るためには、こうした危険な作業場が発生しないよう、定期巡回を行ったり、そういった危険な方法をとらせないよう、部下に適切な教育を行っていく必要がある。
② 品質面
安全面からの5Sが整ったら、次に着手するのは品質面からの5Sである。
高精度なものづくりが要求される機械加工において、治具や工具が切り屑まみれになっているとか、エンドミルが折り重なるように引き出しに入れられ、ガラガラと当たりキズができるような保管方法であったりすると、とても百分台やミクロンの精度を加工する製造現場とは言えない。
「ウチの会社では高精度な加工品ができています」と胸を張って言える、説得力のある加工現場を作り上げ、それを日々維持するための管理の仕組みを作る必要がある。
③ 効率性
ものづくりのために最低限必要な安全面・品質面の5Sが整ったら、次は効率性を考慮した5Sを行う。
指示書や図面、工具などを取りに行くために、ウロウロと工場の中を歩き回っていないだろうか。
一度段取り作業に入ったら、目安として4メートル四方以内の動線で済むくらいに道具を手元化してあることが望ましい。
④ 客観性
安全面・品質面・効率性、これらの面から5Sが整ってきたら最後の段階として、外部の人、特にお客さんから見て「この会社の製品の品質は高いぞ」と思ってもらえるよう、客観性を意識した5S活動を行いたいところである。
「自分たちは分かっているから必要ない」と思っていても、外部の人から見て「この会社の管理はしっかりされているな」と思ってもらえるよう、棚にラベルを掲示したり、工場内の通路や作業エリアの明示、床のライン引きや立ち入り禁止・頭上注意などの注意喚起を行う。
また、未着手・仕掛かり中・加工済み、検査待ち・検査中・検査済みなど、品物の状態を明示し、異品混入・間違いを防ぐ「識別管理」も重要な客観性に配慮した5S活動の一つである。
「ウチの5Sは自信ありますから、ぜひ工場見学に来てください!」と言えるくらい、客観性に配慮した5Sが出来れば本物である。
5S診断の事例
では、ここから実際に5S診断をした事例から、特に安全面と品質面での問題点として指摘した事例を紹介する。
①安全面での問題指摘事例
一つ目は、工場の床に鉄の材料を直置きしている事例である。これにより、二度と消えないコンクリートへの掘り込みキズが発生してしまう。
筆者が過去に行ったコンサルティングでは、床のキズを埋める修復を一緒にしたこともあり、修復したとしても色の違いでどうしてもキズがあった箇所は目立つうえ、直すのに手間もかかる。
やはり、材料の下に木の角材などを敷き、直置きは絶対にやらないことである。

もう一つは、重たい鉄の材料を斜めに立てかけている事例である。これにより、もし足で蹴ってしまったり、ひっかけたりすると、自分の方に倒れてきてケガの原因になる。
置いた本人は、完全に寝かせた状態にすると後で運びにくくなるため、立てかけているが、工場の安全管理面からすると、非常に危険な状態である。
どうしても立てた状態にしたい場合は、本棚にある本立てを使って立てるようなイメージで、絶対に倒れない状態にして保管するのが望ましい。
②品質面での問題指摘事例
下図は品質面から問題ありとして過去に指摘した事例であるが、いずれも金属の硬いものどうしが触れ合っている状態になっていることで、キズがつきやすくなっている。

しかも左上の写真では、フライス加工機のテーブル上に、工具やツールを直置きしており、テーブルにキズがつきやすく、非常に良くない状態である。
また右下の写真では、精度保持が必要なコレットどうしが、キャビネットの中で揺れるたびに、こすれ合う状態になっており、これも非常に良くない保管状態である。
またドリルについても、そのドリルどうしで接触し合う状態で保管されており、当たりキズ・擦れキズが付く状態になっている。
硬いものどうしが直接触れ合うことがない状態で保管することが望ましく、例えば、次のような保管方法がある。
- ミーリングチャックにチャッキングされた工具はツールワゴンに入れて保管する。
- ミーリングチャックにチャッキングされていない状態でのドリルやエンドミル単体の保管については、キャビネットの中でプラスチックの波板の上に並べるなど、工具同士の当たり傷が発生しない保管状態とする。
さらに品質面での5Sの問題事例として、測定具の保管からの事例を見ていきたいと思う。
下図の左は、鋼材の切断機前の状況であるが、問題なのはデプス測定器がウエスやホウキなどにまみれて無造作に放置されている点である。

こうした測定器が作業場に放置されている状況はよく見かけるが、寸法測定具を切り屑で埋まりそうな場所に放置しておくのは絶対に良くない。
正しくはきちんと精度が維持されるよう、柔らかい緩衝材の上に置き、キャビネットの中などに隔離して保管すべきである。
また図の右の写真にあるダイヤルゲージの保管状態も、同様に問題がある。
これが良くないのは、日光が当たる窓際に保管していることである。
特に、ダイヤルゲージは、100分台やミクロン単位を測定する器具であり、器具自体の温度変化にも配慮すべきである。このような保管状態は絶対に禁止した方が良い。
以上、ここまで11回の誌面にわたり、筆者が行っている無料診断サービスの内容について解説してきた。
多くの金型メーカーを診断させていただく中で、素晴らしい長所というべき技術を拝見させていただくことも多いが、今回紹介したような診断項目において、100点を取れるようなメーカーはいまだ見たことがない。
様々な事業のあり方があるので100点はあり得ないと思うが、常に企業を向上させていこうとされる金型メーカーの一助になれば幸いである。
診断項目⑨の購買の項目は、誌面文字数の都合により割愛させていただきました。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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