無料診断サービス編 ⑤
今月も引き続き、筆者が金型メーカー向けに行っている無料診断サービスの内容について解説する。
無料診断サービスは金型メーカーで行われる作業工程の流れに合わせ、下記の項目に分けて行っている。前回からマシニング加工工程における診断内容を解説しており、今回はその続きから見ていく。
- 設計工程
- CAM工程
- マシニング加工工程
- 機械加工全般
- 組み立て工程
- トライ工程(主にプラスチック金型)
- 原価管理
- 会社全般
- 購買
- 5Sの状況(効率性の観点で)
マシニング加工工程の診断内容(続き)
過度なCAM&マシニング依存にならず、適宜ハンドワークも活用されているか
金型で使用される部品の中には、複雑でNCによる制御を用いなければ加工できない形状もあれば、シンプルな汎用機械によるケガキなどで対応できる形状のものもある。
無料診断においては、現場加工者の熟練度に合わせ、汎用機械とNC機の使い分けをすることで、過度にCAM作業や機械加工における段取り工数を増やさず、最適な工数で加工が行われているかを確認している。
ドリルの加工条件は適切に上げられているか。切り屑は長くつながっていないか
加工現場を診断すると、CAMに登録されている加工条件を長い期間変更していない、また初期登録のまま変更したことがないといった状況をよく見かける。
また「マシニングセンターにセットしているドリルは変更していませんか?」と質問すると、従来からの黒ドリルだけではなく、コーティングハイスドリルや超硬ドリルなど、新しい工具が使われていたりする。
そうなると当然、CAMに登録している加工条件を使い分けなければいけないが、同じ工具径であれば加工条件を使い分けるのは面倒な面もある。
こうした背景から、際立って加工条件が遅いわけでなければCAMの初期登録のまま変更せずそのまま使っているという現場も多い。
また、ドリルの加工条件からして適切でないことに気付いていない現場も多い。
社内のOJTで、ベテランの先輩からドリルの手研ぎから教えてもらったとき、2本の切りくずが同じ長さで出てきて、きれいにつながり均等に出ている状態が正しいと教えてもらった方が多い。「これがうまく研げた証拠だ」と言った具合である。
しかし、これは送り条件が遅いために切りくず厚さが薄くなり、長くつながった切りくずになっている。特にマシニング加工においては、こうした切りくずはドリルに絡まりトラブルが起こりやすくなる。
逆に、適切に上げた送り速度で加工された切りくずは、切りくずが厚くなり、カールしたときに折れやすくなっている。そのため長くつながらずに、プチプチとすぐに切れるが、この状態の方が排出性は良くなる。
良い切りくずは長くつながるものだとして本来とは違う使い方をしていては、むしろドリル寿命を縮めることもある。
そうした点で、固定されたままのCAMの加工条件は、効率性の点でも問題があるし、加工品質の面においても問題を抱えていることになる。
無料診断においては、マシニングセンターにおける加工条件なども具体的に聴き取り、加工方法に問題がないかを確認している。
作業チェックシートは整備されているか、不具合対策は適切か
マシニングセンターの段取り作業においては、次のように多くの手順がある。
- ワークの基準だし(XY基準)
- 芯出しバー(アキューセンター)の半径補正
- ミーリングチャックの工具締め忘れ確認
- 工具長補正の入力・確認
- 工具径補正の入力・確認
- 工具そのものの直径・種類の確認
- NCプログラムは間違っていないか、内容に問題はないか
- クーラントの有無や種類
- ワークのZ基準だし
- チップ工具の、摩耗・コーティング種・ノーズR・締め付けネジのまし締め確認
- ソリッド工具の種類と摩耗 など
このように一つの段取り作業のように見えても、その要素作業にはこれだけ多くの手順があり、このうちどれか一つが抜けても、ワークにぶつける・工具が破損する・機械をぶつけるなどの重大なトラブル要因になる。
これを毎日の忙しい仕事の中で、漏れ・抜けなく完璧に作業するのはベテランでも難しいと思っている。
また、マシニング加工の人的ミスを挙げてみると次のようなものがある。
- 口頭の申し伝えの悪さによる受け手の勘違い
- FAXで来た図面寸法のつぶれた数字を間違えて読んだ
- 工具径補正を入れ忘れた
- 加工するワークを取り違えた など
これらの問題に対策していくため、やはりまずはチェックシートが必要だと考えている。これにより体調が悪かろうが、声を掛けられて手がいったん止まろうが、やるべき手順の目安ができる。
自分以外の別の人と共に確認するクロスチェックも有効である。携帯ショップや銀行窓口などでも見かける確認方法で、絶対にミスができない作業現場では、徹底したクロスチェックをルール化しているメーカーもある。
無料診断においては、これらのチェックシートや必要に応じたクロスチェックを行っているかを確認している。
また、マシニング加工やワイヤーカット放電加工などにおける加工直前の最終確認として、適切な「関所」を設けているかも確認している。
ミスによる加工不良が出た際の対策としては、例えば加工指示書に注意を促す追記をするとか、工具長補正の忘れに気をつけるよう工具一覧表にチェック欄を設けたなど、様々な処置が行われる。
それらを聞いた後に筆者が質問するのは「それで加工スタート直前の関所としてはどんな確認をしていますか?」である。
マシニングやワイヤーカット加工など、加工プログラムを用いる機械加工において、最重要だと考えていることが、下図のアウトプットの直前(加工開始直前)に示す「関所」とも言える最終確認である。

上図は、マシニング加工における「人」に関する作業の流れを表している。インプットは材料や加工プログラム、プロセスは段取り作業、アウトプットは機械加工とその加工品を表している。
前述した不具合対策として行う、段取り中のチェック行動や2重確認などは、図で言うところの「プロセス」の中で行う処置になる。
これはこれで重要な処置であるが、手厚くすれば手厚くするほど作業工数はますます増えていく。
筆者が考えている「仕事の上手い人」とは、確実にミスを発見できる関所を1重、もしくは2重に仕掛けておき、「プロセス」の中でかける手間は最小限にし、効率的に行うことで、仕事を確実かつ迅速に行える人だと考えている。
言い換えると初心者や未熟なオペレーターは、多重な確認作業を手厚く設けた「プロセス」が必要で、1年から2年、3年から5年と経験を重ねるごとに、徐々に「プロセス」を省いていき、段取り工数を徐々に減らしていくのが望ましいと考えている。
ただしここが重要で、初心者もベテランも「関所」となる最終確認方法は同じとし、標準化する。
残念ながら「御社では関所はどのように行っていますか?」と質問すると、ほとんどの金型メーカーで「そもそも関所は無いです」という返事が帰ってくる。
「ササッと段取りをしても、加工スタート前の最終確認でほとんどのミスは発見できます」という手順は確立されているであろうか。
無料診断においては、こういった関所を適切に設けることができているかを確認している。
今回はここまで。次回も引き続きマシニング加工の診断項目を紹介していく。
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金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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