ミドルマネジメント層へ向けた人材育成セミナー内容のご紹介⑤(型技術2021年9月号掲載)
2021年3月号から昨年12/1に筆者が講師として福岡県金型研究会で話した、部長や課長などのミドルマネジメント層向けセミナーの内容を紹介している。
今回も引き続き、どのような取り組みによって労働分配率を改善していくのか、その具体策について解説する。
一型あたりの製造原価へのこだわりが金型メーカーの足を引っ張る?
一型あたりの製造原価にこだわり過ぎるため、設備の使い方に悪影響が出てしまうことがある。これについて事例を使って解説する。
例えばシンプルに下図のように、社内に2台のマシニングがあったとする。

マシニングAは、すでに旧型で高精度な加工ができず機械償却も終わっている。使用用途は主に穴あけやポケット加工で、月間の機械稼働率は30%を割っている。一方、マシニングBは、近年導入した機械で、熱変位対応やスケールフィードバック機能も完備され、ミクロン単位での仕上げ加工が可能であるとする。
ここで生産管理上よく起こる問題が、マシニングBに負荷が集中してしまい、完全なボトルネックになってしまうことである。
そこで生産管理の担当者としては、稼働状況に余裕があるマシニングAの方で、せめて荒取り加工だけでも行って、負荷を分散できないかと考えるが、ここで足かせになってしまう考え方がある。
足を引っ張る「一型あたりの製造原価」
実際の現場でのオペレーションでは、これまでマシニングBだけで済んでいた段取り工数が、今度は新たにマシニングAでも行うことになり、単純計算で倍に増えるように思える。一般的には多くて1時間前後だろうか。
またCAMオペレーターとしても、荒取りと仕上げでそれぞれデータを分けて出力しなければいけないため、多少CAM工数も増えそうである。
そこで出てくる考え方が、この荒取りと仕上げを分けた金型は、製造原価つまり金型原価が増えてしまうということである。そのため、この機械を分けるという発想は採用しない方が良いのではないかという議論が社内で沸き起こる。
これを聞いた経営者はどう応えるであろうか。おそらくこう言うと思われる。
「空いてる機械があるならそっちも使ってくれ」
では、なぜこの言葉が出るのだろうか。
コストって言うけど何が増えるの?
なぜ経営者はこうした言葉が出るのか。それは「コスト」ではなく「利益」で仕事のやり方を考えているためである。
荒取りをかけるマシニングAで発生する段取り工数の追加で、新たに受注できる金型の面数が増えるのであれば、その方が儲かるからである。もう一度、マシニング2台の状況を見てみる。
下図は、マシニングAにいくつかの金型部品の荒取りを振り分けたことで、仕上げメインのマシニングBの稼働率が下がった状況である。

これは何を意味するのであろうか。新しく別の金型を受注できる余力ができたということであり、儲けることに敏感な経営者はこれを瞬時に発想する。
ここでもう一つ重要なことを見ていく。下記に示したものは決算書に出てくる製造業で発生する一般的な経費である。
材料費、労務費、外注加工費、修繕費、水道光熱費、倉庫保管料、支払運賃、旅費交通費、消耗品費、通信費、減価償却費、賃借料、事務用品費、新聞図書費、諸会費、車両費、リース料、保険料、地代家賃、雑費
決算書上の製造経費は変わらない
先ほどの荒取り加工をマシニングAに振り分けたことで、追加で発生するとされた製造原価であるが、前述した製造経費のうち一体何が増えるであろうか。
水道光熱費に含まれる電気代とか、消耗品費に含まれる工具代は増えるような気もしないでもないが、加工する機械が変わるだけであるため、追加で新たに発生するということではない。
そう、実は決算書上の製造経費は変わることはないのである。
もちろん先ほど挙げた経費の中で、材料費や消耗品費などは、あい見積もりや集中購買など企業努力でコスト削減することが可能である。ところが作業にかかわる工数の削減については別物である。
いくら改善やスキルアップなどにより、これまでかかっていた工数より短縮しても、労務費の総額は変わらないし、機械のリース料を安くしてもらえるわけでもない。
ではどうすればコスト面でメリットをもたらすことができるのか。
工数削減でコストメリットを出す方法
一般的には、次の3つの対応のいずれかを行う。
- 1人分や一定の人数分に相当する工数を削減できたら、その相当の人数の削減を行い、労務費を削減する。
- 工数削減により、新たに金型や部品加工を受注できる余力を作り、仕事を受注し、売上と利益を増やす。
- オーバーフローで外注に出している仕事を内製に取り込む。
冒頭に挙げた今回の事例、マシニングAで荒取り加工を行い、マシニングBの余剰時間を作る発想は②の対応になる。
ポイントは社内工程において、新たな受注・内製化を阻む「ボトルネック」は何かを見抜くことである。今回は仕上げ加工を行っているマシニングBであった。
また他の事例では、CAM工程がボトルネックという会社もあった。マシニングセンターの加工をガンガン仕掛けていきたいのに、CAM作業が追い付いていないという状況である。
こちらも今回の事例と同様で、例えば精度の必要のない穴加工であれば、さっと簡単な加工図面だけハンドワーク部門に渡し、仮にCAMを活用するよりも総工数は増えたとしても、CAM工程の手離れを良くすることが正解となる。
多少の工数の増加よりも、CAM工程の余力ができることで新たな仕事の受注ができ、会社や部門の利益が増えるというメリットが得られる。
繰り返しになるが、このCAM作業のハンドワーク化という対策を行ったとしても、決算書上の経費は何も増えない。元々いるハンドワーク作業者の余剰時間を活用しただけであり、そのためだけに新たに人を採用したわけではない。
この方策をどう社内で展開するか
「この方策をどう社内で展開するか」であるが、やはり「多能工化」ということになる。作業は遅くても構わない。
新たな仕事の受注や外注仕事の内製取り込みを阻むボトルネック仕事を、別の作業者や機械に振り分けることで、決算書上の製造経費が増えなければ、会社の利益を増やすことにつながる。
もちろん1時間で終わるような仕事を、ダラダラとやることが無いからと言って半日もかけてやる、こういうことではないことに留意したい。
最後に一つお伝えしたいのが、私が多くの会社を見ていると、どうしても発生しているのが「やらなきゃいけない仕事は山ほどあるが、やれる人がいない」という状況である。
そこに該当する人は「やるべき仕事は山ほどあるが(今すぐやらないといけない仕事は沢山あるが)、その人にやれることが無い」ということになる。
こういった人や機械が増えると、決算書上の製造経費に出てこない余剰の未稼働時間が発生してしまう。これに対策していくことも「多能工化」の目的の一つである。
今回はここまで。次回も引き続き、労働分配率における分母側の付加価値を増やしていく取り組みの具体策について解説する。
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金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
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