金型メーカーにおける設計者教育のポイント―工程の逆をたどる(型技術2023年3月号掲載)
筆者が金型メーカーのコンサルティングを行う際、設計者の教育がテーマになると、まずセオリーとして「設計工程の逆順を辿って教育を行ってください」と伝える。

これは金型メーカー「あるある」だが、今現在、金型メーカーで設計をされている多くの方に、会社が立てた教育計画に沿って育成されたという方は実は結構少なく、CAD操作の習得ののち、本番でのお仕事をこなすうちに「自力で設計ができるようになっていた」というケースの方を筆者は多く見かけている。これを読んでいただいている方も、自社で思い当たることがあるのではないか。
こうしたやり方は、会社の設計部門を支える強力な設計者が育つ反面、「しばらくやらせてみたが、やっぱり設計には向かなかった」という人を生んでしまうリスクも抱えている。
だが会社が人選した候補者を、確実にリタイヤさせることなく、きちんと計画どおり育成しなければならない場合においては、どのような教育方針が望ましいのか、それが今回のテーマである。
設計工程を逆順に辿る教育とは
この「設計工程を逆順に辿る教育」とは、設計工程を次のように細分化させることが前提になっている。
- 構想設計
- 構造設計
- 部品設計
まず①の構想設計は、製品の成形に着目した設計で、プレス金型においては工程設計とも言われ、何工程で成形するか、各工程でどのようなプレス加工を行うかなど、まず構想を練る設計を言う。
同様に射出成形やダイカスト金型においても、どのような製品方向で成形するか、PL面をどこで割るか、ゲートをどこに何カ所設置するかなど、金型構造の前に成形に関連した構想を練る段階の作業を言う。
この工程で意識することは、主に製品の成形品質・生産時のコスト(歩留まりなど)・成形時の安定性などになる。
そして次の、②構造設計は、文字通り金型構造に関する設計になる。指定された成形機の仕様に合うように設計を行い、量産数量に耐えうる構造や鋼材、部品を選定し、必要な機能を満たす金型構造を設計する。
この工程で意識することは、十分な強度を持つ構造にすること・必要な精度を確保できる構造にすること・必要以上にコストをかけない構造にすることなどになる。
最後は、③の部品設計である。3次元設計であれば、構造部の設計と同時にある程度、部品の設計も終わることになるが、2次元設計であれば、組図の設計の後、個別の部品ごとの三面図及び、そこに寸法や注釈を入れていく作業になる。
この工程で意識することは、加工性、リードタイム、コストなどである。
さてここからが本題になるが、「設計工程を逆順に辿る教育」ということなので、まさに③の部品設計から、設計を覚えていくということになる。
その理由は消去法的な発想になるが、①の構想設計から始めたとして、プレス金型を例にとった場合、製品を成形していく順番、例えばまずブランク抜きを行い、次に予備曲げ・成形曲げ・トリム抜き・分断工程などの順番で構想し、それぞれの工程の製品状態をモデリングするまでの設計が仮に出来るようになったとして、次はそれぞれの工程の金型構造を設計していくわけだが、ここで全くノウハウが異なる機械加工の精度や現場の効率性に配慮して設計していかなくてはならない。
特に①の構想設計と、②③の構造設計・部品設計は、必要となる知識が全く異なること、そして②の構造設計と③の部品設計においても、③の部品設計に必要となる機械加工に関わる知識がないと、そもそも金型構造部の設計は出来ないということになる。

したがって消去法的な順番として、①の構想設計を行うにしても、②の構造部の設計を行うにしても、まず③の部品設計に必要となる機械加工に関する知識がなければ、途中で行き詰ってしまう。
さらに言えば、機械加工の後に行う組み立てやトライ作業にも配慮した部品の設計が必要になる。例えば、組み立て時にほとんどの部品が金型の表側から締結でき、組み立て・分解がしやすいとか、トライ時に調整が予想される箇所が入れ子構造になっていて効率的に調整作業が出来るなどである。
したがって、まずは③の部品設計から習得していくことが望ましいということになる。
実際にプレスメーカーで取り組んだ事例
実際にあるプレスメーカーにて、③の部品設計の勉強からはじめてもらった。
まずは同社で使用しているCADの操作を習得することから始まった。次に過去に自社で設計した金型を使い、少しイレギュラー的な要素を無くし、社内の一般的な金型構造に修正してもらい、その組図を今後も使用していく練習課題として使用し、過去に設計した図面に倣い部品設計を練習してもらった。
すると、ほどなくして受講者から意見があがってきた。
例えば部品に存在する穴形状についての場合、ドリルで加工するのか・ワイヤーカットで加工するのか、そもそもドリルであればマシニングセンターで加工するのか・ラジアルボール盤で加工するのか。またマシニングセンターやワイヤーカットなど複数の機械加工がある場合、どのような順番で加工するのか・どこを基準面にするのか・どこをクランプするのか、さらに組図を見て、各部品がどのように組み合わさっているのか構造が理解しきれないといったものだった。
これを聞いて筆者は、まさにこれが聞きたかったと思った。
3段階目の部品設計だけでさえ、このような初歩的な疑問が噴出し、設計の手が止まってしまう。
したがって、本番の製品図面をいきなり渡し、仮に簡単なものからとはいえ、「実戦で覚えろ」とばかりに、①の構想設計からいきなりやらせてしまう荒療治の教育方針は非常に厳しいと言わざるを得ないことが、この事例でよくわかる。
モノを覚えるにあたり最も必要となるのは「反復効果」であるが、③の部品設計、次に②の構造設計、最後に①の構想設計といったように3段階に分け、それぞれの工程で必要となる知識を、じっくり反復して覚えていくことが、「やらせてみたけどモノにならなかった」を避け、確実に設計者を育成する、最も近道であると考えている。
これまで筆者が支援した企業では、この逆順を辿る教育について、「やってみるとたしかにそのとおりだった」と言ってもらえている。
まとめ
だがお気づきのとおり、この逆順を辿る教育は、設計作業を分業することが前提となっている。
設計の分業については、やっている会社とやっていない会社、やりたいけどやれていない会社など、様々なスタンスがあるが、設計者が複数いる場合、全員が上級レベルでないのであれば、分業することで手離れ良くまわしていくことを推奨している。
このやり方のコンセプトは、料理の世界に例えると、「キャベツの千切りまでベテラン料理人がやるのか?」であって、金型の種類にもよるが、最もノウハウが難しいと言われる①の構想設計は最もスキルのあるベテランに注力してもらい、②の構造設計については別の若手や中堅の設計者、③の部品設計については設計アシスタント的な人にお願いするやり方をとっている会社もある。
なお、①の構想設計と②③の設計段階との分業については、2次元設計であっても、3次元設計であっても可能であるため、オススメである。
設計工程は、金型製作のスタートとなるため、そのキャパシティがイコール、自社の金型製造(受注)キャパシティとなっている会社も少なくない。
したがって、いかに確実な設計者教育を行うか、そして分業していかに手離れ良く設計作業を捌いていくか、この視点において「分業作業を兼ねた設計工程の逆順を辿る教育」は、それらを実現する方法だと言える。参考になれば幸いである。
金型・部品加工業専門コンサルティングからのご案内
ホームページの技術コラム本の第10巻が発売されました!

設計部署や製造現場、管理部署にぜひ一冊。
経営者や部長などマネージャー職の方々から、悩める現場リーダーへのプレゼントにも最適です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【動画セミナーDL販売】現場リーダーのための「稼ぐ力」養成講座
大手セミナー会社向けに制作したコンテンツを、安価に一般販売いたします。
金型・機械加工など単品・小ロット品加工の「現場リーダー」向けの動画セミナーです。

- 教材構成:約300ページ分のスライド資料をもとに制作された解説動画
- 学習時間:動画+演習で約6時間(367分)
- 目的:現場リーダーが 数字に強くなり、成果を見える化できる力を養うこと
- 特徴:目標管理・不具合対策を中心に実務直結のスキルを習得
- 形式:動画(mp4)+PDF資料
- 割引:通常価格50,000円 → セット購入で50%OFF:25,000円(税込)
【改善・管理の上級編】セミナー動画が発売中です【お得なDL版あります】

過去に大手セミナー会場で、代表コンサルタントが講師として登壇した内容をZOOMで再収録しました。
内容は、加工や管理における上級コースとなります(基礎知識はすでに持っておられる方向けになります)
動画セミナーですので、いつでも何人でも受講でき、長時間一気に受講する必要もありません。隙間時間を有効に使って受講できます。
お買い求めしやすいダウンロード版もございます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
【書籍販売中です】経営が厳しい金型メーカーのための本
このホームページに掲載している多くの技術・管理コラムから、経営が厳しい金型メーカーのために、大きな投資に頼らず、意識面や仕事の取り組み方などから改善改革していける方策に関するコラムを集めた本をつくりました。
こちらの書籍を販売しております。内容は、366ページの大ボリュームとなっております。

ぜひ社員の皆さまで読んでいただければと思います。また、金型メーカーを支援される金融機関や公的機関、会計事務所やコンサル会社でお勤めの方々にも、読んでいただければ幸いです。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
YouTubeを使った上級セミナーを配信中です

金型メーカー・部品加工メーカーにおける、個別テーマの上級セミナーを配信しております。
YouTubeによる動画配信ですので、ネット環境があればいつでもどこでも視聴できます。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための管理職育成マニュアル」発売中です

当サイトの管理職育成ルームに掲載しているコラムを集めて編集したものになります。
金型メーカーや機械加工メーカーで、新たに管理職になられる方や、すでに管理職としてお仕事をされている方向けに、ストーリー形式で、心構えから具体的に取り組む業務内容まで、幅広くまとめております。
くわしくは、こちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・部品加工メーカーにおける処世術」が発売中です
こちらの書籍は、金型メーカーや部品加工メーカーにおいて、国内全体で賃上げの機運が高まる中、勤める会社に貢献しながらも、ご自身の付加価値・市場価値を高めていこうとされる方々の一助になるような内容をお届けすることを目的としています。

「処世術」をテーマにした一般書籍はたくさんありますが、主にホワイトカラー向けのものが多く、金型メーカーや部品加工メーカーのお仕事ですぐに使えるものが少ないと思っています。
一方この本では、金型メーカーや部品加工メーカーの現場「あるある」を題材にしており、そこでお仕事をされる方々に身近なわかりやすい内容にしております。
簡単なワークも掲載していますので、社内研修にもお使いいただけます。
詳しくはこちらのページからどうぞ。
「金型メーカー・機械加工業のための自己診断ハンドブック」が発売されました!

私がコンサルティングの初回訪問時や、無料診断サービスにおいて、訪問先企業の製造現場で確認する項目を解析付きで紹介しています。
金型メーカーや部品加工メーカーに皆さまに、自社をセルフチェック(自己診断)するために使っていただければと思っております。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
2パターンの技術セミナーレジュメを販売いたします

日刊工業新聞社さん主催で行われた、機械加工メーカー向け、金型メーカー向け、それぞれの技術セミナーで配布されたレジュメを販売いたします。どうしても遠方で参加できないといった方や会社さまより、レジュメだけでも使いたいとリクエストがあったためです。
当事務所のホームページに掲載されているコラムの内容がベースとなっておりますが、それとの違いとしては、具体的計算と事例ワークなどを盛り込み、ホームページよりも手厚く解説しております。
本来レジュメと言いますと、図やイラストがほとんどで、言葉による文章が入っていないイメージがありますが、本レジュメはそうではなく、復習がしやすいよう、多くが文章で構成されており、1人で読み進めることができます。
くわしくはこちらのページからどうぞ
ミドルマネジメント層向け人材育成セミナーのレジュメを販売いたします

ミドルマネジメントの人材育成のテーマで、講演をさせていただいた際に作成したレジュメ(当日映写したパワーポイントファイルと同じものです)を販売いたします。
日程や生産管理、品質管理だけが幹部・管理職の仕事ではありません。儲けるためのマネジメントが必要です。
そういった視点や意識を持ってもらうためのきっかけとしてオススメの一冊です。
くわしくはこちらのページからどうぞ。
4コマ漫画ギャラリーを開設しました
コラムページにプロローグとして添付している4コマ漫画を集めたページを開設しました。

こちらをクリックすると入れます

コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054