金型・部品加工業専門コンサルティング

金型・部品加工業専門コンサルティング(加工コンサル)は、金型メーカーや、マシニングなどの機械加工業を専門とする経営コンサルタント事務所です。

TEL.0566-21-2054

事務所所在地: 愛知県刈谷市

プラスチック

株式会社エスケイモールドのコンサルティング事例(2017年10月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、株式会社エスケイモールド(愛知県豊橋市 TEL0532-35-2007)である。同社は、PPやナイロン系の樹脂材料を成形素材とするモールド金型を製造するメーカーである。

 

筆者が同社をサポートすることになったきっかけは、金融機関から専門家派遣制度を活用した支援依頼があったためである。

 

同社の強み

支援内容としては、同社が自社を紹介するホームページを製作するにあたり、そのコンテンツとなるPRの内容について、自社だけでは相対的な特徴を洗い出すことが難しく、そのサポートをお願いしたいとのことであった。

 

金融機関の支援担当者と共に訪問し、代表取締役である鈴木 秀男氏からヒアリングを行ったところ、筆者は同社の事業について、次のような特徴を挙げた。

図1 構造設計・3Dモデリングを行っている様子

図2 同社の機械加工現場の様子

 

  1. 構造部・意匠面のモデリング、全てを社内設計できる体制が整っている。
  2. 新規の金型製作から納入後の修理・メンテナンスまで、全て一括で対応している。
  3. ワイヤー放電・型彫り放電、マシニング加工など、機械加工を全て内製化している。

 

これらの特徴から見出すことのできる同社の強みは、①短納期対応と②小回りの良さであろう。

 

これらを、同社の強みとして挙げたのは、モールド金型メーカーを筆者が経営診断させていただく際、本来モールド金型メーカーがコア技術とするべき業務を、ここ最近アウトソースしている傾向にあると感じたためである。

 

例えば、次のような傾向である。

  • 金型構造設計及び、キャビとコアの製品意匠面モデリング(パーティング面・勾配面のモデリングなど)を外注で対応し、CAMデータの作成から機械加工を社内で行う。
  • 機械加工の終わったキャビとコアの磨き作業を外注に依頼する。
  • 金型の組み付けは社内で行うが、トライ作業は客先にお任せする。

 

これらの傾向については、やはり年々短納期化する金型納期と、引き下げられる金型費への対応のためであると考えられる。

 

また、若手技術者の強みを活かせる分野として、CAMや機械加工といったマニュアル化・標準化しやすい作業を、今後もより内製化していく傾向になるものと思われる。

 

しかしながら、筆者のような中小企業診断士やいわゆる経営コンサルタント等は、SWOT分析などから、「強みを市場機会にぶつけ競争力の高い事業を行う」などと提案することが多いが、前述したように本来コア技術となるべき業務をアウトソースする金型メーカーについては、筆者も「強み」を洗い出すことに思わず悩んでしまうことも多い。

 

しかしながら、筆者が拠点とするここ中部地方では、まだまだ仕事量は飽和しており、どの金型メーカーも忙しく、受注についてはキャパオーバーとなっている。

 

そうしたなか、海外生産に主力を移しつつある金型メーカーも多くなってきており、今後の国内の技術・コストの競争力については、楽観視できないところもあると思われる。

 

同社の競争戦略

こうした業界事情の中、同社は同業他社との差別性を意識した戦略をとっている。

 

いかなる事業においても、企業が競争力を維持してために最も重要なこととして、「参入障壁」をいかに高くできるかだと考えている。

 

全くライバルが存在しない新しい事業というものは、このご時世なかなか無い。仮に、全く新たなプロダクト(商品)を開発できたとしても、インターネットなどによって情報が一瞬で行き渡るこの時代では、すぐに模倣品が現れ、コモディティ化してしまう。

 

ところが、金型製造という事業は、職人技術を要するために、各社これまで一定の事業領域を保ってビジネスを行ってくることが出来た。

 

それが皮肉にも、CAD/CAMや工作機械の進化により、一部の職人技術が機械システムに置き換わることで、限られた人にしか扱えない技術から、ソフトや機械を操作することで、誰にでも扱える技術に裾野が広がってきたという背景がある。

 

例えば、昨今の鏡面磨き加工がある。筆者も以前、高度ポリテクセンターにて鏡面磨きの研修を受講したことがあるが、受講生10名強の中で、最終課題である#8000の磨きの完了まで到達できた者はわずか4名ほどであった。

 

このように金型の鏡面磨きは、必要な体の動作を、一定のトレーニングにより時間をかけ段階的に習得していくものであり、やり方・方法を知識的に知ったところで、とたんに作業できるというものではない。

 

ところが、これを工作機械の加工で置き換えるとした場合、もちろんソフトや機械の操作、工具の特性・使い方など、覚えなくてはならないことは多岐に渡るが、人間がトレーニングをするといったものとは異なる技術の扱いになる。

 

一概には、どちらが覚えやすいか、覚えにくいかを明確に分けることは難しいが、前述した「参入障壁」という視点でみれば、習得に時間の掛かり、個人差が生まれやすいものほど、障壁は高いと言える。

 

また経営学で使われる用語に「経路依存性」というものがあり、これは過去に多くのさまざまな経験によって積み重ねられた技術や経験値は、他社から見ると複雑で、簡単には真似ができないといった強みを指す。これを模倣困難性と言う。

 

つまり金型業界で言えば、現時点の技術ではまだ機械に置き換えることができない人の技能や、多くの失敗・経験によって構築された金型ノウハウについては、同業他社に追従される可能性を低くできるということになる。

 

同社が内製化にこだわる、金型設計、金型の溶接補修などは、そうした経路依存性の高い技術だと言える。

 

また、他社が製作した金型についても、補修・メンテナンスを依頼されることが多く、こうした積み重ねが同社の設計において、さらなるノウハウの積み重ねとすることができる。

 

これにより、壊れない・トラブルを起こさない金型製作をより強化していくことができ、これが同社の模倣困難性をさらに高めていく。

 

今回、筆者は同社のホームページ製作をサポートするにあたり、金型を専門とするコンサルタントの目線から、中長期的な視点でこのような同社の競争力を見出すことができた。

 

同社の今後の取り組み

同社は、これまである程度決まった取引先から受注を請けてきたが、今後は事業の拡大と安定化のため、金融機関と協力した販路開拓にも取り組んでいく。

 

現在、中小企業に関わる支援策は、金融機関や公的機関を窓口に、多岐に渡って展開されているため、信用金庫など身近な金融機関などに適宜、課題を相談しながら、うまく活用することが経営の効率化にもつながる。

 

同社は事業拡大に伴い、設計対応力の強化を図るため、新たな技術者の採用に合わせてCADの拡充を検討しており、その際にはSolidWorksなどを活用した設計のオール3次元化も視野に入れている。

 

同社の強みである、長期間に渡り使用できる丈夫な金型を製作する設計ノウハウを、若手技術者に継承していくための仕組みづくりも今後必要になってくる。

 

人の持つ技術を最大限に活かした自社の競争力を高め、さらなる事業拡大を目指す同社に筆者は大きな期待をしている。

 

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング

代表:村上 英樹(中小企業診断士)

愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

 

株式会社 プロイストのコンサルティング事例(2016年7月号掲載)

 

本号で取り上げる金型メーカーは、株式会社プロイスト(愛知県安城市  TEL  0566-91-6752)である。同社の事業はさまざまな面で、珍しい点が多い。

まず同社が製造する金型は、樹脂の成形金型であるが、熱可塑性樹脂ではなく、熱硬化性樹脂を成形する金型である。その生産量の割合は、熱可塑性樹脂が 9 割を占めるとも言われ、熱硬化性樹脂の成形金型を扱うメーカーの数はそう多くはないと考えられる。そうした点で、同社の事業はニッチな分野と言える。

 

また同社は、この 7 月で創業から 7 期目を迎えるという比較的若い会社である。よくニュース等で言われることであるが、ここ最近、製造業での創業は極めて少ない。

そこにはさまざまな理由が考えられる。まず、製造業は大きな初期投資を伴うことが多く、そのため事業リスクが大きい。特に金型事業は、機械加工用の工作機械、設計業務で使用するソフトウェアなど、金額負担の大きな投資を伴う。設備投資は、創業時から大きな固定費としてのしかかり、損益分岐点における黒字化までのハードルを高くさせてしまう。競争力・事業キャパと、投資額とのバランス判断がとても難しい。

 

また、金型業界においては分業化が進み、設計から加工、組立・トライまで全てこなすような技術者が減ったことも、創業社長がなかなか生まれない要因と考えている。さらに、新たな商流を作る点においても、ほとんどの分野ですでに固定されており、新規参入は難しい。

 

20 年、30 年、さらにもっと以前の中小企業の創業は、人脈を通じた特定顧客からの生産移管や技術指導などがあり、顧客との深い関係強化によって、着実な企業発展を行うこともできた。しかし最近は、そういった繋がりは希薄化し、価格や納期の競争など、ドライな取引関係が多くなってきている。それだけ国内だけに留まらず、海外を含めた競争が厳しい環境になっている。

 

そうした環境もあり、特に製造業での創業は、従来よりも格段に難しくなっている。しかもリーマンショックの直後、2010 年、業界全体が非常に不安定な中、当時 35 歳であった大島社長は、マシニングや 3D スキャナ導入など大きな設備投資も行いながら、同社を立ち上げている。しかも、ここまで順調な売上成長を遂げている同社の存在は、全国で見てもとても希少な存在であろう。

 

同社の強み(職人技術・完全 3D 設計)

創業から順調な成長を遂げている同社の一番の要因は、工作機械やソフトウェアの性能ではなく、高い職人技術であろう。大島社長をはじめ同社の技術者は、熱硬化性樹脂の成形において、金型製作だけでなく、成形のノウハウから包括的に持っており、樹脂製品メーカーからは、製品設計の段階から相談を受け、そのまま金型が発注されるというケースも多い。

 

これにより、同社で製作された金型においては、顧客への納入後、成形条件や仕様などの調整の手間が極めて少ないというメリットがある。 また、同社の得意技術として、TIG・MIG など各種溶接、金型の磨き仕上げ、複雑な水冷配管などがある(写真 1)。これはどれも自動化・標準化しづらい属人的な作業であり、顧客メーカーでも対応できる作業者が年々減っていると言う。今後ますます需要が高まる技術分野であろう。

写真1 溶接作業の様子

さらに同社の強みとして、職人によるアナログ技術だけでなく、CAD を活用した完全な3 次元の立体設計を実現している点もある(写真 2)。金型メーカーによっては、3D 加工を要する意匠面だけのモデリングに留めるメーカーも多いが、同社の設計担当の坂口氏は、構造部や周辺部品までを含めた、完全な 3 次元の設計を行っている。

写真2 同社で行う金型設計の様子

これは、顧客メーカーからの相談を受け、金型仕様を提案型で設計していく同社の受注スタイルにおいてとても理に適っており、立体で仕様を把握できることで、顧客とのコミュニケーションを円滑にしている。

また、同社現場に図面を提供する際には、側面図や断面図などの紙図面は作成しない。立体で形状を把握できる 3Dビューワで対応している。これにより、設計工数を削減することができ、同社の強みである短納期対応に寄与している。

 

事業拡大に伴う人材採用と新たな課題

ここまで職人技術を強みにしてこれたのは、大島社長の前職からの仲間で構成された少数精鋭の技術者集団で仕事をしてきたためだ。しかし今後の事業拡大にあたっては、新たな戦力の採用も必要である。ところが最近の労働者不足の折、今のようなプロ集団と同レベルの経験者の採用は難しい。そこで筆者が、今年同社が新規に採用した 3 名について、未経験者ではあるが、金型技術者として早期育成を図れるよう、大島社長と共に、技術研修を行うことにした。

 

未経験者に必要な教育

業界未経験者に必要な知識として、①金型を作る意義、②個別受注生産である金型の作り方の特徴、③製造工程の流れ、④各工程の作業の概要、⑤金型製造を取り巻く詳細な技術知識、などがある。

 

しかし、私自身も 25 年前に経験したが、これらは OJT、OFF-JT で教えられるはずが、昨今、短納期・低コスト製造が優先され、採用後の教育は、個々の作業オペレーションに留まってしまうことが多い。そうなると、そもそもものづくりへの興味も湧きづらくなってしまううえ、技術向上への伸び悩みを生んでしまう。

 

そこで筆者のコンサルティングでは、金型づくりを取り巻く周辺知識を体系的に教える研修を行っている。例えば、機械加工であれば、設計者向けの加工技術の本などを用いた研修を行っている。

こうした体系的な学習を行ったうえで、実際の金型製造で必要な知識として、ア)  機械加工の種類とその選定基準、イ)  金型で使われる材料種類と特性、適した加工方法、ウ)具体的な切削技術などの学習へ進んでいく。大まかな全体像から段階的に、これから自分が担当する作業がどのような位置づけなのか、なぜ必要なのか、何に留意するのか、などを最初に教えておく。今後技術者として、大きな目標を持とうとしても、まずは全体像がわからないと無理である。こうした長期の目標を個々の技術者に持たせるためにも、早めに体系的な学習を行うことは重要である。

 

同社は、NC 機から汎用機械まで、さまざまな設備を保有していることで、研修では実物を見ながらイメージ付けも行い、座学と実践の両方で効果的な研修を行っている。

 

今後の同社の取り組み

同社は、金型づくりだけではなく、成形のノウハウまで包括して持っている強みを活かし、顧客へ提案型サポートを行っている。今後はその強みを活かし、より多くのメーカーへサポートを広げていく方針である。また、小型の精密部品から大型のマシニング加工まで対応できる点も活かし、機械加工の受注も増やしていく。そこには、新たな戦力となる新規採用者が早期に習熟し、機械の性能を活かせる加工技術を身に付けていくことが必要である。

 

大島社長は、これまでの少数精鋭から、企業として着実な発展を遂げられるよう、組織体制や人事制度の整備を進めている。効果的な技術研修と企業組織の整備によって、今後さらなる事業拡大を実現させていく同社に大きな期待をしている。

 

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金型・部品加工業 専門コンサルティング

代表:村上 英樹(中小企業診断士)

愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

 

株式会社ハイレックスコーポレーションのコンサルティング事例(2016年4月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、兵庫県宝塚市に本社を置く株式会社ハイレックスコーポレーションの三田西工場、金型課(兵庫県三田市テクノパーク内)である。同課のスタッフは12名。扱う主要製品は、自動車部品が中心であり、製作している金型の種類としては、中型・小型の射出成形金型からダイカスト金型まで製造している(写真1)。

写真1 同課で製作した金型で成形した製品

 

筆者がお手伝いしているメーカーは中小企業だけではなく、大企業や中堅企業の金型部門も対象としている。また、筆者の専門はプレス金型であるが、マシニングやCAM作業などの機械加工が得意分野であるため、プレス成形以外の金型を扱う事業者さまからもご依頼をいただいている。

 

以前にも書いたが、射出成形やダイカスト金型、プレス金型の違いについても興味深い。工程設計や金型構造、機械加工、トライ作業の際の着眼点など、それぞれ共通するところもあれば大きく異なることもある。ただしトライ作業については、成形作業の知識を持たないといけない点は、どの金型を扱っても同じである。今回はその点について触れてみたい。

 

同社金型課の強み

同課の強みとして、次の点が挙げられる。

  1. 完全3次元設計の実現
  2. 機械加工の完全なデータ化
  3. 徹底した5Sの実現

 

多くの金型メーカーでは2次元CADによる設計が中心であるが、同課では意匠面だけでなく構造部まで完全に3次元CADによる設計が行われている(写真2)。

写真2 同課で行われている3次元金型設計の例

 

このメリットとして、スライドを複雑に使った金型であっても、設計者のみならず後工程の担当者まで、型構造・製品形状が理解しやすい点が大きい。また3次元に対応したCAMを使っていれば、フィーチャー機能などを活かすこともできる。

逆に留意点として、シンプルな構造部も立体で表現するため設計負荷は増える印象が強い。こうした負荷をいかに前後行程のメリットで相殺できるかがポイントである。また、公差情報などの言語情報が伝わりにくい点も以前から言われているところである。そのため、3次元モデルデータとは別に、公差図や単品の部品図を作成する場合も多い。

 

同課の強みとして、主にマシニング加工にあたり、完全なCAMによるデータ提供が行われている。このメリットは、①CAD図面の情報を読み違えなく加工データ作成に利用でき、ミスによるロスが減らせる、②加工履歴を残しやすく、金型メンテナンス時に効果を発揮する。

逆に留意点として、①データ作成者と機械オペレーターが異なる場合、加工指示書の作成工数など間接コストが増大する、②機械オペレーターの応用力育成が鈍化するなどがある。

 

さらに同課の強みとして、5Sの徹底がある。前述した完全なCAMデータ化も、こうした5Sや管理ルールの徹底があるからこそ成り立つ。例えば、作成したデータのツール番号と、実際にマシニングに取り付けられている刃具やツールホルダーが統一されているといった連携がなければかえって混乱を招く。同課はこうした点をクリアしており、ロスの少ない機械加工を行っている。

 

コンサルティング前の同課の課題

同課の金型製造の課題として、自社で使う金型を製造しているが遠方の客先メーカーで使う金型を製作することもあり、組み上げた金型は客先で成形トライすることが多く、立ち会いもままならないことが多い。そのためか、製品意匠部の寸法を追加切削する金型修正が頻発しており、また溶接補修も多いことから、金型完成までのリードタイムは冗長していた。そこで筆者と共に、機械加工の一部ハンドワーク化も含め、金型製造における総リードタイム短縮への改善を行った。

 

具体的な問題点

トライ作業の際、ショートショットや焼け、銀条といった外観不良は、成形メーカーのオペレーターが対策するため、同課2名の設計者による金型では、そこが大きな問題点となることは少ない。同課を悩ませていたのは、ソリや変形などによる微小な寸法不良である。

 

そのため、成形トライ後の修正方法として、金型を追加切削する寸法補正が高い頻度で発生していた。形状を盛る方向であれば、溶接肉盛りを伴い、溶接費用とリードタイムが余計にかさむ。もちろん溶接補修を避けるべく、ファーストトライ時は変形収縮方向を確認するため、切削の取りしろを余分に付け、変形の傾向を見るなどの対策はしていた。それでも、2回目、3回目のトライ時の成形サンプルを測定すると、傾向とは逆の動きに反るなど金型修正を繰り返す問題が頻発した。

もはやこうなると、遠方の成形メーカーと同課で、金型修正を繰り返しながら行ったり来たりである。どこで寸法が決まるのか読めない状況になってしまう。

 

取り組んだ改善

これまでのやり方を改善すべく、過去、寸法補正加工が多かった金型を事例として取り上げ、設計時の狙い・意図からどれだけの誤差が出るのか、トライ時にいくつかの調整値による成形サンプルをとり、どれだけの振れ幅の調整値によって、どれだけの寸法変化が出るのか、同課のスタッフが主導となって検証した。

 

同課の中で、射出成形の技能検定の受験経験のある佐川氏が中心となり検証を行った。その結果、例えば、射出速度をいくつか変えて成形したところ、見込んでいた傾向とは異なる寸法の結果が出たりもした。

冷却の遅い箇所の収縮が大きくなるなど、反りや変形は製品形状によるところも大きい。そのため、多段射出を行ったり、キャビティとコアの型温度を変えたり、保圧のタイミングを遅らせたりといった調整を行う場合があるが、こういったさまざまな影響要因が考えられるため、限定した調整値の見込みだけでは、寸法変化の傾向は読みきれないところが難しい。

 

そこで今後は、成形サンプルを複数とるにあたり、成形メーカーに対してトライに用いる成形調整値を、あらかじめ同課から指定して依頼することとした。ただしこのためには、成形オペレーションの知識が必要になる。まずはもっとも知識のある佐川氏が依頼する条件値を選定しているが、今後は、通常トライ立ち会いを担当している設計担当者の2名が、射出成形の技能検定を受けるなど、順次知識を得て行く計画である。

 

今後の同課への期待

同課はこれまで成形シュミレーションも活用してきたが、今後成形オペレーションの知識を増やしていくことで、さらに有効に活用していける。例えば、冷却水穴の位置・金型温度と、製品寸法の変形度合いなどを解析するなどである。

また、機械加工の完全なCAMデータ化は、加工内容によっては工数増加リスクがあるため、今後はマシニングオペレーターを中心に、CAMデータに頼らないマニュアル加工を習得する。これにより、CAMデータや指示書作成など間接コストの削減とリードタイム短縮が期待できる。

デジタルによるものづくりを徹底した同課において、今後は職人技術を高め、同業他社に負けない柔軟な金型づくりをしていけることを期待している。

 

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タチバナ金型製作所のコンサルティング事例(4月号掲載)

 

本号で取り上げる金型メーカーは、愛知県にあるタチバナ金型製作所(愛知郡東郷町春木下鏡田161-6)である。同社は主に自動車部品や遊戯具部品などの射出成形金型を製造しており、従業員3名の少数精鋭である。

 

同社を取り上げたのは、経産省の産業支援策である「ものづくり補助金」の申請を筆者がサポートし無事に採択され、そのまま技術開発もお手伝いさせていただいたため、その取り組みについて紹介させていただこうと思ったからである。

 

同社は、自社の弱みを改善するテーマに挑戦し、本業と並行しながらじっくりと腰を据えた実験に取り組んだ。筆者が一番に伝えたいのは、開発テーマが採択要件にあっていれば小規模メーカーも十分採択される点である。

 

会社の最も強みとしているポイント

同社の強みは、顧客から見て要求価格で受注してくれる点である。

これを可能にしているのは、もちろん低コストで金型を製作できているためだ。

 

橘木社長は創業社長であるため、設計から機械加工、組立・調整まで全工程に対応できる。社長以外の製造スタッフについては、各工程を必要最小限ムダのない人工で担当しており、伝達など間接コストを無くし高い稼働率でものづくりを行っている。

 

コンサルティング以前に粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

ところがこうした効率的なものづくりを行っていても、特に射出成形金型は、価格競争による型単価の低下は著しく、多くの中小金型メーカーの大きな課題となっている。

筆者自身も23年の金型メーカー勤務の中で驚くほどの価格変化を見てきた。

 

こうした背景から起因する同社の課題は企業の成長性だとみている。連載第1回に書いた、財務面のチェック項目「設備投資のための資金計画」が同社の課題である。

 

これまで同社は1台保有しているマシニングを2台に増やしたいという想いがあった。

2台体制であればキャビティとコアを同時に加工できリードタイムは1/2にできる。

 

リードタイムが半分になると受注できる型数を増やすことができ売上は増加する。労務費や外注費を比例して増やすことなく売上増加ができる。

 

これにより効果的に粗利益を増やすことができる。

同社はそういった投資のチャンスを逃していた。これは機会損失と呼ばれ、実は増やせるべき利益を逃している損失だと考えるべきである。

 

設備投資の原資は多くの中小企業の場合、借入で調達することが多い(図1)。

 

図1 設備投資の原資の内訳

 

利息支払い額や銀行借入の返済額、またはリース費用が充てられる。

 

粗利益とは、売上-製造原価(材料費、労務費、外注費)であるが、設備投資の原資を確保できる粗利益を稼ぐことができていたか、これらの構成要素を細かく見ていく。

 

① 売上:生産能力により毎月受注できる型数に制約がある。
② 材料費:売上に比例するが為替動向などによっても変動する。基本的に自社ではコントロールできない。
③ 労務費:効率性の高い生産が会社方針であり過度な残業は少ない。
④ 外注費:無理な受注による負荷オーバーのための外注策は少ない。

したがって、①~④によると同社の粗利益減少要因は「売上」が主原因であるとわかる。

次はこの売上についての構成要素を見ていく。売上とは単価×数量であるため、それぞれを同社に当てはめ分析する。

① 単価:とにかく顧客要求に応える方針であり、これまで価格交渉はほとんど行っていない。
② 数量:毎月ほとんど固定的な型数を受注している。

 

したがって、①②によると同社の粗利益減少要因は「受注単価」にあるとわかる。

受注単価については、やはり何といってもリーマンショックにより業界全体で仕事量が激減し、価格相場が大きく引き下がったことも影響している。

同社は粗利益について中長期的な視点で検証ができていなかった。

 

課題となっていた部分をどのような方策で改善したか、成功した改善策

そこで同社は、経営のカンフル剤とも言える、補助金を活用した設備投資を考えた。

新型マシニングの導入により粗利益に直結する生産改善を行った。

 

具体的には、金型意匠面の切削加工面の品質向上による磨き工数削減と、既存設備よりも早い主軸回転で送り速度を上げ、加工工数の削減を図った。

それに伴い、ボールエンドミルの加工条件と加工パス軌跡の見直しも行った(写真1)。

写真1 補助金事業で使用した設備や実験ワークなど

 

そもそも手仕上げ磨きはコスト増加要因が多い。

労働集約型業務であるうえ一定レベルの技術が必要で、型ダレやキズなどにより修正・手直しロスの発生要因にもなるため、人件費の安いパート社員に任せる、というわけにもいかないところがある。

 

同社は、補助金事業によって製造コスト(労務費、外注費、減価償却費)を増やすことなく売上増加を図り、しかも単価ではなく数量要因の増加で実現できた。

顧客への価格メリットはそのままに自社の粗利益がアップできたことになる。

 

補助金による改善後は、労働生産性による儲けから設備生産性による儲けへと粗利益の稼ぎ方が変化した。機械設備によって稼働率を高め製造コストを引き下げる考え方である(図2)。

 

図2 労働と機械の製造コストに対する考え方の違い

 

従来は、型数をこなすには人が頑張る考え方であったが、改善後は機械に仕事をさせ、人の時間を有効に使う管理を重視するようになった。

人がフレキシブルに動けるための時間管理である。

人の時間を有効に使う管理を実施した結果、外注化していた設計が内製化できるようになった。これによる粗利益アップの効果は高い。

 

もちろん補助金の活用にあたって苦労した点もある。これについては次回で詳しく解説する。

なお、補助金は開発計画が全て終わってからの後払いになるため、初期投資となる資金調達は必要である。

 

今後の成長に向けて

同社は、今後の事業拡大のため射出成形とプレス、両方の金型を扱い始めた。

しかし、それぞれの金型技術には明確な違いがあるため容易ではない。

 

例えば、型合わせの考え方から異なる。プレス型は直角面が多いが射出成形はコッター面と呼ばれる傾斜面が多い。

 

プレス曲げの場合、板が曲がり終わる下死点までが金型の仕事であり、板を曲げる最中に上下型それぞれの面を摺動させ型ズレを防ぐ。

一方、射出成形は型が閉じた下死点で原料を射出し成形する。それぞれ型を閉じる前か後、どちらで仕事をするのか異なる。

 

このため、柔軟に対応できる技術・ノウハウが必要になる。

 

同社は、人がフレキシブルに動ける時間管理により、こうした新たな仕事に取り組む時間が作れるようになった。

現在、生産能力を強化するため一緒に金型づくりを続けていけるスタッフを募集している。

 

ヒトモノカネの面で生産性の高い経営を目指す今後の同社の成長に期待している。

 

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