金型・部品加工業専門コンサルティング

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新出工業のコンサルティング事例(2016年2月号掲載)

 

先月号に引き続き、新出工業(愛知県名古屋市 TEL 052-501-0704)のコンサルティング事例を紹介する。

同社は、従来の個人事業体制から、チームによる組織体制へと変革を図っており、今年新たに従業員を4名採用した。その成果を発揮させるべく、筆者と共にさまざまな取り組みを行っている。

 

同社は主に設備メーカーなどで製造される、生産設備機械の部品のフライスや旋盤加工などを行う機械加工業であるが、同社の取り組みは、チームとして組織をまとめていく点で、金型メーカーも、ぜひ参考にしてもらいたい。

 

本号で紹介する取り組みのポイントは、①金型メーカーの経営目標は何の指標を使えば良いのか、②会社目標と個人目標をリンクさせる方法、③機械加工メーカーの人事制度の一例、④機械加工の育成方法の一例、などである。それでは、順を追ってみていこう。

 

組織の見える化と人事制度の構築

同社はまず、採用した技術者の統制を図るため、a)組織の見える化と、b)人事制度の構築を行った。その目的は、a)責任と役割分担を明確にする、b)技術者のがんばる基準を明確にすることである。

まず組織の見える化については、直近、1年先、3年先、5年先までの組織図を作った。これについては第9回の堀部セイコーの号でも紹介したが、人による体制図を作るのではなく、機能別で作ることがポイントである。機能別で組織図を作ると、多くの金型メーカーが、組織の中に兼任者が多いことに気づかされる。この兼任者が多いことに気づくための機能別組織図だ。

 

兼任者が多いことは、マルチプレーヤーの存在というメリット面もあるが、安定した事業の継続という視点においては非常に不安定である。すぐに解決は難しいかもしれないが、ぜひ1年後から数年後には解消したい課題である。そういった意味で、筆者はクライアント先には、1年後や3年後の機能別組織図に責任者・担当者の名前を入れた体制図を作ってもらっている。

 

次に人事制度であるが、本来企業としては、ア)等級制度・イ)給与制度・ウ)評価制度の3つがしっかり整い、機能していることが理想である。今回同社は、ア)等級制度と、ウ)評価制度の整備に着手した。

 

等級制度については、主任・係長・課長・部長・工場長といった各職制に必要な、能力と責任範囲、給与手当などを明確に規定した。これにより、何となく就業年数が経過したから昇格したとか、○長なのに△△ができない、といったギャップを会社として減らしていくことができる。

また、評価制度については、後述する個人目標をベースとし、毎年の期初、技術者ごとに設定する個人目標について、その達成度を期末に評価することにした。

 

ここから具体的なコンサルティングの取り組みを見ていこう。まず成果指標の設定であるが、一企業の特定部門ではなく、会社全体で成果を見る場合、筆者は、A)労働分配率と、B)一人あたり付加価値の2つで見ている。

労働分配率を使うことで、企業として最も負担の大きな固定費である労務費と、売上から企業に残る価値(付加価値=売上-社外に支払う費用(材料費や外注費))のバランスを管理することができる。

図1 労働分配率の計算式と各数値への同社の取り組み

 

 

この割合は少ないほど良好で、40~50%であれば良好から普通、50~60%なら普通から悪化の兆候ありといった見方をする。

また労働分配率だけでは、仮に付加価値が少なくても、労務費を削ることで数値改善を図ることができるが、企業としては本来、稼いだ付加価値をがんばる技術者へ多く分配することがあるべき姿である。したがって、一人あたり付加価値の指標も使い、絶対額として、どれだけ多くの付加価値を稼いだのか管理するようにしている。

図2 一人あたり付加価値の計算式と従業員全員での取り組み

 

 

この数値については、事業規模にもよるが、一般的な技術者の給与から算定すると、月次で70~80万円以上あると望ましい。

同社はこの2つの指標のうち、経営者は労働分配率を、技術者は一人あたり付加価値を、毎月の目標としている。特に一人あたり付加価値については、一定期間ごとに達成数値に応じて、例えば、月次ベースで80万円を超えたら特別賞与、100万円を超えたら遠方への社員旅行などといったインセンティブを与えている点が面白い。

 

次に、設定した会社全体目標に対し、具体的に各技術者が何に取り組んでいくかを取り決めていった。実はこの点が、同社の出水社長が最も悩んでいたポイントであった。

実は多くの金型メーカーでも起こっている問題である。例えば、売上を上げようとか、利益を増やそうといった会社全体目標は、これだけ掲げているだけではうまくいかないことが多い。なぜか。

 

それは、会社全体目標だけでは内容が漠然としており、各技術者個人の具体的な「行動」までは明確になっていないためである。言い換えれば、個人が明日からとるべき「行動」まで落とし込んで、初めて会社目標は機能する。

そこで同社は技術面を中心に、個人目標の整備に取り組んだ。毎期の会社目標を達成するために、各技術者が、どんな技術を・どれだけ・いつまでに習得できなければならないか、洗い出していった。

主に使ったのは、スキルマップである。筆者は習得する技術を「知識」と「技能」に分けて教育するよう薦めている。

 

知識は、OJTやOFF-JT、本、会社で作製・蓄積している資料などを使って記憶をしていくものであり、技能は反復効果を効かせて練習し徐々に習得していくものである。したがい、スキルマップに記載される項目としては、知識面は「○○を理解している」と表現され、技能面は「△△ができる」と表現されるはずである。

こう表現することで、ある項目で知識不足・未習熟があった技術者は、それを是正するために、○○を全て覚える、△△を標準時間で作業できるようにする、といった次の対策につなげていくことができる。

 

例えば、マシニング作業を例にとってみる。知識面においては、主に使うGコードを全て理解している、段取り手順を全て理解している、全ての穴加工種類のプロセスを理解している、全ての切削パターンのプロセスを理解している、測定方法を全て理解している、トラブルシューティングを一人で対応できる、などの項目が考えられる。

また技能面においては、段取り作業を標準時間内で作業できる、工具セットを標準時間内で作業できる、加工プログラミングを標準時間内で作業できる、などが考えられる。

 

このように知識面は、知っているか・正しく理解しているかが評価のポイントであり、技能面では、標準時間内で作業できるほど習熟しているのか・標準よりも早く作業できるのかといった習熟度の評価がポイントである。

 

今後の同社に期待すること

今年の秋、同社は新たにマシニングセンターを導入し、事業の幅を広げる計画をしている。同社は、汎用機械とNC機械の使い分けができているため、マシニングについても、コスト・必要品質に合わせた使い方をしていくことであろう。

企業として組織の分業と統制がとれる体制を整備し、今後まさにチームとして一体的なものづくりを行っていこうとする同社の技術力・経営力の成長に期待をしている。

 

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(株) 堀部セイコーのコンサルティング事例(9月号掲載)

 

今回取り上げるメーカーは、愛知県にある(株) 堀部セイコー(愛知県豊橋市 TEL 0532-62-2522)である。同社は、旋盤加工を中心にマシニングによるフライス加工や放電加工まで幅広く対応することで、機械部品や金型部品の製作を行っている従業員7名の部品加工メーカーである。

 

今回は、中小製造業に多い人事面の対策事例として紹介するのでぜひ参考にしていただきたい。

 

中小製造業に多い人事面の問題

筆者が対応させていただく企業のほとんどは人事制度がないことが多く、その理由は主に次の2つである。

1. 中途採用が多く新卒採用が少ない。年齢と技能が合致しないことが多く、給与設定が難しい。

2. 将来的に会社業績が不透明であるため、資金余力を蓄えておく必要があり、定期昇給に躊躇してしまう。

 

これらの理由によって中小製造業は人材の定着率も上がらないといった課題を慢性的に持っており、本来長い年月をかけ感覚的な技能を身につけていかなければならない金型技術者の育成と新陳代謝が進まないといった現状がある。

 

このような理由から、多くの中小製造業が採用した従業員の短期的成果を求めるようになり、ユーザーインタフェースが進化したNC機によりそれが可能になったが、応用力の伸び悩みに苦しんでいる企業が多い。

 

これにはネット社会が進んだことが背景としてある。例えば、ダイス鋼の切削加工をする際、最適な工具や加工条件などが、今では簡単にネット検索で調べることができる。非常に便利になった反面、「ちょっとやってみよう」「試してみよう」といったチャレンジをしない風潮になってしまった。これもネット検索ですぐに答えが手に入るためである。

 

しかし、ポケット切削加工一つとっても、正解と失敗といったイチゼロの考えではなく、例えば10通りの方法で削れば10通りの結果・事象があると考えるべきである。工具の折れ方もさまざまである。シャンクから折れるのか、刃先が磨耗するのか、刃先のどこが摩耗するのか、その結果から得たことが、次の方法や条件を考える際の自分のデータベースとなる。可能な限り、色々なチャレンジを自らの手で経験し、自分の引き出しを増やしていく方が良い。

 

堀部セイコーの強み

同社の強みとして、次のようなものがある。

1. 多くの機械を用いる多工程の加工を内製でワンストップ対応できる。

2. 多品種小ロット生産について特に短納期で対応できる。

3. 技術習得に意欲の高い若手技術者が揃っている。

4. 汎用旋盤など、NCに頼らない機械加工の経験豊富な堀部社長が丁寧に技能を教えており、各技術者は、品質・コストのバランスを考慮した最適な工法の選定ができる。

 

上記4.に、若手技術者の伸び悩み解決のヒントがある。前述したように、投資コストが大きいNC機の稼働率を優先するため、汎用機の操作経験がない機械オペレーターが多くなった。このため例えば、高精度が必要でない部品であっても、NCがないと切削や穴あけができないといった者も多くなった。

 

同社のものづくりは、汎用旋盤を基軸とする考え方が全ての技術者に浸透しており、コストと品質、リードタイムに見合った最適な工法を選定してものづくりを行うことができる。

 

技術者のモチベーションと労務費の問題

部品加工業の製造原価は、主に材料費、労務費、減価償却費、外注加工費等からなるが、このうち労務費について、特に金型や機械加工の仕事は、技術者の技能に依存しており、個々の技術者のスキルと給与とのバランスはインセンティブに繋がるため、慎重に決めるべきである。

 

実際に、技術者の労務費の問題として、筆者には次のような相談が多い。

  • 辞められては困る従業員の給与が過大になりがちである。
  • 従業員全員の労務費合計額が他社と比べて適正かどうかわからない。
  • 基本給を決める際の評価基準がよくわからない。
  • 一度、基本給を上げてしまうと業績が低迷した時が不安である。

 

同社については、年齢や経験年数等による給与基準や昇給制度がまだ明確に規定されておらず、今後労務費合計額と会社業績のバランスが取れなくなったとき、粗利益を圧迫してしまうのではないかという不安があった。

そこで労働分配率で経営分析したところ、問題はなくむしろ良好であったが、従業員が希望している給与額を支払っていくと、今後将来に向けて労務費を含む製造コストが釣り合わなくなるという懸念があった。

 

人事制度導入で従業員の意欲と労務費を管理

そこで、従業員の理解と労務費管理を両立するための人事制度導入を行った。具体的には①等級制度、②報酬制度、③評価制度の3つである。

 

 

図2 等級制度で設定した職位別の責任範囲

特にマネジメント職だけではなく、専門技術を極めていこうとする従業員についても、別ルートで評価される中小製造業向きの制度も導入した。
導入した制度のポイントは次のようなものである。

  • 将来に渡って定着率を高めるため、毎年の昇給額を「見える化」する。
  • 労務費合計額を肥大させないため、昇給額を計画的に長期管理する。
  • モチベーションを高めるため、従業員一人ひとり評価基準を期初に伝える。

 

また、管理職に向く従業員と専門職に向く従業員とタイプが分かれるが、注意したいのは、必ずしも腕の立つ職人が工場長に向くわけではないという点である。多くの中小製造業を見ていると、この工場長の考え方によって工場内の風景が全く異なっている。例えば、5Sが整っているかどうかという点である。

 

①ものづくりをするのか、②人づくり・会社づくりをするのか、工場長が①②どちらを重視するのかで大きく会社の方向性が違ってくる。

 

同社は、求める工場長のあるべき姿とその報酬額、また各等級とその報酬額を労務費合計額とのバランスまで考慮しながら設定していった。等級については、次のように行動規準を設定した。

  1. 見習い職レベル:指示を仰がないとまだ作業ができない。
  2. 一般職レベル:指示がなくとも自分の職務を全うできる。
  3. 主任レベル:技能面で担当業務の指導ができる。
  4. 係長レベル:QCDを考慮した生産の指示ができる。
  5. 課長レベル:購入品の決済など、支払い面の判断権限を持ち、主にコスト面の適正管理ができる。
  6. 部長レベル:利益面で判断権限を持ち、売上とコスト、両面で適正管理ができる。
  7. 工場長レベル:安全・環境など、経営資源の全面的管理を行い、経営者レベルで設備投資判断にも参加する。

 

企業のさらなる発展に向けて

人事制度導入により、従業員のモチベーションと労務費の適正管理を行っていくことができ、今後さらに個々の技術を高めていく下地ができた。同社は今年、さらなる戦力UPを図るため新型マシニングを導入している。

 

特にユーザーインターフェースの利便性の高いヤマザキマザック(株)製のマシンであるが、同社は機械によらない技術者教育を徹底しており、今後新たな採用を行っても応用力のある技術者を育てることができるだろう。管理・技能の両面で人事体制がとれた同社は、今後企業としての成長が楽しみである。

 

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タチバナ金型製作所のコンサルティング事例(4月号掲載)

 

本号で取り上げる金型メーカーは、愛知県にあるタチバナ金型製作所(愛知郡東郷町春木下鏡田161-6)である。同社は主に自動車部品や遊戯具部品などの射出成形金型を製造しており、従業員3名の少数精鋭である。

 

同社を取り上げたのは、経産省の産業支援策である「ものづくり補助金」の申請を筆者がサポートし無事に採択され、そのまま技術開発もお手伝いさせていただいたため、その取り組みについて紹介させていただこうと思ったからである。

 

同社は、自社の弱みを改善するテーマに挑戦し、本業と並行しながらじっくりと腰を据えた実験に取り組んだ。筆者が一番に伝えたいのは、開発テーマが採択要件にあっていれば小規模メーカーも十分採択される点である。

 

会社の最も強みとしているポイント

同社の強みは、顧客から見て要求価格で受注してくれる点である。

これを可能にしているのは、もちろん低コストで金型を製作できているためだ。

 

橘木社長は創業社長であるため、設計から機械加工、組立・調整まで全工程に対応できる。社長以外の製造スタッフについては、各工程を必要最小限ムダのない人工で担当しており、伝達など間接コストを無くし高い稼働率でものづくりを行っている。

 

コンサルティング以前に粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

ところがこうした効率的なものづくりを行っていても、特に射出成形金型は、価格競争による型単価の低下は著しく、多くの中小金型メーカーの大きな課題となっている。

筆者自身も23年の金型メーカー勤務の中で驚くほどの価格変化を見てきた。

 

こうした背景から起因する同社の課題は企業の成長性だとみている。連載第1回に書いた、財務面のチェック項目「設備投資のための資金計画」が同社の課題である。

 

これまで同社は1台保有しているマシニングを2台に増やしたいという想いがあった。

2台体制であればキャビティとコアを同時に加工できリードタイムは1/2にできる。

 

リードタイムが半分になると受注できる型数を増やすことができ売上は増加する。労務費や外注費を比例して増やすことなく売上増加ができる。

 

これにより効果的に粗利益を増やすことができる。

同社はそういった投資のチャンスを逃していた。これは機会損失と呼ばれ、実は増やせるべき利益を逃している損失だと考えるべきである。

 

設備投資の原資は多くの中小企業の場合、借入で調達することが多い(図1)。

 

図1 設備投資の原資の内訳

 

利息支払い額や銀行借入の返済額、またはリース費用が充てられる。

 

粗利益とは、売上-製造原価(材料費、労務費、外注費)であるが、設備投資の原資を確保できる粗利益を稼ぐことができていたか、これらの構成要素を細かく見ていく。

 

① 売上:生産能力により毎月受注できる型数に制約がある。
② 材料費:売上に比例するが為替動向などによっても変動する。基本的に自社ではコントロールできない。
③ 労務費:効率性の高い生産が会社方針であり過度な残業は少ない。
④ 外注費:無理な受注による負荷オーバーのための外注策は少ない。

したがって、①~④によると同社の粗利益減少要因は「売上」が主原因であるとわかる。

次はこの売上についての構成要素を見ていく。売上とは単価×数量であるため、それぞれを同社に当てはめ分析する。

① 単価:とにかく顧客要求に応える方針であり、これまで価格交渉はほとんど行っていない。
② 数量:毎月ほとんど固定的な型数を受注している。

 

したがって、①②によると同社の粗利益減少要因は「受注単価」にあるとわかる。

受注単価については、やはり何といってもリーマンショックにより業界全体で仕事量が激減し、価格相場が大きく引き下がったことも影響している。

同社は粗利益について中長期的な視点で検証ができていなかった。

 

課題となっていた部分をどのような方策で改善したか、成功した改善策

そこで同社は、経営のカンフル剤とも言える、補助金を活用した設備投資を考えた。

新型マシニングの導入により粗利益に直結する生産改善を行った。

 

具体的には、金型意匠面の切削加工面の品質向上による磨き工数削減と、既存設備よりも早い主軸回転で送り速度を上げ、加工工数の削減を図った。

それに伴い、ボールエンドミルの加工条件と加工パス軌跡の見直しも行った(写真1)。

写真1 補助金事業で使用した設備や実験ワークなど

 

そもそも手仕上げ磨きはコスト増加要因が多い。

労働集約型業務であるうえ一定レベルの技術が必要で、型ダレやキズなどにより修正・手直しロスの発生要因にもなるため、人件費の安いパート社員に任せる、というわけにもいかないところがある。

 

同社は、補助金事業によって製造コスト(労務費、外注費、減価償却費)を増やすことなく売上増加を図り、しかも単価ではなく数量要因の増加で実現できた。

顧客への価格メリットはそのままに自社の粗利益がアップできたことになる。

 

補助金による改善後は、労働生産性による儲けから設備生産性による儲けへと粗利益の稼ぎ方が変化した。機械設備によって稼働率を高め製造コストを引き下げる考え方である(図2)。

 

図2 労働と機械の製造コストに対する考え方の違い

 

従来は、型数をこなすには人が頑張る考え方であったが、改善後は機械に仕事をさせ、人の時間を有効に使う管理を重視するようになった。

人がフレキシブルに動けるための時間管理である。

人の時間を有効に使う管理を実施した結果、外注化していた設計が内製化できるようになった。これによる粗利益アップの効果は高い。

 

もちろん補助金の活用にあたって苦労した点もある。これについては次回で詳しく解説する。

なお、補助金は開発計画が全て終わってからの後払いになるため、初期投資となる資金調達は必要である。

 

今後の成長に向けて

同社は、今後の事業拡大のため射出成形とプレス、両方の金型を扱い始めた。

しかし、それぞれの金型技術には明確な違いがあるため容易ではない。

 

例えば、型合わせの考え方から異なる。プレス型は直角面が多いが射出成形はコッター面と呼ばれる傾斜面が多い。

 

プレス曲げの場合、板が曲がり終わる下死点までが金型の仕事であり、板を曲げる最中に上下型それぞれの面を摺動させ型ズレを防ぐ。

一方、射出成形は型が閉じた下死点で原料を射出し成形する。それぞれ型を閉じる前か後、どちらで仕事をするのか異なる。

 

このため、柔軟に対応できる技術・ノウハウが必要になる。

 

同社は、人がフレキシブルに動ける時間管理により、こうした新たな仕事に取り組む時間が作れるようになった。

現在、生産能力を強化するため一緒に金型づくりを続けていけるスタッフを募集している。

 

ヒトモノカネの面で生産性の高い経営を目指す今後の同社の成長に期待している。

 

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ユーアイ精機株式会社のコンサルティング事例【前編】(2月号掲載)

 

本号で紹介する金型メーカーは、愛知県尾張旭市にあるプレス金型を扱うユーアイ精機(株)である。従業員は18名。主要製品は自動車・厨房部品の量産用金型、試作部品、金型用部品などである。

 

同社社長は経営にとても高い関心を持ち、本来受注生産である金型メーカーは能動的な計画は作りにくいと言われる中、同社は5年以上先の事業計画まで作ることができている。企業独自にユーアイ・ビジョンという方針を作り、ホームページを活用して広く社内外に発信している。

 

会社が強みとしているポイント

同社の強みは、試作鈑金から号口金型までワンストップで対応できることである。

これにより部品の試作を依頼する顧客は、量産時のプレス工法(型方案・量産工程)まで検討してもらうことができる。

 

例えば、絞りや曲げを伴う製品を依頼する場合、試作鈑金ならプレス後の3次元レーザーによる外形トリムが多いため変形が少なく手修正も可能であるが、量産プレスでは抜き反りや途中工程の変形も考慮した工程設計が必要となるため、同社は試作の段階でその先の量産まで踏み込んだ工程設計まで行うことで依頼部品のコストや形状の事前検討を併せて行うことができる。

 

筆者が知る限り20人規模の企業で、試作鈑金と号口金型の両方をとり扱っているメーカーは少ない。

その理由はいろいろあると思うが、まずコスト面から考えて儲けるポイントが異なる。

 

試作板金は、1個から数点といった小ロット生産であるため、曲げ・絞り・たたき工程に必要な道具や金型にコストを掛け過ぎないことが儲けるポイントとなる。

逆に号口金型は、必要な耐久性を持ち不良の発生しない安定した生産ができる金型をいかに予算内でつくれるかが儲けるポイントである。

 

設備面からみても保有する機械は異なる。

試作板金では3次元レーザーやブレーキプレス、プレス機は油圧式が多く、号口金型はマシニングやワイヤーカット放電加工機などで、トライ用プレス機は量産時と同じクランク式が多い。

 

したがって小規模企業において、1つの企業で同じ製造工程による両立となると難しいと考えられるのだが、同社はそれを実現し強みとしている。

 

また、同社はその試作ノウハウを活かし、マグネシウムやハイテン材など難加工材のプレス技術の開発を行っている(写真1参照)。

 

写真1:同社の技術開発によるマグネシウム材のプレス成形品

 

例えば、ハイテン材をレール状に長い形状に曲げる製品はスプリングバックや反りへの対応が課題になるが、それをうまく型構造の工夫によってコントロールしている。

筆者も苦労した経験があるが、大きくR状に湾曲したハイテン材の反りは特に修正が難しいため、金型への細工が必要となる。
その他、980Mpaハイテン材を箱形に曲げる製品についても、スプリングバックをうまくコントロールして1工程で直角を出す型構造も考案している。

 

試作・号口両方のノウハウを持つ経験豊富な同社工場長の技術をうまく経営に活かしている。

 

粗利益を下げてしまう要因となっていた課題

前述したように同社の事業の特徴は、試作と号口、さらに単品部品加工までを幅広く受注し、これらを同じ加工工程で混合生産していることであり、これが販路拡大にも寄与している。

 

しかしそのため、同社の製造現場では混乱が生じた。短期の試作鈑金や部品加工、長期で再加工の多い号口金型部品が混在した生産は管理が難しい。

どうしても短期仕事が優先になり、長期の仕事や負荷オーバーした分は後回しまたは外注対応になる。

 

そうなると残業による人件費や会社からのキャッシュアウトが増え、自社の粗利益が減少していくという悪循環に陥っていた。

 

管理が難しくなった原因は、①扱う品種・品番が激増し部品ごとの工程管理負担が増えた、②2、3日の短いサイクルで扱う部品も混在するため新規受注のたびに行う計画変更が負担になった、などである。

 

課題となっていた部分の改善

筆者の経験上、金型メーカーの生産管理は、下記のように段階的に細分化するのが理想だと考えている。

① 会社全体の受注品目を管理する日程計画
② それぞれの金型ごとの工程別に分けた日程計画(ガントチャートなど)
③ 金型を構成する部品ごとの日程計画
④ 社内で加工する部品全てを工程別に分けた日程計画
⑤ 製造工程全体を俯瞰できる機械・作業者への割り当て計画
⑥ 各作業者が見る小日程計画

 

同社は特に④の管理に問題があったため、加工する際に準備が間に合わず着手できない部品が多発した。

例えば機械加工では、着手日に材料・図面・NCデータが揃っていないといった問題である。

 

そこで同社は、加工工程を整流化する管理の仕組みを導入した。

具体的には、特に最初の工程になることが多くボトルネックの原因にもなっていたワイヤーカット放電加工の工程で生産管理ボードをつくり、毎日4台の機械で当日加工する部品の予定をつくり細かく一元管理するようにした。

 

これには次のような効果があった。①材料・図面・NCデータが準備できたかどうかの見える化、②各部品の加工予定を隙間なく1日の計画に当てはめることで稼働率を最大化できる、③複数の機械間で加工予定を入れ替える調整がしやすい、などである。

 

これにより現在は、予定外の機械の空き時間や後工程の予定遅延を減らすことができ、ムダな残業や外注費を削減することができた。

 

同社は、生産面の評価指標として日中の機械稼働率を用いているが、経営面としては「労働分配率」という指標を活用している。

労働分配率は人件費を企業の付加価値で除したものであり、売上から材料費や外注費など外部への支払いを差し引いた自社で生み出した価値と人件費のバランスを表す。

 

この割合は企業ごとの方針によるが、同社は毎月の人件費や外注費が多くなり過ぎていないか、この指標を使いチェックしている(資料1参照)。

 

資料1:労働分配率についてどう考えるかについての資料

 

人件費や外注費などの製造原価の増加をできる限り抑え、そのうえで受注を増やし売上を高めることが粗利益の増加につながる。

従来同社の高い従業員のモチベーションは、ただ忙しく仕事をさばくことに向けられていたが、現在は粗利益を高める行動にその意識は向けられている。

 

同社は自社を広く認知してもらうことで「呼び込む営業」に積極的に取り組んでいる。

難易度の高いハイテン材やマグネシウムなどのプレス加工にこだわり、その高度な技術に取り組む企業姿勢をホームページや講演などで社外発信している。

 

これにより製品開発をしたいという企業から共同開発依頼を受けるなど、お願い営業をすることなく事業拡大ができている。

それに応える製造現場は従来以上に多様な部品を製造しているが、営業と技術、両面から粗利益を高めていく体制をつくることができた。

 

今後の企業としての発展

現在マグネシウム素材においては海外企業と共同製品開発を進めている。

経営全体戦略としては、競争を意識した技術・営業戦略、受注平準化への取り組みを社長が先頭に立ちおし進めている。

 

これらの取り組みは企業を永続させるためのものであり、更に生産体制の強化もできたことで今後ますます同社の発展が期待できる。

 

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