【精密金型向け】経年寸法変化に最も効く対処法は?

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経年寸法変化に最も効く対処法は?

以前、金型材を焼き入れした後に、2回焼き戻す理由についての記事を書きました。

少しおさらいをすると、焼き入れ・焼き戻しした金型材料には「残留オーステナイト」というものが残り、これを分解させるために、2回の焼き戻しを行う。

また、サブゼロ処理という、焼き入れ後に金型材を極めて低い温度まで冷やすという処理もありました。

今回は、この「残留オーステナイト」の影響について、見ていきたいと思います。

焼き入れした金型材料を焼き戻しした際に残留する、不安定なオーステナイト、これは1回目の焼き戻しの後では、焼き入れ温度によって、およそ10~40%も残ってしまうそうです。

そのため、2回目の焼き戻しによって、これをマルテンサイト化させていくわけですが、そもそもなぜ、この「残留オーステナイト」が良くないのでしょうか。

プレス加工などで、「残留オーステナイト」に応力がかかると、マルテンサイト化します。

このとき、その部分は「膨張」します。つまり、ここで金型の変寸が起こるのです。

よく言われる、半年後とか1年後の、金型の経年寸法変化は、この「残留オーステナイト」のマルテンサイト化によって、その部分が膨張することで起こります。

(ほとんど、1年くらいで伸びきるそうですが)

したがいまして、例えば、板厚0.5ミリ以下などの打ち抜きプレスなど、精密なクリアランスを必要とするプレス金型などにおいては、この経年変寸は要注意です。

では、どのような対策を打てば、良いのでしょうか。

一つは、「金型材の焼き入れ戻しを2回行う必要性について」のときにも書いた、サブゼロ処理があります。

これは、焼き入れ後に、マイナス温度まで材料を冷却させることで、残留オーステナイトを分解させる処理のことです。

しかし、注意点があります。

サブゼロ処理によって、「残留オーステナイト」は、分解されますが、あくまで減るだけです。しかもゼロにはなりません。

したがって、経年変寸の絶対的な対策まではいきません。

「残留オーステナイト」は、減らしてもキリがありませんが、そもそも不安定な組織なので、これを安定化させれば、良いのです。

この安定化処理は、低温焼き戻しと、高温焼き戻しの間くらいの温度で、焼き戻しを行います。

250~400℃の温度で焼き戻しを行いますが、350~450℃の温度が、最も効果があるという文献もあります。

というわけで、精密金型で経年変寸を避けたい場合、サブゼロ処理はコストがかかるので、それは使わないという対策をとるとすれば、次のような工程になると思います。

  1. 焼き入れ処理
  2. 焼き戻し×2回
  3. 安定化処理

ちなみに、サブゼロ処理を使い、贅沢な方法をとるとすれば、

  1. 焼き入れ処理
  2. サブゼロ処理
  3. 焼き戻し×2回
  4. 安定化処理

という工程も考えられますが、きちんと安定化処理を行えば、サブゼロ処理まではいらないというメーカーさんもあります。

このあたりは、コスト面からも、慎重に検討する必要がありそうですね。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

参考文献
日原 政彦 (監修), 型技術協会型寿命向上研究委員会 (編集), 安齋 正博 著 (2009/3)「金型高品質化のための表面改質」日刊工業新聞社

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