3次元CAMの2D機能が使えていない若手オペレーターについて
今回は日々のコンサルティングで扱うことが多いテーマ、「3次元CAMの2D機能が使えていない若手オペレーターについて」について書いてみたいと思います。
自社で設計を行い、その設計データを加工現場に提供するパターンや、他社で設計されたモデルデータを受け取り、CAMにかけてマシニング加工するパターンなど、色々なパターンがありますが、いずれにおいても3次元ベースのCAMを使う金型メーカーや部品加工メーカーが増えてきました。
そこでよく指摘させていただくのですが、例えば下図のように、モデルデータとしては3次元モデルなのですが、そこに存在する加工内容としては2次元の加工だという場合、CAMの機能として3次元の機能を使うか、2次元の機能を使うかという選択肢が出てきます。

ここで今回のテーマ、「3次元CAMの2D機能が使えていない若手オペレーターについて」の話になるのですが、3D等高線加工や3D走査線加工などによる、絶対に3次元の機能でないと加工できない形状、例えば下図のような自由曲面がほとんどを占める形状というわけではないにもかかわらず、3次元の機能ばかりを使って加工しているというCAMオペレーターさんがいらっしゃいます。

これにはCAD/CAMベンダのサポートも、3次元機能の方を推奨しているということもあると思います。
しかしながら、私は使えるのであれば、できるだけ2次元のCAM機能から使っていった方が良いと考え、アドバイスしています。
2D機能の方が融通が利き、便利に使えるパラメーターも多くなると考えています。また3D機能を使う方が、ダミー面を追加して軌跡を制限したり、境界を作って領域を制限しなければいけないといった付帯作業も出てきます。
そのあたりを事例で解説してみたいと思います。
事例で解説(3次元機能の場合)
まずは3次元の機能を使って、先ほどの事例形状についてパスを作ってみたいと思います。
CAMはVISIを使っています。

荒取りについては上図のようなパスが出るかと思いますが、今回のテーマは次の仕上げ加工についてです。
まずは何にも考えず等高線の仕上げパス(切削加工部における横壁の仕上げパス)を計算してみます。

よくある失敗例ですが、6Fフライス仕上げですでに仕上がっている外周にまでパス軌跡が出てしまっているため、下図のように、境界を使って抑制します。

この設定でもう一度パスを出してみます。

すると、これはこれで問題ないように見えるのですが、下図のように、すでに仕上がっている外周面にアプローチ軌跡がはみ出して触っています。

気にしない人は気にしないのですが、これが若干のキズになったりするため、こうした加工部以外へのはみだしを抑制して出力するように細工します。

そこで下図のようなダミー面と呼ばれる追加のモデリングを行い、パス軌跡がはみ出さないよう蓋をします。

これでもう一度、演算します。下図のようなパス軌跡が出ました。


これで、外周部にはみ出すことがなくなったため、これはこれで良いのですが、ダミー面を作る手間が発生しており、工数のムダが発生しています。
また3次元の機能は、基本的にCAMの内部プログラムにお任せになるため、細部についてはオペレーターのコントロールが効きにくく、意図しないところで削って欲しくない箇所までパス軌跡が出てしまうということが起こりやすくなります。
そこで、私はコンサルティングの際、形状的に可能であれば、できるだけ2次元機能から使って、どうしても3次元の機能で演算しないとパス軌跡が出せないところで、3次元の機能を使うようアドバイスしています。
今回の形状のように、オープンポケットが数段に連なる形状については、一見、自由曲面に類似した3次元の機能でないとパスが出ないように見受けられますが、そのようなことはありません。
オープンポケットであれ、閉じたポケットであれ、Z底面が一定の2次元形状であれば、何段につながっていても、2D機能で対応した方が、楽で、人間がコントロールしやすいシンプルなパス軌跡が出せると思います。
そのあたりを事例で解説します。
事例で解説(2次元機能の場合)
それではまず、VISIの持つ「フィーチャー認識」という機能で、2次元の機能で加工する領域を抽出してみます。

このように、最近の3次元ベースのCAMには、自動で加工するエリアを深さと共に抽出してくれる機能が備わっており、非常に便利です。従来のCAMのように、自分で輪郭を描いたり、せっせとエッジを拾う作業が必要ありません。
また、深さ方向についても、深さ数値を手入力することが従来から言われる2次元の加工にあたりますが、最近の3次元ベースのCAMを使えば、手入力は無く、ヒューマンエラーによるイージーミスはほとんど起こりません。
今回は下図のように4階層の2D加工領域として抽出されました。




なお、緑色の面が「開いた輪郭形状」を表し、オレンジ色の面が「閉じた」形状輪郭を表しています。
下図のように、自動でこれらの輪郭とザグリ穴が抽出されました。

あとはこれら抽出された「開いたポケット」に対して、工具と加工オペレーションを設定することでパス軌跡が計算されます。

上図は、1階層目の荒取りと底面仕上げを兼ねたパス軌跡です。
これを見ますと、2次元機能はもともと輪郭境界ありきでパスが作られるため、不要なところにパスがはみ出していません。
また、もしはみ出したとしても、境界やパラメーターの調整により、3次元加工の機能よりは、はみ出したパス軌跡の調整はしやすいと言えます。
2次元機能は危険なのか?
さてここから、過去に言われたことがある「3Dモデルを使ったCAM作業であれば、なるべく3次元機能を使わないと、食い込みや工具干渉が起こりやすい」について、本当にそうなのか検証していきたいと思います。
先ほどの1階層目のパス軌跡について、1ミリ深い設定に手入力して、意図的に深さ入力ミスを発生させてみます。
すると下図のようなパス軌跡が計算されました。

赤い矢印で示すパス軌跡の部位ですが、正規の形状を避けるようにパス軌跡が出ています。食い込みは発生していません。
これは、下図のオペレーション画面内にある「形状を保護」という機能により、正規の形状に食い込まないように避けるパスを出す機能が働いています。

ちなみに、この「形状を保護」機能のチェックを外して、計算をしてみます。その結果が下図です。


このように、「形状を保護」機能を使わないと、赤く示す軌跡のように、たしかに食い込んだパスが出ますので、初期設定でこの機能にチェックを入れておく必要があります。
もう一つ検証してみます。
2次元の機能では、工具干渉、ミーリングチャックの干渉ができないかどうかですか、機械シミュレーションにかけてみたところ、あえて充分な長さが足りない状態にして開始したところ、2次元機能でも下図のように干渉が検知されました。

まとめ(融通の利く2次元機能)
ポケット加工機能を使った荒取りと底面仕上げ加工の後は、下図のように輪郭加工オペレーションによる横壁の仕上げを行います。

これも抽出された輪郭形状をそのまま使っています。便利です。
最後に、あえて2次元の機能を使った方が良いという理由ですが、今回のように荒取りを兼ねた底面仕上げをやりたいといったような場合に、オペレーション画面で2次元機能の方が色々細工ができるからです。
例えば、ポケット加工では、下図のオペレーション画面内にある「最終Zステップ」というパラメーター数値。これはエンドミルの下方向、例えば、5ミリずつ刻んで加工したとしても、最終底面を仕上げる手前で、必ず0.2ミリ仕上げ代を残し、その後に設定していたZ値で仕上げてくれるという機能です。

一見、大した機能ではないかもしれませんが、現場のマシニング加工オペレーターさんがよくやっている、荒取りを兼ねた底面仕上げをやりたいときには便利なパラメーターです。
これがないと、いちいちジョブを2回に分けなければならないため面倒です。
曲面形状も加工する3次元の機能ではこうした機能は付けにくいと思います。
シンプルな2次元機能だからこそ、こうした細かな機能が色々付く傾向になると思います。
3次元機能を優先して使う「CAMありきの加工パス」ではなく、「こうしたパス軌跡を出したいから、それに合わせてCAMを応用してパスを出す」という「加工ありきのCAMオペレーション」であるべきです。
もしご自分が、2次元形状であっても3次元機能ばかりを使っており、「CAMありきの加工パス」になっていると思い当たりましたら、ぜひ参考にしてみてください。
参考になれば幸いです。
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