唯一のオペレーターに教育を任せざるを得ない時の処方箋

唯一のオペレーターに教育を任せざるを得ない時の処方箋
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唯一のオペレーターに教育を任せざるを得ない時の処方箋

「未経験の新人を入れたが、教えられるのはあのベテラン一人だけ。しかし、あの人は人格的に少し問題があって……」

金型メーカーや部品加工メーカーのコンサルティングの現場では、このような切実な悩みを相談されることが少なくありません。

技術は確かだが、会社に非協力的だったり、コミュニケーションに難があったりする。それでも「彼しかいない」という状況は、「技術」が特定個人の人間性に「人質」に取られているようなものです。

このような状況で、不安を抱えながらも教育を丸投げしてしまうと、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。


人間性に問題がある教育係が引き起こす「3つの実害」

単に「教え方が怖い」といった感情的な問題だけではありません。経営上の実害は主に3つあります。

  1. 「負の連鎖」の発生(組織文化の汚染) 新人は真っ白な状態で入ってきます。技術だけでなく、教育係の「会社への不満」や「非協力的な態度」までもが「この現場の正解なんだ」とコピーされてしまうかもしれません。一度染まった色を塗り替えるのは大変です。
  2. 早期離職の引き金(教育の私物化) せっかく採用した未経験者が、教育係の人間性に絶望してすぐに辞めてしまうというケースです。これは企業にとって、採用や研修にかけた多大なコストを完全に無に帰す「最悪の浪費」と言えます。
    以前にあった事例では、「これも修行だ」と称して、教育係が自分の雑用をすべて新人に押し付けていました。数年が経ち、他社の同年代と比べて自分の成長のなさに気づいた若手は、会社への強い不信感とともに去っていきました。まさに採用コストの完全なドブ捨てです。
  3. 技術のブラックボックス化(聖域守り) 自分の社内的な希少価値を守るため、コアとなる技術を教えず「出し惜しみ」をする。教育を、自分の居場所を守るための「防衛手段」に悪用するケースです。

教育を「個人の性格」に依存させない3ステップ

「彼の性格を変える」のは困難です。しかし、「教育という業務の構造」を変えることは、経営の意思一つで可能です。

ステップ1:外部教育で「客観的な物差し」を与える

社内の閉鎖的な関係に染まる前に、まずは可能な限り外部の風を入れたいところです。

例えば、あるクライアント企業では、オークマ社のマシニングセンターを使い、CAMの方は、立体形状にはhyperMILLを、プレート系の穴あけや二次元加工にはOneCNCを使うという運用でした。これらの機械やソフトウェアであればメーカー研修は受けられると思います。そこでこのクライアント企業では、これらすべてのメーカー公式研修に新人を送り出すよう助言しました。

メーカー公認の「正しい基準」を先に学ばせることで、新人に「客観的な物差し」を持たせます。

費用的な問題もありますが、可能であれば、マシニングセンターだけ、あるいは特定のソフトだけといった中途半端な妥協をしないことです。

メーカー研修が用意されているならば、ハードもソフトも、すべての項目で受講させる。そこでの手間やコストを惜しまず、徹底的に「標準」を叩き込む姿勢こそが、まずは教育係による独裁を防ぐ最大の防御策になると思います。

ステップ2:社内独自の「運用フロー」を密室化させない

本来、どのような会社であっても、長年の試行錯誤から生まれた「独自の運用フロー」が存在します。

前述の企業の例でも、「プレート加工はOneCNC、立体形状はhyperMILL」といった、現場の設備構成に最適化された使い分けこそ会社の競争力になりますが、同時にブラックボックス化しやすい聖域でもあります。

ここを2人きりの密室で教えさせてはいけません。新人だけでなく、可能であればできる限り、他の若手や上司も「一緒に」受講する体制を取りましょう。

上司が同席することで、技術だけでなく「教え方」も評価の対象に含めることができます。「会社独自の知恵を、正しく組織に共有させているか」を監視・評価する体制を強制的に作ります。

ステップ3:会社としての「憲法」を確立し、教える側を評価する

仕上げに、教育係が独自の価値観だけで教育を行えないよう外堀を埋めます。それが会社としての憲法(方針)」の明確化です。

過去のコラムでも、機械加工現場の指標として次のような事例を挙げました。

  • 現場納期の目標遵守率100%を目指す
  • 毎日、機械の掛け持ちを意識する
  • 多能工として全ての機械で作業できることを目指す
  • 入社1年以内に独り立ちを目指す
  • 個々の案件のべき動率100%以上を目指す
  • 毎月の目標夜間稼働率60%以上

こうした具体的な方針を明確に示し、「教育とは、この目標を達成できる人材を育てること」と再定義します。

さらに、こうした新人教育が行われることをきっかけに、この方針に沿った教育が行われているか、「教える側」に週単位などで自己採点による評価を行わせる仕組みを導入してみるのはどうでしょうか。

「自分独自のやり方ではなく、会社の方針に沿って指導したか」を自ら振り返らせるのです。


結び:経営の「予防薬」としての多能工化

結局のところ、特定の誰かに頼らざるを得ない状況そのものが、経営にとっての大きな不安要素になっています。一方で、特定の誰かに頼らざるを得ない状況は、これまでの現場が必死に技術を守り、繋いできた結果であるとも言えます。

ただ、少しずつでも「誰が教えても同じように伝わる工夫」を積み重ねていくことは、経営者の方の不安を安心に変え、これから入ってくる人たちが「この会社で長く頑張りたい」と思えるような、活気ある職場づくりにつながっていきます。

特定の個人に負担を集中させない努力が、最終的には会社全体の風通しを良くし、次の世代が生き生きと働ける環境を整えていくのだと思います。

今は大変な状況かもしれませんが、その一歩として「方針の策定」や「外部研修の徹底的な活用」から始めてみてはいかがでしょうか。

貴社の現場をより良くするための参考になれば幸いです。

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コラムページにプロローグとして添付している4コマ漫画を集めたページを開設しました。

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コラム投稿者

金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054

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