CAD/CAMの罠に陥っていませんか?
たいへん便利なCAD/CAMですが、その反面、罠に陥りやすい面もあります。御社はその罠にはまっていませんか?
例えば、ドリル加工です。
私が加工屋さんの技術・経営診断をさせていただくと、CAMを使っているものの、そこに登録されている加工条件について、しばらく変更していない、また初期登録のまま変更したことがない、といった状況をよく見かけます。
また、「マシニングで使っているドリルは変えていませんか?」と質問すると、従来からの黒ドリルだけではなく、コーティングハイスドリルや、超硬ドリルなど、新しい工具が使われていたりします。
そうなると当然、エンドミルと同様、それぞれCAMの設定の中で、加工条件を使い分けなければいけないということになるのですが、その設定を使い分けるのは結構面倒くさいところもあります。
そうしたところもあり、黒ドリルと比較して、目立って加工条件が遅いわけではないと、初期登録のまま使っている現場も多いです。
しかし、そもそも黒ドリルの加工条件からして、適切でないことに気付いていますでしょうか。
ここで質問です。下記の事例において、どちらの切りくずが良好でしょうか。
- 2本の切りくずが同じ長さで出てきて、きれいにつながって均等に出ている。
- プチプチと短く切れながら、出てくる。
どうでしょうか。最近はドリルを手で研ぐことが少なくなりましたが、私と同じ世代の方々、特にベテランの先輩から手研ぎを教えてもらったとき、①が正しいと教えてもらった方が多いと思います。
切りくずが2本同じ長さで、しかも長くつながって出てくるのは、うまく研げた証拠だ、と言った具合です。
しかし、これは逆で、②の方が正解です。
①の状態は、送り条件が遅いため、切りくずの厚さが薄いため、長くつながった切りくずになりますが、特にマシニング加工において、こうした切りくずは、ドリルに絡まりやすく、トラブルが起こりやすくなります。
逆に、②の状態は、①の状態よりも送り条件を上げているために、切りくずが厚く、カールしたとき折れやすくなっています。
そのため、プチプチとつながらずにすぐに切れるのですが、実はこの状態の切りくずの方が、穴からの排出は良くなります。
最近、プラスチック金型の冷却穴の加工などでよく使われている、ノンステップドリルもこうした切りくずの排出性の良さを利用しています。
長く絡まる切りくずを出てしまっては、100ミリを超えるような細穴を、ノンステップで加工することは厳しいです。
大変よく使われているコーティングハイスドリルも同様のメカニズムで、こうした排出性の良い切りくずをプチプチと出せることで、ドリル溝を浅くし、芯厚と呼ばれるドリル本体の断面積を多くして剛性を高め、従来の黒ドリルよりも高い送り速度が出せるようにしています。
これを、従来の黒ドリルのままの条件で使い、良い切りくずは長くつながるものだとして、本来とは違う使い方をしていては、むしろドリルの寿命を縮めることもあります。(ドリル摩耗は、被削材との接触時間に比例します)
よくベテランの先輩から教えてもらう時には、「10ミリのドリルなら、回転あたりの送りは0.15ミリだ」とか、「8.6ミリのドリルなら0.12だ」といった、固定的な数値で「手順の引継ぎ」を受けることが多いです。
しかし、「技術者を育成する」の観点からは、適正な加工状態を伝え、それを自分で実践しながら習得していく方が、その先の技術力・応用力を育てていくには有効です。
標準化された条件値を「丸暗記」することが、物覚えの良し悪しではありません。
日々の加工は、仮説と検証の繰り返しです。
「この条件で削ればこうなるはずだ」と思っても、
「よし、その通りになった」という結果もあれば、「あれ?違う結果になったぞ」となれば、また別の仮説を考え、検証を行います。
それができる技術者を育てるには、標準値の暗記能力の育成ではなく、仮説と検証の考えを教え、その前段となる知識を教えていくことの方が有益です。
そうした点で、加工条件が固定されたままのCAMの活用は、ある程度の効率化にはつながりますが、良い技術者を育てる点では、副作用になり兼ねない一面も持っています。
ご注意ください。
※ 実際の加工においては、被削材の物性、機械剛性、工具の消耗状態、被削材のクランプ状態などの外的要因で、如何様にも状態は変化するため、実際の対処については、自己責任のうえ、充分な確認・検証を行ったうえで、加工してください。
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コラム投稿者
金型・部品加工業 専門コンサルティング
代表:村上 英樹(中小企業診断士)
愛知県刈谷市 TEL 0566-21-2054